27 聖夜の二人
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現れたお夕飯は、それはそれは贅を尽くしたお料理の数々だった
季節のお刺身、山菜の天ぷら、和牛のステーキにその他いろいろ
見た時は食べ切れるか心配だったけど、食べ始めたらペロリと完食してしまったので杞憂だった
まあ、普段から一般的な男子並に食べてるからな……
そして今、私の目の前にはケーキがある
「いいクリスマスだ……」
「ちょうどいい甘さで美味いな」
「政宗さん、甘いの苦手でしたっけ」
「特に苦手ってわけじゃないが……
ま、甘ったるいのは苦手かもしれねえな」
自らお菓子を作って食べる人が、甘いものが苦手なわけがない
この間だって急にタルトを作り出した人なのに
「……あれ?」
やけに静かだなあ、夜だもんな、なんて思っていたところで、ようやくそれに気付いた
なんかおかしいと思ったんだ
「和真さん、どこいった!?」
「気付いたの今かよ」
「今でした!」
「新倉なら従業員用の寮で待機してる
連絡入ってたろ」
そういえばここに着いてからスマホも見てなかった
慌てて画面をつけると、社員寮に滞在すると和真さんから連絡が入っている
しかも時間は二時間前
迷った末、スタンプで返すことにした
苺のショートケーキを食べて、コーヒーも飲んで、時刻は夜の九時前
いつもなら片付けをしたりお風呂に入ったり、テレビを観てのんびりするところなんだけど、片付けはしなくていいし、お風呂も入ってしまったし、やることがない
「暇を持て余してしまった……」
「この時間だと、店はどこも閉まってるか……」
「ですよねぇ
うーん、温泉に入り直そうかなぁ」
「Wow、そりゃいい
せっかく来たんだ、堪能しなけりゃな」
「あ、政宗さんも来ます?
貸切の醍醐味ですもんね、行きましょう!」
すくっと立ち上がって政宗さんの手を引く
どこか苦笑いの政宗さんも立ち上がって、お部屋を出て大浴場へ
入り直すことを見越してか、積まれたタオルは新しくなっていた
「一回吹っ切れると遠慮がなくなるな、お前」
「そうですかね?
あ、脱ぐので後ろ向いてください」
「そこは気にするのかよ」
「これに関しては遠慮がどうとかいう話じゃないと思います」
へーへー、なんて適当な返事を背中で聞きながら、浴衣の帯を解く
髪の毛が濡れないようにヘアクリップで止めて、いざ浴室へ
軽くお湯を身体にかけて、爪先からそろっと湯船へ入った
「あ〜末端冷え性が仕事してる」
「身体動かす割に治らねぇんだな」
「治らないですねぇ、不思議と」
爪先の体温とお湯の温度差で一周回って冷たさを感じるくらいだ
温度に慣れたところで肩まで浸かって、指先と足先にじんわりと血が巡っていくのを感じた
「合宿の疲労もよく抜けそう〜」
「Ha、よく言うぜ
毎晩しっかり新倉に揉みほぐされておいてよ」
「政宗さんだってやってもらってたじゃないですか
……まあ珍しく今回は片倉先生がいなかったですしね
政宗さんのお世話も和真さんの仕事になるわけだし、文句はないですけど」
てっきり片倉先生もついてくるものだと思っていたけど、先生は大学の剣道部とは関わりがないから、遠慮したのかもしれない
綱元先輩と成実がいるから護衛役は足りてるし、和真さんもべらぼうに強いから大丈夫だと判断したんだろう
「政宗さんってやっぱりお酒強いんですね
羨ましいです」
「別にそんないいもんでもねぇぞ
飲めるに越したこたぁねぇが、飲む相手を間違えたらknock outされることだってある」
「お義父さんとの飲み比べの話してます?」
「あれは自分から潰されに行っただけだ、no countだろ」
「屁理屈ぅー」
他愛のない話をして、クリスマスイブが終わっていく
クリスマス、クリスマスかぁ
こんなにのんびりとしたクリスマスは初めてじゃないかな
「あ」
「Ah?」
「ああいえ、クリスマスっていつも何してたっけなぁって思ってて
家族が生きていた頃は、母と父が料理を頑張ってたなぁって
鶏一羽丸焼きしてましたもんね」
「本格的だな」
「めちゃめちゃ食べ応えありました
弟が小さいので、やっぱりそういうインパクトあるものを見せると喜ぶんですよ
すげーすげーってはしゃいで、おれ来年もこれがいいって……」
その要望通り、毎年我が家のクリスマスには鶏の丸焼きが出た
それを食べたあとはクリスマスケーキも食べておしまい
弟はサンタさんが来るからっていつもよりものすごく早寝して……
「家族の話を聞くのは初めてだ」
「聞かれなかったので……」
「聞いたら教えてくれたのかよ」
「もちろんですよ
でも、私のことを気遣ってくれていたのは知っています
それに甘えちゃっていたのは事実なので」
あの頃のことは、楽しい思い出だ
思い出すとやっぱり悲しくなるけど、それだけじゃない
一人のままだったら思い出すこともできなかった
……否、思い出してしまっては、自責の念に苛まれたはずだ
「家族のことを思い出しても辛くないのは、今の私に、新しい家族がいるから……ですね」
「家族……か」
何かを噛み締めるように呟いた政宗さんが、私の肩を抱き寄せる
……私の中に赤い彼岸花を見た、といつかの彼は言った
綺麗な花ではあるけれど、死という概念にも繋がる花だ
「出会った当初は、数年後の自分がこんな風になってるなんて思いもしませんでした」
「それは……俺もそうかもしれねぇな」
「私、海外で働こうと思っていたんです」
「海外?」
「そこまで逃げちゃえば、誰も私のことを追って来られないだろうって」
「……」
「当たり前ですけど、死にたくなかったですしね
だからめちゃくちゃ勉強して、めちゃくちゃ頭のいい大学に行って、海外で働こうって
我ながら単純な策でしたけど」
もうその道に未練はない
私は誰からも追われていないし、守ってくれる人達がたくさんいる
だって政宗さんと出会ってしまったら、もうこの人がいない生活なんて考えられない
「お前の家族になるってことがどんな意味を持つか……
多少なり俺も理解はしてる
Don't worry.
俺はどこにも行きやしねぇ」
政宗さんの膝の上に乗せられて、抱きかかえられる
触れた素肌が熱いのは、温泉で温まったせいか、それとも別の何かか
「お前の隣にずっと居る、約束したろ
……俺はテメェからした約束は破らねぇ主義だ、期待してくれていいぜ?」
「政宗さんは長生きしますよ
してくれないと困ります
私のことを置いていったら許しませんからね」
「Ha,上等だ」
抱き抱えたまま政宗さんが立ち上がる
温泉タイムは終わりのようだ
ちょっぴり名残惜しいけど、逆上せると危ないから仕方ない
脱衣場まで戻っていく彼をそっと見上げる
濡れた襟足が首筋に張り付いて、水滴がそこから伝って鎖骨へと落ちていく
「……何見てんだ?」
「いい男すぎる……」
「Ha!
いい女が何か言ってやがる」
何言ってんだ、と呆れ顔が来るかと思いきや、こんな仕返しが待っていたとは思わなかった
いい女――政宗さんにそう言い続けてもらえるよう、私も自分のことをもっと好きになりたい
隣に並んでも気後れを感じなくていいように
季節のお刺身、山菜の天ぷら、和牛のステーキにその他いろいろ
見た時は食べ切れるか心配だったけど、食べ始めたらペロリと完食してしまったので杞憂だった
まあ、普段から一般的な男子並に食べてるからな……
そして今、私の目の前にはケーキがある
「いいクリスマスだ……」
「ちょうどいい甘さで美味いな」
「政宗さん、甘いの苦手でしたっけ」
「特に苦手ってわけじゃないが……
ま、甘ったるいのは苦手かもしれねえな」
自らお菓子を作って食べる人が、甘いものが苦手なわけがない
この間だって急にタルトを作り出した人なのに
「……あれ?」
やけに静かだなあ、夜だもんな、なんて思っていたところで、ようやくそれに気付いた
なんかおかしいと思ったんだ
「和真さん、どこいった!?」
「気付いたの今かよ」
「今でした!」
「新倉なら従業員用の寮で待機してる
連絡入ってたろ」
そういえばここに着いてからスマホも見てなかった
慌てて画面をつけると、社員寮に滞在すると和真さんから連絡が入っている
しかも時間は二時間前
迷った末、スタンプで返すことにした
苺のショートケーキを食べて、コーヒーも飲んで、時刻は夜の九時前
いつもなら片付けをしたりお風呂に入ったり、テレビを観てのんびりするところなんだけど、片付けはしなくていいし、お風呂も入ってしまったし、やることがない
「暇を持て余してしまった……」
「この時間だと、店はどこも閉まってるか……」
「ですよねぇ
うーん、温泉に入り直そうかなぁ」
「Wow、そりゃいい
せっかく来たんだ、堪能しなけりゃな」
「あ、政宗さんも来ます?
貸切の醍醐味ですもんね、行きましょう!」
すくっと立ち上がって政宗さんの手を引く
どこか苦笑いの政宗さんも立ち上がって、お部屋を出て大浴場へ
入り直すことを見越してか、積まれたタオルは新しくなっていた
「一回吹っ切れると遠慮がなくなるな、お前」
「そうですかね?
あ、脱ぐので後ろ向いてください」
「そこは気にするのかよ」
「これに関しては遠慮がどうとかいう話じゃないと思います」
へーへー、なんて適当な返事を背中で聞きながら、浴衣の帯を解く
髪の毛が濡れないようにヘアクリップで止めて、いざ浴室へ
軽くお湯を身体にかけて、爪先からそろっと湯船へ入った
「あ〜末端冷え性が仕事してる」
「身体動かす割に治らねぇんだな」
「治らないですねぇ、不思議と」
爪先の体温とお湯の温度差で一周回って冷たさを感じるくらいだ
温度に慣れたところで肩まで浸かって、指先と足先にじんわりと血が巡っていくのを感じた
「合宿の疲労もよく抜けそう〜」
「Ha、よく言うぜ
毎晩しっかり新倉に揉みほぐされておいてよ」
「政宗さんだってやってもらってたじゃないですか
……まあ珍しく今回は片倉先生がいなかったですしね
政宗さんのお世話も和真さんの仕事になるわけだし、文句はないですけど」
てっきり片倉先生もついてくるものだと思っていたけど、先生は大学の剣道部とは関わりがないから、遠慮したのかもしれない
綱元先輩と成実がいるから護衛役は足りてるし、和真さんもべらぼうに強いから大丈夫だと判断したんだろう
「政宗さんってやっぱりお酒強いんですね
羨ましいです」
「別にそんないいもんでもねぇぞ
飲めるに越したこたぁねぇが、飲む相手を間違えたらknock outされることだってある」
「お義父さんとの飲み比べの話してます?」
「あれは自分から潰されに行っただけだ、no countだろ」
「屁理屈ぅー」
他愛のない話をして、クリスマスイブが終わっていく
クリスマス、クリスマスかぁ
こんなにのんびりとしたクリスマスは初めてじゃないかな
「あ」
「Ah?」
「ああいえ、クリスマスっていつも何してたっけなぁって思ってて
家族が生きていた頃は、母と父が料理を頑張ってたなぁって
鶏一羽丸焼きしてましたもんね」
「本格的だな」
「めちゃめちゃ食べ応えありました
弟が小さいので、やっぱりそういうインパクトあるものを見せると喜ぶんですよ
すげーすげーってはしゃいで、おれ来年もこれがいいって……」
その要望通り、毎年我が家のクリスマスには鶏の丸焼きが出た
それを食べたあとはクリスマスケーキも食べておしまい
弟はサンタさんが来るからっていつもよりものすごく早寝して……
「家族の話を聞くのは初めてだ」
「聞かれなかったので……」
「聞いたら教えてくれたのかよ」
「もちろんですよ
でも、私のことを気遣ってくれていたのは知っています
それに甘えちゃっていたのは事実なので」
あの頃のことは、楽しい思い出だ
思い出すとやっぱり悲しくなるけど、それだけじゃない
一人のままだったら思い出すこともできなかった
……否、思い出してしまっては、自責の念に苛まれたはずだ
「家族のことを思い出しても辛くないのは、今の私に、新しい家族がいるから……ですね」
「家族……か」
何かを噛み締めるように呟いた政宗さんが、私の肩を抱き寄せる
……私の中に赤い彼岸花を見た、といつかの彼は言った
綺麗な花ではあるけれど、死という概念にも繋がる花だ
「出会った当初は、数年後の自分がこんな風になってるなんて思いもしませんでした」
「それは……俺もそうかもしれねぇな」
「私、海外で働こうと思っていたんです」
「海外?」
「そこまで逃げちゃえば、誰も私のことを追って来られないだろうって」
「……」
「当たり前ですけど、死にたくなかったですしね
だからめちゃくちゃ勉強して、めちゃくちゃ頭のいい大学に行って、海外で働こうって
我ながら単純な策でしたけど」
もうその道に未練はない
私は誰からも追われていないし、守ってくれる人達がたくさんいる
だって政宗さんと出会ってしまったら、もうこの人がいない生活なんて考えられない
「お前の家族になるってことがどんな意味を持つか……
多少なり俺も理解はしてる
Don't worry.
俺はどこにも行きやしねぇ」
政宗さんの膝の上に乗せられて、抱きかかえられる
触れた素肌が熱いのは、温泉で温まったせいか、それとも別の何かか
「お前の隣にずっと居る、約束したろ
……俺はテメェからした約束は破らねぇ主義だ、期待してくれていいぜ?」
「政宗さんは長生きしますよ
してくれないと困ります
私のことを置いていったら許しませんからね」
「Ha,上等だ」
抱き抱えたまま政宗さんが立ち上がる
温泉タイムは終わりのようだ
ちょっぴり名残惜しいけど、逆上せると危ないから仕方ない
脱衣場まで戻っていく彼をそっと見上げる
濡れた襟足が首筋に張り付いて、水滴がそこから伝って鎖骨へと落ちていく
「……何見てんだ?」
「いい男すぎる……」
「Ha!
いい女が何か言ってやがる」
何言ってんだ、と呆れ顔が来るかと思いきや、こんな仕返しが待っていたとは思わなかった
いい女――政宗さんにそう言い続けてもらえるよう、私も自分のことをもっと好きになりたい
隣に並んでも気後れを感じなくていいように