06 叔父と姪
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ぱたり、とベッドに落ちた夕歌の手を、春日山がそっと握って脈を測る
「……もう大丈夫だぞ」
「何を飲ませた?」
「ただの睡眠薬だ、安心しろ」
夕歌の側に膝をついて座ったまま、春日山が新倉を見上げた
「夕歌に何があった」
「……私も、詳しいことは
ただ、おそらく……いえ、確実に、藤野社長に、何事かを言われたのだと思います」
「藤野社長……藤野佳宏か」
「はい」
「血縁上は、夕歌の叔父だが……夕歌の母親である斎藤美奈子とは、異父兄妹だったな」
「……心当たりがあるのか、春日山」
僅かに逡巡した春日山が、重たそうに口を開く
出てきた言葉は──衝撃だった
「藤野佳宏は、斎藤美奈子を、死してなお、妹だと認めていない」
「……え……?」
掠れた声が茫然として、新倉が目を見開いていた
……こいつは知らなかったのか
「そんな、嘘です、藤野社長は美奈子社長と、それは仲が良くて──」
「……おそらく、お前が見てきたそれは、外見上だ
お前も知らないところで、あの男は夕歌の母親を拒絶していた」
「拒絶……?」
「高潔なる藤野の、純なる血を引かない俗物──」
「なんだそれは」
「あの男が夕歌の母親に、度々言っていた
藤野グループの前身である藤野商事は、現会長の夫であった藤野佳之が立ち上げた会社だというのは、お前たちも知っているだろう」
春日山の言葉に、揃って頷く
そのくらいは、この業界に生きていれば言われなくても耳にする話だ
「その数年後に、藤野佳之が事故死して、藤野商事は妻の芳江が引き継いだ
……そして、再婚した相手との子供が、藤野美奈子──後の斎藤美奈子だ」
「……高貴なる、というのは、おそらくですが……
藤野家と、芳江会長のご実家が、どちらも爵位を持たれていた家系であったからでしょう」
「再婚した相手は、実家は爵位など持たぬ一般家庭だった
つまるところ、再婚相手は婿入りだったのだ」
「それを、藤野佳宏は許せなかった──?」
……何かが引っかかる
それほどまでに存在を認められない割には、斎藤美奈子と自分に不仲説が立つような騒ぎを一切起こさなかった
一族から排斥しようとしても不思議では──
「……まさか」
夕歌の顔を見つめる
まさか、夕歌が苦しむ原因を作った、張本人は
……藤野佳宏じゃねぇのか?
「……鈴ヶ嶺を唆した、可能性は」
「否定できない
経営悪化により、倒産間近までひっ迫した状況に陥っていた鈴ヶ嶺に、手を貸した可能性はある
……鈴ヶ嶺は夕歌に残された財産を、藤野佳宏は忌々しい斎藤美奈子と、その血を引く子供たちの排除を、望んでいただろうからな」
……が、その目論見は上手くいかなかった
修学旅行中だった夕歌は奇跡的に魔の手を逃れ、鈴ヶ嶺は経営状況が改善され、うなぎ上りで利益を黒字に戻した
藤野佳宏に残った最後の希望は、夕歌が藤野芳江に見つからない事だけ──
だが、それも鈴ヶ嶺可菜子の独断によって行われた、あの夏の事件によって、藤野芳江の目に留まった
そして──藤野佳宏が存在を否定し続けた女の忘れ形見は、藤野へ戻された……
「だが、藤野佳宏に実子はいねぇ……そうだろう」
「それが……昨年、産まれたんだ」
「……What?」
「かなりの高齢出産ではあったが、無事にな
それも……長男だ」
「な……それでは、お嬢様は……」
「藤野を継ぐことはない
それどころか、斎藤グループが担っていた事業を任される、という話も……頓挫するだろう」
なんだ、そいつは
ふざけるな
夕歌を、こいつの存在を何だと思って
「……覚悟しておけ、新倉」
「は……?」
「あの藤野佳宏が、いつまでもお前を夕歌の側に置いておくとは思えない
特に、顔を合わせてしまったせいで、藤野佳宏の夕歌への感情は増幅されたはずだ
……いつ、藤野へ呼び戻されるか分からないぞ」
「私は、新倉家は、斎藤家に仕える家です、それを藤野が勝手には──」
「できるさ」
は、と新倉が息を呑んで俺を凝視する
「──会長はあの婆さんでも、藤野家の当主はあの野郎だ
当主の命令だったら、逆らえねぇのがテメェら使役される側だろう」
「それ、は」
蒼白の顔が、夕歌を見つめる
……なぜ、夕歌から奪っていく?
散々、過去のトラウマに苛まれている夕歌に、まだ苦しめと言うのか
もうズタボロの身体に……まだ傷つけと唾を吐くのか
──守らなければ
何があっても、俺の、俺達の全てで
夕歌を、守らなければ──
「……もう大丈夫だぞ」
「何を飲ませた?」
「ただの睡眠薬だ、安心しろ」
夕歌の側に膝をついて座ったまま、春日山が新倉を見上げた
「夕歌に何があった」
「……私も、詳しいことは
ただ、おそらく……いえ、確実に、藤野社長に、何事かを言われたのだと思います」
「藤野社長……藤野佳宏か」
「はい」
「血縁上は、夕歌の叔父だが……夕歌の母親である斎藤美奈子とは、異父兄妹だったな」
「……心当たりがあるのか、春日山」
僅かに逡巡した春日山が、重たそうに口を開く
出てきた言葉は──衝撃だった
「藤野佳宏は、斎藤美奈子を、死してなお、妹だと認めていない」
「……え……?」
掠れた声が茫然として、新倉が目を見開いていた
……こいつは知らなかったのか
「そんな、嘘です、藤野社長は美奈子社長と、それは仲が良くて──」
「……おそらく、お前が見てきたそれは、外見上だ
お前も知らないところで、あの男は夕歌の母親を拒絶していた」
「拒絶……?」
「高潔なる藤野の、純なる血を引かない俗物──」
「なんだそれは」
「あの男が夕歌の母親に、度々言っていた
藤野グループの前身である藤野商事は、現会長の夫であった藤野佳之が立ち上げた会社だというのは、お前たちも知っているだろう」
春日山の言葉に、揃って頷く
そのくらいは、この業界に生きていれば言われなくても耳にする話だ
「その数年後に、藤野佳之が事故死して、藤野商事は妻の芳江が引き継いだ
……そして、再婚した相手との子供が、藤野美奈子──後の斎藤美奈子だ」
「……高貴なる、というのは、おそらくですが……
藤野家と、芳江会長のご実家が、どちらも爵位を持たれていた家系であったからでしょう」
「再婚した相手は、実家は爵位など持たぬ一般家庭だった
つまるところ、再婚相手は婿入りだったのだ」
「それを、藤野佳宏は許せなかった──?」
……何かが引っかかる
それほどまでに存在を認められない割には、斎藤美奈子と自分に不仲説が立つような騒ぎを一切起こさなかった
一族から排斥しようとしても不思議では──
「……まさか」
夕歌の顔を見つめる
まさか、夕歌が苦しむ原因を作った、張本人は
……藤野佳宏じゃねぇのか?
「……鈴ヶ嶺を唆した、可能性は」
「否定できない
経営悪化により、倒産間近までひっ迫した状況に陥っていた鈴ヶ嶺に、手を貸した可能性はある
……鈴ヶ嶺は夕歌に残された財産を、藤野佳宏は忌々しい斎藤美奈子と、その血を引く子供たちの排除を、望んでいただろうからな」
……が、その目論見は上手くいかなかった
修学旅行中だった夕歌は奇跡的に魔の手を逃れ、鈴ヶ嶺は経営状況が改善され、うなぎ上りで利益を黒字に戻した
藤野佳宏に残った最後の希望は、夕歌が藤野芳江に見つからない事だけ──
だが、それも鈴ヶ嶺可菜子の独断によって行われた、あの夏の事件によって、藤野芳江の目に留まった
そして──藤野佳宏が存在を否定し続けた女の忘れ形見は、藤野へ戻された……
「だが、藤野佳宏に実子はいねぇ……そうだろう」
「それが……昨年、産まれたんだ」
「……What?」
「かなりの高齢出産ではあったが、無事にな
それも……長男だ」
「な……それでは、お嬢様は……」
「藤野を継ぐことはない
それどころか、斎藤グループが担っていた事業を任される、という話も……頓挫するだろう」
なんだ、そいつは
ふざけるな
夕歌を、こいつの存在を何だと思って
「……覚悟しておけ、新倉」
「は……?」
「あの藤野佳宏が、いつまでもお前を夕歌の側に置いておくとは思えない
特に、顔を合わせてしまったせいで、藤野佳宏の夕歌への感情は増幅されたはずだ
……いつ、藤野へ呼び戻されるか分からないぞ」
「私は、新倉家は、斎藤家に仕える家です、それを藤野が勝手には──」
「できるさ」
は、と新倉が息を呑んで俺を凝視する
「──会長はあの婆さんでも、藤野家の当主はあの野郎だ
当主の命令だったら、逆らえねぇのがテメェら使役される側だろう」
「それ、は」
蒼白の顔が、夕歌を見つめる
……なぜ、夕歌から奪っていく?
散々、過去のトラウマに苛まれている夕歌に、まだ苦しめと言うのか
もうズタボロの身体に……まだ傷つけと唾を吐くのか
──守らなければ
何があっても、俺の、俺達の全てで
夕歌を、守らなければ──
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