Episode.3-5
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水浴びを済ませる藤次郎様の警護役としてその場に残り、周辺への警戒を続けていると
陣を張った方向から、こちらへ誰かが向かってきた
誰かと言わずとも、片倉様だ
「片倉様」
「政宗様はおられるか」
「藤次郎様ならば、あちらで水浴びを」
歩き出そうとした片倉様が、私を見下ろす
思わず首を傾げると、片倉様はやはりニコリともなさらずに言った
「政宗様に喝でも入れられたか」
「はい、お陰様ですっかり立ち直りました」
「オメェはもはや、政宗様の心の支えだ
それを自覚しろ」
「嫌でも自覚させられましたとも
私が政宗様の事を信じておりますのは変わりませんが……
それに加えて、信じてみようと思ったのです
藤次郎様に愛される、我が身のことを」
あの藤次郎様が私こそをと望まれたのだ
私が私自身を信じられなくてどうするというのだろう
「……もうオメェのことで政宗様のお手を煩わせるんじゃねぇぜ」
「精進致します」
是非ではない答えを返せば、片倉様は呆れたように首を振り、川へと向かわれた
遠くから藤次郎様の声が聞こえてくる
周囲に不審な気配もない──伊達と武田が揃っているのだから、怪しい者が仕掛けてくるとも考えにくいのだけれど
それにしても私が水浴びをしている間、武田のくノ一が見張ってるって話だったような……
その割には、藤次郎様は私がいることをご存知ない様子だった
(……ひょっとして私、佐助に嵌められたのかしら)
この私を欺くとはいい度胸だ
あとで一発お見舞いしてやろうかしら
装束に着替えた藤次郎様が、片倉様を伴って戻ってくるのが見えた
そうして川辺から野営の陣へと戻った私は、意味ありげにニヤニヤとする佐助に向かって、無言で銃を構えたのだった
──後に佐助は当時を振り返って言った
「綾葉様を怒らせたら最初に手が出てくることを忘れていた」と
*********************
篝火の下で、銃身に付いていた汚れを拭く
前回の戦いで手入れはしていたはずだけれど、どうしたっていつの間にか汚れは付くもので
流れる桜の花びらと倶利伽羅龍の彫物が、手元の灯りに浮かび上がった
「綾葉殿」
「幸村」
「お久しゅうござる
昨年の川中島以来でござるな」
「そうね、一年経つのはあっという間だわ」
彫物の溝に溜まった汚れを掻き出しながら微笑むと、幸村が私の手元を覗き込んできた
安全装置は外しているけれど、銃口の向きに幸村が来ているのは良くない
さり気なく向きを変えて幸村を見上げると、幸村の視線とぶつかった
「これが綾葉殿の得物にござるか」
「ええ、そうよ
藤次郎様が当主となられた時、戦装束と一緒に賜った物なの」
「名はなんと?」
「桜番 よ」
「なるほど、銃身の彫物も風流でござるな
桜を描いておるゆえ、桜番と?」
「……それもあるのだけれどね
初めは彦一郎様の妻であることを忘れないためだった」
私が戦うのは、美稜の仇を討つため
彦一郎様の無念を晴らすため
その決意を鈍らせないために、私はこれに桜番と名付けた
今ではその意味も半分は失われたのだけれど
「今では、そうね……
美稜と言えば家紋にもある桜だから、美稜が伊達家に忠義を誓う意味を込めて、桜番と名付けたことにしてるわ
私はこの二丁の銃で、藤次郎様の前に立ち塞がる敵を排除するの
そうすればきっといつか……藤次郎様は天下を手になさる」
先陣を切って戦う藤次郎様は、それだけ怪我も多い
多少の無茶なら目を瞑るしかないのかもしれないけれど、それでも私は……
……藤次郎様を失う覚悟なんて、あるはずがない
「綾葉殿は、政宗殿のことを、まこと大切に想われておられるのでござるな」
「彦一郎様を亡くした私に、再び光をくれた人だもの
……彦一郎様がおられなければ、私は一生、愛というものを知らないままだった
他人を愛すること、他人から愛されること……誰かの力になりたいと思う心も、誰かに支えてほしいと思う事も……
初めて与えてくれたのは彦一郎様だった
でも、私はその感情をどう扱えばいいのか分からなかったの」
彦一郎様に大切にされればされるほど、彦一郎様の力になれない我が身を呪った
あのお方に愛されれば愛されるほど、返し方を知らない自分がもどかしかった
はっきり言って私は、美稜に輿入れする時には、自分の人生を諦めていたから、誰かを愛して愛されようなんて、これっぽっちも考えていなかったくらいだ
彦一郎様はそんな私を愛してくれた
不便はないか、必要なものはないか、欲しいものはないか
彦一郎様は何のお強請りもしない私に、毎日のようにそう尋ねた
桜が咲いた、蛍が飛び始めた、紅葉が色づいた、野山が冬化粧した
季節の移り変わりを彦一郎様と共に見つめて、それがずっと続くと思っていた
少しずつ彦一郎様に心を開くことができて、彦一郎様からの想いに触れて、同じだけの想いを返したくて……できなくて
「伊達に逃げてきたときは、本当に私、抜け殻みたいだったの
その抜け殻に、織田への復讐心だけを詰めて、どうにか形を保っていた……
褒められたことではないそれを、藤次郎様はそれで良しとおっしゃってくださったの
織田を討つその日まで、戦力になると見込んで、ね」
「初めて聞く話でござる
あの政宗殿が、貴殿の復讐心を利用しておられたとは」
「私も藤次郎様の天下への野心を利用していたもの、お互い様だと思うわ
でも結局、藤次郎様のほうがいつだって、一枚も二枚も上手でね
……愛なんて、もう私には無いものだと思っていたのに
誰かに愛されることも、誰かを愛することも、彦一郎様と一緒に失ったものだと……
でも、それを私に再び与えてくれたのが、藤次郎様だったの
思えば藤次郎様は、私が復讐心を支えに生きていた頃から、それだけじゃないものを与えてくださっていたのよね」
私を姐御と呼んで慕ってくれる若い衆たちもそう
彼らはいつだって藤次郎様の背中を追いかけて、片倉様に時々叱られながら、私を明るい場所へ連れて行ってくれる
彼らが私のことを姐御と呼んでくれるのは、藤次郎様が私の地位を片倉様に次ぐものと定めてくださったから
お陰で騒がしい奴らが私のすぐ下につくことになって、暗い顔なんてする暇もなかった
わざとそうしたんだと、今なら分かる
愛にはいろんな形があって、若い衆が私を慕う心も愛なんだと、藤次郎様は教えたかったのだと思う
「うちの奴らは、藤次郎様との距離が近いでしょう?
私にはそれが眩しいものに思えて仕方なかった
でもそうして遠巻きに眺めていたら、私との距離もすぐに縮まってね
私はね、それが嬉しかったのよ
なによりそれを藤次郎様が私に与えてくださったことが嬉しかった」
復讐心を燃やして生きていくことしか出来ないはずだった私に、藤次郎様は、そうではない生き方を与えたかったのだ
おかげで私は今、藤次郎様への愛を支えに生きている
一度は何もかもを喪い……それでも私は、藤次郎様に光を与えられて、ここにいる
「……ふふ、なんだか恥ずかしい話ね
今の会話は内緒にしてくれる?」
「承知致した、某からは誰にも言いませぬ
しかし……話を切り上げるには、いささか遅すぎたような気も致しまする」
苦笑いと共に幸村が立ち上がる
その後ろから現れたのは──藤次郎様だった
ああ、これ……聞かれていたわね
貴方様にどれほど救われたかなんて、私だけが知っていればいい話だったのに
陣を張った方向から、こちらへ誰かが向かってきた
誰かと言わずとも、片倉様だ
「片倉様」
「政宗様はおられるか」
「藤次郎様ならば、あちらで水浴びを」
歩き出そうとした片倉様が、私を見下ろす
思わず首を傾げると、片倉様はやはりニコリともなさらずに言った
「政宗様に喝でも入れられたか」
「はい、お陰様ですっかり立ち直りました」
「オメェはもはや、政宗様の心の支えだ
それを自覚しろ」
「嫌でも自覚させられましたとも
私が政宗様の事を信じておりますのは変わりませんが……
それに加えて、信じてみようと思ったのです
藤次郎様に愛される、我が身のことを」
あの藤次郎様が私こそをと望まれたのだ
私が私自身を信じられなくてどうするというのだろう
「……もうオメェのことで政宗様のお手を煩わせるんじゃねぇぜ」
「精進致します」
是非ではない答えを返せば、片倉様は呆れたように首を振り、川へと向かわれた
遠くから藤次郎様の声が聞こえてくる
周囲に不審な気配もない──伊達と武田が揃っているのだから、怪しい者が仕掛けてくるとも考えにくいのだけれど
それにしても私が水浴びをしている間、武田のくノ一が見張ってるって話だったような……
その割には、藤次郎様は私がいることをご存知ない様子だった
(……ひょっとして私、佐助に嵌められたのかしら)
この私を欺くとはいい度胸だ
あとで一発お見舞いしてやろうかしら
装束に着替えた藤次郎様が、片倉様を伴って戻ってくるのが見えた
そうして川辺から野営の陣へと戻った私は、意味ありげにニヤニヤとする佐助に向かって、無言で銃を構えたのだった
──後に佐助は当時を振り返って言った
「綾葉様を怒らせたら最初に手が出てくることを忘れていた」と
*********************
篝火の下で、銃身に付いていた汚れを拭く
前回の戦いで手入れはしていたはずだけれど、どうしたっていつの間にか汚れは付くもので
流れる桜の花びらと倶利伽羅龍の彫物が、手元の灯りに浮かび上がった
「綾葉殿」
「幸村」
「お久しゅうござる
昨年の川中島以来でござるな」
「そうね、一年経つのはあっという間だわ」
彫物の溝に溜まった汚れを掻き出しながら微笑むと、幸村が私の手元を覗き込んできた
安全装置は外しているけれど、銃口の向きに幸村が来ているのは良くない
さり気なく向きを変えて幸村を見上げると、幸村の視線とぶつかった
「これが綾葉殿の得物にござるか」
「ええ、そうよ
藤次郎様が当主となられた時、戦装束と一緒に賜った物なの」
「名はなんと?」
「
「なるほど、銃身の彫物も風流でござるな
桜を描いておるゆえ、桜番と?」
「……それもあるのだけれどね
初めは彦一郎様の妻であることを忘れないためだった」
私が戦うのは、美稜の仇を討つため
彦一郎様の無念を晴らすため
その決意を鈍らせないために、私はこれに桜番と名付けた
今ではその意味も半分は失われたのだけれど
「今では、そうね……
美稜と言えば家紋にもある桜だから、美稜が伊達家に忠義を誓う意味を込めて、桜番と名付けたことにしてるわ
私はこの二丁の銃で、藤次郎様の前に立ち塞がる敵を排除するの
そうすればきっといつか……藤次郎様は天下を手になさる」
先陣を切って戦う藤次郎様は、それだけ怪我も多い
多少の無茶なら目を瞑るしかないのかもしれないけれど、それでも私は……
……藤次郎様を失う覚悟なんて、あるはずがない
「綾葉殿は、政宗殿のことを、まこと大切に想われておられるのでござるな」
「彦一郎様を亡くした私に、再び光をくれた人だもの
……彦一郎様がおられなければ、私は一生、愛というものを知らないままだった
他人を愛すること、他人から愛されること……誰かの力になりたいと思う心も、誰かに支えてほしいと思う事も……
初めて与えてくれたのは彦一郎様だった
でも、私はその感情をどう扱えばいいのか分からなかったの」
彦一郎様に大切にされればされるほど、彦一郎様の力になれない我が身を呪った
あのお方に愛されれば愛されるほど、返し方を知らない自分がもどかしかった
はっきり言って私は、美稜に輿入れする時には、自分の人生を諦めていたから、誰かを愛して愛されようなんて、これっぽっちも考えていなかったくらいだ
彦一郎様はそんな私を愛してくれた
不便はないか、必要なものはないか、欲しいものはないか
彦一郎様は何のお強請りもしない私に、毎日のようにそう尋ねた
桜が咲いた、蛍が飛び始めた、紅葉が色づいた、野山が冬化粧した
季節の移り変わりを彦一郎様と共に見つめて、それがずっと続くと思っていた
少しずつ彦一郎様に心を開くことができて、彦一郎様からの想いに触れて、同じだけの想いを返したくて……できなくて
「伊達に逃げてきたときは、本当に私、抜け殻みたいだったの
その抜け殻に、織田への復讐心だけを詰めて、どうにか形を保っていた……
褒められたことではないそれを、藤次郎様はそれで良しとおっしゃってくださったの
織田を討つその日まで、戦力になると見込んで、ね」
「初めて聞く話でござる
あの政宗殿が、貴殿の復讐心を利用しておられたとは」
「私も藤次郎様の天下への野心を利用していたもの、お互い様だと思うわ
でも結局、藤次郎様のほうがいつだって、一枚も二枚も上手でね
……愛なんて、もう私には無いものだと思っていたのに
誰かに愛されることも、誰かを愛することも、彦一郎様と一緒に失ったものだと……
でも、それを私に再び与えてくれたのが、藤次郎様だったの
思えば藤次郎様は、私が復讐心を支えに生きていた頃から、それだけじゃないものを与えてくださっていたのよね」
私を姐御と呼んで慕ってくれる若い衆たちもそう
彼らはいつだって藤次郎様の背中を追いかけて、片倉様に時々叱られながら、私を明るい場所へ連れて行ってくれる
彼らが私のことを姐御と呼んでくれるのは、藤次郎様が私の地位を片倉様に次ぐものと定めてくださったから
お陰で騒がしい奴らが私のすぐ下につくことになって、暗い顔なんてする暇もなかった
わざとそうしたんだと、今なら分かる
愛にはいろんな形があって、若い衆が私を慕う心も愛なんだと、藤次郎様は教えたかったのだと思う
「うちの奴らは、藤次郎様との距離が近いでしょう?
私にはそれが眩しいものに思えて仕方なかった
でもそうして遠巻きに眺めていたら、私との距離もすぐに縮まってね
私はね、それが嬉しかったのよ
なによりそれを藤次郎様が私に与えてくださったことが嬉しかった」
復讐心を燃やして生きていくことしか出来ないはずだった私に、藤次郎様は、そうではない生き方を与えたかったのだ
おかげで私は今、藤次郎様への愛を支えに生きている
一度は何もかもを喪い……それでも私は、藤次郎様に光を与えられて、ここにいる
「……ふふ、なんだか恥ずかしい話ね
今の会話は内緒にしてくれる?」
「承知致した、某からは誰にも言いませぬ
しかし……話を切り上げるには、いささか遅すぎたような気も致しまする」
苦笑いと共に幸村が立ち上がる
その後ろから現れたのは──藤次郎様だった
ああ、これ……聞かれていたわね
貴方様にどれほど救われたかなんて、私だけが知っていればいい話だったのに
