Episode.3-5
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まだ起きてやがったのか、と呟いて、藤次郎様が私を見下ろした
私の手元に桜番があるから、手入れの真っ最中だったことは伝わったらしい
「某はこれにて失礼致しまする
お二方も、早めに休まれよ!」
「OK,OK.
Good night.」
「おやすみなさい、幸村」
武田軍の野営地に帰っていく幸村を見送って、再び視線を手元に落とす
一人分の間隔を開けて、藤次郎様が腰を下ろされた
鎧を着ていない藤次郎様でも、さすがに篭手までは外さなかったようだ
パチパチと火花が小さく爆ぜる音が、私たちの間にある沈黙を引き立たせていく
「いつからおいでだったので?」
「……立ち聞きするつもりはなかったんだがな」
「あっては困ります
藤次郎様にお聞かせするようなお話ではございませんでしたのに」
藤次郎様が気まずそうにそっぽを向く
立てた片膝に頬杖をつくなんて、足癖が相変わらず悪くていらっしゃる
まあでも、それこそ今更だったわね
それはさておき、どうせ藤次郎様のことだもの、最初から最後まで聞いていたんだろう
聞かれて困るものではないけれど、わざわざ聞かせるような話でもなかった
……それもまた、今更、だろうか
「藤次郎様に拾っていただけたこと、感謝しておりますよ」
「……」
「逃げた先が奥州であったことも、ひょっとしたら運命だったのかもしれませんね
武田に拾われておったならば、魔王に挑むことができたかどうか
戦にも出していただけなかったかもしれません」
そっぽを向いていた藤次郎様が、ほんの少しだけ私のほうへ顔を向ける
そちらには視線をやらず、私は手元の銃を見つめた
藤次郎様が私にくださった桜番を手に、幾つもの戦場を駆けた
銃を撃てば撃つほど、魔王に近づいていると信じて
「藤次郎様が私を正式に伊達家へ迎えようとしてくれていたことも、織田との戦が終わってから気付きました
私はこの戦いが終われば、双竜に首を切り落とされ、彦一郎様と共に地獄へ落ちると思っていたのですが」
「……それを救いにしようとしていることは分かりきっていた
俺たちに身を偽ったことを罪に仕立てて、テメェの命を散らして美稜は終わりを迎える
お前がそれをテメェの幕引きにしようとしていることなんざ、とっくに気付いていた……
だから俺はお前を斬らなかった」
「……存じておりました
藤次郎様は私を斬らぬであろうと」
だからこそ、安土でのやり取り──私を斬るふりをして、身を偽った罪を赦すというのは、予定調和ではあったのだ
予想外だったことは、そのあと
奥州にいたいと告げた私への、藤次郎様の答えだ
「温情を賜って、奥州での生活と、これまでと変わらぬ奉公をお許しいただければ御の字──そう思っておりましたが」
「名実ともにお前を家臣として伊達に迎え入れるchanceだったろ
一兵卒の扱いなんざ出来るか
言ったろ、お前は俺に必要なんだってな」
「はい、覚えております
まさかそれが、私を藤次郎様の室にと望んでくださる程であったとは、正直に申しまして、思いもしなかったのですが……」
「……お前はそれまで、魔王のオッサンだけをgoalに定めて生きてきたんだ
俺がお前をどう見てるかなんて、そんな余計な事を考える隙間もなかっただろうさ」
……伊達の兵たちから慕われて、藤次郎様に重用されて、片倉様の補佐をして
織田への復讐心だけで生きてきたと言うには、あまりにも……心が満たされていたような気がする
長年の悲願を果たした後、私が燃え尽きて抜け殻のようにならずに済んだのも、兵たちや片倉様、なにより藤次郎様のおかげだ
織田信長を討つ、その目的を果たした私に、藤次郎様は『奥州で美稜家を再興しろ』とおっしゃってくれた
美稜の名を捨てなくていいと
私がその名を受け継いでいいのだと……
「……藤次郎様には、感謝の思いでいっぱいです」
「そうかい
……ま、惚れた弱みだな」
「え?」
「It's nothing.」
立ち上がった藤次郎様が、私の頭をぽんと一撫でして、片倉様のいる焚き火の方へ歩いていく
……藤次郎様の口から、惚れた弱みなんて台詞を聞くことになるとは、思わなかった
私たちの会話のどこに、それを感じさせるものがあったのかは、定かではないけれど……
「……藤次郎様、本当に私のことを好きでいてくださっているのね……」
離れようとまでした私を繋ぎ止めて、未来さえ約束してみせた
藤次郎様は、果たせない約束はしない
だから彼が『石田三成を倒して私と祝言を挙げる』と宣言したのなら、その通りになさるのだ
……それまでに私は、この身に残る因縁の呪縛を解くことができるのか
第六天魔王、織田信長……私の義兄
人とは思えぬ禍々しさを纏った魔王の遺体は、今も安土城の下敷きになったまま
……あの男が死んでもなお、因縁は残るか
「……っ」
右腕は鈍い痛みを訴え続けている
腫れてなどいないし、腕を痛めるようなこともしていないのに
それはまるで、冥府の底から、魔王が私に呼びかけるようだった
魔王は死んでいない
復活したその時こそ、私は蝮の娘として魔王に従う運命なのだと──
私の手元に桜番があるから、手入れの真っ最中だったことは伝わったらしい
「某はこれにて失礼致しまする
お二方も、早めに休まれよ!」
「OK,OK.
Good night.」
「おやすみなさい、幸村」
武田軍の野営地に帰っていく幸村を見送って、再び視線を手元に落とす
一人分の間隔を開けて、藤次郎様が腰を下ろされた
鎧を着ていない藤次郎様でも、さすがに篭手までは外さなかったようだ
パチパチと火花が小さく爆ぜる音が、私たちの間にある沈黙を引き立たせていく
「いつからおいでだったので?」
「……立ち聞きするつもりはなかったんだがな」
「あっては困ります
藤次郎様にお聞かせするようなお話ではございませんでしたのに」
藤次郎様が気まずそうにそっぽを向く
立てた片膝に頬杖をつくなんて、足癖が相変わらず悪くていらっしゃる
まあでも、それこそ今更だったわね
それはさておき、どうせ藤次郎様のことだもの、最初から最後まで聞いていたんだろう
聞かれて困るものではないけれど、わざわざ聞かせるような話でもなかった
……それもまた、今更、だろうか
「藤次郎様に拾っていただけたこと、感謝しておりますよ」
「……」
「逃げた先が奥州であったことも、ひょっとしたら運命だったのかもしれませんね
武田に拾われておったならば、魔王に挑むことができたかどうか
戦にも出していただけなかったかもしれません」
そっぽを向いていた藤次郎様が、ほんの少しだけ私のほうへ顔を向ける
そちらには視線をやらず、私は手元の銃を見つめた
藤次郎様が私にくださった桜番を手に、幾つもの戦場を駆けた
銃を撃てば撃つほど、魔王に近づいていると信じて
「藤次郎様が私を正式に伊達家へ迎えようとしてくれていたことも、織田との戦が終わってから気付きました
私はこの戦いが終われば、双竜に首を切り落とされ、彦一郎様と共に地獄へ落ちると思っていたのですが」
「……それを救いにしようとしていることは分かりきっていた
俺たちに身を偽ったことを罪に仕立てて、テメェの命を散らして美稜は終わりを迎える
お前がそれをテメェの幕引きにしようとしていることなんざ、とっくに気付いていた……
だから俺はお前を斬らなかった」
「……存じておりました
藤次郎様は私を斬らぬであろうと」
だからこそ、安土でのやり取り──私を斬るふりをして、身を偽った罪を赦すというのは、予定調和ではあったのだ
予想外だったことは、そのあと
奥州にいたいと告げた私への、藤次郎様の答えだ
「温情を賜って、奥州での生活と、これまでと変わらぬ奉公をお許しいただければ御の字──そう思っておりましたが」
「名実ともにお前を家臣として伊達に迎え入れるchanceだったろ
一兵卒の扱いなんざ出来るか
言ったろ、お前は俺に必要なんだってな」
「はい、覚えております
まさかそれが、私を藤次郎様の室にと望んでくださる程であったとは、正直に申しまして、思いもしなかったのですが……」
「……お前はそれまで、魔王のオッサンだけをgoalに定めて生きてきたんだ
俺がお前をどう見てるかなんて、そんな余計な事を考える隙間もなかっただろうさ」
……伊達の兵たちから慕われて、藤次郎様に重用されて、片倉様の補佐をして
織田への復讐心だけで生きてきたと言うには、あまりにも……心が満たされていたような気がする
長年の悲願を果たした後、私が燃え尽きて抜け殻のようにならずに済んだのも、兵たちや片倉様、なにより藤次郎様のおかげだ
織田信長を討つ、その目的を果たした私に、藤次郎様は『奥州で美稜家を再興しろ』とおっしゃってくれた
美稜の名を捨てなくていいと
私がその名を受け継いでいいのだと……
「……藤次郎様には、感謝の思いでいっぱいです」
「そうかい
……ま、惚れた弱みだな」
「え?」
「It's nothing.」
立ち上がった藤次郎様が、私の頭をぽんと一撫でして、片倉様のいる焚き火の方へ歩いていく
……藤次郎様の口から、惚れた弱みなんて台詞を聞くことになるとは、思わなかった
私たちの会話のどこに、それを感じさせるものがあったのかは、定かではないけれど……
「……藤次郎様、本当に私のことを好きでいてくださっているのね……」
離れようとまでした私を繋ぎ止めて、未来さえ約束してみせた
藤次郎様は、果たせない約束はしない
だから彼が『石田三成を倒して私と祝言を挙げる』と宣言したのなら、その通りになさるのだ
……それまでに私は、この身に残る因縁の呪縛を解くことができるのか
第六天魔王、織田信長……私の義兄
人とは思えぬ禍々しさを纏った魔王の遺体は、今も安土城の下敷きになったまま
……あの男が死んでもなお、因縁は残るか
「……っ」
右腕は鈍い痛みを訴え続けている
腫れてなどいないし、腕を痛めるようなこともしていないのに
それはまるで、冥府の底から、魔王が私に呼びかけるようだった
魔王は死んでいない
復活したその時こそ、私は蝮の娘として魔王に従う運命なのだと──
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