Episode.2-18
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さてどうしたものかと誰もが頭を悩ませているうちに、また一月が過ぎた
朝夕こそ秋の気配が感じられる奥州は、日中となれば未だ残暑厳しい暑さが続いている
そんな中、奥州美稜の屋敷から主人たる美稜綾葉と共に伊達屋敷へやって来た千夜は、片倉小十郎の居室へと現れ、言った
「折り入ってお願いがございます
私と小十郎様の婚儀を先延ばしにして頂けませんか」
「……えっ」
返事をしたのは片倉小十郎ではなく、その場に居合わせた伊達成実である
二人の視線が重なり、片倉小十郎は眉根を寄せて首を振った
「綾葉の奴から何か聞いたか」
「はい
私と小十郎様の婚儀が先になりますゆえ、私の嫁入り道具を奥州美稜家がご用意くださると
しかしながら綾葉様も伊達家への嫁入りを控える身でございます
綾葉様の嫁入り道具をご用意せねばと伺いましたら、綾葉様はご自分には不要であると……」
「全部言っちゃった……」
どこまで千夜に逆らえないのだろう
既視感のある主従関係に、伊達成実は思わず遠い目をした
「主人を差し置いて従者たる私がそのような贅沢をするなど、到底承服致しかねます」
「こうなると思ったんだよなぁ……」
伊達成実がやはり頭を抱えようとしたとき、こちらへ向かってくる足音を耳が拾った
片倉小十郎と同時にそちらへ視線をやるが、千夜は気付いていない
「……ですので、小十郎様と私の婚儀を来年に延ばしまして、殿と姫様の婚儀を滞りなく――」
「そう言うと思ったわ!」
千夜の背後から溌剌とした声が飛んできた
驚きで肩を跳ね上げた千夜が背後を振り向くと、そこには仁王立ちする主君――美稜綾葉がいる
慌てて千夜は美稜綾葉へ頭を下げた
「姫様、殿へのご報告は……」
「それならもう終わったわ
はぁ……藤次郎様のお部屋ではなく、こっちに来て正解だったわね
あなたの事だもの、自分の婚儀を遅らせてでも私と藤次郎様の婚儀を進めるだろうと思ってたのよ」
一言断りを入れて美稜綾葉も片倉小十郎の部屋へと入ってくる
そうして千夜の隣に腰を下ろした
「あなた達の婚儀は予定通り行うわ
領内でもあなたの嫁入り道具を作らせている、今更待ったは無しよ」
「で、ですがそれでは!
姫様の嫁入り道具が……」
「……私はいいのよ、もう
これが初めての嫁入りではないもの、今更必要ないわ
私が初めて持っていった嫁入り道具達は、全て美稜の城ごと焼け落ちた
それでいいのよ」
「綾葉――」
伊達成実がフォローを入れようと口を開く
それを遮るように、千夜の大声が響いた
「よくありません!!」
普段は控えめな侍女の大声など滅多に聞くことはない
そのせいで美稜綾葉の勢いが削がれてしまった
「姫様はいつもそうです!
私の事ばかりで、姫様自身のことを優先してくださらないではないですか!
千夜は姫様がここ奥州で幸せに生きていくためにお仕えしております!
いいえ、それは美稜衆の誰もがそう思っているはずです
この一年、姫様は身を粉にして領内の政を進められました
お陰様で村の者たちも、他所から来た我々も、穏やかに暮らせております
それは他ならぬ姫様のお力あってのこと!
その御恩を返す時でございます
どうか……どうか、嫁入り道具は必要ないなどと、悲しいことをおっしゃらないでくださいませ
貴女様は我々の誇り――奥州美稜を導く強く美しい、そして慈愛に満ちた姫君でございます
伏してお願い申し上げます
我々に出来る限りの、最大の礼をもって、姫様のご結婚をお祝いさせてくださいませ」
千夜に頭を下げられ、美稜綾葉は狼狽えたように言葉を詰まらせた
顔を上げるよう伝えるが、千夜が従う素振りはない
分かったと頷くまでそのままでいるつもりだろう
美稜綾葉の困惑した眼差しが、片倉小十郎と伊達成実に向けられた
伊達成実はその視線を受けて片倉小十郎へと受け渡す
沈黙が続く室内で、片倉小十郎はため息をついて
「部下がこれだけ頭を下げて頼んでるんだ
その心意気に応えてやるのが、良い主君なんじゃねぇのか」
「で、ですが……」
口ごもった美稜綾葉が、視線を膝元へと落とす
そうして膝の上に置いた掌を握り締め、悔しそうに零した
「美稜は興したばかりの家で、贅沢をする余裕がありません
そのような中で強引にでも金を使えば、今後が立ち行かなくなります……
……それでも、今まで苦労をかけてきた侍女だからこそ、私に出来る精一杯でお祝いしてあげたいのです
千夜、それではいけないの?」
なんだかなぁ
伊達成実はモヤモヤとした思いを抱えながら、成り行きを見守っていた
そしてふと気付いた
同じような時期に婚儀を二つもやるから金がなくなるのでは、と
「なあ、あのさ、ちょっと考えたんだけど」
「はい?」
「来年やれば?
綾葉か千夜の婚儀
どっちが先でもいいけど、まあ話の進み具合的に、先にやるのは千夜のほうか
とにかく、いっぺんにやろうとするから苦しくなるんなら、来年やればいいんじゃねーの?
そうすりゃほら、今年一年だけでもここまで金が貯まったんなら、来年はもっと金あるだろうし
家の当主同士の結婚なんて滅多にないわけだしさ、せっかくなら派手にやりてぇだろ
少なくとも梵ならそうしそうっつーか……
だから今年は千夜をしっかり祝う!
来年は綾葉のために盛大にやる!
そんなんでいいと俺は思うんだけど、どうよ?」
伊達成実の提案に返ってきたのは、沈黙だった
いつの間にか顔を上げていた千夜も俯いていた綾葉も、驚いたように目を丸くして伊達成実を見つめている
片倉小十郎はいつも通りの顔だが、少なくとも否定的ではなさそうだ
「……藤次郎様がそれを良しとされるでしょうか」
「梵ン〜?
良しとするに決まってんだろ、むしろ二つ返事だぞ
一年待てば綾葉のそりゃあ豪華な花嫁行列が見れるってんだから、喜んで耐えてくれるだろうよ」
伊達成実の答えに美稜綾葉は納得したような、しないような、複雑な表情を浮かべた
どうも深刻に捉えすぎている気がするが、あの従兄は色々考えているように見えて、割と単純なところもある
そうするか、なんて言って容易く首を縦に振るだろうという自信もあった
それでも不安なら――
「梵に直接そうしていいか聞けば?
ぜってー二つ返事だから」
「……」
美稜綾葉の眉間に皺が寄せられる
そうして随分長いこと思案した結果
「……そうします」
根負けしたかのように呟き、美稜綾葉は項垂れた
朝夕こそ秋の気配が感じられる奥州は、日中となれば未だ残暑厳しい暑さが続いている
そんな中、奥州美稜の屋敷から主人たる美稜綾葉と共に伊達屋敷へやって来た千夜は、片倉小十郎の居室へと現れ、言った
「折り入ってお願いがございます
私と小十郎様の婚儀を先延ばしにして頂けませんか」
「……えっ」
返事をしたのは片倉小十郎ではなく、その場に居合わせた伊達成実である
二人の視線が重なり、片倉小十郎は眉根を寄せて首を振った
「綾葉の奴から何か聞いたか」
「はい
私と小十郎様の婚儀が先になりますゆえ、私の嫁入り道具を奥州美稜家がご用意くださると
しかしながら綾葉様も伊達家への嫁入りを控える身でございます
綾葉様の嫁入り道具をご用意せねばと伺いましたら、綾葉様はご自分には不要であると……」
「全部言っちゃった……」
どこまで千夜に逆らえないのだろう
既視感のある主従関係に、伊達成実は思わず遠い目をした
「主人を差し置いて従者たる私がそのような贅沢をするなど、到底承服致しかねます」
「こうなると思ったんだよなぁ……」
伊達成実がやはり頭を抱えようとしたとき、こちらへ向かってくる足音を耳が拾った
片倉小十郎と同時にそちらへ視線をやるが、千夜は気付いていない
「……ですので、小十郎様と私の婚儀を来年に延ばしまして、殿と姫様の婚儀を滞りなく――」
「そう言うと思ったわ!」
千夜の背後から溌剌とした声が飛んできた
驚きで肩を跳ね上げた千夜が背後を振り向くと、そこには仁王立ちする主君――美稜綾葉がいる
慌てて千夜は美稜綾葉へ頭を下げた
「姫様、殿へのご報告は……」
「それならもう終わったわ
はぁ……藤次郎様のお部屋ではなく、こっちに来て正解だったわね
あなたの事だもの、自分の婚儀を遅らせてでも私と藤次郎様の婚儀を進めるだろうと思ってたのよ」
一言断りを入れて美稜綾葉も片倉小十郎の部屋へと入ってくる
そうして千夜の隣に腰を下ろした
「あなた達の婚儀は予定通り行うわ
領内でもあなたの嫁入り道具を作らせている、今更待ったは無しよ」
「で、ですがそれでは!
姫様の嫁入り道具が……」
「……私はいいのよ、もう
これが初めての嫁入りではないもの、今更必要ないわ
私が初めて持っていった嫁入り道具達は、全て美稜の城ごと焼け落ちた
それでいいのよ」
「綾葉――」
伊達成実がフォローを入れようと口を開く
それを遮るように、千夜の大声が響いた
「よくありません!!」
普段は控えめな侍女の大声など滅多に聞くことはない
そのせいで美稜綾葉の勢いが削がれてしまった
「姫様はいつもそうです!
私の事ばかりで、姫様自身のことを優先してくださらないではないですか!
千夜は姫様がここ奥州で幸せに生きていくためにお仕えしております!
いいえ、それは美稜衆の誰もがそう思っているはずです
この一年、姫様は身を粉にして領内の政を進められました
お陰様で村の者たちも、他所から来た我々も、穏やかに暮らせております
それは他ならぬ姫様のお力あってのこと!
その御恩を返す時でございます
どうか……どうか、嫁入り道具は必要ないなどと、悲しいことをおっしゃらないでくださいませ
貴女様は我々の誇り――奥州美稜を導く強く美しい、そして慈愛に満ちた姫君でございます
伏してお願い申し上げます
我々に出来る限りの、最大の礼をもって、姫様のご結婚をお祝いさせてくださいませ」
千夜に頭を下げられ、美稜綾葉は狼狽えたように言葉を詰まらせた
顔を上げるよう伝えるが、千夜が従う素振りはない
分かったと頷くまでそのままでいるつもりだろう
美稜綾葉の困惑した眼差しが、片倉小十郎と伊達成実に向けられた
伊達成実はその視線を受けて片倉小十郎へと受け渡す
沈黙が続く室内で、片倉小十郎はため息をついて
「部下がこれだけ頭を下げて頼んでるんだ
その心意気に応えてやるのが、良い主君なんじゃねぇのか」
「で、ですが……」
口ごもった美稜綾葉が、視線を膝元へと落とす
そうして膝の上に置いた掌を握り締め、悔しそうに零した
「美稜は興したばかりの家で、贅沢をする余裕がありません
そのような中で強引にでも金を使えば、今後が立ち行かなくなります……
……それでも、今まで苦労をかけてきた侍女だからこそ、私に出来る精一杯でお祝いしてあげたいのです
千夜、それではいけないの?」
なんだかなぁ
伊達成実はモヤモヤとした思いを抱えながら、成り行きを見守っていた
そしてふと気付いた
同じような時期に婚儀を二つもやるから金がなくなるのでは、と
「なあ、あのさ、ちょっと考えたんだけど」
「はい?」
「来年やれば?
綾葉か千夜の婚儀
どっちが先でもいいけど、まあ話の進み具合的に、先にやるのは千夜のほうか
とにかく、いっぺんにやろうとするから苦しくなるんなら、来年やればいいんじゃねーの?
そうすりゃほら、今年一年だけでもここまで金が貯まったんなら、来年はもっと金あるだろうし
家の当主同士の結婚なんて滅多にないわけだしさ、せっかくなら派手にやりてぇだろ
少なくとも梵ならそうしそうっつーか……
だから今年は千夜をしっかり祝う!
来年は綾葉のために盛大にやる!
そんなんでいいと俺は思うんだけど、どうよ?」
伊達成実の提案に返ってきたのは、沈黙だった
いつの間にか顔を上げていた千夜も俯いていた綾葉も、驚いたように目を丸くして伊達成実を見つめている
片倉小十郎はいつも通りの顔だが、少なくとも否定的ではなさそうだ
「……藤次郎様がそれを良しとされるでしょうか」
「梵ン〜?
良しとするに決まってんだろ、むしろ二つ返事だぞ
一年待てば綾葉のそりゃあ豪華な花嫁行列が見れるってんだから、喜んで耐えてくれるだろうよ」
伊達成実の答えに美稜綾葉は納得したような、しないような、複雑な表情を浮かべた
どうも深刻に捉えすぎている気がするが、あの従兄は色々考えているように見えて、割と単純なところもある
そうするか、なんて言って容易く首を縦に振るだろうという自信もあった
それでも不安なら――
「梵に直接そうしていいか聞けば?
ぜってー二つ返事だから」
「……」
美稜綾葉の眉間に皺が寄せられる
そうして随分長いこと思案した結果
「……そうします」
根負けしたかのように呟き、美稜綾葉は項垂れた