Epilogue-1
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ホテルのレストランで互いに向かい合って座りつつ、ウエイターにオーダーを通した
どこにも出掛ける予定はないから、酒を飲んでもよかったけれど、このあと最後の打ち合わせがあると言うのでお預けだ
「Ah……綾葉、若葉?
Shit!
どっちもお前の名前になるなんざ、ややこしい事になりやがって」
「どちらでもお好きなように
しかし名を偽っていた頃のことを覚えておいでだったとは」
「忘れるわけねぇだろ……」
軽く頭を振って、藤次郎様がお冷に手を伸ばす
「忘れていただいて構わなかったのですが……」と呟くと、「アァ?」と睨まれた
両目になった分、睨まれたら迫力が凄い
そんな所もかわいく思えてしまうのだから、もはや重症だ
「今までどちらにおられたのです?
まさか結婚する前日まで、婚約者様とお会いできない羽目になるとは、さすがの私でも思いもよりませんでしたが」
「高校までは東京だ……
大学でアメリカに留学して、その後は日本を飛び回っていた
お前が相手だと知ってりゃあ、そんなことはしなかったんだがな……」
「アメリカ留学までされておられたとは
さすが藤次郎様、此度も英語が堪能でいらっしゃるのはそのせいですか」
「世界の広さを知っておきたかっただけだ
そういうお前は?」
「私は生まれてこの方、仙台を出たことがございません」
「大学までこっちだったのか?」
「はい、左様でございます
美稜家の家訓に則り、仙台を出ること罷りならんと、父より厳しく言いつけられましたゆえ」
その命令がなくても、私は仙台を出なかったとは思うけれど
美稜家は伊達家に忠義を尽くした家
片倉家と並んで忠義者を多く輩出したことで有名だ
伊達家に災難あらば、猪の一番に駆け付けるべし
主君の愚かなるを諌め、奥州と民の安寧に注力すべし
伊達家を至上唯一の主君と定め、いかなる返り忠も断固として許すまじ
見聞を広く持ち、主君の為に身を粉にすべし
そして──万策尽きて伊達家が滅ぶ時、その共をすべし
家祖である美稜綾葉が定めたという五つの家訓は、時を超え世代を超え、今の美稜家に受け継がれている
……それはいいのだけれど
「あの美稜五箇条はお前が定めたのか?」
「それがあのような家訓を定めた記憶がございませんでして」
「つまり後の美稜家が、お前の名前を勝手に借りて作ったってわけだ」
「お陰様で片倉家に並ぶ忠義者となりました」
肩を揺らして笑い、藤次郎様が懐かしそうに目を細める
片倉家も伊達家と関わりのある家だけれど、美稜家との交流はいつしか疎遠になってしまった
伊達家との関わりはまだ続いているらしいとは聞いているけれど、藤次郎様の反応を見る限り、それも怪しそうだ
というよりは、藤次郎様がお忙しくされておられるせいで、片倉家の者とお会いしたことがないだけという可能性も……
「明日の挙式には、片倉家も参列されるとか」
「ああ……顔も知らねぇ奴だがな」
「顔ですか……
それでいくと藤次郎様、よく私が綾葉だとお分かりになりましたね」
「たしかに記憶の中にある顔とは違ったな
……だが直感がお前だと告げた
俺の目の前にいるこの女は、俺にすべてを捧げた奥州の揚羽蝶だと」
「……」
私も似たようなものだ
直感的に藤次郎様だと気付いたけれど、同時にそんなはずはないと疑心暗鬼にも陥ってしまって
目の前にいる婚約者が藤次郎様だと確信が持てるまで、少し時間がかかってしまった
……二度と会うことはないと諦めていたせいもある
生まれ変わっても相変わらず──私は諦めのいい人間だ
「直感、ですか」
「お前はどうだ?」
「私は……私も直感的に藤次郎様だと分かりました
ですが私がこうして新たな生を得たこと自体が有り得ぬ事ですから、その上さらに藤次郎様までもがご存命で、なおかつ私の前に現れるなど、もっと有り得ぬことだろうと……」
「……」
「それでも今はもう藤次郎様だと確信しております
顔も名前も知らない婚約者と結婚するのは、本音を申し上げれば……心底嫌だったのですが
しかしそれが藤次郎様とならば、喜んで結婚致します」
「俺じゃなかったらどうした?」
「この先の人生を諦めて結婚したことでしょう」
「……相変わらずだな」
温度のない声が呟く
相変わらずと言われればその通りだ
私はすぐに自分のことを諦めて、波風立たない道を選ぶ
正室に相応しくないと言われれば藤次郎様への輿入れを諦め、顔も名前も知らない婚約者と結婚しろと言われれば藤次郎様との再会を諦めた
何も変わっていないのだと思う
藤次郎様と共に生きた頃から、何も変わらないまま
「藤次郎様に光を与えられたからこそ、私は藤次郎様を心からお慕いして、死ぬまでお傍にいると決めました
……藤次郎様と出会わなかった私など、所詮そのようなものです
二度とお会いすることはないと思っておりましたので、藤次郎様でないなら誰と結婚しようと同じことだと諦めてきました」
「……そうか」
「藤次郎様は……」
「俺か……俺は、そうだな……似たようなモンだな
お前と会えるなんざ考えもしなかったから、俺も結婚には乗り気になれねぇままだった
それがまさか本当にお前だったとはな」
おそらくこれは奇跡だ
天文学的な数字で起こった奇跡だった
それがどうした
奇跡でもいい、必然だったなんて思わない
大切なのは私たちが今ここにいること
そしてこれから先の人生を共に歩んでいけることだ
それさえあれば──私はもう、他に何もいらない
藤次郎様と共にいられるのなら……私はもう、それだけで充分だ
どこにも出掛ける予定はないから、酒を飲んでもよかったけれど、このあと最後の打ち合わせがあると言うのでお預けだ
「Ah……綾葉、若葉?
Shit!
どっちもお前の名前になるなんざ、ややこしい事になりやがって」
「どちらでもお好きなように
しかし名を偽っていた頃のことを覚えておいでだったとは」
「忘れるわけねぇだろ……」
軽く頭を振って、藤次郎様がお冷に手を伸ばす
「忘れていただいて構わなかったのですが……」と呟くと、「アァ?」と睨まれた
両目になった分、睨まれたら迫力が凄い
そんな所もかわいく思えてしまうのだから、もはや重症だ
「今までどちらにおられたのです?
まさか結婚する前日まで、婚約者様とお会いできない羽目になるとは、さすがの私でも思いもよりませんでしたが」
「高校までは東京だ……
大学でアメリカに留学して、その後は日本を飛び回っていた
お前が相手だと知ってりゃあ、そんなことはしなかったんだがな……」
「アメリカ留学までされておられたとは
さすが藤次郎様、此度も英語が堪能でいらっしゃるのはそのせいですか」
「世界の広さを知っておきたかっただけだ
そういうお前は?」
「私は生まれてこの方、仙台を出たことがございません」
「大学までこっちだったのか?」
「はい、左様でございます
美稜家の家訓に則り、仙台を出ること罷りならんと、父より厳しく言いつけられましたゆえ」
その命令がなくても、私は仙台を出なかったとは思うけれど
美稜家は伊達家に忠義を尽くした家
片倉家と並んで忠義者を多く輩出したことで有名だ
伊達家に災難あらば、猪の一番に駆け付けるべし
主君の愚かなるを諌め、奥州と民の安寧に注力すべし
伊達家を至上唯一の主君と定め、いかなる返り忠も断固として許すまじ
見聞を広く持ち、主君の為に身を粉にすべし
そして──万策尽きて伊達家が滅ぶ時、その共をすべし
家祖である美稜綾葉が定めたという五つの家訓は、時を超え世代を超え、今の美稜家に受け継がれている
……それはいいのだけれど
「あの美稜五箇条はお前が定めたのか?」
「それがあのような家訓を定めた記憶がございませんでして」
「つまり後の美稜家が、お前の名前を勝手に借りて作ったってわけだ」
「お陰様で片倉家に並ぶ忠義者となりました」
肩を揺らして笑い、藤次郎様が懐かしそうに目を細める
片倉家も伊達家と関わりのある家だけれど、美稜家との交流はいつしか疎遠になってしまった
伊達家との関わりはまだ続いているらしいとは聞いているけれど、藤次郎様の反応を見る限り、それも怪しそうだ
というよりは、藤次郎様がお忙しくされておられるせいで、片倉家の者とお会いしたことがないだけという可能性も……
「明日の挙式には、片倉家も参列されるとか」
「ああ……顔も知らねぇ奴だがな」
「顔ですか……
それでいくと藤次郎様、よく私が綾葉だとお分かりになりましたね」
「たしかに記憶の中にある顔とは違ったな
……だが直感がお前だと告げた
俺の目の前にいるこの女は、俺にすべてを捧げた奥州の揚羽蝶だと」
「……」
私も似たようなものだ
直感的に藤次郎様だと気付いたけれど、同時にそんなはずはないと疑心暗鬼にも陥ってしまって
目の前にいる婚約者が藤次郎様だと確信が持てるまで、少し時間がかかってしまった
……二度と会うことはないと諦めていたせいもある
生まれ変わっても相変わらず──私は諦めのいい人間だ
「直感、ですか」
「お前はどうだ?」
「私は……私も直感的に藤次郎様だと分かりました
ですが私がこうして新たな生を得たこと自体が有り得ぬ事ですから、その上さらに藤次郎様までもがご存命で、なおかつ私の前に現れるなど、もっと有り得ぬことだろうと……」
「……」
「それでも今はもう藤次郎様だと確信しております
顔も名前も知らない婚約者と結婚するのは、本音を申し上げれば……心底嫌だったのですが
しかしそれが藤次郎様とならば、喜んで結婚致します」
「俺じゃなかったらどうした?」
「この先の人生を諦めて結婚したことでしょう」
「……相変わらずだな」
温度のない声が呟く
相変わらずと言われればその通りだ
私はすぐに自分のことを諦めて、波風立たない道を選ぶ
正室に相応しくないと言われれば藤次郎様への輿入れを諦め、顔も名前も知らない婚約者と結婚しろと言われれば藤次郎様との再会を諦めた
何も変わっていないのだと思う
藤次郎様と共に生きた頃から、何も変わらないまま
「藤次郎様に光を与えられたからこそ、私は藤次郎様を心からお慕いして、死ぬまでお傍にいると決めました
……藤次郎様と出会わなかった私など、所詮そのようなものです
二度とお会いすることはないと思っておりましたので、藤次郎様でないなら誰と結婚しようと同じことだと諦めてきました」
「……そうか」
「藤次郎様は……」
「俺か……俺は、そうだな……似たようなモンだな
お前と会えるなんざ考えもしなかったから、俺も結婚には乗り気になれねぇままだった
それがまさか本当にお前だったとはな」
おそらくこれは奇跡だ
天文学的な数字で起こった奇跡だった
それがどうした
奇跡でもいい、必然だったなんて思わない
大切なのは私たちが今ここにいること
そしてこれから先の人生を共に歩んでいけることだ
それさえあれば──私はもう、他に何もいらない
藤次郎様と共にいられるのなら……私はもう、それだけで充分だ
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