Episode.3-10
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ぶっ通しで走らせたお陰で、想定よりも随分早く、伊達屋敷へ到着した
当分は戻らないと言って去ったはずの私が、たった三ヶ月で戻ってきたのだから、兵たちは「あれッ、姐御?」と目を丸くするばかりだ
そうよね、私もこんなに早く戻ってくるつもりはなかったわ
悪いのはこの奥州筆頭よ……
「小十郎
俺が良いと言うまで、誰も近付けるんじゃねぇぞ」
「はっ」
頷いた片倉様は、同情するような顔で、俵担ぎにされたままの私を見た
そんな顔をするくらいなら、助けてくれたって良いでしょうに!
政宗様が私を俵担ぎにしたまま、庭から自室の縁側へと上がる
次いで私の履物も取り去って、それは雑に放り投げられた
「あ、の……政宗様」
政宗様の私室でようやく下ろされ、私は戸惑うままに政宗様を見上げる他ない
何が政宗様の本心なのかは分からないままだ
祝言の日取りを決めたい、なんて、いったいどういうつもりで──
「関ヶ原から帰ってきて以来だな」
「そう……でございますね」
「……成実の野郎が言ってやがったことは、ある意味じゃ正解だ
俺は奥州を統べる伊達の当主……その正室ともなりゃあ、慎重に選ばなきゃならねぇってこともな
俺の身ひとつで、いくらでも中立を保つ家を味方に引き入れられる
……その考え自体は否定しねぇ
ジイさんがそうだったからな──」
政宗様のおじい様である晴宗様は、婚姻による勢力拡大を図ったとされる
乱世の縮図とも言われる奥州を伊達が統べるに至る、その礎を築かれた方
そしてその宿願を果たされたのが、奥州筆頭たる政宗様だ
「だがそれでも俺は……お前だけで終わりにしたい」
「──」
「俺ひとりが女に囲まれりゃいいとしても、俺はそいつを望まねぇ
……美稜の風神からお前を貰い受けたんだ、お前以外の嫁なんざ貰おうもんなら、あの世から射殺されちまうだろうぜ」
「彦一郎様は、そのようなお方では……」
「そりゃお前が風神の独占欲を甘く見すぎだな
……相当に癪だったろうさ、俺にお前を譲るのは」
そうなのかしら……
彦一郎様は常に穏やかで物腰柔らかく、誰に対しても分け隔てなく接して下さる方だった
私のことは正室として大切にして下さっていたと知っているし、互いに愛し合っていたと自信を持って頷ける
けれど……彦一郎様がそんなふうに思うほど、私に価値があるのかしら
「テメェの価値をテメェで決めつけるな
少なくともお前よりは俺のほうが、お前の価値を正しく理解してるぜ?」
「私にどれ程の価値がございましょう
美稜など、奥州では新参者に過ぎません
伊達家に忠誠を誓ってはおりますが、正室に迎えていただけるほどの家では……」
「ついさっき言ったはずだ
テメェの価値をテメェで決めるな、ってな
俺にとっちゃお前は、そんじょそこらの奴とは比べるまでもねぇほどの価値がある
それに……」
言葉を切った政宗様が、ふ、と微笑む
不敵な笑みとも、誰かを煽る笑みとも違う
私だけに向けられる、温かな──
「言ったろ?
俺につり合う女は、日の本を探したってお前だけだ」
「政宗、様……」
「お前を追いかけなかったのは、あっさりとお前が俺を諦めやがったからだ
てっきり成実相手に駄々でも捏ねるのか思ってたが……お前はそんな奴じゃなかったな
俺のためなら、テメェの嫁入りすら、要らねぇもんだと切り捨てる
……そんなお前だから、俺はお前に光を与え続けると誓った
成実如きの戯言で、その誓いを無かったことにされてたまるかよ」
成実様はそのような言い方をされるべき方ではないけれど……
それでもまだ、私が頷くには足りない
だって私は聞いていないのだから
私にどれ程の価値があるのかを
「私に価値があると申されるなら、行動で示しなさいませ
取ってつけたようなお言葉で頷くほど、美稜は安い存在ではありません」
「All right.
それでこそ俺が見初めた蝶だ」
……奥州の揚羽蝶
それが今の私の通り名
もちろん様々ある名のひとつに過ぎないけれど、私にとってはどれもさして大差ない
私につけられた肩書きの全てが、奥州の蒼き竜へ忠節を尽くす私を表しているのだから
……けれどもし、その肩書きがひとつ、増えるのなら
それはこのお方を見上げ敬う私ではなく、並び立つ私を表す名であってほしい
「俺の全てを、桜の蝶に」
陽の射し込まない、薄暗い室内で
独眼竜と称されるそのお方の、竜のように鋭い隻眼が、強い光を灯してそう告げた
それは関ヶ原で私が口にした誓いの──政宗様からの答え
私の全てを蒼き竜に
それと同じだけの意味を持つ言葉を、政宗様はいま、私に誓った
「伊達家当主藤次郎政宗、奥州美稜家当主綾葉殿の輿入れを──正式に申し入れる」
「慶んでお受けします
……もう二度と、私を泣かせたりなさいませんよう」
「次泣く時は嬉し涙になるだろうぜ
それもアウトか?」
「それは……せーふ、です」
政宗様……いえ、藤次郎様
何度も何度もすれ違った私たちではありますが、ようやく今、心がひとつに重なったような気が致します
伊達の掲げる竹に雀へ、美稜の桜丸から、未来永劫変わらぬ愛を
私たちの間に言葉はもう必要ない
互いを抱き締めて離さない腕と、熱く重なる唇さえあれば
それだけで貴方から差し出される恋も愛も、全ての心も、私に伝わっているから──
当分は戻らないと言って去ったはずの私が、たった三ヶ月で戻ってきたのだから、兵たちは「あれッ、姐御?」と目を丸くするばかりだ
そうよね、私もこんなに早く戻ってくるつもりはなかったわ
悪いのはこの奥州筆頭よ……
「小十郎
俺が良いと言うまで、誰も近付けるんじゃねぇぞ」
「はっ」
頷いた片倉様は、同情するような顔で、俵担ぎにされたままの私を見た
そんな顔をするくらいなら、助けてくれたって良いでしょうに!
政宗様が私を俵担ぎにしたまま、庭から自室の縁側へと上がる
次いで私の履物も取り去って、それは雑に放り投げられた
「あ、の……政宗様」
政宗様の私室でようやく下ろされ、私は戸惑うままに政宗様を見上げる他ない
何が政宗様の本心なのかは分からないままだ
祝言の日取りを決めたい、なんて、いったいどういうつもりで──
「関ヶ原から帰ってきて以来だな」
「そう……でございますね」
「……成実の野郎が言ってやがったことは、ある意味じゃ正解だ
俺は奥州を統べる伊達の当主……その正室ともなりゃあ、慎重に選ばなきゃならねぇってこともな
俺の身ひとつで、いくらでも中立を保つ家を味方に引き入れられる
……その考え自体は否定しねぇ
ジイさんがそうだったからな──」
政宗様のおじい様である晴宗様は、婚姻による勢力拡大を図ったとされる
乱世の縮図とも言われる奥州を伊達が統べるに至る、その礎を築かれた方
そしてその宿願を果たされたのが、奥州筆頭たる政宗様だ
「だがそれでも俺は……お前だけで終わりにしたい」
「──」
「俺ひとりが女に囲まれりゃいいとしても、俺はそいつを望まねぇ
……美稜の風神からお前を貰い受けたんだ、お前以外の嫁なんざ貰おうもんなら、あの世から射殺されちまうだろうぜ」
「彦一郎様は、そのようなお方では……」
「そりゃお前が風神の独占欲を甘く見すぎだな
……相当に癪だったろうさ、俺にお前を譲るのは」
そうなのかしら……
彦一郎様は常に穏やかで物腰柔らかく、誰に対しても分け隔てなく接して下さる方だった
私のことは正室として大切にして下さっていたと知っているし、互いに愛し合っていたと自信を持って頷ける
けれど……彦一郎様がそんなふうに思うほど、私に価値があるのかしら
「テメェの価値をテメェで決めつけるな
少なくともお前よりは俺のほうが、お前の価値を正しく理解してるぜ?」
「私にどれ程の価値がございましょう
美稜など、奥州では新参者に過ぎません
伊達家に忠誠を誓ってはおりますが、正室に迎えていただけるほどの家では……」
「ついさっき言ったはずだ
テメェの価値をテメェで決めるな、ってな
俺にとっちゃお前は、そんじょそこらの奴とは比べるまでもねぇほどの価値がある
それに……」
言葉を切った政宗様が、ふ、と微笑む
不敵な笑みとも、誰かを煽る笑みとも違う
私だけに向けられる、温かな──
「言ったろ?
俺につり合う女は、日の本を探したってお前だけだ」
「政宗、様……」
「お前を追いかけなかったのは、あっさりとお前が俺を諦めやがったからだ
てっきり成実相手に駄々でも捏ねるのか思ってたが……お前はそんな奴じゃなかったな
俺のためなら、テメェの嫁入りすら、要らねぇもんだと切り捨てる
……そんなお前だから、俺はお前に光を与え続けると誓った
成実如きの戯言で、その誓いを無かったことにされてたまるかよ」
成実様はそのような言い方をされるべき方ではないけれど……
それでもまだ、私が頷くには足りない
だって私は聞いていないのだから
私にどれ程の価値があるのかを
「私に価値があると申されるなら、行動で示しなさいませ
取ってつけたようなお言葉で頷くほど、美稜は安い存在ではありません」
「All right.
それでこそ俺が見初めた蝶だ」
……奥州の揚羽蝶
それが今の私の通り名
もちろん様々ある名のひとつに過ぎないけれど、私にとってはどれもさして大差ない
私につけられた肩書きの全てが、奥州の蒼き竜へ忠節を尽くす私を表しているのだから
……けれどもし、その肩書きがひとつ、増えるのなら
それはこのお方を見上げ敬う私ではなく、並び立つ私を表す名であってほしい
「俺の全てを、桜の蝶に」
陽の射し込まない、薄暗い室内で
独眼竜と称されるそのお方の、竜のように鋭い隻眼が、強い光を灯してそう告げた
それは関ヶ原で私が口にした誓いの──政宗様からの答え
私の全てを蒼き竜に
それと同じだけの意味を持つ言葉を、政宗様はいま、私に誓った
「伊達家当主藤次郎政宗、奥州美稜家当主綾葉殿の輿入れを──正式に申し入れる」
「慶んでお受けします
……もう二度と、私を泣かせたりなさいませんよう」
「次泣く時は嬉し涙になるだろうぜ
それもアウトか?」
「それは……せーふ、です」
政宗様……いえ、藤次郎様
何度も何度もすれ違った私たちではありますが、ようやく今、心がひとつに重なったような気が致します
伊達の掲げる竹に雀へ、美稜の桜丸から、未来永劫変わらぬ愛を
私たちの間に言葉はもう必要ない
互いを抱き締めて離さない腕と、熱く重なる唇さえあれば
それだけで貴方から差し出される恋も愛も、全ての心も、私に伝わっているから──
