Episode.3-2
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政宗様が倒れられてから数日
私は銃を取り上げられ、自室に軟禁されていた
片倉様は、政宗様の許可なく私を斬ろうとしたことを、政宗様本人に知られてしまったようで、「勝手なことをすんじゃねぇ」と怒られたのだとか
……片倉様は何も悪くない
私は政宗様のお傍にいるべきではない存在だ
これ以上、政宗様に不幸を招く前に、さっさと始末してくれて構わないのに
「……姫様」
「千夜……?」
「殿がお呼びです」
「政宗様が……そう
話せるまでには快復なされたのね……」
呼び出されたなら仕方ない
立ち上がって日差しの強い廊下へ出ると、眩しさにくらりと視界が揺れた
……この数日、眠れてなんていない
食事だって喉を通らなくなったままだ
政宗様に合わせる顔なんてなかったから、このまま放っておいてほしかったのに
「……政宗様
綾葉でございます」
「……Come on.」
「お身体に障ります
御用はこちらで伺わせてくださいませ」
「顔も合わせたくねぇってか」
「……お許しくださいませ」
政宗様は返事をされない
愛想を尽かされただろうか、それも無理もない
政宗様への忠義は捨てていないけれど、政宗様に嫁ぐのは……やはり、私では縁起が悪い
「……政宗様、御用は……」
「俺の名を呼べ……」
「政宗様」
「No……お前に許した名前はそれじゃねぇ」
「……私には、もう、その名をお呼びする権利などございません」
やはり藤次郎様とお呼びするべきではなかった
彼が彦一郎様と同じ道を辿る前に……それに気付けて良かった
私が愛した人は──死ぬ運命にあると、知れただけでも
それさえ知っていれば、今後の身の振り方も分かるから
「私はやはり、政宗様には相応しくないのでしょう
ですがご安心ください、奥州美稜の桜丸は、伊達家と共にあります
私の忠義も変わらず政宗様へ捧げております
このことに嘘偽りはございません」
「下がれ……興が削がれた」
「……はい
失礼致します」
締め切られた障子の前で頭を下げ、そっとその場を立ち去る
……伊達軍に、今の私は必要ないわね
いっそこのまま出ていってしまおうかしら
(いえ、それは出来ないわ
私には美稜の家がある……)
すれ違い様に誰かに何かを言われた気もしたけれど、頭が働いていないせいか、何も理解できなかった
部屋の前に到着すると、入口に、握り飯の載った皿が置かれている
……千夜かしら、それとも兵士たちか、美稜衆か
その皿を持って部屋に入り、それを一口かじって
「──お゙ぇ……っ、げほっ、うぇ……」
ああやっぱり駄目だ
何を口にしても吐き戻してしまう
手元に散らばった米は、民たちが丹精込めて作ってくれたものだ
それを口にすることもできないなんて、彼らにも顔向けできやしない
「う……っ、う、うぁ……っ」
ボタボタと水滴が畳に落ちる
このままではいけないと分かっていた
私がいつまでも俯いていては、美稜の家が傾いてしまう
どうしたら前に進めるだろう
信州から逃げてきた時は、美稜の仇を討つと決めたことで前を向けた
では今回は──?
(政宗様を喪うことなんてないと、どうして言い切れるの?
私が藤次郎様などとお呼びしなければ……運命は変わっていたかもしれないのに)
床に散らばったままの握り飯を拾い集めて、呆然とした頭のまま、立ち上がることもできない
ふらりと意識が傾きかけたとき
「……っ?」
突然、部屋の障子が開かれた
立っていたのは千夜だ
背後にはあの四人組もいる
四人は私のみっともない姿を見て、虚を突かれたように押し黙ったけれど
「姫様のお力添えを賜りたい事案がございます」
「……千夜……?」
そう言って私を見下ろす千夜の瞳は、何かの固い決意を宿していた
私なんかの力を、何に使うというのだろう
不自然な沈黙が漂うその中で、おずおずと口を開いたのは、文七郎だった
「実は俺たち、筆頭の為に新しい装備を作ろうとしてて……」
「新しい……装備?」
「筆頭の怪我を手当してて気付いたんスけど、筆頭の鎧、首元だけ無防備なんスよ
だから得体の知れない野郎に、筆頭は首を狙われて、その度に致命傷にならないところで受け止めたんだと思ったんです」
「だったら筆頭の首を守れる装備品を作りゃいいんじゃねぇかって、俺たちで話してたんスけど……」
「俺たちじゃあ、筆頭に似合う意匠ってのが全然分かんなくて……
姐御だったら詳しいんじゃないかって、お千夜ちゃんが引っ張ってきてくれたんス」
……彼らは、前に進めているのね
私だけが立ち止まってしまって
……今は、『それ』を理由にしても許されるだろうか
政宗様の御身を守るために……私ひとりではそうすることが出来ないけれど、僅かながら力になれると、そう思ってもいいだろうか
「……私にも、政宗様の好む意匠は、はっきりとは分からないのだけれど……
でも、そうね……あんた達の考えには賛成よ
一緒に考えましょうか、政宗様に似合う、『くーる』なものを」
四人の顔がぱっと明るくなって、千夜と共に私の部屋へと入ってきた
手を付けられなかった握り飯は千夜がそっと引き取っていったから、あれは畑の肥料にでもしてくれるだろう
「こういうので考えてるんですけど──」と文七郎が図案を広げて、五人でそれを囲む
政宗様の首元をしっかり覆うその防具は、外側から見れば白い首襟に隠れて見えなくなる
首を獲ったと思わせて油断させることも可能というわけだ
よく考えられたもので、私も思わず唸ってしまった
「どうッスかね?」
「方向性は悪くないように思うわ
あとは政宗様の首の太さを測って、それから着けたとき、痛くならないように角を丸く削れば……
首の太さは片倉様に測ってもらいなさい、あの方なら、眠っている政宗様に近付いても警戒されないはずよ」
「そッスね!
片倉様にも相談してみます!」
そのままこの話に巻き込んでしまえばいいと思う
片倉様のことだから、喜んで力になってくれるはずだ
政宗様の御身に深手を負わされて、いちばん腸が煮えくり返っているのは、片倉様のはずだもの
「防具の厚みや幅なんかは、鍛冶屋と相談しながら作製しましょう
それで、模様だけれど……」
「筆頭の稲妻が走った篭手と同じものにしようかと思うんスよ
お揃いみたいになって、カッケェじゃないッスか」
「……そうね、きっと政宗様も気に入ってくださるわ
まあでも、気持ちの込められた贈り物なら、政宗様は文句なんて言われないとは思うけれど」
「ッスね
なんか前に、成実様が変な木彫りの熊を持ってきたんスけど、筆頭、文句言いながら棚に飾ってたッス」
「飾るんだ……ってなったんスけど、筆頭も成実様も当たり前みたいな顔して世間話に戻ったんで、触れていいのかいけねぇのか分かんなかったんスよね」
良直と左馬助のそれで、政宗様のお部屋にある謎の木彫りの熊を持ち込んだ張本人が、図らずも知れてしまった
……成実様なら、まあ……持ってきそうではあるわね
文句を言いつつ棚に置いてしまう政宗様の姿も目に浮かぶ
「そんじゃあ、気合い入れて作ってきやすぜ!
待っててください姐御!!」
「完成したら一緒に見てくだせぇ!」
「ええ、楽しみにしてるわ……あ、そうだ
出来上がったそれを、政宗様にお渡しする時なのだけれど……
私の名前は出さないでほしいの」
「えっ?」
「あんた達がみんなで作ったって言いなさい
私の名前を出してしまったら、ぜんぶ私に手柄を持って行かれかねないでしょ
発案も行動に移したのもあんた達なんだから
私は助言を求められただけよ」
「でも……でも姐御、本当にそれでいいんスか?
筆頭は、姐御も一緒に加わったんだって知ったら、もっと喜んでくれると思いますけど……」
孫兵衛のそれに微笑んで首を振る
私の名前は必要ない
この装備は、政宗様を思う兵たち全員からの贈り物だ
そこに私の存在が介入することで、政宗様をお守りできなくなったら困る
気遣わしげな顔をしながら、四人が部屋を出ていく
その姿を室内から出ずに見送って、私は障子をストンと締めた
……間もなく夕餉の時間だというのに、腹は減らないままだ
私は銃を取り上げられ、自室に軟禁されていた
片倉様は、政宗様の許可なく私を斬ろうとしたことを、政宗様本人に知られてしまったようで、「勝手なことをすんじゃねぇ」と怒られたのだとか
……片倉様は何も悪くない
私は政宗様のお傍にいるべきではない存在だ
これ以上、政宗様に不幸を招く前に、さっさと始末してくれて構わないのに
「……姫様」
「千夜……?」
「殿がお呼びです」
「政宗様が……そう
話せるまでには快復なされたのね……」
呼び出されたなら仕方ない
立ち上がって日差しの強い廊下へ出ると、眩しさにくらりと視界が揺れた
……この数日、眠れてなんていない
食事だって喉を通らなくなったままだ
政宗様に合わせる顔なんてなかったから、このまま放っておいてほしかったのに
「……政宗様
綾葉でございます」
「……Come on.」
「お身体に障ります
御用はこちらで伺わせてくださいませ」
「顔も合わせたくねぇってか」
「……お許しくださいませ」
政宗様は返事をされない
愛想を尽かされただろうか、それも無理もない
政宗様への忠義は捨てていないけれど、政宗様に嫁ぐのは……やはり、私では縁起が悪い
「……政宗様、御用は……」
「俺の名を呼べ……」
「政宗様」
「No……お前に許した名前はそれじゃねぇ」
「……私には、もう、その名をお呼びする権利などございません」
やはり藤次郎様とお呼びするべきではなかった
彼が彦一郎様と同じ道を辿る前に……それに気付けて良かった
私が愛した人は──死ぬ運命にあると、知れただけでも
それさえ知っていれば、今後の身の振り方も分かるから
「私はやはり、政宗様には相応しくないのでしょう
ですがご安心ください、奥州美稜の桜丸は、伊達家と共にあります
私の忠義も変わらず政宗様へ捧げております
このことに嘘偽りはございません」
「下がれ……興が削がれた」
「……はい
失礼致します」
締め切られた障子の前で頭を下げ、そっとその場を立ち去る
……伊達軍に、今の私は必要ないわね
いっそこのまま出ていってしまおうかしら
(いえ、それは出来ないわ
私には美稜の家がある……)
すれ違い様に誰かに何かを言われた気もしたけれど、頭が働いていないせいか、何も理解できなかった
部屋の前に到着すると、入口に、握り飯の載った皿が置かれている
……千夜かしら、それとも兵士たちか、美稜衆か
その皿を持って部屋に入り、それを一口かじって
「──お゙ぇ……っ、げほっ、うぇ……」
ああやっぱり駄目だ
何を口にしても吐き戻してしまう
手元に散らばった米は、民たちが丹精込めて作ってくれたものだ
それを口にすることもできないなんて、彼らにも顔向けできやしない
「う……っ、う、うぁ……っ」
ボタボタと水滴が畳に落ちる
このままではいけないと分かっていた
私がいつまでも俯いていては、美稜の家が傾いてしまう
どうしたら前に進めるだろう
信州から逃げてきた時は、美稜の仇を討つと決めたことで前を向けた
では今回は──?
(政宗様を喪うことなんてないと、どうして言い切れるの?
私が藤次郎様などとお呼びしなければ……運命は変わっていたかもしれないのに)
床に散らばったままの握り飯を拾い集めて、呆然とした頭のまま、立ち上がることもできない
ふらりと意識が傾きかけたとき
「……っ?」
突然、部屋の障子が開かれた
立っていたのは千夜だ
背後にはあの四人組もいる
四人は私のみっともない姿を見て、虚を突かれたように押し黙ったけれど
「姫様のお力添えを賜りたい事案がございます」
「……千夜……?」
そう言って私を見下ろす千夜の瞳は、何かの固い決意を宿していた
私なんかの力を、何に使うというのだろう
不自然な沈黙が漂うその中で、おずおずと口を開いたのは、文七郎だった
「実は俺たち、筆頭の為に新しい装備を作ろうとしてて……」
「新しい……装備?」
「筆頭の怪我を手当してて気付いたんスけど、筆頭の鎧、首元だけ無防備なんスよ
だから得体の知れない野郎に、筆頭は首を狙われて、その度に致命傷にならないところで受け止めたんだと思ったんです」
「だったら筆頭の首を守れる装備品を作りゃいいんじゃねぇかって、俺たちで話してたんスけど……」
「俺たちじゃあ、筆頭に似合う意匠ってのが全然分かんなくて……
姐御だったら詳しいんじゃないかって、お千夜ちゃんが引っ張ってきてくれたんス」
……彼らは、前に進めているのね
私だけが立ち止まってしまって
……今は、『それ』を理由にしても許されるだろうか
政宗様の御身を守るために……私ひとりではそうすることが出来ないけれど、僅かながら力になれると、そう思ってもいいだろうか
「……私にも、政宗様の好む意匠は、はっきりとは分からないのだけれど……
でも、そうね……あんた達の考えには賛成よ
一緒に考えましょうか、政宗様に似合う、『くーる』なものを」
四人の顔がぱっと明るくなって、千夜と共に私の部屋へと入ってきた
手を付けられなかった握り飯は千夜がそっと引き取っていったから、あれは畑の肥料にでもしてくれるだろう
「こういうので考えてるんですけど──」と文七郎が図案を広げて、五人でそれを囲む
政宗様の首元をしっかり覆うその防具は、外側から見れば白い首襟に隠れて見えなくなる
首を獲ったと思わせて油断させることも可能というわけだ
よく考えられたもので、私も思わず唸ってしまった
「どうッスかね?」
「方向性は悪くないように思うわ
あとは政宗様の首の太さを測って、それから着けたとき、痛くならないように角を丸く削れば……
首の太さは片倉様に測ってもらいなさい、あの方なら、眠っている政宗様に近付いても警戒されないはずよ」
「そッスね!
片倉様にも相談してみます!」
そのままこの話に巻き込んでしまえばいいと思う
片倉様のことだから、喜んで力になってくれるはずだ
政宗様の御身に深手を負わされて、いちばん腸が煮えくり返っているのは、片倉様のはずだもの
「防具の厚みや幅なんかは、鍛冶屋と相談しながら作製しましょう
それで、模様だけれど……」
「筆頭の稲妻が走った篭手と同じものにしようかと思うんスよ
お揃いみたいになって、カッケェじゃないッスか」
「……そうね、きっと政宗様も気に入ってくださるわ
まあでも、気持ちの込められた贈り物なら、政宗様は文句なんて言われないとは思うけれど」
「ッスね
なんか前に、成実様が変な木彫りの熊を持ってきたんスけど、筆頭、文句言いながら棚に飾ってたッス」
「飾るんだ……ってなったんスけど、筆頭も成実様も当たり前みたいな顔して世間話に戻ったんで、触れていいのかいけねぇのか分かんなかったんスよね」
良直と左馬助のそれで、政宗様のお部屋にある謎の木彫りの熊を持ち込んだ張本人が、図らずも知れてしまった
……成実様なら、まあ……持ってきそうではあるわね
文句を言いつつ棚に置いてしまう政宗様の姿も目に浮かぶ
「そんじゃあ、気合い入れて作ってきやすぜ!
待っててください姐御!!」
「完成したら一緒に見てくだせぇ!」
「ええ、楽しみにしてるわ……あ、そうだ
出来上がったそれを、政宗様にお渡しする時なのだけれど……
私の名前は出さないでほしいの」
「えっ?」
「あんた達がみんなで作ったって言いなさい
私の名前を出してしまったら、ぜんぶ私に手柄を持って行かれかねないでしょ
発案も行動に移したのもあんた達なんだから
私は助言を求められただけよ」
「でも……でも姐御、本当にそれでいいんスか?
筆頭は、姐御も一緒に加わったんだって知ったら、もっと喜んでくれると思いますけど……」
孫兵衛のそれに微笑んで首を振る
私の名前は必要ない
この装備は、政宗様を思う兵たち全員からの贈り物だ
そこに私の存在が介入することで、政宗様をお守りできなくなったら困る
気遣わしげな顔をしながら、四人が部屋を出ていく
その姿を室内から出ずに見送って、私は障子をストンと締めた
……間もなく夕餉の時間だというのに、腹は減らないままだ
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