人類最強の男が立ち向かうもの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
✽1✽
とある日の夜。
兵士達が厳しい訓練を終え、各々が自由な時間を過ごす頃。
団長室に、リヴァイ、ハンジ、ミケの三人は呼ばれた。突然の呼び出しである。
緊急に招集がかかる事は無い訳ではないが、かと言ってそう頻繁にあるものでもない。
余程の話じゃなければ翌日の朝にだって十分では? と思えば、この招集はきっと只事ではないのだろう。
何だ、一体……。
眉間の皺を深くし団長室を訪れたリヴァイは最悪の可能性までも考えていた。
――いたのだが……、
(ふざけんな)
ドアを開けた瞬間そのドアを閉め自室に帰りたくなった。
なんだ、この危機感もへったくれも無いのんびりとした空気は。
「ああ。遅かったな、リヴァイ」
早く座れと促すエルヴィンの顔は、最近の疲弊感はどこ行ったというほど晴れやかだ。
これで巨人襲来を告げたら一発殴りたい。いや、それで済ませられるはずが無い。隣の変人じゃあるまいし、巨人を笑顔で迎える馬鹿がどこに居る。
「ねぇリヴァイ。あの子何だと思う?」
「知るか」
「リヴァイの見合い相手だったり」
「あぁ? 削ぐぞ、クソ眼鏡」
横からコソコソ話し掛けてくるハンジの脛を蹴り上げたリヴァイは、ただでさえ不機嫌だった表情を更に厳しくさせた。
こんなくだらない時間を過ごすのならば、無視と決めこみ部屋で茶でも飲んでいた方がマシだった。
選択を誤った事を悔み舌打ちをする。
「おいエルヴィン。俺は暇じゃない。さっさと要件を言いやがれ。なんだその女は」
「まぁまぁ。落ち着きなよリヴァイ。あの子怯えてるじゃないか。ただでさえ恐い顔なんだからせめて声ぐらい可愛くさぁ」
「可憐な花の様ないい香りだ……。秘めた魅力に気付かないとは、お前も可哀想な奴だ」
「……うるせぇ。黙れ変人共が」
リヴァイが恐ろしく低い声でそう言えば、エルヴィンの横にいる娘が肩をビクつかせ明らかな怯えを見せた。
胸元でゆるくウェーブするキャラメルブラウンの毛先が揺れる。澄んだライムグリーンの大きな瞳が戸惑いに震え僅かに濡れているように見えた。小さな身体はより小さくなっている。
「…………」
この手の反応にはリヴァイは慣れていた。しかしそうと言えど、今はとにかく虫の居所がすこぶる悪い。いつもは何とも思わない相手の反応は、想像以上に彼の心を苛つかせる。
チッ、と舌打ち。そして小さく揺れる肩。悪循環の予感だ……。
「分かった。本題に入ろう」
エルヴィンは自分の横に立つ小さな娘に微笑みを向け、「大丈夫だ」と彼女の頭をポンポンと優しく撫でてから話し始めた。
「明日でも良かったのだが、皆にはいち早く彼女を紹介しようと思った。まぁ……色々と事情もあるしな」
「へぇ! それは興味深いね! どういうことだい?」
「彼女は開発部副部長のフェリーチェだ。今日からうちで預かる事になった。立場上配属は普通技術班になるが、ここではあくまでアドバイザー的な役割だけ担ってもらう事にし、仕事は事務仕事が主になる」
「「開発部? ……副部長!?」」
ハンジとミケの声が重なった。
「こんな若い子がそんな凄い所にいるの?」
「開発部と言えば、立体機動装置研究に携わる重要部門だ」
「滅多に表に出てこない引きこもり集団……って言われてるよ。何人いるのかどんな人間がいるのか、全くの謎だって……」
ハンジの言葉にフェリーチェは肩を竦め、「引きこもり集団ですか……でも確かにそうかも」と笑う。
幼い顔立ちは、笑うと余計幼く見えた。
「でも何で急にフェリーチェちゃんは調査兵団になんか来る事になった訳? こんな変人ばっかいる所にさ」
「……筆頭変人がそれを言うのか」
「もー。リヴァイはちょっと黙っててよ。今肝心なトコだろう……って痛ッ! 脛痛ッ!」
「ああ、それか……。部長直々にどうしてもと何度も頼まれてしまってはな。俺もさすがに断れない。相手は人類の頭脳といわれている人物だぞ?」
苦笑したエルヴィンは三人と一人を見た。
ほぅ、と三人がその理由に驚く横で、フェリーチェも驚いている。どうやら彼女もこの話が部長直々のものだったとまでは知らなかった様だ。
「彼も以前から気にはなっていたらしいんだ。部の研究員達は殆どが引きこもり……いや、仕事熱心過ぎる事を。狭すぎる視野は研究の妨げにもなりかねない。有意義な研究につなげる為にも、自分の部下達には実地調査も含め様々な世界を経験させたいそうだ」
「成程ね。それでここか」
「そういう訳だ。急な環境変化でフェリーチェも慣れない事が多いだろうから、お前たちも出来る限り彼女の事を気にかけてやってくれ。フェリーチェもそれでいいな?」
「……はい。エルヴィンさん。……皆さん今日からよろしくお願いします……」
「うんうん。よろしくねっ!」
「こちらこそだ」
小さな体を深々折るフェリーチェに、ハンジは「可愛いなぁ」と早速デレデレだ。ミケもまんざらでもない顔をしている。
しかしただ一人、リヴァイだけは全く興味無さそうな顔だった。
自分にビクビク怯えてる姿から察するに、あちら側から寄ってくる事は無いだろう。だとしたら自分には関係無い話だ。
(勝手にやってくれ)
「では。フェリーチェはここにいる間リヴァイの補佐という形で仕事をしてもらうことにし」
「おい待て」
――今、不穏な言葉を聞いた。
「どういう事だ。何勝手に決めてやがる。俺に補佐は必要ねぇぞ」
「ああ分かってるさリヴァイ。量の割にお前の仕事はいつも速い。だが補佐がいれば、仕事量は変わらなくとも負担自体は大分減る。どうだ? いい話だろう?」
「どこがだ! その代わりに厄介事を押し付ける気じゃねぇか」
「ははっ。まさか。随分人聞きの悪い言い方をしてくれるな。前から仕事が多いとぼやいていたのはお前の方じゃないか。これは上司の気遣いだよ。安心しろ、フェリーチェは事務仕事も完璧にこなす。厄介なんてことはない」
「おぉ良かったねー! 可愛い女の子とお仕事出来て、自由な時間も増える。一石二鳥じゃないか! これでリヴァイの殺伐として潤いの無い日常に一筋の光がっ」
「口を閉じろメガネ……殺すぞ」
何が一石二鳥だ。一石も二鳥もいらない。光も無用だ。リヴァイの鋭い視線はそんな言葉を含みハンジとフェリーチェの双方に飛ばされた。
ニヤニヤ笑う瞳と怖がる瞳。その反応にリヴァイはまたも舌打ちを。クソッ! 面白くねぇ!
「これはもう決定事項だ」
押さえつける様なエルヴィンの声はリヴァイの耳に残酷に刺さる。
――これで逃げ道は無くなった。
「……了解した……」
やがて、重い溜息と一緒にその言葉が零れると、エルヴィンはフェリーチェの背をそっと叩き笑う。
「頼んだぞ」
「……お、お願いします。……リヴァイ兵士長……」
「……チッ」
かくして、開発部からの預かりものは人類最強の男に託されたのである。
とある日の夜。
兵士達が厳しい訓練を終え、各々が自由な時間を過ごす頃。
団長室に、リヴァイ、ハンジ、ミケの三人は呼ばれた。突然の呼び出しである。
緊急に招集がかかる事は無い訳ではないが、かと言ってそう頻繁にあるものでもない。
余程の話じゃなければ翌日の朝にだって十分では? と思えば、この招集はきっと只事ではないのだろう。
何だ、一体……。
眉間の皺を深くし団長室を訪れたリヴァイは最悪の可能性までも考えていた。
――いたのだが……、
(ふざけんな)
ドアを開けた瞬間そのドアを閉め自室に帰りたくなった。
なんだ、この危機感もへったくれも無いのんびりとした空気は。
「ああ。遅かったな、リヴァイ」
早く座れと促すエルヴィンの顔は、最近の疲弊感はどこ行ったというほど晴れやかだ。
これで巨人襲来を告げたら一発殴りたい。いや、それで済ませられるはずが無い。隣の変人じゃあるまいし、巨人を笑顔で迎える馬鹿がどこに居る。
「ねぇリヴァイ。あの子何だと思う?」
「知るか」
「リヴァイの見合い相手だったり」
「あぁ? 削ぐぞ、クソ眼鏡」
横からコソコソ話し掛けてくるハンジの脛を蹴り上げたリヴァイは、ただでさえ不機嫌だった表情を更に厳しくさせた。
こんなくだらない時間を過ごすのならば、無視と決めこみ部屋で茶でも飲んでいた方がマシだった。
選択を誤った事を悔み舌打ちをする。
「おいエルヴィン。俺は暇じゃない。さっさと要件を言いやがれ。なんだその女は」
「まぁまぁ。落ち着きなよリヴァイ。あの子怯えてるじゃないか。ただでさえ恐い顔なんだからせめて声ぐらい可愛くさぁ」
「可憐な花の様ないい香りだ……。秘めた魅力に気付かないとは、お前も可哀想な奴だ」
「……うるせぇ。黙れ変人共が」
リヴァイが恐ろしく低い声でそう言えば、エルヴィンの横にいる娘が肩をビクつかせ明らかな怯えを見せた。
胸元でゆるくウェーブするキャラメルブラウンの毛先が揺れる。澄んだライムグリーンの大きな瞳が戸惑いに震え僅かに濡れているように見えた。小さな身体はより小さくなっている。
「…………」
この手の反応にはリヴァイは慣れていた。しかしそうと言えど、今はとにかく虫の居所がすこぶる悪い。いつもは何とも思わない相手の反応は、想像以上に彼の心を苛つかせる。
チッ、と舌打ち。そして小さく揺れる肩。悪循環の予感だ……。
「分かった。本題に入ろう」
エルヴィンは自分の横に立つ小さな娘に微笑みを向け、「大丈夫だ」と彼女の頭をポンポンと優しく撫でてから話し始めた。
「明日でも良かったのだが、皆にはいち早く彼女を紹介しようと思った。まぁ……色々と事情もあるしな」
「へぇ! それは興味深いね! どういうことだい?」
「彼女は開発部副部長のフェリーチェだ。今日からうちで預かる事になった。立場上配属は普通技術班になるが、ここではあくまでアドバイザー的な役割だけ担ってもらう事にし、仕事は事務仕事が主になる」
「「開発部? ……副部長!?」」
ハンジとミケの声が重なった。
「こんな若い子がそんな凄い所にいるの?」
「開発部と言えば、立体機動装置研究に携わる重要部門だ」
「滅多に表に出てこない引きこもり集団……って言われてるよ。何人いるのかどんな人間がいるのか、全くの謎だって……」
ハンジの言葉にフェリーチェは肩を竦め、「引きこもり集団ですか……でも確かにそうかも」と笑う。
幼い顔立ちは、笑うと余計幼く見えた。
「でも何で急にフェリーチェちゃんは調査兵団になんか来る事になった訳? こんな変人ばっかいる所にさ」
「……筆頭変人がそれを言うのか」
「もー。リヴァイはちょっと黙っててよ。今肝心なトコだろう……って痛ッ! 脛痛ッ!」
「ああ、それか……。部長直々にどうしてもと何度も頼まれてしまってはな。俺もさすがに断れない。相手は人類の頭脳といわれている人物だぞ?」
苦笑したエルヴィンは三人と一人を見た。
ほぅ、と三人がその理由に驚く横で、フェリーチェも驚いている。どうやら彼女もこの話が部長直々のものだったとまでは知らなかった様だ。
「彼も以前から気にはなっていたらしいんだ。部の研究員達は殆どが引きこもり……いや、仕事熱心過ぎる事を。狭すぎる視野は研究の妨げにもなりかねない。有意義な研究につなげる為にも、自分の部下達には実地調査も含め様々な世界を経験させたいそうだ」
「成程ね。それでここか」
「そういう訳だ。急な環境変化でフェリーチェも慣れない事が多いだろうから、お前たちも出来る限り彼女の事を気にかけてやってくれ。フェリーチェもそれでいいな?」
「……はい。エルヴィンさん。……皆さん今日からよろしくお願いします……」
「うんうん。よろしくねっ!」
「こちらこそだ」
小さな体を深々折るフェリーチェに、ハンジは「可愛いなぁ」と早速デレデレだ。ミケもまんざらでもない顔をしている。
しかしただ一人、リヴァイだけは全く興味無さそうな顔だった。
自分にビクビク怯えてる姿から察するに、あちら側から寄ってくる事は無いだろう。だとしたら自分には関係無い話だ。
(勝手にやってくれ)
「では。フェリーチェはここにいる間リヴァイの補佐という形で仕事をしてもらうことにし」
「おい待て」
――今、不穏な言葉を聞いた。
「どういう事だ。何勝手に決めてやがる。俺に補佐は必要ねぇぞ」
「ああ分かってるさリヴァイ。量の割にお前の仕事はいつも速い。だが補佐がいれば、仕事量は変わらなくとも負担自体は大分減る。どうだ? いい話だろう?」
「どこがだ! その代わりに厄介事を押し付ける気じゃねぇか」
「ははっ。まさか。随分人聞きの悪い言い方をしてくれるな。前から仕事が多いとぼやいていたのはお前の方じゃないか。これは上司の気遣いだよ。安心しろ、フェリーチェは事務仕事も完璧にこなす。厄介なんてことはない」
「おぉ良かったねー! 可愛い女の子とお仕事出来て、自由な時間も増える。一石二鳥じゃないか! これでリヴァイの殺伐として潤いの無い日常に一筋の光がっ」
「口を閉じろメガネ……殺すぞ」
何が一石二鳥だ。一石も二鳥もいらない。光も無用だ。リヴァイの鋭い視線はそんな言葉を含みハンジとフェリーチェの双方に飛ばされた。
ニヤニヤ笑う瞳と怖がる瞳。その反応にリヴァイはまたも舌打ちを。クソッ! 面白くねぇ!
「これはもう決定事項だ」
押さえつける様なエルヴィンの声はリヴァイの耳に残酷に刺さる。
――これで逃げ道は無くなった。
「……了解した……」
やがて、重い溜息と一緒にその言葉が零れると、エルヴィンはフェリーチェの背をそっと叩き笑う。
「頼んだぞ」
「……お、お願いします。……リヴァイ兵士長……」
「……チッ」
かくして、開発部からの預かりものは人類最強の男に託されたのである。
1/4ページ