Episode.2-18
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……気が重い
藤次郎様のお部屋へと向かいながら、何度目かも分からないため息を吐き出した
(成実様のおっしゃることもよく分かるわ
奥州美稜家に贅沢をする余裕が無い以上、私の婚儀を遅らせてもらうしかない……)
はたしてそれを、あの独眼竜が本当に二つ返事で承諾するだろうか
金なら出す、だから嫁入り道具を抱えて嫁に来い――とまで言い出したのを、必死になってお止めしたのが先々週のこと
また新たな言い合いの火種にならないかが不安なところだ
「……藤次郎様、綾葉でございます」
「Come on.」
「失礼致します」
襖を開けて部屋へ入れば、藤次郎様はいつもの如く、障子の柱に背を預けてお寛ぎになっていた
私を捉えた隻眼が柔らかく細められる
「千夜の奴は止められたか?」
「……ご存知でいらっしゃいましたか」
「No.
ただの勘だ
当たってたみたいだがな」
どう返したものか分からず、曖昧に微笑む
止められたかと言うと、どちらなのだろう
「で?
話がついたわけじゃなさそうだな
今度はどんな厄介事だ?」
「厄介事……では、ないのですが」
膝に置いた掌を握り締める
成実様はああ言ったけど、やっぱり藤次郎様がお許しになるはずないわ……
それでも、美稜家の財源にゆとりがないのも事実
ここで無理をして、高利貸しから金を借りようものなら、きっと足元を見られて大変な利子を付けられてしまう
ここは潔く、当主としての能力の無さを認めよう
「折り入ってご相談がございます」
「Um?」
「……その、私との婚儀を……
一年、先送りにさせて頂けないでしょうか……」
緊張で声が震えた
手汗も酷いし、背中も冷や汗でびっしょりだ
「千夜を、しっかり祝ってやりたいのです
長い間、大変な苦労をかけてしまった、私のたった一人の侍女ですから……
私のために美濃を捨て、更に武田をも捨てて、この奥州まで来てくれたのです
千夜がここで幸せになるというのなら、私は……今の私に出来る精一杯で、千夜の幸せを祝いたい……!
……ですが、そうしてしまうと……」
ああ、悔しい
私にもっと才能があれば良かった
私なりに頑張ってきたつもりだけど、足りなかった
「そうしてしまうと……美稜家は、金がほとんどなくなります」
「……」
「今進めている改革が軌道に乗れば、収入も倍程度には膨れるのですが……それには一年待たねばなりません
もしお許し下さるのなら、私は必ずや嫁入り道具を持参して伊達家へと嫁ぎます
ですからどうか……!」
床に手をついて頭を下げる
怒られるだろうか、それとも呆れられる?
どちらにせよ良い印象は持たれないだろう
それでも、千夜を祝って、家が傾かないようにするには、これしか方法はない
心臓の音がやかましいくらい聞こえる
永遠のようにも感じられたその無言の時間は、おそらく一秒もなかった
「そうだな、そうするか」
夕餉の献立を決めるような口振りで、藤次郎様はそうおっしゃった
恐る恐ると顔を上げたその先にあるのは、普段と変わらない藤次郎様だ
「……宜しいのですか?」
「Of course.
嫁入り道具も花嫁行列も無しになるより、断然そっちが良いだろ
一年待てば綾葉のgorgeousな花嫁行列が見れるってんなら、構わねぇぜ?
準備に時間もかけられるしな
それだけとびきりのweddingになるってもんだ」
本当に二つ返事だったわ……
なんだか急にほっとしてしまって、それは大きなため息をついてしまった
「俺が断ると思ってたのか」
「急いで祝言を挙げたいようでございましたので……
周辺国の動きと何か関係があるのだろうと思いまして」
「Ah……そいつは俺が悪かったな
早くお前と夫婦になりたかっただけだ」
「そう……ですか」
それはなんというか、そうまでして私との祝言を待ち望んでくださっているのが嬉しいというか
……それに応えられるだけの財力を持てれば良かったのだけれど
「変に気負うなよ
むしろ家を興して一年でここまでやるなんざ、俺も予想しちゃいなかったくらいだ
できることからやればいい
お前はちゃんといい領主ってやつをやれてるぜ」
ぽんと頭を撫でられて、気恥ずかしさと嬉しさが同時にやって来た
いい領主の……民の上に立つ者として、藤次郎様は最高のお手本だ
もちろん乱世に名乗りを上げた以上、戦をしないという選択肢は有り得ない
でも、それと同じくらい、藤次郎様は民達を大切にしてきた
その藤次郎様に「良い領主だ」と言わせたのだから、私はもっと、私自身を誇らしく思ってもいいのかもしれない
「それに……西で怪しい動きもありやがるからな
それがいつ奥州に飛び火するか分からねぇ」
「……件の、石田三成でございますか」
「ああ
斥候の話を聞いても、目的がさっぱり分からねぇ
豊臣の野郎をぶっ倒して終わり……ってわけにゃいかねぇらしい」
今のところ、奥州は平和を維持している
周辺国の動きもなく、小競り合いすらもない
竜の右目を取り戻した上に、伊達軍の兵力そのものも大きく増えたのだ
今の伊達に喧嘩を売ろうという者はいないだろう
それでも藤次郎様がここまで警戒するということは、おそらく一筋縄ではいかない相手ということ
やり合うことになったなら、気合いを入れてかからねばならないのは間違いない
「Don't worry.
魔王のオッサンも、豊臣の山猿も獲り損ねた竜の首だ
そう簡単に獲られやしねぇさ」
「……ええ、その通りでございます
何はともあれ、まずは目の前に迫りつつある、片倉様と千夜の祝言が先でございますね」
「That's right.
しかし、あの堅物が俺より先に女を娶るたぁな」
喉の奥で笑って、藤次郎様が可笑しそうに肩を揺らす
私もそれは驚いた
しかも、相手は千夜だ
けれどそれは私自身にも言えること
まさか私に、二度目の嫁入りがあるなんて、思いもしなかった
願わくば今度こそ、末永く添い遂げられますように
この先の数十年を私は、貴方と共に、歩んで生きたい
藤次郎様のお部屋へと向かいながら、何度目かも分からないため息を吐き出した
(成実様のおっしゃることもよく分かるわ
奥州美稜家に贅沢をする余裕が無い以上、私の婚儀を遅らせてもらうしかない……)
はたしてそれを、あの独眼竜が本当に二つ返事で承諾するだろうか
金なら出す、だから嫁入り道具を抱えて嫁に来い――とまで言い出したのを、必死になってお止めしたのが先々週のこと
また新たな言い合いの火種にならないかが不安なところだ
「……藤次郎様、綾葉でございます」
「Come on.」
「失礼致します」
襖を開けて部屋へ入れば、藤次郎様はいつもの如く、障子の柱に背を預けてお寛ぎになっていた
私を捉えた隻眼が柔らかく細められる
「千夜の奴は止められたか?」
「……ご存知でいらっしゃいましたか」
「No.
ただの勘だ
当たってたみたいだがな」
どう返したものか分からず、曖昧に微笑む
止められたかと言うと、どちらなのだろう
「で?
話がついたわけじゃなさそうだな
今度はどんな厄介事だ?」
「厄介事……では、ないのですが」
膝に置いた掌を握り締める
成実様はああ言ったけど、やっぱり藤次郎様がお許しになるはずないわ……
それでも、美稜家の財源にゆとりがないのも事実
ここで無理をして、高利貸しから金を借りようものなら、きっと足元を見られて大変な利子を付けられてしまう
ここは潔く、当主としての能力の無さを認めよう
「折り入ってご相談がございます」
「Um?」
「……その、私との婚儀を……
一年、先送りにさせて頂けないでしょうか……」
緊張で声が震えた
手汗も酷いし、背中も冷や汗でびっしょりだ
「千夜を、しっかり祝ってやりたいのです
長い間、大変な苦労をかけてしまった、私のたった一人の侍女ですから……
私のために美濃を捨て、更に武田をも捨てて、この奥州まで来てくれたのです
千夜がここで幸せになるというのなら、私は……今の私に出来る精一杯で、千夜の幸せを祝いたい……!
……ですが、そうしてしまうと……」
ああ、悔しい
私にもっと才能があれば良かった
私なりに頑張ってきたつもりだけど、足りなかった
「そうしてしまうと……美稜家は、金がほとんどなくなります」
「……」
「今進めている改革が軌道に乗れば、収入も倍程度には膨れるのですが……それには一年待たねばなりません
もしお許し下さるのなら、私は必ずや嫁入り道具を持参して伊達家へと嫁ぎます
ですからどうか……!」
床に手をついて頭を下げる
怒られるだろうか、それとも呆れられる?
どちらにせよ良い印象は持たれないだろう
それでも、千夜を祝って、家が傾かないようにするには、これしか方法はない
心臓の音がやかましいくらい聞こえる
永遠のようにも感じられたその無言の時間は、おそらく一秒もなかった
「そうだな、そうするか」
夕餉の献立を決めるような口振りで、藤次郎様はそうおっしゃった
恐る恐ると顔を上げたその先にあるのは、普段と変わらない藤次郎様だ
「……宜しいのですか?」
「Of course.
嫁入り道具も花嫁行列も無しになるより、断然そっちが良いだろ
一年待てば綾葉のgorgeousな花嫁行列が見れるってんなら、構わねぇぜ?
準備に時間もかけられるしな
それだけとびきりのweddingになるってもんだ」
本当に二つ返事だったわ……
なんだか急にほっとしてしまって、それは大きなため息をついてしまった
「俺が断ると思ってたのか」
「急いで祝言を挙げたいようでございましたので……
周辺国の動きと何か関係があるのだろうと思いまして」
「Ah……そいつは俺が悪かったな
早くお前と夫婦になりたかっただけだ」
「そう……ですか」
それはなんというか、そうまでして私との祝言を待ち望んでくださっているのが嬉しいというか
……それに応えられるだけの財力を持てれば良かったのだけれど
「変に気負うなよ
むしろ家を興して一年でここまでやるなんざ、俺も予想しちゃいなかったくらいだ
できることからやればいい
お前はちゃんといい領主ってやつをやれてるぜ」
ぽんと頭を撫でられて、気恥ずかしさと嬉しさが同時にやって来た
いい領主の……民の上に立つ者として、藤次郎様は最高のお手本だ
もちろん乱世に名乗りを上げた以上、戦をしないという選択肢は有り得ない
でも、それと同じくらい、藤次郎様は民達を大切にしてきた
その藤次郎様に「良い領主だ」と言わせたのだから、私はもっと、私自身を誇らしく思ってもいいのかもしれない
「それに……西で怪しい動きもありやがるからな
それがいつ奥州に飛び火するか分からねぇ」
「……件の、石田三成でございますか」
「ああ
斥候の話を聞いても、目的がさっぱり分からねぇ
豊臣の野郎をぶっ倒して終わり……ってわけにゃいかねぇらしい」
今のところ、奥州は平和を維持している
周辺国の動きもなく、小競り合いすらもない
竜の右目を取り戻した上に、伊達軍の兵力そのものも大きく増えたのだ
今の伊達に喧嘩を売ろうという者はいないだろう
それでも藤次郎様がここまで警戒するということは、おそらく一筋縄ではいかない相手ということ
やり合うことになったなら、気合いを入れてかからねばならないのは間違いない
「Don't worry.
魔王のオッサンも、豊臣の山猿も獲り損ねた竜の首だ
そう簡単に獲られやしねぇさ」
「……ええ、その通りでございます
何はともあれ、まずは目の前に迫りつつある、片倉様と千夜の祝言が先でございますね」
「That's right.
しかし、あの堅物が俺より先に女を娶るたぁな」
喉の奥で笑って、藤次郎様が可笑しそうに肩を揺らす
私もそれは驚いた
しかも、相手は千夜だ
けれどそれは私自身にも言えること
まさか私に、二度目の嫁入りがあるなんて、思いもしなかった
願わくば今度こそ、末永く添い遂げられますように
この先の数十年を私は、貴方と共に、歩んで生きたい
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