Episode.3-1
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
奥州美稜屋敷は、ちょっと手狭な武家屋敷だ
藤次郎様のおられる伊達屋敷や、旧美稜家で暮らしていた頃の城に比べれば、なんとも小ぢんまりしている
けれどここに暮らすのは私と千夜と、守備兵として詰める配下が数人程度
規模としては妥当なものといったところか
「姫様、お茶が入りましてございます」
「ありがとう千夜」
私の侍女にして乳姉妹の千夜が、冷麦茶を手に私の居室へと入ってきた
まったく水無月というのに、すっかり外は夏の気配だ
もうしばらくもすれば梅雨がやってくるのだろうか
「村の様子はどう?」
「姫様が行われました治水工事のおかげで、田畑は順調に育っているとの由
みな畑仕事に精を出しております」
「そう、それは良かった
それにしても千夜、あなたいつまでこっちで暮らすつもりなの?
せっかく片倉様の元へ輿入れしたのに」
千夜が竜の右目こと片倉様へ嫁ぎ、正室となって数ヶ月
てっきり片倉様の元で共に暮らすものと思っていた私は、変わらず傍で仕えてくれる千夜をありがたく思う反面、申し訳なくも思っている
慣れない領主の仕事をこなす上で、千夜の手を借りたい場面が出てくるのは否めないけれど、それにしたって今までと生活が全く同じというのは、それはそれでどうなのかしら
「小十郎様ともそれで良しと決めた上でのことにございますれば
竜の右目たる小十郎様は、殿のお傍にてお仕えしております
なれば千夜めも、奥州美稜家当主たる姫様の元で、誠心誠意お仕えさせて頂きます
もちろん、たまには暇をいただきますが」
「あなた達がそれでいいのなら、私は助かるのだけれど……」
なんだかなぁ、と腑に落ちない心地を抱えたまま、湯呑みに口をつける
目の前の雑務は既に片付いていて、残りはじっくりと腰を据えて答えを出すべきものばかり
ここらでひとつ休憩を入れようと思っていたので、千夜の登場はまさに渡りに船だったのだけれど
「千夜、十日ほど暇を出しましょうか
片倉様にも一筆添えてあげるわよ?」
「お心遣い、痛み入ります
しかしながら殿は、相も変わらず……いえ、これまでよりも更にお忙しくされておられるとの事
小十郎様も領内の政務に追われておいでですので、今お伺い致しましても、お邪魔となるだけかと……」
「まったく何を言っているの?
それなら片倉様のお世話をして差し上げたらいいのよ
私にそうしているようにね
少なくとも邪魔だなんて思いはしないはずよ」
「そうでしょうか……」
「そうと言ったらそうなのよ!
働き者で嬉しいけれど、千夜はもう少し、自分の気持ちに正直になるべきね」
さらさらと片倉様宛てに一筆したためて、それを千夜に持たせる
「十日ほど暇を出して千夜をそちらへ送るので、くれぐれも宜しく」とだけ書いたそれを見て、泣いて喜ぶがいいでしょう!
ありがとうございます、とほほ笑む千夜の、なんと嬉しそうなことか
うん、我ながらいい事をしたわね
「それではお言葉に甘えまして、十日ほどお暇をいただきます
なにかありましたら、早馬を出してくだされば、すぐ戻りますゆえ……」
「ええ、分かっているわ
それじゃあ気を付けて、片倉様に宜しくね」
ぺこりと頭を下げた千夜が、護衛の兵士と共に屋敷を出ていく
門前でそれを見送り、私はそのまま雛菊に跨って、領内を見て回ることにした
かっぽかっぽと蹄を鳴らして歩く雛菊とそれに跨る私を見て、村人たちが頭を下げてくれる
その中の何人かと会話をしてみたけれど、特に困り事はないようだった
今年は治水工事のおかげで、去年の倍以上の収入が見込めている
そのうちのいくらかは藤次郎様へお納めして、当家へ税としていくらか納めてもらった残りは、領民のものだ
まずは領民が飢えることなく生活できるようにならなければ
そのための地盤作りこそ、私の務めだ
「姫様の輿入れはいつになられるので?」
「もうそろそろかしらね
そんなに楽しみなの?」
「それはもちろん!」
農作業の手を止めて談笑に応じる壮年の男性が、そう言ってからからと笑った
そこまで楽しみにするものなのかしら……とは思ったものの、それを口に出すのは野暮というものだろう
今はただ、何事もなく私の輿入れが済まされるよう、天に祈るばかりだ
……豊臣を倒したとはいえ、豊臣の領地すべてが伊達の領地になったかというと、決してそうはならない
奥州から大阪はあまりにも遠いのだ
伊達が大阪を統べるなど、到底無理な話
やはりこういうのは、地道に近いところから版図を広げてゆくべきなのだろう
つまりは──川中島である
そろそろ武田と上杉が川中島にて一戦交える頃ではないだろうか
藤次郎様のことだもの、嬉々として川中島へ突っ込むに決まってる
蒼紅の決着も私の望むところ──もちろん藤次郎様の勝利でもって、だけれど
さて、このまま足を伸ばして、少し先の村まで行くか、と雛菊の腹をトンと蹴った時
「大事にござる!
綾葉様、綾葉様ぁーッ!」
屋敷から配下の美稜衆が大慌てで走ってきた
大事とはどうにも穏やかではない
私の前に到着した美稜衆が、膝に手を当てて息を整える
「何があったの」
「も……最上領に、不審な男が一人、現れたとの情報が!」
「不審な男?」
「その男、あらゆる関所の兵を、わずか一刀で斬り伏せたと!
伊達屋敷では陣触れがなされ、政宗様がご出陣との事でござる!」
「……なんですって」
まさか藤次郎様、伴もつけずお独りで往かれたの……!?
あまりにも危険すぎる、せめて私が伴をしなければ!
「陣触れよ!
守備兵を配置した残りは、伊達屋敷で本軍と合流して!
私は藤次郎様を追うわ!」
「承知!
綾葉様、こちらを!」
美稜衆が差し出したのは、二丁銃の弾
それを受け取って頷くと、私は藤次郎様が通るであろう場所へと向けて、雛菊を走らせた
最上領へは、奥羽山脈を越えねばならない
となれば藤次郎様は、この山道を通るはずだ
その予想は当たっていて、程なくして後藤黒に乗った藤次郎様が、やはり伴の一人も付けずに現れた
「藤次郎様!」
「例の野郎が、まさか羽州に現れるとはな!
Come on,guys!
奥州にゃお呼びじゃねぇ、きっちり熨斗つけてお返ししてやらねぇとな」
藤次郎様はニコリともなさらない
なぜ羽州に現れたのか、何が目的なのか
それがこの出陣で分かればいいのだけれど
……何にせよ、私に今できるのは、藤次郎様の御身をお守りすることだ
火種を奥州へ持ち込ませるわけにはいかないのだから
藤次郎様のおられる伊達屋敷や、旧美稜家で暮らしていた頃の城に比べれば、なんとも小ぢんまりしている
けれどここに暮らすのは私と千夜と、守備兵として詰める配下が数人程度
規模としては妥当なものといったところか
「姫様、お茶が入りましてございます」
「ありがとう千夜」
私の侍女にして乳姉妹の千夜が、冷麦茶を手に私の居室へと入ってきた
まったく水無月というのに、すっかり外は夏の気配だ
もうしばらくもすれば梅雨がやってくるのだろうか
「村の様子はどう?」
「姫様が行われました治水工事のおかげで、田畑は順調に育っているとの由
みな畑仕事に精を出しております」
「そう、それは良かった
それにしても千夜、あなたいつまでこっちで暮らすつもりなの?
せっかく片倉様の元へ輿入れしたのに」
千夜が竜の右目こと片倉様へ嫁ぎ、正室となって数ヶ月
てっきり片倉様の元で共に暮らすものと思っていた私は、変わらず傍で仕えてくれる千夜をありがたく思う反面、申し訳なくも思っている
慣れない領主の仕事をこなす上で、千夜の手を借りたい場面が出てくるのは否めないけれど、それにしたって今までと生活が全く同じというのは、それはそれでどうなのかしら
「小十郎様ともそれで良しと決めた上でのことにございますれば
竜の右目たる小十郎様は、殿のお傍にてお仕えしております
なれば千夜めも、奥州美稜家当主たる姫様の元で、誠心誠意お仕えさせて頂きます
もちろん、たまには暇をいただきますが」
「あなた達がそれでいいのなら、私は助かるのだけれど……」
なんだかなぁ、と腑に落ちない心地を抱えたまま、湯呑みに口をつける
目の前の雑務は既に片付いていて、残りはじっくりと腰を据えて答えを出すべきものばかり
ここらでひとつ休憩を入れようと思っていたので、千夜の登場はまさに渡りに船だったのだけれど
「千夜、十日ほど暇を出しましょうか
片倉様にも一筆添えてあげるわよ?」
「お心遣い、痛み入ります
しかしながら殿は、相も変わらず……いえ、これまでよりも更にお忙しくされておられるとの事
小十郎様も領内の政務に追われておいでですので、今お伺い致しましても、お邪魔となるだけかと……」
「まったく何を言っているの?
それなら片倉様のお世話をして差し上げたらいいのよ
私にそうしているようにね
少なくとも邪魔だなんて思いはしないはずよ」
「そうでしょうか……」
「そうと言ったらそうなのよ!
働き者で嬉しいけれど、千夜はもう少し、自分の気持ちに正直になるべきね」
さらさらと片倉様宛てに一筆したためて、それを千夜に持たせる
「十日ほど暇を出して千夜をそちらへ送るので、くれぐれも宜しく」とだけ書いたそれを見て、泣いて喜ぶがいいでしょう!
ありがとうございます、とほほ笑む千夜の、なんと嬉しそうなことか
うん、我ながらいい事をしたわね
「それではお言葉に甘えまして、十日ほどお暇をいただきます
なにかありましたら、早馬を出してくだされば、すぐ戻りますゆえ……」
「ええ、分かっているわ
それじゃあ気を付けて、片倉様に宜しくね」
ぺこりと頭を下げた千夜が、護衛の兵士と共に屋敷を出ていく
門前でそれを見送り、私はそのまま雛菊に跨って、領内を見て回ることにした
かっぽかっぽと蹄を鳴らして歩く雛菊とそれに跨る私を見て、村人たちが頭を下げてくれる
その中の何人かと会話をしてみたけれど、特に困り事はないようだった
今年は治水工事のおかげで、去年の倍以上の収入が見込めている
そのうちのいくらかは藤次郎様へお納めして、当家へ税としていくらか納めてもらった残りは、領民のものだ
まずは領民が飢えることなく生活できるようにならなければ
そのための地盤作りこそ、私の務めだ
「姫様の輿入れはいつになられるので?」
「もうそろそろかしらね
そんなに楽しみなの?」
「それはもちろん!」
農作業の手を止めて談笑に応じる壮年の男性が、そう言ってからからと笑った
そこまで楽しみにするものなのかしら……とは思ったものの、それを口に出すのは野暮というものだろう
今はただ、何事もなく私の輿入れが済まされるよう、天に祈るばかりだ
……豊臣を倒したとはいえ、豊臣の領地すべてが伊達の領地になったかというと、決してそうはならない
奥州から大阪はあまりにも遠いのだ
伊達が大阪を統べるなど、到底無理な話
やはりこういうのは、地道に近いところから版図を広げてゆくべきなのだろう
つまりは──川中島である
そろそろ武田と上杉が川中島にて一戦交える頃ではないだろうか
藤次郎様のことだもの、嬉々として川中島へ突っ込むに決まってる
蒼紅の決着も私の望むところ──もちろん藤次郎様の勝利でもって、だけれど
さて、このまま足を伸ばして、少し先の村まで行くか、と雛菊の腹をトンと蹴った時
「大事にござる!
綾葉様、綾葉様ぁーッ!」
屋敷から配下の美稜衆が大慌てで走ってきた
大事とはどうにも穏やかではない
私の前に到着した美稜衆が、膝に手を当てて息を整える
「何があったの」
「も……最上領に、不審な男が一人、現れたとの情報が!」
「不審な男?」
「その男、あらゆる関所の兵を、わずか一刀で斬り伏せたと!
伊達屋敷では陣触れがなされ、政宗様がご出陣との事でござる!」
「……なんですって」
まさか藤次郎様、伴もつけずお独りで往かれたの……!?
あまりにも危険すぎる、せめて私が伴をしなければ!
「陣触れよ!
守備兵を配置した残りは、伊達屋敷で本軍と合流して!
私は藤次郎様を追うわ!」
「承知!
綾葉様、こちらを!」
美稜衆が差し出したのは、二丁銃の弾
それを受け取って頷くと、私は藤次郎様が通るであろう場所へと向けて、雛菊を走らせた
最上領へは、奥羽山脈を越えねばならない
となれば藤次郎様は、この山道を通るはずだ
その予想は当たっていて、程なくして後藤黒に乗った藤次郎様が、やはり伴の一人も付けずに現れた
「藤次郎様!」
「例の野郎が、まさか羽州に現れるとはな!
Come on,guys!
奥州にゃお呼びじゃねぇ、きっちり熨斗つけてお返ししてやらねぇとな」
藤次郎様はニコリともなさらない
なぜ羽州に現れたのか、何が目的なのか
それがこの出陣で分かればいいのだけれど
……何にせよ、私に今できるのは、藤次郎様の御身をお守りすることだ
火種を奥州へ持ち込ませるわけにはいかないのだから
