Episode.3-9
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ふっと目が覚めた
例えるならそうとしか言えない
なんだか夢を見ていたような……
「ここは……」
閉め切られた障子の外は薄明かりだ
恐らく日が昇ったばかりだろう
それにしてもここはどこだろう……
肘をついて起き上がり、部屋の中を見渡す
背後にある枕元の床の間に、武田の家宝、楯無の鎧があった
「まさか……躑躅ヶ崎館……?」
関ヶ原での戦いはどうなったの……
どうして私が、躑躅ヶ崎館に?
藤次郎様もいらっしゃるのだろうか、それとも私を置いて先に奥州へ帰られた?
布団を跳ね上げて、立ち上がる
……瞬間、足の力が抜けて、布団の上にへたり込んでしまった
「と……藤次郎様……」
こんなにも心細さを感じたことなんてなかった
藤次郎様のお顔が見たい
お姿を見て、魔王の呪縛はもうないのだと確認しないと
彦一郎様からお借りした弓矢で因縁を断ち切れたとはいえ、やっぱりこの目で見てみないと安心できない
「藤次郎様……どちらに……」
焦りだけが心を支配していく
這うように障子の前へと向かって、どうにか手を伸ばして障子を開く
早朝の朝日が差し込む廊下には、誰もいない
は、と呼吸が浅くなったとき、誰かがこちらへと歩いてくる音が聞こえた
角を曲がって歩いてきたのは……
「……綾葉!」
「片倉様……!」
立ち上がれない私の手を引っ張って起こしながら、片倉様が安堵のため息を零す
けれど私はそれどころじゃない
「片倉様、藤次郎様は?
藤次郎様はいずこに?」
「呼んできてやるから、まずは部屋へ戻れ
政宗様へ余計な心配をおかけする気か」
ぽいっと布団の上に放られて、片倉様が鎧の間を出ていく
呼んできていただけるということは、藤次郎様はご無事で、ここにいらっしゃるということだ
僅かばかり安堵して、体に入っていた力が緩んだとき
「綾葉……!」
待ち望んだ声が、聞こえた
ぱっと顔を上げれば、そこには焦った様子の藤次郎様がいる
……ああ、藤次郎様
「藤次郎様……!」
躊躇いもなく手を伸ばして、藤次郎様を抱き締める
藤次郎様も強く私を抱き込んでくれた
「藤次郎様……よくご無事で……」
「お前こそ、よく生きてくれた……」
「死ねませんとも……
藤次郎様と共に、これから先を歩いていくとお約束したではありませんか」
そうだな、と藤次郎様が微笑む
そんな藤次郎様に微笑み返して、そっと頬に手を添えた
「しがらみは断ち切ったか」
「はい
これからは何の憂いもなく、藤次郎様のお傍にいられます」
「Good.
二度と離れるなよ──」
藤次郎様に頷いて、目を閉じる
重なった唇は熱くて……すべてが蕩けてしまいそうで
お傍にいられる喜び、貴方様を愛していける幸福……
この世の全てに感謝してしまいそうになる
藤次郎様
……藤次郎様
「……嫁に来い、綾葉
この日の本で一番の女にしてやる」
「はい……私の心は既に、藤次郎様のものです
どうぞいつまでも、お傍に──」
そこから先の言葉は、藤次郎様が口付けに呑まれた
お慕いする心が留まるところを知らない
まるで洪水のように溢れて、藤次郎様へぶつけることしか出来ない
体勢を崩して布団にもつれ込み、それでも私たちは口付けを止めなかった
ここが武田の屋敷だということも忘れ去って、ただ想いの丈をぶつけ合うみたいに、いつまでも唇を重ねていた──
*********************
衣装に着替えて髪を結い、部屋の外で待ってくれていた藤次郎様に声をかける
それから一緒に伊達の部屋へ向かうと、部屋の中から兵たちが顔を出した
「筆頭、おはようござい──姐御!!」
「姐御ぉ!!
目が覚めたんですね!!」
「うおおおお!!
よ、良かったァ〜!!」
「こら、あんた達!
まずは藤次郎様に挨拶をするのが先でしょう!」
「あ、いけねぇ!
おはようございます、筆頭!」
「Good morning.
くく……目が覚めて一番に小言たぁ、お前も小十郎に似てきたか?」
「片倉様の右腕なれば」
否定もせずにそう言ってやれば、藤次郎様のお顔が少しだけゲンナリされた
部屋には人数分の食事が用意されている
しかし……と、部屋にいる兵たちを眺めて、私は胸中で嘆息した
「……生き残った者はこれだけですか」
「ああ、随分とやられちまった……
あのcrazyなpartyと、黒い手のせいでな」
「早急に立て直しが必要でございますね
奥州へ戻りましたら、何なりとお命じくださいませ」
「頼りにさせてもらうぜ、奥州の揚羽蝶」
左手の指先に唇を触れさせて、藤次郎様が悪戯っぽく微笑む
微笑んだままそれに頷いて、私も皆と共に朝餉を頂くことにした
「……右腕はもう平気か」
「え?」
「痛めたんだろ?
切り傷じゃねぇとは武田の忍びが言ってやがったが、魔王との戦いで悪化させたんじゃねぇかと思ってな……」
「ご心配には及びません
魔王の因縁を切ったときに、この身に残っていた大紫も消え去ったようです
今はただの火傷の痕でございます
……傷物であるのは変わりませんが、藤次郎様はそれを気になさる方ではないと存じております」
大紫の刺青を焼いて消すことで、織田との縁を切ったつもりだった
それでもその繭は私の内に残っていて、二年前の織田信長との戦いを機に蛹へと変わり──第六天魔王の復活に影響されて、羽化してしまった
魔王の下僕となり、日の本を灰燼とするために生まれた死告蝶
私は私に刻まれた運命を知らぬまま、美稜へ嫁ぎ、全てを失って奥州へ逃げた
私が愛したものは、尽く死ぬ運命
例外なくその呪いは発動して、生家も美稜も彦一郎様も喪った
もう何も喪いたくないと逃げることを選んだ私に、藤次郎様はその度に手を差し伸べてくださって
ようやくその因縁も呪縛も解けた
これからは心のままに、貴方様を愛してゆける
死告蝶は関ヶ原にて役目を終えた
これから先の私は、奥州にひらりと舞う揚羽蝶
蒼き竜への誠を誓い、美稜の桜を繚って乱れ咲く
美稜綾葉の──生まれ変わった私の、新しい生き方
蒼誠繚乱
名実ともに、私はようやく……その肩書きを自分のものとしたのだ
例えるならそうとしか言えない
なんだか夢を見ていたような……
「ここは……」
閉め切られた障子の外は薄明かりだ
恐らく日が昇ったばかりだろう
それにしてもここはどこだろう……
肘をついて起き上がり、部屋の中を見渡す
背後にある枕元の床の間に、武田の家宝、楯無の鎧があった
「まさか……躑躅ヶ崎館……?」
関ヶ原での戦いはどうなったの……
どうして私が、躑躅ヶ崎館に?
藤次郎様もいらっしゃるのだろうか、それとも私を置いて先に奥州へ帰られた?
布団を跳ね上げて、立ち上がる
……瞬間、足の力が抜けて、布団の上にへたり込んでしまった
「と……藤次郎様……」
こんなにも心細さを感じたことなんてなかった
藤次郎様のお顔が見たい
お姿を見て、魔王の呪縛はもうないのだと確認しないと
彦一郎様からお借りした弓矢で因縁を断ち切れたとはいえ、やっぱりこの目で見てみないと安心できない
「藤次郎様……どちらに……」
焦りだけが心を支配していく
這うように障子の前へと向かって、どうにか手を伸ばして障子を開く
早朝の朝日が差し込む廊下には、誰もいない
は、と呼吸が浅くなったとき、誰かがこちらへと歩いてくる音が聞こえた
角を曲がって歩いてきたのは……
「……綾葉!」
「片倉様……!」
立ち上がれない私の手を引っ張って起こしながら、片倉様が安堵のため息を零す
けれど私はそれどころじゃない
「片倉様、藤次郎様は?
藤次郎様はいずこに?」
「呼んできてやるから、まずは部屋へ戻れ
政宗様へ余計な心配をおかけする気か」
ぽいっと布団の上に放られて、片倉様が鎧の間を出ていく
呼んできていただけるということは、藤次郎様はご無事で、ここにいらっしゃるということだ
僅かばかり安堵して、体に入っていた力が緩んだとき
「綾葉……!」
待ち望んだ声が、聞こえた
ぱっと顔を上げれば、そこには焦った様子の藤次郎様がいる
……ああ、藤次郎様
「藤次郎様……!」
躊躇いもなく手を伸ばして、藤次郎様を抱き締める
藤次郎様も強く私を抱き込んでくれた
「藤次郎様……よくご無事で……」
「お前こそ、よく生きてくれた……」
「死ねませんとも……
藤次郎様と共に、これから先を歩いていくとお約束したではありませんか」
そうだな、と藤次郎様が微笑む
そんな藤次郎様に微笑み返して、そっと頬に手を添えた
「しがらみは断ち切ったか」
「はい
これからは何の憂いもなく、藤次郎様のお傍にいられます」
「Good.
二度と離れるなよ──」
藤次郎様に頷いて、目を閉じる
重なった唇は熱くて……すべてが蕩けてしまいそうで
お傍にいられる喜び、貴方様を愛していける幸福……
この世の全てに感謝してしまいそうになる
藤次郎様
……藤次郎様
「……嫁に来い、綾葉
この日の本で一番の女にしてやる」
「はい……私の心は既に、藤次郎様のものです
どうぞいつまでも、お傍に──」
そこから先の言葉は、藤次郎様が口付けに呑まれた
お慕いする心が留まるところを知らない
まるで洪水のように溢れて、藤次郎様へぶつけることしか出来ない
体勢を崩して布団にもつれ込み、それでも私たちは口付けを止めなかった
ここが武田の屋敷だということも忘れ去って、ただ想いの丈をぶつけ合うみたいに、いつまでも唇を重ねていた──
*********************
衣装に着替えて髪を結い、部屋の外で待ってくれていた藤次郎様に声をかける
それから一緒に伊達の部屋へ向かうと、部屋の中から兵たちが顔を出した
「筆頭、おはようござい──姐御!!」
「姐御ぉ!!
目が覚めたんですね!!」
「うおおおお!!
よ、良かったァ〜!!」
「こら、あんた達!
まずは藤次郎様に挨拶をするのが先でしょう!」
「あ、いけねぇ!
おはようございます、筆頭!」
「Good morning.
くく……目が覚めて一番に小言たぁ、お前も小十郎に似てきたか?」
「片倉様の右腕なれば」
否定もせずにそう言ってやれば、藤次郎様のお顔が少しだけゲンナリされた
部屋には人数分の食事が用意されている
しかし……と、部屋にいる兵たちを眺めて、私は胸中で嘆息した
「……生き残った者はこれだけですか」
「ああ、随分とやられちまった……
あのcrazyなpartyと、黒い手のせいでな」
「早急に立て直しが必要でございますね
奥州へ戻りましたら、何なりとお命じくださいませ」
「頼りにさせてもらうぜ、奥州の揚羽蝶」
左手の指先に唇を触れさせて、藤次郎様が悪戯っぽく微笑む
微笑んだままそれに頷いて、私も皆と共に朝餉を頂くことにした
「……右腕はもう平気か」
「え?」
「痛めたんだろ?
切り傷じゃねぇとは武田の忍びが言ってやがったが、魔王との戦いで悪化させたんじゃねぇかと思ってな……」
「ご心配には及びません
魔王の因縁を切ったときに、この身に残っていた大紫も消え去ったようです
今はただの火傷の痕でございます
……傷物であるのは変わりませんが、藤次郎様はそれを気になさる方ではないと存じております」
大紫の刺青を焼いて消すことで、織田との縁を切ったつもりだった
それでもその繭は私の内に残っていて、二年前の織田信長との戦いを機に蛹へと変わり──第六天魔王の復活に影響されて、羽化してしまった
魔王の下僕となり、日の本を灰燼とするために生まれた死告蝶
私は私に刻まれた運命を知らぬまま、美稜へ嫁ぎ、全てを失って奥州へ逃げた
私が愛したものは、尽く死ぬ運命
例外なくその呪いは発動して、生家も美稜も彦一郎様も喪った
もう何も喪いたくないと逃げることを選んだ私に、藤次郎様はその度に手を差し伸べてくださって
ようやくその因縁も呪縛も解けた
これからは心のままに、貴方様を愛してゆける
死告蝶は関ヶ原にて役目を終えた
これから先の私は、奥州にひらりと舞う揚羽蝶
蒼き竜への誠を誓い、美稜の桜を繚って乱れ咲く
美稜綾葉の──生まれ変わった私の、新しい生き方
蒼誠繚乱
名実ともに、私はようやく……その肩書きを自分のものとしたのだ
