Epilogue-2
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翌朝、藤次郎様に起こされた私は、メイクをしないまま朝食へ向かった
さすがに何もしないのはまずいと思って、洗顔と保湿だけはしっかりしたけれど
「美人はmake upしなくても綺麗だな」
「お戯れを……
藤次郎様がおっしゃられては嫌味でございますよ」
「……綾葉
本気でお前の目、おかしいんじゃねぇのか……?」
「これでも視力は両目とも裸眼で一.五です」
「Oh……」
毎年の視力検査でも、ほぼ全てのランドルト環を言い当てている
視力が良くて困ることはないけれど、この視力の良さが何かに生かされているかというと、別にそういうわけでもない
宝の持ち腐れだとは思うが、昔のように銃で何かを撃つこともないし、ぶっちゃけそこまでの利点があるとは言えないのだ
「今日は長丁場でございますし、食事も満足にとれないと伺っておりますから、しっかりと朝食をとらねばなりませんね」
「そうだな」
「藤次郎様は和食になさいますか?
それとも洋食で?」
「俺はいつも和食だ」
トレーにお皿を載せ、藤次郎様はまず深皿にレタスを山のように盛ると、そこへ紫キャベツやコーン、トマト、その他様々な野菜を彩りよく盛り合わせた
選ばれたドレッシングは和風ドレッシングだ
私も同じように盛り付けて、ごまドレッシングをかけた
ご飯もののコーナーに目を向けると、はらこ飯をスタッフが盛り付けている
迷いなくそちらに向かって、はらこ飯をゲット
仙台味噌のお味噌汁をお椀によそって、おかずに焼き魚と卵焼きと……と和食に合うものを選びとっていく
テーブルへ戻ってみれば、藤次郎様とほとんど同じものになってしまった
「はらこ飯あったのか」
「ご飯のコーナーで頼めば、作っていただけますよ」
ふうん、と珍しそうにしたものの、藤次郎様はそのまま白米で食べることにしたらしい
手を合わせてまずは味噌汁から
うん、食べ慣れた味だ
「そういやぁ、聞きたかったんだが」
「はい」
「結婚したら仕事は?
辞めるのか」
「藤次郎様がそうせよとおっしゃるならば……
仕事に対して未練はございませんので」
ただの営業事務だったから、辞めても支障はない
それよりは、家に入って藤次郎様を支える方が、やり甲斐もありそうだ
けれど藤次郎様は何かを考えるように眉根を寄せ、何もおっしゃらなかった
「藤次郎様?」
「話を変えるが……
綾葉お前、バイク乗りか?」
「え?
あ、はい、そうですが……」
「小型か?」
「いえ、千百ccの大型です」
「……落ち着いたら、ツーリングにでも行くか」
「楽しそうですね
是非お供させてくださいませ」
微笑んで頷きながら、藤次郎様が手元で納豆を混ぜるのをちらりと見遣る
この美丈夫、結婚式の朝に納豆なんて匂いのするものを食べるのか……
格好を気にする伊達男だから、結婚式までには匂いも消してくれると思うけれど
……消してくれるわよね?
*********************
伊達家と美稜家の結婚式ともなれば、神主を呼んでホテル内の会場で──というわけにもいかず
ホテルの控え室で白無垢に着替えた後、親族と共にマイクロバスで神社へ向かうことになった
片倉家は親族にカウントされず、現地集合となったようだ
私たちを含めて五十名までの参列ということで、家族や近しい親族、友人らも揃って大所帯だ
バスは市内でも有名な神社へと入って、私たちは神社側の方たちに迎えられながら、控え室へと案内された
水を飲み、化粧を軽く直しつつ、ようやくひとごこちつけたところで、控え室のドアがノックされた
「失礼致します」
断りの挨拶と共に入ってきたのは、若い夫婦
どちらもスーツとパーティードレスでフォーマルな格好だ
「……小十郎?」
向こうが何かを言う前に、勢いよく立ち上がった藤次郎様が、呆然とした声でそうおっしゃった
えっ、と慌てて男性に目を向ければ、そちらはそちらで、目を大きく見開いている
ま、まさか本当に……片倉様なの?
「……もしや、政宗様か?」
「ま、まさか片倉様……!?」
「そのお声……姫様でございますか!?」
「えっもしかしてあなた、千夜!?」
片倉様の後ろにいた女性が私を見て叫ぶ
な、なんてこと……こんな所で再会するなんて
片倉様を押し退けて私の元へ駆け寄った千夜は、私の手を握ってしゃがみ込んだ
「大丈夫!?」
「ひ、姫様……姫様……!
ああ良かった、ようやくお会いできました……!
我が主、綾葉様でいらっしゃいますね?」
「ええそうよ、美稜綾葉よ
……厳密に言うと今の名前は、美稜若葉なのだけれど」
「あぁ?
なんだオメェ、とうとうそっちが本名になりやがったか」
「綾葉の名は家祖のものですから、女子に付けてはならぬという、美稜のしきたりがございまして」
「若葉様……でございますか
数十年、綾葉様とお呼びしてまいりましたゆえ、違和感がございますね……」
「綾葉でいいわよ
対外的には若葉だけれど、中身は私が家祖なんだから」
ならば……ということで、片倉夫妻も私のことは綾葉と呼ぶことにしたようだ
しかしまさか、片倉家からの参列者が、片倉様と千夜だったなんて
神様も粋なことをするものだ
……でもこれ、藤次郎様があちこち飛び回っていなくて、ちゃんと片倉家とも交流していれば、自ずと知ることになった事実よね?
言及はよしましょう、挙式前に臍を曲げられても困るもの
「美稜のお嬢様が姫様だと存じておりましたら、ご幼少の頃からでもお傍にまいりましたものを……」
「そうねぇ、私は仙台から一歩も出ていないわけだし
比べてあちらは大都会の東京育ち、アメリカ留学だって経験済みよ
日本に戻ってきてもあちこち飛び回ってて、私だって昨日ようやくお会いしたばかりなの」
「え!?
殿と再会なさったのが!?
つい昨日のこと!?」
「実はそうなのよ
私も悪いんだけれどね、自分の婚約者なのにまるで興味なしだったから」
それもまあ言ってしまえば、藤次郎様以外の男に等しく興味を持てないだけの話だったのだけれど
それがまさか藤次郎様ご本人だったなんて
それだけは神様を恨んでしまいそうだ
この世に生まれついて二十数年、どうしてたったの一度も会わせてくれなかったのか、と
「言い返さずともよいので?」
「仕事を言い訳にfwiannseを避けてきたのは事実だ
言い訳なんざ、俺のすることじゃねぇだろう
勿体ねぇことをしたとは思ってる」
「ふふ……婚約者との顔合わせを避けてきたのは私も同じこと
藤次郎様のみを責めるわけにはまいりません
お会いできなかった分は、これから先の人生で取り戻しますゆえ」
「姫様、殿にご遠慮なく我儘をおっしゃってくださいませ
姫様の我慢強さと諦めの良さは、この千夜が一番よく存じておりますし、生まれ変わった程度でその性格が治るとも到底思えませぬ
殿も、姫様の性格はご存知でいらっしゃることと思いますゆえ、どうぞ骨の髄まで甘やかして差し上げてくださいませ」
「なんてことを頼むのよ」
「Leave it to me.」
「藤次郎様!」
そこまでしろとは言ってない、ただ二人で穏やかに過ごしていけたらそれでいいのに
藤次郎様に甘やかされるのは嫌いではないし、愛されることも嫌ではないけれど、どうにも心臓に悪いというか……
愛情表現が少ない人かと思いきや、すれ違い様に頬へキスをするような人だったんだもの
戦国の世ですらそうだったんだから……
平和な今の日本でどうなるかなんて、想像もつかない……
「お顔が真っ赤でございますよ、姫様」
「満更でもなさそうだな」
「何を想像したんだオメェは……」
黙秘権の行使だ
口が裂けても言えない
自分が思う数倍は、藤次郎様に惚れ込んでいるようだ、なんて
絶対に……言えない……!
さすがに何もしないのはまずいと思って、洗顔と保湿だけはしっかりしたけれど
「美人はmake upしなくても綺麗だな」
「お戯れを……
藤次郎様がおっしゃられては嫌味でございますよ」
「……綾葉
本気でお前の目、おかしいんじゃねぇのか……?」
「これでも視力は両目とも裸眼で一.五です」
「Oh……」
毎年の視力検査でも、ほぼ全てのランドルト環を言い当てている
視力が良くて困ることはないけれど、この視力の良さが何かに生かされているかというと、別にそういうわけでもない
宝の持ち腐れだとは思うが、昔のように銃で何かを撃つこともないし、ぶっちゃけそこまでの利点があるとは言えないのだ
「今日は長丁場でございますし、食事も満足にとれないと伺っておりますから、しっかりと朝食をとらねばなりませんね」
「そうだな」
「藤次郎様は和食になさいますか?
それとも洋食で?」
「俺はいつも和食だ」
トレーにお皿を載せ、藤次郎様はまず深皿にレタスを山のように盛ると、そこへ紫キャベツやコーン、トマト、その他様々な野菜を彩りよく盛り合わせた
選ばれたドレッシングは和風ドレッシングだ
私も同じように盛り付けて、ごまドレッシングをかけた
ご飯もののコーナーに目を向けると、はらこ飯をスタッフが盛り付けている
迷いなくそちらに向かって、はらこ飯をゲット
仙台味噌のお味噌汁をお椀によそって、おかずに焼き魚と卵焼きと……と和食に合うものを選びとっていく
テーブルへ戻ってみれば、藤次郎様とほとんど同じものになってしまった
「はらこ飯あったのか」
「ご飯のコーナーで頼めば、作っていただけますよ」
ふうん、と珍しそうにしたものの、藤次郎様はそのまま白米で食べることにしたらしい
手を合わせてまずは味噌汁から
うん、食べ慣れた味だ
「そういやぁ、聞きたかったんだが」
「はい」
「結婚したら仕事は?
辞めるのか」
「藤次郎様がそうせよとおっしゃるならば……
仕事に対して未練はございませんので」
ただの営業事務だったから、辞めても支障はない
それよりは、家に入って藤次郎様を支える方が、やり甲斐もありそうだ
けれど藤次郎様は何かを考えるように眉根を寄せ、何もおっしゃらなかった
「藤次郎様?」
「話を変えるが……
綾葉お前、バイク乗りか?」
「え?
あ、はい、そうですが……」
「小型か?」
「いえ、千百ccの大型です」
「……落ち着いたら、ツーリングにでも行くか」
「楽しそうですね
是非お供させてくださいませ」
微笑んで頷きながら、藤次郎様が手元で納豆を混ぜるのをちらりと見遣る
この美丈夫、結婚式の朝に納豆なんて匂いのするものを食べるのか……
格好を気にする伊達男だから、結婚式までには匂いも消してくれると思うけれど
……消してくれるわよね?
*********************
伊達家と美稜家の結婚式ともなれば、神主を呼んでホテル内の会場で──というわけにもいかず
ホテルの控え室で白無垢に着替えた後、親族と共にマイクロバスで神社へ向かうことになった
片倉家は親族にカウントされず、現地集合となったようだ
私たちを含めて五十名までの参列ということで、家族や近しい親族、友人らも揃って大所帯だ
バスは市内でも有名な神社へと入って、私たちは神社側の方たちに迎えられながら、控え室へと案内された
水を飲み、化粧を軽く直しつつ、ようやくひとごこちつけたところで、控え室のドアがノックされた
「失礼致します」
断りの挨拶と共に入ってきたのは、若い夫婦
どちらもスーツとパーティードレスでフォーマルな格好だ
「……小十郎?」
向こうが何かを言う前に、勢いよく立ち上がった藤次郎様が、呆然とした声でそうおっしゃった
えっ、と慌てて男性に目を向ければ、そちらはそちらで、目を大きく見開いている
ま、まさか本当に……片倉様なの?
「……もしや、政宗様か?」
「ま、まさか片倉様……!?」
「そのお声……姫様でございますか!?」
「えっもしかしてあなた、千夜!?」
片倉様の後ろにいた女性が私を見て叫ぶ
な、なんてこと……こんな所で再会するなんて
片倉様を押し退けて私の元へ駆け寄った千夜は、私の手を握ってしゃがみ込んだ
「大丈夫!?」
「ひ、姫様……姫様……!
ああ良かった、ようやくお会いできました……!
我が主、綾葉様でいらっしゃいますね?」
「ええそうよ、美稜綾葉よ
……厳密に言うと今の名前は、美稜若葉なのだけれど」
「あぁ?
なんだオメェ、とうとうそっちが本名になりやがったか」
「綾葉の名は家祖のものですから、女子に付けてはならぬという、美稜のしきたりがございまして」
「若葉様……でございますか
数十年、綾葉様とお呼びしてまいりましたゆえ、違和感がございますね……」
「綾葉でいいわよ
対外的には若葉だけれど、中身は私が家祖なんだから」
ならば……ということで、片倉夫妻も私のことは綾葉と呼ぶことにしたようだ
しかしまさか、片倉家からの参列者が、片倉様と千夜だったなんて
神様も粋なことをするものだ
……でもこれ、藤次郎様があちこち飛び回っていなくて、ちゃんと片倉家とも交流していれば、自ずと知ることになった事実よね?
言及はよしましょう、挙式前に臍を曲げられても困るもの
「美稜のお嬢様が姫様だと存じておりましたら、ご幼少の頃からでもお傍にまいりましたものを……」
「そうねぇ、私は仙台から一歩も出ていないわけだし
比べてあちらは大都会の東京育ち、アメリカ留学だって経験済みよ
日本に戻ってきてもあちこち飛び回ってて、私だって昨日ようやくお会いしたばかりなの」
「え!?
殿と再会なさったのが!?
つい昨日のこと!?」
「実はそうなのよ
私も悪いんだけれどね、自分の婚約者なのにまるで興味なしだったから」
それもまあ言ってしまえば、藤次郎様以外の男に等しく興味を持てないだけの話だったのだけれど
それがまさか藤次郎様ご本人だったなんて
それだけは神様を恨んでしまいそうだ
この世に生まれついて二十数年、どうしてたったの一度も会わせてくれなかったのか、と
「言い返さずともよいので?」
「仕事を言い訳にfwiannseを避けてきたのは事実だ
言い訳なんざ、俺のすることじゃねぇだろう
勿体ねぇことをしたとは思ってる」
「ふふ……婚約者との顔合わせを避けてきたのは私も同じこと
藤次郎様のみを責めるわけにはまいりません
お会いできなかった分は、これから先の人生で取り戻しますゆえ」
「姫様、殿にご遠慮なく我儘をおっしゃってくださいませ
姫様の我慢強さと諦めの良さは、この千夜が一番よく存じておりますし、生まれ変わった程度でその性格が治るとも到底思えませぬ
殿も、姫様の性格はご存知でいらっしゃることと思いますゆえ、どうぞ骨の髄まで甘やかして差し上げてくださいませ」
「なんてことを頼むのよ」
「Leave it to me.」
「藤次郎様!」
そこまでしろとは言ってない、ただ二人で穏やかに過ごしていけたらそれでいいのに
藤次郎様に甘やかされるのは嫌いではないし、愛されることも嫌ではないけれど、どうにも心臓に悪いというか……
愛情表現が少ない人かと思いきや、すれ違い様に頬へキスをするような人だったんだもの
戦国の世ですらそうだったんだから……
平和な今の日本でどうなるかなんて、想像もつかない……
「お顔が真っ赤でございますよ、姫様」
「満更でもなさそうだな」
「何を想像したんだオメェは……」
黙秘権の行使だ
口が裂けても言えない
自分が思う数倍は、藤次郎様に惚れ込んでいるようだ、なんて
絶対に……言えない……!
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