Episode.3-11
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夕日が沈み、辺りが薄暗くなった頃
奥州美稜屋敷の門前には、篝火が灯された
いつもなら日が落ちてからは家の中に籠る里の者たちも、今夜ばかりは道沿いにずらりと並び、屋敷の門が開くのを今か今かと待っている
年を越えて、睦月の下旬──六曜の大安
村々の女たちがひと針ひと針、真心を込めて縫ってくれた桜に鶴の刺繍を撫で、白無垢を踏まぬように立ち上がる
広間と呼んでいる、少し広いだけの部屋に私が姿を現せば、迎えの使者としてやってきた片倉様が言葉を詰まらせ、警備役を担ってくれるあの四人が感嘆の声を上げた
屋敷に残る美稜家の家臣たちに、これまでの礼と、これから先も世話になるゆえ宜しく──という言葉を手向けにして、広間から玄関へと進んでいく
その先で待っていた輿に乗って、輿が持ち上げられ──屋敷の門が開いた
輿入れの行列と言うにはかなり少ない人数で、それでも美稜屋敷の前は、集まった民衆たちの歓声に包まれた
行列の道を、数本の松明が照らしている
美稜領は山際などではないため、雪こそ降りはしないものの、気温はかなり低い
行列の女たちや男たちも皆揃って厚着をしているけれど、それでもやはり寒そうだ
正座をした指先が冷たくて、何度も足を組み替えながら、表情だけは凛と前を向き続けた
……行列に参加した男たちのうち、半分は美稜領へ帰る
美稜家は家臣の数も多くないから、全員が伊達家へ入るわけにはいかないのだ
それにこの行列、もう半分は村から集めた男たちと女たちだもの
ひとまずは伊達家で一泊して、明日には皆それぞれの家へ帰ることになっている
私も時々は美稜領に帰らないといけないし、村の者たちとはこの先も顔を合わせる機会がある
寂しい気持ちはあるけれど、それほどでもないのは、そのお陰だろうか
馬で何度も駆け抜けた道を、ゆったりと進んでいく輿
雛菊は私の少し後ろを、綺麗に飾り付けられて歩いているらしい
この先も戦場で戦い、美稜領と伊達屋敷を往復する身ということもあって、雛菊が居てくれないと私の生活はままならない
私の相棒、最高の愛馬
これから先も私と一緒に、竜の天下まで駆け抜けていくわよ
*********************
夜を徹して進んだ行列は、道中で休憩を何度か挟み、翌日の夜、伊達屋敷へ到着した
千夜の手を借りて輿から降りて、式台で履物を脱ぐ
周囲の若い奴らが、現れた私を見て「おおお……」とどよめきが広がった
「馬子にも衣装」と言ったのは絶対に綱元様だ
今回、千夜は美稜家の待上臈として、婚儀に参加することになっている
伊達家の大上臈が誰なのかは分からない
そもそもこの屋敷、私と千夜以外の女性がいないのだけれど……
通された部屋の中には、直垂姿の藤次郎様が静かに座っていた
蝋燭の灯りに照らされたお顔の陰影が綺麗で、うっかり見蕩れてしまいそうになる
「これより伊達家、美稜家の婚礼の儀を執り行います」
伊達家の大上臈が厳かに告げ、見るからに見覚えのある顔が侍女として三人、現れた
……お鈴とミツとお菊よね、どう見ても
三人とも顔が妙に強張っていて、緊張しているのが伝わってくる
なんだか私のほうが肩の力も抜けてしまった
「綾葉様、此度は長旅ご苦労様でございました
お二方は常日頃より、主君と臣下として顔を合わせておられるとの由
お互いのご紹介は省かせて頂きまして、それでは早速ではございますが……
綾葉様、まずは一献」
私の前にある小さな膳に乗っている杯
それを手に取り、お鈴がお神酒を注いだ
三度に分けて飲み下し、続いて藤次郎様、そして千夜が同じように飲み干す
膳が代わり、杯の大きさを変え、同じように二度、お神酒を飲む
三三九度の盃も終え、こうして婚儀も無事に終了した
すぐさま湯浴みを──となって、部屋を退室し、大上臈と千夜と私の三人で、屋敷の風呂へと歩いていく
「先程はお疲れ様でございました」
「約十年ぶりのことだけれど、意外と覚えているものだったわ
作法を間違えないか心配だったから、ちょっと緊張していたのよね」
「畏れ多くも私の婚儀にて待上臈をお務めいただきましたゆえ、婚儀の手順を思い出せたのやもしれませんね
義姉上様には、姫様の婚儀でも大上臈をお務めいただき、感謝申し上げます」
「政宗様たってのご要望とあらば喜んで
綾葉様、我が愚弟たちが何か失礼などしておりませんか?」
「伊達軍に弟がいらっしゃるの?」
いったい誰の姉君なのだろうかと好奇心で尋ねたところ、きょとんとした二人が顔を見合わせ、はたと千夜が口に手を当てた
さては千夜、私に説明するのを忘れていたわね
この綺麗な女性は誰なのかって、式の最中、ずっと気になってたんだから!
「申し遅れました
私は姓を片倉、名を喜多と申しまして、片倉小十郎の異父姉、鬼庭綱元の異母姉でございます」
「……片倉様と綱元様に姉君がおられたとは……」
あれでいてお二人とも弟なのか……見えなかったわ……
片倉様なんて、藤次郎様の世話をあれこれ焼いておられたから、てっきり下の兄弟が居るのかと思っていたら
「政宗様のご希望もありまして、今後はこの喜多も、綾葉様の侍女としてお仕え致します
お千夜殿がお傍に居られぬ時は、どうぞ喜多をお呼びください」
「心強いわ
ありがとう、お喜多」
「義姉上は殿の養育係でもあられました
きっと姫様によくお仕えしてくださることと存じます」
「過分なお言葉、痛み入ります
誠心誠意お仕えさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます」
お喜多が微笑んで頭を下げたところで、風呂へ到着した
白無垢を二人がかりで脱がせてもらって、浴衣へ着替える
湯船に浸かれば、知らず知らずのうちに溜まっていた疲労が抜けていくかのようだった
「御髪を失礼致します
湯加減は如何でしょう?」
「丁度いいわ、ありがとう」
垢を落として髪を流し、身を清めていく
普段はこんな贅沢はしないのだけれど、今夜は特別
なぜならこれから始まるのが、ある意味では本番なのだから
奥州美稜屋敷の門前には、篝火が灯された
いつもなら日が落ちてからは家の中に籠る里の者たちも、今夜ばかりは道沿いにずらりと並び、屋敷の門が開くのを今か今かと待っている
年を越えて、睦月の下旬──六曜の大安
村々の女たちがひと針ひと針、真心を込めて縫ってくれた桜に鶴の刺繍を撫で、白無垢を踏まぬように立ち上がる
広間と呼んでいる、少し広いだけの部屋に私が姿を現せば、迎えの使者としてやってきた片倉様が言葉を詰まらせ、警備役を担ってくれるあの四人が感嘆の声を上げた
屋敷に残る美稜家の家臣たちに、これまでの礼と、これから先も世話になるゆえ宜しく──という言葉を手向けにして、広間から玄関へと進んでいく
その先で待っていた輿に乗って、輿が持ち上げられ──屋敷の門が開いた
輿入れの行列と言うにはかなり少ない人数で、それでも美稜屋敷の前は、集まった民衆たちの歓声に包まれた
行列の道を、数本の松明が照らしている
美稜領は山際などではないため、雪こそ降りはしないものの、気温はかなり低い
行列の女たちや男たちも皆揃って厚着をしているけれど、それでもやはり寒そうだ
正座をした指先が冷たくて、何度も足を組み替えながら、表情だけは凛と前を向き続けた
……行列に参加した男たちのうち、半分は美稜領へ帰る
美稜家は家臣の数も多くないから、全員が伊達家へ入るわけにはいかないのだ
それにこの行列、もう半分は村から集めた男たちと女たちだもの
ひとまずは伊達家で一泊して、明日には皆それぞれの家へ帰ることになっている
私も時々は美稜領に帰らないといけないし、村の者たちとはこの先も顔を合わせる機会がある
寂しい気持ちはあるけれど、それほどでもないのは、そのお陰だろうか
馬で何度も駆け抜けた道を、ゆったりと進んでいく輿
雛菊は私の少し後ろを、綺麗に飾り付けられて歩いているらしい
この先も戦場で戦い、美稜領と伊達屋敷を往復する身ということもあって、雛菊が居てくれないと私の生活はままならない
私の相棒、最高の愛馬
これから先も私と一緒に、竜の天下まで駆け抜けていくわよ
*********************
夜を徹して進んだ行列は、道中で休憩を何度か挟み、翌日の夜、伊達屋敷へ到着した
千夜の手を借りて輿から降りて、式台で履物を脱ぐ
周囲の若い奴らが、現れた私を見て「おおお……」とどよめきが広がった
「馬子にも衣装」と言ったのは絶対に綱元様だ
今回、千夜は美稜家の待上臈として、婚儀に参加することになっている
伊達家の大上臈が誰なのかは分からない
そもそもこの屋敷、私と千夜以外の女性がいないのだけれど……
通された部屋の中には、直垂姿の藤次郎様が静かに座っていた
蝋燭の灯りに照らされたお顔の陰影が綺麗で、うっかり見蕩れてしまいそうになる
「これより伊達家、美稜家の婚礼の儀を執り行います」
伊達家の大上臈が厳かに告げ、見るからに見覚えのある顔が侍女として三人、現れた
……お鈴とミツとお菊よね、どう見ても
三人とも顔が妙に強張っていて、緊張しているのが伝わってくる
なんだか私のほうが肩の力も抜けてしまった
「綾葉様、此度は長旅ご苦労様でございました
お二方は常日頃より、主君と臣下として顔を合わせておられるとの由
お互いのご紹介は省かせて頂きまして、それでは早速ではございますが……
綾葉様、まずは一献」
私の前にある小さな膳に乗っている杯
それを手に取り、お鈴がお神酒を注いだ
三度に分けて飲み下し、続いて藤次郎様、そして千夜が同じように飲み干す
膳が代わり、杯の大きさを変え、同じように二度、お神酒を飲む
三三九度の盃も終え、こうして婚儀も無事に終了した
すぐさま湯浴みを──となって、部屋を退室し、大上臈と千夜と私の三人で、屋敷の風呂へと歩いていく
「先程はお疲れ様でございました」
「約十年ぶりのことだけれど、意外と覚えているものだったわ
作法を間違えないか心配だったから、ちょっと緊張していたのよね」
「畏れ多くも私の婚儀にて待上臈をお務めいただきましたゆえ、婚儀の手順を思い出せたのやもしれませんね
義姉上様には、姫様の婚儀でも大上臈をお務めいただき、感謝申し上げます」
「政宗様たってのご要望とあらば喜んで
綾葉様、我が愚弟たちが何か失礼などしておりませんか?」
「伊達軍に弟がいらっしゃるの?」
いったい誰の姉君なのだろうかと好奇心で尋ねたところ、きょとんとした二人が顔を見合わせ、はたと千夜が口に手を当てた
さては千夜、私に説明するのを忘れていたわね
この綺麗な女性は誰なのかって、式の最中、ずっと気になってたんだから!
「申し遅れました
私は姓を片倉、名を喜多と申しまして、片倉小十郎の異父姉、鬼庭綱元の異母姉でございます」
「……片倉様と綱元様に姉君がおられたとは……」
あれでいてお二人とも弟なのか……見えなかったわ……
片倉様なんて、藤次郎様の世話をあれこれ焼いておられたから、てっきり下の兄弟が居るのかと思っていたら
「政宗様のご希望もありまして、今後はこの喜多も、綾葉様の侍女としてお仕え致します
お千夜殿がお傍に居られぬ時は、どうぞ喜多をお呼びください」
「心強いわ
ありがとう、お喜多」
「義姉上は殿の養育係でもあられました
きっと姫様によくお仕えしてくださることと存じます」
「過分なお言葉、痛み入ります
誠心誠意お仕えさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます」
お喜多が微笑んで頭を下げたところで、風呂へ到着した
白無垢を二人がかりで脱がせてもらって、浴衣へ着替える
湯船に浸かれば、知らず知らずのうちに溜まっていた疲労が抜けていくかのようだった
「御髪を失礼致します
湯加減は如何でしょう?」
「丁度いいわ、ありがとう」
垢を落として髪を流し、身を清めていく
普段はこんな贅沢はしないのだけれど、今夜は特別
なぜならこれから始まるのが、ある意味では本番なのだから
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