Episode.3-11
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寝巻きに着替えて通された部屋は、寝所──ではなく
最後に身支度を整えるための部屋だった
と言えば聞こえはいいけれど、ただ単に伊達屋敷での私の部屋だ
「お疲れでございましょう
もうしばらくの辛抱でございます」
「これくらい、なんて事ないわよ
千夜こそ疲れたでしょう?」
「いいえ、疲れてなど
むしろこれからが本番にございます故」
「これから、ね……」
閨での藤次郎様が上手く想像できない
やんごとない身の方であるけれど、それを感じさせない破天荒さだもの
気に食わない相手には皮肉を投げつける口の悪さも兼ね備えておられるし
戦で荒々しくも美しく駆け抜ける竜は、閨でどんなお顔を見せるのかしら
「それよりも千夜、私の二度目の婚儀を終えた感想は?」
「それはもう……千夜めはようやく、白無垢を纏って幸せそうな笑顔の姫様を見られましたゆえ、感無量でございます
それはそれとして、馬子にも衣装などと宣った鬼庭様につきましては、後ほどゆっくりと『お話し』させて頂ければ」
「……綱元様に食ってかかれるのは、伊達家でも千夜とお喜多だけだと思うわ」
あの片倉様でさえ、綱元様には言いくるめられているのに、こんなにも身近に綱元様と対等な言い合いが出来る人間がいるとは
道理で私が千夜に敵わないわけだわ
お二人はお喜多にも頭が上がらないようだから、千夜とお喜多に固められた私は伊達家でも安泰のようだ
「ところで千夜
あなた、私の侍女を辞めないのはいいけれど、片倉様がご自分のお屋敷へ帰る時はどうするの?」
「もちろん、片倉様と共に帰ります」
「私が美稜領に帰る時は?」
「片倉様と共に残ります」
「……良かった」
きょとんとした顔で千夜が小首を傾げる
それに微笑んで、鏡台越しに千夜を見つめた
千夜は私の、自慢の侍女だ
けれど同時に彼女は、竜の右目・片倉小十郎の妻なのだ
「あんまりにも私を優先していたら、私が片倉様から嫌味を言われるところだったわ」
「小十郎様のことはさておき、せっかくご結婚なされるのですから、私がいてはお邪魔かと思いまして」
「邪魔だとは思わないけど……たしかにあなたも新婚だものね
せっかく片倉様と好き合って結婚したんだもの、一緒に居るほうがいいに決まってるわ」
ゆくゆくは子供だって授かるだろうから、それを機に私の側仕えも辞めることになるだろうか
千夜がいないのは寂しいけれど、いずれは私も戦場に立てなくなる日が来るのと同じことだ
化粧直しを終えて、千夜の手を取って立ち上がる
向かう先は、藤次郎様の寝所だ
十年前はどうしていたかしら、とぼんやり考えて、何もしなかったのを思い出した
なにせ初潮すら来ていない子供だったのだから、子など成せるはずもなく
そのまま彦一郎様へ操を立ててきたから、誰かに身体を許したこともない
「……ねえ千夜、後学のためにひとつ聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「初夜って……私は何をすればいいの?」
「ただ殿に身をお任せください」
「……そうなるわよね」
南向きに敷いた布団は、手前が私で、奥が藤次郎様
十年前は、彦一郎様と少しだけ話をして、疲れただろうからもう寝よう、と言われて終わった
十二になる歳の暮れには子を産める体になりはしたものの、その頃には既に織田の侵攻が囁かれていて──
「どした、ぼんやりして」
「……藤次郎様」
寝所へ入られた藤次郎様に三つ指をついて頭を下げる
私の隣にある布団へ座った藤次郎様は、眼帯を着けておられなかった
以前も眼帯を着けずに私を訪ねて来られたことはあったけれど、その時とは状況も立場も違う
私は藤次郎様の妻となったのだから、私が見てはいけないもの、なんてもう言わない
「改めてではございますが、どうぞ末永くお傍においてくださいませ」
「愛想なんざ尽かしてくれるなよ?」
「それは藤次郎様の心持ち次第でございます」
「……言ってくれやがる」
藤次郎様がちらりと視線を部屋の外へ投げた
襖を隔てた先には、初夜の見届け役を担ったお喜多がいる
これも彦一郎様との初夜とは違う点だ
あの時は私が子を成せない体だったために、見届け役はいなかった
「……最初に聞くが、初めてか?」
「彦一郎様の元へ嫁いだ時は、まだ初潮も来ていない小娘でしたので、添い寝で終わりました」
「今回もそれで終わってみるか?」
「明日の朝、お喜多が藤次郎様に説教を垂れることになりましょうが、それでも良いのでしたらご随意に」
「喜多の小言は小十郎並に長いからな……」
「私はてっきり、藤次郎様がお部屋に入られて一寸で、布団に押し倒されるものと」
「そこまで雰囲気をぶち壊しにするほど野暮じゃねぇぜ、俺は」
「存じております」
どうにもお互い緊張しているのが伝わって、軽口がぽんぽんと飛び交う
それでもやるべき事はやるしかないのだから、腹を括ってくれればいいのに
「……風神すら味わえなかったお前の身体、この独眼竜に捧げる覚悟はあるんだろ?」
「勿論です
多少の見目の悪さはお許しを
私はこの身に残る傷跡を誇りに思っておりますゆえ」
「Ha.
そいつはとびきりの勲章だ
お前が死地を越えてここに在ることのな──」
藤次郎様の手が伸びて、私を引き寄せる
深い口付けを受けた直後には、私の背は布団に接していた
行灯の灯りが藤次郎様の体に影を落とす
刻みつけてほしい
私が誰のものになったのか
奥州王たる藤次郎様の──独眼竜の爪痕を、この身に刻んで
クセになってしまうくらい、強烈で……骨の髄まで染み込むほどのものを
魔王の因縁にも蝮の呪縛にも呑まれなかった私は
──貴方様という存在に堕ちてしまいたいと、心から願っているのです
最後に身支度を整えるための部屋だった
と言えば聞こえはいいけれど、ただ単に伊達屋敷での私の部屋だ
「お疲れでございましょう
もうしばらくの辛抱でございます」
「これくらい、なんて事ないわよ
千夜こそ疲れたでしょう?」
「いいえ、疲れてなど
むしろこれからが本番にございます故」
「これから、ね……」
閨での藤次郎様が上手く想像できない
やんごとない身の方であるけれど、それを感じさせない破天荒さだもの
気に食わない相手には皮肉を投げつける口の悪さも兼ね備えておられるし
戦で荒々しくも美しく駆け抜ける竜は、閨でどんなお顔を見せるのかしら
「それよりも千夜、私の二度目の婚儀を終えた感想は?」
「それはもう……千夜めはようやく、白無垢を纏って幸せそうな笑顔の姫様を見られましたゆえ、感無量でございます
それはそれとして、馬子にも衣装などと宣った鬼庭様につきましては、後ほどゆっくりと『お話し』させて頂ければ」
「……綱元様に食ってかかれるのは、伊達家でも千夜とお喜多だけだと思うわ」
あの片倉様でさえ、綱元様には言いくるめられているのに、こんなにも身近に綱元様と対等な言い合いが出来る人間がいるとは
道理で私が千夜に敵わないわけだわ
お二人はお喜多にも頭が上がらないようだから、千夜とお喜多に固められた私は伊達家でも安泰のようだ
「ところで千夜
あなた、私の侍女を辞めないのはいいけれど、片倉様がご自分のお屋敷へ帰る時はどうするの?」
「もちろん、片倉様と共に帰ります」
「私が美稜領に帰る時は?」
「片倉様と共に残ります」
「……良かった」
きょとんとした顔で千夜が小首を傾げる
それに微笑んで、鏡台越しに千夜を見つめた
千夜は私の、自慢の侍女だ
けれど同時に彼女は、竜の右目・片倉小十郎の妻なのだ
「あんまりにも私を優先していたら、私が片倉様から嫌味を言われるところだったわ」
「小十郎様のことはさておき、せっかくご結婚なされるのですから、私がいてはお邪魔かと思いまして」
「邪魔だとは思わないけど……たしかにあなたも新婚だものね
せっかく片倉様と好き合って結婚したんだもの、一緒に居るほうがいいに決まってるわ」
ゆくゆくは子供だって授かるだろうから、それを機に私の側仕えも辞めることになるだろうか
千夜がいないのは寂しいけれど、いずれは私も戦場に立てなくなる日が来るのと同じことだ
化粧直しを終えて、千夜の手を取って立ち上がる
向かう先は、藤次郎様の寝所だ
十年前はどうしていたかしら、とぼんやり考えて、何もしなかったのを思い出した
なにせ初潮すら来ていない子供だったのだから、子など成せるはずもなく
そのまま彦一郎様へ操を立ててきたから、誰かに身体を許したこともない
「……ねえ千夜、後学のためにひとつ聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「初夜って……私は何をすればいいの?」
「ただ殿に身をお任せください」
「……そうなるわよね」
南向きに敷いた布団は、手前が私で、奥が藤次郎様
十年前は、彦一郎様と少しだけ話をして、疲れただろうからもう寝よう、と言われて終わった
十二になる歳の暮れには子を産める体になりはしたものの、その頃には既に織田の侵攻が囁かれていて──
「どした、ぼんやりして」
「……藤次郎様」
寝所へ入られた藤次郎様に三つ指をついて頭を下げる
私の隣にある布団へ座った藤次郎様は、眼帯を着けておられなかった
以前も眼帯を着けずに私を訪ねて来られたことはあったけれど、その時とは状況も立場も違う
私は藤次郎様の妻となったのだから、私が見てはいけないもの、なんてもう言わない
「改めてではございますが、どうぞ末永くお傍においてくださいませ」
「愛想なんざ尽かしてくれるなよ?」
「それは藤次郎様の心持ち次第でございます」
「……言ってくれやがる」
藤次郎様がちらりと視線を部屋の外へ投げた
襖を隔てた先には、初夜の見届け役を担ったお喜多がいる
これも彦一郎様との初夜とは違う点だ
あの時は私が子を成せない体だったために、見届け役はいなかった
「……最初に聞くが、初めてか?」
「彦一郎様の元へ嫁いだ時は、まだ初潮も来ていない小娘でしたので、添い寝で終わりました」
「今回もそれで終わってみるか?」
「明日の朝、お喜多が藤次郎様に説教を垂れることになりましょうが、それでも良いのでしたらご随意に」
「喜多の小言は小十郎並に長いからな……」
「私はてっきり、藤次郎様がお部屋に入られて一寸で、布団に押し倒されるものと」
「そこまで雰囲気をぶち壊しにするほど野暮じゃねぇぜ、俺は」
「存じております」
どうにもお互い緊張しているのが伝わって、軽口がぽんぽんと飛び交う
それでもやるべき事はやるしかないのだから、腹を括ってくれればいいのに
「……風神すら味わえなかったお前の身体、この独眼竜に捧げる覚悟はあるんだろ?」
「勿論です
多少の見目の悪さはお許しを
私はこの身に残る傷跡を誇りに思っておりますゆえ」
「Ha.
そいつはとびきりの勲章だ
お前が死地を越えてここに在ることのな──」
藤次郎様の手が伸びて、私を引き寄せる
深い口付けを受けた直後には、私の背は布団に接していた
行灯の灯りが藤次郎様の体に影を落とす
刻みつけてほしい
私が誰のものになったのか
奥州王たる藤次郎様の──独眼竜の爪痕を、この身に刻んで
クセになってしまうくらい、強烈で……骨の髄まで染み込むほどのものを
魔王の因縁にも蝮の呪縛にも呑まれなかった私は
──貴方様という存在に堕ちてしまいたいと、心から願っているのです
