shot.15 あなたに花束を

 跳ね橋を渡り切り、アンヌ達はホドモエシティに到着した。この町は世界中から荷物が集まってくる交易港——イッシュの玄関と呼ばれている。港に着いたばかりの物品が近くにあるマーケットで売られていて、イッシュでは滅多に見かけない、スパイスや織物、新鮮な木の実などが並んでいた。
 人の流れに従い、吸い寄せられるようにアンヌ達もマーケットに足を運ぶ。
 温かみのあるバスケットの中に、色彩豊かな花々が並んでいる店の前でアンヌは足を止めた。

「わあ……素敵なお花ね」
「オレ様は花より飯の方がいいぜ」
「あらあら〜食いしん坊さんなのね。じゃあこのお花なんてどうかしら〜?あなたにピッタリだと思うのだけれど〜」
「ン……?」

 興味なさげなブレイヴの目の前に、ひとつの花束が差し出された。それは、剣のように鋭く伸びた茎に真っ赤な花々が連なる花と、星を象ったような淡い青色の小花を束ねたものだった。差し出されるがまま、ぼんやりと顔を上げると、彼は目を見開いたまま固まった。
 彼の視線の先には鮮やかな黄緑色の長い髪を靡かせる美しい少女がいた。フリルがあしらわれたロリータドレスを纏った彼女は童話に出てくるお姫様のよう。
 ブレイヴの瞳は一瞬にしてハートマークになり、湧き上がる情熱を抑えきれぬまま、花束を持つ彼女の手ごと握り締めた。

「い、いやァ〜この花、オレ様にピッタリだなァ!!こんなに似合っちゃう花束を作れるなンて、ひょっとしてオレ様とキミってHEARTが繋がって……」

 美少女を前にしたブレイヴの暴走を見かねたアンヌが止めに入ろうとした——が、その前に彼女の周りを渦を描くように花びらが舞い、ブレイヴの体は吹き飛ばされ、宙で回転した後、地面に打ち捨てられた。頭を強打したブレイヴは痛そうに呻いている。

「あらあら〜ごめんなさいね〜。つい、手が出ちゃった〜」
「こいつ……かなり、強い……」

 ジェトが身構える。美少女は少し困ったような顔をしながら、ぎこちなく頬を緩めた。
 美少女の纏っている穏やかな雰囲気は変わらず。しかし、浮かれていて油断していたとはいえ、あのブレイヴを軽々と吹き飛ばしてしまうなんて……。
 
「面白れェ!強ェえ女の子もLOVEだぜ!」

 アンヌ達の内に広がる警戒感を破ったのはブレイヴの能天気な言葉だった。頭を強打しても尚、熱烈なラブコールを送る彼の姿に、空気が僅かに緩む。

「……こちらこそ、ごめんなさい。ブレイヴが失礼をしてしまって」
「ううん、大丈夫。よくあることだから〜」

 少しだけ彼女と打ち解けられたような感覚になり、アンヌはほっと胸を撫で下ろす。
 元凶のブレイヴは性懲りも無く彼女に向かって、投げキッスをしていたが、強打した頭にグルートが無言で鉄拳を喰らわせ、地面に伸びてしまった。

◇◆◇◆◇


 彼女の名前はディアナで、種族はドレディア。ホドモエシティのマーケットで花屋を営み、PWTというポケモンバトルの大会に向かうトレーナーとポケモンに花を贈っているという。

「ディアナちゃんはPWTに出ねェのか?あんなにスゲー技使えるのによ」

 何気なく、ブレイヴが問いかけると、彼女の顔が曇った。

「組んでくれるトレーナーさんがいないの〜。それに、」

 彼女の視線が、売り場のカウンターある花束に向く。鐘のような形をした青い花と放射状に広がる白く大きな花。それだけが忘れ去られたようにぽつんと取り残されている。
 花束を見つめるディアナの瞳は悲しそうに揺れていた。

「いつか一緒に、PWTに出ようねって約束した友達がいるから」

 彼女は青い花びらを指で掬い、丁寧な手つきで撫でるような仕草をする。

「そのお友達は、今どうしているの?」
「ネジ山でずっと籠ってるの」
「Why?場所わかってんなら今すぐ誘えばいいじゃねェか。ここにトレーナーもいるし!なァ、アンヌ!」
「え!?ええ、まあ……」
「ううん、駄目なの。私の話は聞いて貰えないから……」

 花が萎れたような顔しながら、ディアナは花束を抱き締める。それはまるで恋人を慈しむような、切ない雰囲気だった。
 アンヌは彼女が何かを抱えているように感じられて、そっと微笑みかける。

「良ければ、お話を聞かせて貰えないかしら?何か力になれるかもしれないわ」
「え……?」
 
 ディアナの瞳に、僅かに、光が差す。暫く戸惑いを見せていたが、アンヌの澄んだ青い瞳を見つめて、彼女は小さく頷いた。
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