Episode.3-3
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「──姐御が!?」
「輿入れを!?」
「やめたァ!?」
「……そうらしいんだよ」
良直、孫兵衛、左馬助の叫びに、文七郎は力なく頷いた
とんでもないことを聞いてしまった自覚はあったが、やはり誰も知らなかったようだ
「オイオイ……それって、お千夜ちゃんは知ってんのか?」
「そこまでは分からないけど……
知ってたらお千夜ちゃんが黙ってないと思わないか?」
「お千夜ちゃん、誰よりも姐御の幸せを願ってたもんなぁ……」
「やっぱ姐御、筆頭に大怪我負わせちまったこと、相当堪えたンだろうな……」
孫兵衛と左馬助が心配する通りなのだろう
かつてないほど取り乱した美稜綾葉は、それから三日ほど、その責任を「命をもって償う」と言って聞かなかったのだ
二丁銃を取り上げた際、侍女の片倉千夜が人払いを厳命したのが不幸中の幸いで、美稜綾葉の部屋には片倉小十郎はおろか、兵の一人も近付くことはできなかった
舌を噛み切って死ぬ可能性も考えられたが、そこは片倉千夜が見抜いていた
「姫様にはそこまでのお考えがないはずです」と言い切った姿に、一度は全員が懐疑の念を抱いたが、結局その通りだったのだ
銃さえ取り上げてしまえば、自死の手段は思い浮かばないはず
良くも悪くも育ってきた環境が環境であるだけに、「舌を噛み切って死ぬ」という、介錯すらない手段は思い浮かばないらしかった
「筆頭の装備を新しく作るってやつ、姐御を無理やり巻き込んじまったけど……
でもそのお陰で姐御、元気になってくれたと思ったのになァ」
「呼び方も元に戻っちまって……
片倉様もたまに、姐御になんか言いたそうな顔してることあったっけ」
「……なあ文七
片倉様に姐御、なんて答えたんだ?」
左馬助にそう問われ、文七郎は表情を暗くしたまま、「たしか──」とその時のことを思い出して言った
あの時の美稜綾葉は、「政宗様との事をどうするのか」と片倉小十郎に問われ、どう答えたのだったか
「自分は筆頭に相応しくない……みたいに言ってた
姐御が筆頭の傍にいると、筆頭が死ぬ運命を辿ってしまうから、縁起が悪い……って」
「ほとんど迷信じゃねぇかよ!」
「むしろ筆頭には姐御しか釣り合わねぇだろ!」
「……姐御はさ、筆頭のこと、仮名で呼んでたろ」
そのことは伊達軍の中でも周知の事実だ
伊達政宗を仮名で呼ぶのは美稜綾葉ただ一人
だからその名で呼ばれたなら、誰が呼んだかすぐに分かる
民たちさえ呼ばないその名を呼ぶことを許された、ただ一人の恋人
それを許した気持ちのほんの少しくらいは、美稜彦一郎隆政が『彦一郎様』と呼ばれていたことへの対抗心も、含まれているかもしれないが──
それでも『藤次郎様』と呼ぶ声は慈愛に満ちて甘く、軽やかに弾み、際限のない幸福に溢れていた
「自分が筆頭を仮名で呼んで慕ったせいで、筆頭が美稜の兄さんと同じ末路を辿ったら──って、怖くなっちゃったのかなって……」
「ンなの、俺らや片倉様と姐御で、筆頭を支えりゃいいだけの話だろ!」
「だけどこの間、姐御は筆頭と一緒だったのに、筆頭に大怪我を負わせてしまった
俺たちの誰もそれが姐御のせいだなんて思っちゃいないし、片倉様だって姐御のことを責められないって分かってるはずだ
……そりゃまあ、一度はめちゃくちゃキレたけどさ」
だがそれでも、片倉小十郎が美稜綾葉に怒りを見せたのは、その時のただ一度きり
それ以降は美稜綾葉が自室に軟禁されたせいもあるが、片倉小十郎は美稜綾葉を責めるようなことは一度も口にしていなかった
伊達政宗に同行することもできなかった自身が、主君に追従した美稜綾葉を責める権利はない
「片倉様は姐御が立ち直ったって言ったけど、俺はそうは思えないっていうか
本当にそうだったら、姐御が筆頭から離れるはずないし……
……かなりまずい状況なんじゃないかな、姐御」
「そいつぁ詳しく聞かせてもらいてぇ話だな」
四人で固まってしゃがんでいた門の前に、いつの間にかその人が立っていた
つい先程まで伏せっていたはずの──奥州筆頭・伊達政宗その人である
全員がぎょっとした顔で立ち上がり、「筆頭!」と口々に叫んだ
「か、刀持ってどこ行ってたんスか!?」
「ていうか起き上がって大丈夫なんですか!?」
「また傷口が開いたら大変ッスよ!」
「包帯も全然取れてねぇってのに……!!」
「OK,OK.
小言なら小十郎の分だけで腹いっぱいだ
これ以上寝てたら黴が生えちまうぜ」
わざとらしく肩を竦めて、伊達政宗は「で?」と話を戻した
自分の怪我よりも大事な話を耳にしたような気がしたからだ
彼らにとっては、己の怪我ほど大事な話はないのだろうが、それはそれである
「綾葉の奴はまだ下向いてやがんのか」
「下どころじゃねぇッスよ
姐御、筆頭には輿入れできねぇって言ってるみたいッス」
「Ah?
そいつはどういうこった」
「縁起が悪いからって……
筆頭の傍にいるのも、筆頭のこと仮名で呼ぶのも、美稜の兄さんと同じ道を辿らせることになるって言ってて……」
瞬間、四人が感じたのは、凄絶な怒り
それは滅多にお目にかかれない、独眼竜の本気の怒りだった
「ひ、筆頭……?」
「見張りの交代、忘れんなよ」
「どこ行くんスか!?
姐御の部屋がある棟はまだ人払いされてて、誰も近付いちゃいけねぇってお千夜ちゃんが……!」
伊達政宗はそれに答えることはなく、ただ屋敷の中へと去っていった
その背中へ文七郎が「筆頭!」と声をかけると、伊達政宗の足はそこで一度だけ止まった
「姐御のこと、見捨てないでください!
お願いします……!
姐御は筆頭じゃなきゃ駄目なんです!
だってもう姐御には──」
──筆頭以外に、愛せる人がいないから
わかってる、と……それだけが返された
再び歩き出した主君を呼び止める者はもうおらず、門前には四人だけが残り、何を言うこともできないまま、交代の時間だけがやってきたのだった
「輿入れを!?」
「やめたァ!?」
「……そうらしいんだよ」
良直、孫兵衛、左馬助の叫びに、文七郎は力なく頷いた
とんでもないことを聞いてしまった自覚はあったが、やはり誰も知らなかったようだ
「オイオイ……それって、お千夜ちゃんは知ってんのか?」
「そこまでは分からないけど……
知ってたらお千夜ちゃんが黙ってないと思わないか?」
「お千夜ちゃん、誰よりも姐御の幸せを願ってたもんなぁ……」
「やっぱ姐御、筆頭に大怪我負わせちまったこと、相当堪えたンだろうな……」
孫兵衛と左馬助が心配する通りなのだろう
かつてないほど取り乱した美稜綾葉は、それから三日ほど、その責任を「命をもって償う」と言って聞かなかったのだ
二丁銃を取り上げた際、侍女の片倉千夜が人払いを厳命したのが不幸中の幸いで、美稜綾葉の部屋には片倉小十郎はおろか、兵の一人も近付くことはできなかった
舌を噛み切って死ぬ可能性も考えられたが、そこは片倉千夜が見抜いていた
「姫様にはそこまでのお考えがないはずです」と言い切った姿に、一度は全員が懐疑の念を抱いたが、結局その通りだったのだ
銃さえ取り上げてしまえば、自死の手段は思い浮かばないはず
良くも悪くも育ってきた環境が環境であるだけに、「舌を噛み切って死ぬ」という、介錯すらない手段は思い浮かばないらしかった
「筆頭の装備を新しく作るってやつ、姐御を無理やり巻き込んじまったけど……
でもそのお陰で姐御、元気になってくれたと思ったのになァ」
「呼び方も元に戻っちまって……
片倉様もたまに、姐御になんか言いたそうな顔してることあったっけ」
「……なあ文七
片倉様に姐御、なんて答えたんだ?」
左馬助にそう問われ、文七郎は表情を暗くしたまま、「たしか──」とその時のことを思い出して言った
あの時の美稜綾葉は、「政宗様との事をどうするのか」と片倉小十郎に問われ、どう答えたのだったか
「自分は筆頭に相応しくない……みたいに言ってた
姐御が筆頭の傍にいると、筆頭が死ぬ運命を辿ってしまうから、縁起が悪い……って」
「ほとんど迷信じゃねぇかよ!」
「むしろ筆頭には姐御しか釣り合わねぇだろ!」
「……姐御はさ、筆頭のこと、仮名で呼んでたろ」
そのことは伊達軍の中でも周知の事実だ
伊達政宗を仮名で呼ぶのは美稜綾葉ただ一人
だからその名で呼ばれたなら、誰が呼んだかすぐに分かる
民たちさえ呼ばないその名を呼ぶことを許された、ただ一人の恋人
それを許した気持ちのほんの少しくらいは、美稜彦一郎隆政が『彦一郎様』と呼ばれていたことへの対抗心も、含まれているかもしれないが──
それでも『藤次郎様』と呼ぶ声は慈愛に満ちて甘く、軽やかに弾み、際限のない幸福に溢れていた
「自分が筆頭を仮名で呼んで慕ったせいで、筆頭が美稜の兄さんと同じ末路を辿ったら──って、怖くなっちゃったのかなって……」
「ンなの、俺らや片倉様と姐御で、筆頭を支えりゃいいだけの話だろ!」
「だけどこの間、姐御は筆頭と一緒だったのに、筆頭に大怪我を負わせてしまった
俺たちの誰もそれが姐御のせいだなんて思っちゃいないし、片倉様だって姐御のことを責められないって分かってるはずだ
……そりゃまあ、一度はめちゃくちゃキレたけどさ」
だがそれでも、片倉小十郎が美稜綾葉に怒りを見せたのは、その時のただ一度きり
それ以降は美稜綾葉が自室に軟禁されたせいもあるが、片倉小十郎は美稜綾葉を責めるようなことは一度も口にしていなかった
伊達政宗に同行することもできなかった自身が、主君に追従した美稜綾葉を責める権利はない
「片倉様は姐御が立ち直ったって言ったけど、俺はそうは思えないっていうか
本当にそうだったら、姐御が筆頭から離れるはずないし……
……かなりまずい状況なんじゃないかな、姐御」
「そいつぁ詳しく聞かせてもらいてぇ話だな」
四人で固まってしゃがんでいた門の前に、いつの間にかその人が立っていた
つい先程まで伏せっていたはずの──奥州筆頭・伊達政宗その人である
全員がぎょっとした顔で立ち上がり、「筆頭!」と口々に叫んだ
「か、刀持ってどこ行ってたんスか!?」
「ていうか起き上がって大丈夫なんですか!?」
「また傷口が開いたら大変ッスよ!」
「包帯も全然取れてねぇってのに……!!」
「OK,OK.
小言なら小十郎の分だけで腹いっぱいだ
これ以上寝てたら黴が生えちまうぜ」
わざとらしく肩を竦めて、伊達政宗は「で?」と話を戻した
自分の怪我よりも大事な話を耳にしたような気がしたからだ
彼らにとっては、己の怪我ほど大事な話はないのだろうが、それはそれである
「綾葉の奴はまだ下向いてやがんのか」
「下どころじゃねぇッスよ
姐御、筆頭には輿入れできねぇって言ってるみたいッス」
「Ah?
そいつはどういうこった」
「縁起が悪いからって……
筆頭の傍にいるのも、筆頭のこと仮名で呼ぶのも、美稜の兄さんと同じ道を辿らせることになるって言ってて……」
瞬間、四人が感じたのは、凄絶な怒り
それは滅多にお目にかかれない、独眼竜の本気の怒りだった
「ひ、筆頭……?」
「見張りの交代、忘れんなよ」
「どこ行くんスか!?
姐御の部屋がある棟はまだ人払いされてて、誰も近付いちゃいけねぇってお千夜ちゃんが……!」
伊達政宗はそれに答えることはなく、ただ屋敷の中へと去っていった
その背中へ文七郎が「筆頭!」と声をかけると、伊達政宗の足はそこで一度だけ止まった
「姐御のこと、見捨てないでください!
お願いします……!
姐御は筆頭じゃなきゃ駄目なんです!
だってもう姐御には──」
──筆頭以外に、愛せる人がいないから
わかってる、と……それだけが返された
再び歩き出した主君を呼び止める者はもうおらず、門前には四人だけが残り、何を言うこともできないまま、交代の時間だけがやってきたのだった
