Episode.3-3
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私では政宗様を守ることなどできない
けれどあのお方の歩む道を、共に目指すことはできる
特別な存在ではなく、大勢の中の一人で構わない
そう決めてからは、いくらか心も楽になったような気がしている
食事も少しずつ食べられるようになって、睡眠時間も元に戻りつつあった
「オメェ自身で立ち上がれるとはな
俺や政宗様の目は節穴じゃなかったらしい」
兵たちと例の装備品の進捗を話し合った後、片倉様が私へそうお声をかけられた
私や片倉様を見出してくださった政宗様の目が節穴と言われることだけは、何が何でも避けたかったことだ
私を己の右腕として使ってくださる片倉様にも、これ以上のご迷惑はかけられない
「片倉様にもご心配をお掛け致しました
せっかく千夜に暇を出したところだったのですが……まさかこのような事態になってしまうとは
片倉様、最上領にて政宗様と交戦したあの男、正体は掴めましたか」
片倉様に尋ねると、難しそうな顔をしたまま腕を組み
出てきたのは、ため息だった
「……そのことを教えてやる代わりに、俺の質問にも答えろ」
「交換条件になさらずとも、問われれば何なりとお答え致しますが」
「政宗様との事はどうするつもりだ?」
「……何を問われるのかと思えば、やはりその事でございましたか」
予想の範囲内だったから驚きはない
別に隠すことでもないから、変に誤魔化す必要もないだろう
呼び方を改め、お傍から離れるようにして生活する私を見て、片倉様がそう問われるのも時間の問題だと思っていたのだ
「やはり私が政宗様の室になるのは、宜しくないことかと存じます
死の因縁を振り撒くばかりのこの身が、政宗様のお傍にいてしまっては、政宗様はいつかお命を落とされるやもしれません
……私は以前と同じように、ただの一兵卒に戻る所存です」
「オメェはそれでいいのか」
「私にそれを判ずる余地などございません
政宗様は己が道を切り拓くお方ではありますが……私の往く道は死に呪われております
頂へと至る竜の覇道に、障りがあってはならぬかと」
政宗様の事は変わらずお慕いしている
けれどその心すらも、あのお方の運命を絡め取る死の鎖になるとするなら──
私はそれすらも捨てるだろう
「今の私の望みは、政宗様がご健勝であられること……ただそれだけです」
「……綾葉、オメェは──」
「質問にはお答え致しました
私の問いにもお答えくださいませ」
片倉様を遮ってそう言えば、一瞬だけ口を閉ざした片倉様も、観念したように頷いてくださった
「オメェが察していた通りだ
最上領に現れたのは、石田三成──豊臣秀吉の左腕と称された男だ
今は各地で騒ぎを起こしちゃあ、見せしめのように大一大万大吉の旗を立てていやがるらしい
巷じゃ『凶王三成』と呼ばれ、恐れられているとか」
「魔王、覇王ときて、此度は凶王でございますか
……あの者、政宗様へ並々ならぬ憎悪を抱いておりました
狙いが政宗様であるのは確かなのでしょうが、どうにも不可解でございますね……
しかし罪のない無辜の民を襲い、見せしめが如く旗を立てて、己の仕業と誇示するなど……
やはり政宗様が『己の旗を掲げろ』とおっしゃったことに起因するのでしょうか」
「……恐らくはな
政宗様にはこれからお伝えするところだが……あの方のことだ、ご自分で始末をつけに向かわれるだろう
俺としちゃあ、最上領で奴を煙に巻いたことは、正しいご判断だったと思っている
奥州は政宗様を失えねぇ……
政宗様が決着を付けずに戻られたことも、その背に奥州の民、ひいてはこの国を背負っておられる覚悟あっての事だ」
……やはり政宗様は、あの男と戦った時点で、自身の死を察しておられたのだろう
だからこそ『まずテメェの旗を掲げろ』と突き放し、それ以上の戦いを避けた
私がもっと早くお諌めしていれば、深手も負わずに済んだのだろうけれど
「ともあれ、次こそはお一人で往かせてはなりませんね
片倉様がいなければ、政宗様をお止めすることも叶いませんので」
「……オメェの一言でも、政宗様は聞き入れてくださるだろうぜ」
「お戯れを
本当にそうでしたら、政宗様が何日も伏せっていなければならないほどの大怪我など、この私が負わせるはずがございませんでしょうに」
片倉様はもうそれ以上、何もおっしゃらなかった
話は終わりだという雰囲気を出して、片倉様が政宗様のお部屋へと向かわれる
その後ろ姿を見送って、私も自室へと引き返した
私の名代として美稜領に残した家臣から、私の意見を伺う書状がいくつか届いている
政宗様のお怪我が完治して、再びご出陣なされる前に、領内の政務には始末を付けておかないと
……ふと、私の輿入れが楽しみだと笑う、村の男たちの顔が浮かんだ
(彼らはきっと酷く落胆するでしょうね
でも多くを望みすぎても、私の手には収まりきれないから……)
美稜の家を奥州で繋げられたこと
政宗様にこれまでと変わらずお仕えできること
私にとっての幸せは、そこまででなければならない
それ以上を望んでしまったから、天が私に罰を与えたのだろう
……きっと信州で美稜家を失った時もそうだった
美稜家に迎えられたこと自体が幸運なことだったのだから、彦一郎様に愛されて幸せになることまでは、許されていなかったのだろう
だから安土で彦一郎様と再会して、共に織田を倒して美稜家を再興しようと誓っても、私には初めからそんなことは許されていなくて……
……私が誰かを愛してしまったら、その人は死の道を辿ることになる
彦一郎様をそのせいで喪ってしまった私が、政宗様まで喪うことは、決してあってはならない
……まるで斎藤家が自らに施した烙印のよう
本来なら私も織田のために生きるはずだったのに、そうしなかったせいで恨まれてきたのだろう
それが呪縛となって、私に纏わりついているというのなら……私にはどうすることもできない
そっと羽織の上から、右の二の腕を撫でる
とうの昔に痛みなど失ったはずの大紫が、焼けるような熱を孕んだ気がした
けれどあのお方の歩む道を、共に目指すことはできる
特別な存在ではなく、大勢の中の一人で構わない
そう決めてからは、いくらか心も楽になったような気がしている
食事も少しずつ食べられるようになって、睡眠時間も元に戻りつつあった
「オメェ自身で立ち上がれるとはな
俺や政宗様の目は節穴じゃなかったらしい」
兵たちと例の装備品の進捗を話し合った後、片倉様が私へそうお声をかけられた
私や片倉様を見出してくださった政宗様の目が節穴と言われることだけは、何が何でも避けたかったことだ
私を己の右腕として使ってくださる片倉様にも、これ以上のご迷惑はかけられない
「片倉様にもご心配をお掛け致しました
せっかく千夜に暇を出したところだったのですが……まさかこのような事態になってしまうとは
片倉様、最上領にて政宗様と交戦したあの男、正体は掴めましたか」
片倉様に尋ねると、難しそうな顔をしたまま腕を組み
出てきたのは、ため息だった
「……そのことを教えてやる代わりに、俺の質問にも答えろ」
「交換条件になさらずとも、問われれば何なりとお答え致しますが」
「政宗様との事はどうするつもりだ?」
「……何を問われるのかと思えば、やはりその事でございましたか」
予想の範囲内だったから驚きはない
別に隠すことでもないから、変に誤魔化す必要もないだろう
呼び方を改め、お傍から離れるようにして生活する私を見て、片倉様がそう問われるのも時間の問題だと思っていたのだ
「やはり私が政宗様の室になるのは、宜しくないことかと存じます
死の因縁を振り撒くばかりのこの身が、政宗様のお傍にいてしまっては、政宗様はいつかお命を落とされるやもしれません
……私は以前と同じように、ただの一兵卒に戻る所存です」
「オメェはそれでいいのか」
「私にそれを判ずる余地などございません
政宗様は己が道を切り拓くお方ではありますが……私の往く道は死に呪われております
頂へと至る竜の覇道に、障りがあってはならぬかと」
政宗様の事は変わらずお慕いしている
けれどその心すらも、あのお方の運命を絡め取る死の鎖になるとするなら──
私はそれすらも捨てるだろう
「今の私の望みは、政宗様がご健勝であられること……ただそれだけです」
「……綾葉、オメェは──」
「質問にはお答え致しました
私の問いにもお答えくださいませ」
片倉様を遮ってそう言えば、一瞬だけ口を閉ざした片倉様も、観念したように頷いてくださった
「オメェが察していた通りだ
最上領に現れたのは、石田三成──豊臣秀吉の左腕と称された男だ
今は各地で騒ぎを起こしちゃあ、見せしめのように大一大万大吉の旗を立てていやがるらしい
巷じゃ『凶王三成』と呼ばれ、恐れられているとか」
「魔王、覇王ときて、此度は凶王でございますか
……あの者、政宗様へ並々ならぬ憎悪を抱いておりました
狙いが政宗様であるのは確かなのでしょうが、どうにも不可解でございますね……
しかし罪のない無辜の民を襲い、見せしめが如く旗を立てて、己の仕業と誇示するなど……
やはり政宗様が『己の旗を掲げろ』とおっしゃったことに起因するのでしょうか」
「……恐らくはな
政宗様にはこれからお伝えするところだが……あの方のことだ、ご自分で始末をつけに向かわれるだろう
俺としちゃあ、最上領で奴を煙に巻いたことは、正しいご判断だったと思っている
奥州は政宗様を失えねぇ……
政宗様が決着を付けずに戻られたことも、その背に奥州の民、ひいてはこの国を背負っておられる覚悟あっての事だ」
……やはり政宗様は、あの男と戦った時点で、自身の死を察しておられたのだろう
だからこそ『まずテメェの旗を掲げろ』と突き放し、それ以上の戦いを避けた
私がもっと早くお諌めしていれば、深手も負わずに済んだのだろうけれど
「ともあれ、次こそはお一人で往かせてはなりませんね
片倉様がいなければ、政宗様をお止めすることも叶いませんので」
「……オメェの一言でも、政宗様は聞き入れてくださるだろうぜ」
「お戯れを
本当にそうでしたら、政宗様が何日も伏せっていなければならないほどの大怪我など、この私が負わせるはずがございませんでしょうに」
片倉様はもうそれ以上、何もおっしゃらなかった
話は終わりだという雰囲気を出して、片倉様が政宗様のお部屋へと向かわれる
その後ろ姿を見送って、私も自室へと引き返した
私の名代として美稜領に残した家臣から、私の意見を伺う書状がいくつか届いている
政宗様のお怪我が完治して、再びご出陣なされる前に、領内の政務には始末を付けておかないと
……ふと、私の輿入れが楽しみだと笑う、村の男たちの顔が浮かんだ
(彼らはきっと酷く落胆するでしょうね
でも多くを望みすぎても、私の手には収まりきれないから……)
美稜の家を奥州で繋げられたこと
政宗様にこれまでと変わらずお仕えできること
私にとっての幸せは、そこまででなければならない
それ以上を望んでしまったから、天が私に罰を与えたのだろう
……きっと信州で美稜家を失った時もそうだった
美稜家に迎えられたこと自体が幸運なことだったのだから、彦一郎様に愛されて幸せになることまでは、許されていなかったのだろう
だから安土で彦一郎様と再会して、共に織田を倒して美稜家を再興しようと誓っても、私には初めからそんなことは許されていなくて……
……私が誰かを愛してしまったら、その人は死の道を辿ることになる
彦一郎様をそのせいで喪ってしまった私が、政宗様まで喪うことは、決してあってはならない
……まるで斎藤家が自らに施した烙印のよう
本来なら私も織田のために生きるはずだったのに、そうしなかったせいで恨まれてきたのだろう
それが呪縛となって、私に纏わりついているというのなら……私にはどうすることもできない
そっと羽織の上から、右の二の腕を撫でる
とうの昔に痛みなど失ったはずの大紫が、焼けるような熱を孕んだ気がした
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