Epilogue-2
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美稜家の子女が伊達家へ嫁ぐのは、何も私が初めてというわけではない
過去には何人も伊達家へ嫁いでいるし、一夫一妻制と定められてからも伊達の家門へ嫁いだ娘は数名いる
ただ、本家本元への嫁入りは、さすがに数世代ぶりというところだ
拝殿の中で三三九度の盃を交わし、主祭神へ結婚を誓う
あの頃と違うのは、場所が神社であること、そして親類縁者が多数いること
大勢に見守られながら、儀式は粛々と進んでいく
藤次郎様との、二度目になる夫婦の誓い
……なんだか都合のいい夢を見ているような気がした
藤次郎様は右目を失わず、弟さんも健在で、お母様と藤次郎様の間に確執もない
藤次郎様のお父様もお元気でいらっしゃる
生まれ変わったのは私たちと片倉夫妻のみだけれど、かえってそのほうが幸せなのかもしれない
藤次郎様のお顔を曇らせるようなことは、もう起きてほしくないから……
(私は今日、藤次郎様の妻になる)
藤次郎様と再会できて、結婚までできたらどんなに幸せだろう──と、そう考えたことは何度でもある
……けれど、私が生まれ変わって、かつての記憶があるということは
藤次郎様はまたもや、私の中に『あの方』の存在を許すことになるのだ
藤次郎様にすべてを捧げると言っておきながら、私は心の全てを藤次郎様で埋めることができなくて……
そのことを藤次郎様は理解していて、責めることもしない
(だけど……彦一郎様とお会いしたいとは思わない
私の愛は、藤次郎様に捧げるものだから……)
彦一郎様と会ったとしても、藤次郎様への愛が失われることは絶対にないと言い切れる
けれどそれは同時に、彦一郎様を傷つけることにもなってしまうから
だから……彦一郎様は、過去の人でいてほしい
私に愛を教えてくれた人
人を愛することの喜びを教えてくれた人
あなたのおかげで私は藤次郎様を愛することができた
(……さようなら、美稜彦一郎隆政様)
神主の祝詞を聞きながら、私は胸の内に残っていた面影へ、そっと別れを告げた
私の心をすべて──藤次郎様へ捧げるために
*********************
披露宴には、互いの上司や先輩、同僚や同期、同級生や後輩といった面々も集結し、総勢百人を超える大宴会となった
密かに藤次郎様を狙っていたらしい向こうの職場の女性陣からは、私を見て「そりゃあこっちに見向きもしないわ」と言っていたのが聞こえてきた
藤次郎様ほどではないけれど、顔にはそれなりに自信がある
伊達に学生時代から先輩後輩同級生に言い寄られていない
その度に「婚約者がいるので」と都合よく断る口実に使ってきたけれど
「美男には美女というのが世の法則かぁ」
「婚約者のことを聞いても頑なに教えてくれなかった理由がやっと分かったよ
そりゃあ教えたくないよな
こんだけ美人だと言い寄られて大変なことになるもんな……」
「……まあな」
同期の方の勘違いをそのまま利用することにしたらしい藤次郎様は、注がれたビールを飲みながら頷いた
私と会ったことがなかったから教えられなかった、という話はオフレコであるらしい
私のゲストたちでも藤次郎様に目を奪われている女性が多数いて、藤次郎様のお顔立ちは時代を越えて人を魅せるものなのだと再確認した
もういっそのこと囲うしかないんじゃないかしら、私が
外に出しちゃいけないわよ
「藤次郎様」
「どうした?」
「いくら出したら私に囲われてくださいます?」
「何言ってやがるお前」
「老若男女問わず視線を奪ってしまう美しさと格好よさをお持ちですので、家の中にしまっておかねばと……」
「しまわれたくはねぇんだが……」
「やはり駄目ですか……」
「むしろ仕舞われるべきはお前だと思うがな」
「私が仕舞われてどうするのです
藤次郎様をお守りできないではないですか」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ」
私が守られてどうするのよ
藤次郎様をお守りするのが私の役目なのに
ああ駄目だわ、全然理解して頂けていない
怪訝なお顔が私を見ていて、今にも「何言ってんだお前」とか何とか言ってきそう
「若葉〜!!
なんでこんなバチバチのドカめろイケメンが婚約者だって知らなかったの!?」
「どか……何?」
「今の日本語だったか?」
「たぶん……?」
私の幼馴染みがよく分からない日本語を叫びながら、勢いよく突っ込んできた
どうして知らなかったのかと言われても、会ったことがなかったからとしか言いようがない
婚約者に興味もなかったから……
「若葉のことよろしくお願いします
ほんっとうにいい子なんです
美人だし気遣い上手だし美人だし、真面目だけど茶目っ気もあって美人だし、デカいバイクかっ飛ばす格好いい姉御肌の激マブな美人なんです!!」
「美人を何回言うのよ」
「若葉が美人で姉御肌でcoolな女なのは当然だが、だからこそかわいい奴だと思うぜ?」
「なんで分かるんですか!
……昨日会ったばっかりのぽっと出のくせに!」
「ぽっと出、ねぇ……」
乱世の頃を持ち出すことができず、藤次郎様はそれ以上なにも言い返さなかった
それは誰も知らないことなのだ
藤次郎様との付き合いが半世紀は超えているとか、結婚するのはこれが二度目だとか
それらはすべて、私たちしか知らないこと
そして同時にそれらは、私たちだけが知っていればいいことだ
「……妬けるな」
「何にでしょう?」
「俺のことをぽっと出と言いやがるくらい、お前と親密な付き合いをしてきたんだろう」
「あら、まあ……ふふ」
「……何笑ってやがる」
「藤次郎様、お可愛らしいのも程々になさいませ
襲いたくなります」
「は?」
「可愛すぎて襲いたくなると申し上げました」
「いや聞こえちゃいたが……?」
「左様でしたか
では今夜は遠慮なく」
つ、と頬を指で伝って、唇に触れる
あの藤次郎様が気圧されるなんて滅多にないことだから、いささか気分がいい
そのまま歓談へ戻ろうと姿勢を戻した私の手を、今度は藤次郎様がぐいっと引き寄せて
「──!」
「俺をその気にさせた責任は取ってくれるんだろ?
今夜は寝かせねえぜ……you see?」
耳元で囁かれた、艶のある声
それだけで全身の体温が上がって、私は羞恥と期待で震えることしかできない
そんな私へ満足そうに笑った藤次郎様は、私を離して歓談へと戻られた
……藤次郎様に敵う日は、まだまだ遠そうだ
過去には何人も伊達家へ嫁いでいるし、一夫一妻制と定められてからも伊達の家門へ嫁いだ娘は数名いる
ただ、本家本元への嫁入りは、さすがに数世代ぶりというところだ
拝殿の中で三三九度の盃を交わし、主祭神へ結婚を誓う
あの頃と違うのは、場所が神社であること、そして親類縁者が多数いること
大勢に見守られながら、儀式は粛々と進んでいく
藤次郎様との、二度目になる夫婦の誓い
……なんだか都合のいい夢を見ているような気がした
藤次郎様は右目を失わず、弟さんも健在で、お母様と藤次郎様の間に確執もない
藤次郎様のお父様もお元気でいらっしゃる
生まれ変わったのは私たちと片倉夫妻のみだけれど、かえってそのほうが幸せなのかもしれない
藤次郎様のお顔を曇らせるようなことは、もう起きてほしくないから……
(私は今日、藤次郎様の妻になる)
藤次郎様と再会できて、結婚までできたらどんなに幸せだろう──と、そう考えたことは何度でもある
……けれど、私が生まれ変わって、かつての記憶があるということは
藤次郎様はまたもや、私の中に『あの方』の存在を許すことになるのだ
藤次郎様にすべてを捧げると言っておきながら、私は心の全てを藤次郎様で埋めることができなくて……
そのことを藤次郎様は理解していて、責めることもしない
(だけど……彦一郎様とお会いしたいとは思わない
私の愛は、藤次郎様に捧げるものだから……)
彦一郎様と会ったとしても、藤次郎様への愛が失われることは絶対にないと言い切れる
けれどそれは同時に、彦一郎様を傷つけることにもなってしまうから
だから……彦一郎様は、過去の人でいてほしい
私に愛を教えてくれた人
人を愛することの喜びを教えてくれた人
あなたのおかげで私は藤次郎様を愛することができた
(……さようなら、美稜彦一郎隆政様)
神主の祝詞を聞きながら、私は胸の内に残っていた面影へ、そっと別れを告げた
私の心をすべて──藤次郎様へ捧げるために
*********************
披露宴には、互いの上司や先輩、同僚や同期、同級生や後輩といった面々も集結し、総勢百人を超える大宴会となった
密かに藤次郎様を狙っていたらしい向こうの職場の女性陣からは、私を見て「そりゃあこっちに見向きもしないわ」と言っていたのが聞こえてきた
藤次郎様ほどではないけれど、顔にはそれなりに自信がある
伊達に学生時代から先輩後輩同級生に言い寄られていない
その度に「婚約者がいるので」と都合よく断る口実に使ってきたけれど
「美男には美女というのが世の法則かぁ」
「婚約者のことを聞いても頑なに教えてくれなかった理由がやっと分かったよ
そりゃあ教えたくないよな
こんだけ美人だと言い寄られて大変なことになるもんな……」
「……まあな」
同期の方の勘違いをそのまま利用することにしたらしい藤次郎様は、注がれたビールを飲みながら頷いた
私と会ったことがなかったから教えられなかった、という話はオフレコであるらしい
私のゲストたちでも藤次郎様に目を奪われている女性が多数いて、藤次郎様のお顔立ちは時代を越えて人を魅せるものなのだと再確認した
もういっそのこと囲うしかないんじゃないかしら、私が
外に出しちゃいけないわよ
「藤次郎様」
「どうした?」
「いくら出したら私に囲われてくださいます?」
「何言ってやがるお前」
「老若男女問わず視線を奪ってしまう美しさと格好よさをお持ちですので、家の中にしまっておかねばと……」
「しまわれたくはねぇんだが……」
「やはり駄目ですか……」
「むしろ仕舞われるべきはお前だと思うがな」
「私が仕舞われてどうするのです
藤次郎様をお守りできないではないですか」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ」
私が守られてどうするのよ
藤次郎様をお守りするのが私の役目なのに
ああ駄目だわ、全然理解して頂けていない
怪訝なお顔が私を見ていて、今にも「何言ってんだお前」とか何とか言ってきそう
「若葉〜!!
なんでこんなバチバチのドカめろイケメンが婚約者だって知らなかったの!?」
「どか……何?」
「今の日本語だったか?」
「たぶん……?」
私の幼馴染みがよく分からない日本語を叫びながら、勢いよく突っ込んできた
どうして知らなかったのかと言われても、会ったことがなかったからとしか言いようがない
婚約者に興味もなかったから……
「若葉のことよろしくお願いします
ほんっとうにいい子なんです
美人だし気遣い上手だし美人だし、真面目だけど茶目っ気もあって美人だし、デカいバイクかっ飛ばす格好いい姉御肌の激マブな美人なんです!!」
「美人を何回言うのよ」
「若葉が美人で姉御肌でcoolな女なのは当然だが、だからこそかわいい奴だと思うぜ?」
「なんで分かるんですか!
……昨日会ったばっかりのぽっと出のくせに!」
「ぽっと出、ねぇ……」
乱世の頃を持ち出すことができず、藤次郎様はそれ以上なにも言い返さなかった
それは誰も知らないことなのだ
藤次郎様との付き合いが半世紀は超えているとか、結婚するのはこれが二度目だとか
それらはすべて、私たちしか知らないこと
そして同時にそれらは、私たちだけが知っていればいいことだ
「……妬けるな」
「何にでしょう?」
「俺のことをぽっと出と言いやがるくらい、お前と親密な付き合いをしてきたんだろう」
「あら、まあ……ふふ」
「……何笑ってやがる」
「藤次郎様、お可愛らしいのも程々になさいませ
襲いたくなります」
「は?」
「可愛すぎて襲いたくなると申し上げました」
「いや聞こえちゃいたが……?」
「左様でしたか
では今夜は遠慮なく」
つ、と頬を指で伝って、唇に触れる
あの藤次郎様が気圧されるなんて滅多にないことだから、いささか気分がいい
そのまま歓談へ戻ろうと姿勢を戻した私の手を、今度は藤次郎様がぐいっと引き寄せて
「──!」
「俺をその気にさせた責任は取ってくれるんだろ?
今夜は寝かせねえぜ……you see?」
耳元で囁かれた、艶のある声
それだけで全身の体温が上がって、私は羞恥と期待で震えることしかできない
そんな私へ満足そうに笑った藤次郎様は、私を離して歓談へと戻られた
……藤次郎様に敵う日は、まだまだ遠そうだ
