Epilogue-1
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蒼誠伝──それは群雄割拠の戦国時代、奥州に存在した美稜家の、公的な記録文書
信州美稜家を始祖とするこの家は、最後の信州美稜家当主の妻を初代当主として、奥州に名を残した
女性が武家の当主として名を残した家で、これほど正確に記録を残している文書は貴重なもの
奥州美稜家当主が嫁いだ先は伊達家だが、伊達家の記録とも齟齬がなく、信ぴょう性についてもかなり信頼ができる
「……」
流れるような字で書き記されているのは、奥州美稜家の成り立ちについて
初代当主綾葉が自ら筆をとり、織田による信州美稜侵攻の真実と、五年後に展開された織田包囲網によって織田が滅ぶまでが、淡々と綴られている
信州美稜家最後の当主であった美稜彦一郎隆政が、織田に囚われていた五年間、何をしていたのか
美稜の居城から逃がされた隆政正室の綾葉が、五年間どこで何をしていたのか
そして織田信長との戦いの果てに、誰が命を落とし、美稜家がどうなったのか
奥州での美稜家再興、豊臣の台頭と滅亡、天下分け目の関ヶ原で起こった大事件──
そして日の本を最後に手に入れたのが誰か
その果てに日の本はどうなって、美稜家はその中でどう続いていくのか
これは、数百年続いた泰平の世の、その始まりを記したものでもある
「……ただの記録という扱いにはならなかったのね」
蒼誠繚乱、奥州の揚羽蝶、美稜の桜吹雪
様々な呼び名で、美稜綾葉はこの時代に生きた武家の記録に、その名を残している
そして奥州筆頭・伊達政宗の右目、片倉小十郎
その片倉小十郎の右腕として、美稜綾葉は伊達軍でも重宝された
知略に秀で、火縄の心得も深く、その腕前は百発百中──これが後世に残る美稜綾葉の評価だ
(普通に外していたけれどね……)
なんて裏話は、今更信じられないかしら
……信じられないと言えば、この状況そのものが信じられないのだけれど
「美稜さん、こんにちは」
「こんにちは、館長さん
今日は学会があったのでは?」
「つい先程それが終わりまして」
微笑む館長さんは、私が見ていた蒼誠伝に視線を向けた
……私たちが駆け抜けた乱世から、およそ五世紀
なんと私は美稜家の人間として、再びこの世に生を受けた
今の私は美稜綾葉の直系子孫で、家族と共に仙台市から少し離れた場所──奥州美稜家が所領として治めた土地に住んでいる
自分が生まれ変わっていると気付いた時は、それはそれは事件性のある悲鳴を上げたものだ
「昨日でしたね、美稜家当主の交代は」
「ええ……祖父が急に亡くなって、父も大慌てでしたけれど
それもようやく落ち着いたので、久々に家祖の遺したものを見に来ようかと思って
蒼誠伝はすべて、こちらに寄贈しましたから」
国や自治体の博物館にはいくつか、家祖である美稜綾葉にまつわる史料が点在している
我が家にもそれは残っていて、色んな博物館から寄贈してほしいと頼まれていると、父が言っていた
蒼誠伝はその最たる例で……これは先代である祖父が、自分たちでの保管に限界を感じて、博物館に寄贈したのだ
「しかし、にわかには信じられない記録ばかりですね
特に関ヶ原で、死んだはずの織田信長が復活するなんて、常識では考えられないことですよ」
「それについては家祖も触れておられましたね
あの第六天魔王には、人間の常識が通用しないと」
……それを書いたのは過去の私なのだけれど
困ったように微笑んで見せて、壁際の展示品に目を向ける
家祖である美稜綾葉が実際に着用していた戦装束と、使い込まれた跡が残る二丁銃──桜番
今ではどちらも重要文化財の扱いを受けている
蒼誠伝も全巻含めて同様に
「では、そろそろ帰ります」
「このあとにご予定が?」
「ええ……どうやら本格的に嫁入り話が動きそうで」
「お相手の顔も名前もご存知ないとおっしゃっておいででしたが、そうですか
くれぐれもお身体にはお気を付けて」
「ありがとうございます
また今度、ゆっくりとお話させてください」
館長さんに会釈して展示室を去る
顔も名前も知らない婚約者がいたのだと知ったのは、祖父が危篤となった時……つい先日の話だ
それから二日後、祖父は他界
父が美稜家を継ぎ、父の後継は私の兄が指名されている
お互い忙しくなるなと、父と兄は疲れを滲ませつつ微笑んでいた
「……はぁ」
鞄を肩にかけ、駐輪場に停めていたバイクのエンジンをかける
重厚なエンジン音が周囲に響き、私の愛車が目を覚ました
鞄をシートバッグに入れて、ヘルメットを手に取る
「……私が美稜綾葉の生まれ変わりなんだから、藤次郎様の生まれ変わりが婚約者だったりしないかしら」
なんて、それは過ぎた願いかもしれない
私が生まれ変わってこの世で生きていることが、そもそも有り得ないこと
その上さらに藤次郎様まで、なんて……それこそ有り得ない話だ
「さて、帰りましょうか……」
ヘルメットを被って、グローブを付ける
気落ちしつつもバイクに跨り、私は博物館を後にした
──それはとある年の、桜が満開に咲き乱れる、春のことだった
信州美稜家を始祖とするこの家は、最後の信州美稜家当主の妻を初代当主として、奥州に名を残した
女性が武家の当主として名を残した家で、これほど正確に記録を残している文書は貴重なもの
奥州美稜家当主が嫁いだ先は伊達家だが、伊達家の記録とも齟齬がなく、信ぴょう性についてもかなり信頼ができる
「……」
流れるような字で書き記されているのは、奥州美稜家の成り立ちについて
初代当主綾葉が自ら筆をとり、織田による信州美稜侵攻の真実と、五年後に展開された織田包囲網によって織田が滅ぶまでが、淡々と綴られている
信州美稜家最後の当主であった美稜彦一郎隆政が、織田に囚われていた五年間、何をしていたのか
美稜の居城から逃がされた隆政正室の綾葉が、五年間どこで何をしていたのか
そして織田信長との戦いの果てに、誰が命を落とし、美稜家がどうなったのか
奥州での美稜家再興、豊臣の台頭と滅亡、天下分け目の関ヶ原で起こった大事件──
そして日の本を最後に手に入れたのが誰か
その果てに日の本はどうなって、美稜家はその中でどう続いていくのか
これは、数百年続いた泰平の世の、その始まりを記したものでもある
「……ただの記録という扱いにはならなかったのね」
蒼誠繚乱、奥州の揚羽蝶、美稜の桜吹雪
様々な呼び名で、美稜綾葉はこの時代に生きた武家の記録に、その名を残している
そして奥州筆頭・伊達政宗の右目、片倉小十郎
その片倉小十郎の右腕として、美稜綾葉は伊達軍でも重宝された
知略に秀で、火縄の心得も深く、その腕前は百発百中──これが後世に残る美稜綾葉の評価だ
(普通に外していたけれどね……)
なんて裏話は、今更信じられないかしら
……信じられないと言えば、この状況そのものが信じられないのだけれど
「美稜さん、こんにちは」
「こんにちは、館長さん
今日は学会があったのでは?」
「つい先程それが終わりまして」
微笑む館長さんは、私が見ていた蒼誠伝に視線を向けた
……私たちが駆け抜けた乱世から、およそ五世紀
なんと私は美稜家の人間として、再びこの世に生を受けた
今の私は美稜綾葉の直系子孫で、家族と共に仙台市から少し離れた場所──奥州美稜家が所領として治めた土地に住んでいる
自分が生まれ変わっていると気付いた時は、それはそれは事件性のある悲鳴を上げたものだ
「昨日でしたね、美稜家当主の交代は」
「ええ……祖父が急に亡くなって、父も大慌てでしたけれど
それもようやく落ち着いたので、久々に家祖の遺したものを見に来ようかと思って
蒼誠伝はすべて、こちらに寄贈しましたから」
国や自治体の博物館にはいくつか、家祖である美稜綾葉にまつわる史料が点在している
我が家にもそれは残っていて、色んな博物館から寄贈してほしいと頼まれていると、父が言っていた
蒼誠伝はその最たる例で……これは先代である祖父が、自分たちでの保管に限界を感じて、博物館に寄贈したのだ
「しかし、にわかには信じられない記録ばかりですね
特に関ヶ原で、死んだはずの織田信長が復活するなんて、常識では考えられないことですよ」
「それについては家祖も触れておられましたね
あの第六天魔王には、人間の常識が通用しないと」
……それを書いたのは過去の私なのだけれど
困ったように微笑んで見せて、壁際の展示品に目を向ける
家祖である美稜綾葉が実際に着用していた戦装束と、使い込まれた跡が残る二丁銃──桜番
今ではどちらも重要文化財の扱いを受けている
蒼誠伝も全巻含めて同様に
「では、そろそろ帰ります」
「このあとにご予定が?」
「ええ……どうやら本格的に嫁入り話が動きそうで」
「お相手の顔も名前もご存知ないとおっしゃっておいででしたが、そうですか
くれぐれもお身体にはお気を付けて」
「ありがとうございます
また今度、ゆっくりとお話させてください」
館長さんに会釈して展示室を去る
顔も名前も知らない婚約者がいたのだと知ったのは、祖父が危篤となった時……つい先日の話だ
それから二日後、祖父は他界
父が美稜家を継ぎ、父の後継は私の兄が指名されている
お互い忙しくなるなと、父と兄は疲れを滲ませつつ微笑んでいた
「……はぁ」
鞄を肩にかけ、駐輪場に停めていたバイクのエンジンをかける
重厚なエンジン音が周囲に響き、私の愛車が目を覚ました
鞄をシートバッグに入れて、ヘルメットを手に取る
「……私が美稜綾葉の生まれ変わりなんだから、藤次郎様の生まれ変わりが婚約者だったりしないかしら」
なんて、それは過ぎた願いかもしれない
私が生まれ変わってこの世で生きていることが、そもそも有り得ないこと
その上さらに藤次郎様まで、なんて……それこそ有り得ない話だ
「さて、帰りましょうか……」
ヘルメットを被って、グローブを付ける
気落ちしつつもバイクに跨り、私は博物館を後にした
──それはとある年の、桜が満開に咲き乱れる、春のことだった
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