06 叔父と姪
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「──っ、お嬢様!」
玄関に座り込む直前、和真さんの腕が私を抱き留める
普段ならお礼の一つでも述べるところなのに
「……和真、さん」
「お嬢様!?
如何なされたのです、お身体が震えて──」
「助けて……助けて
和真さん、助けて……」
震える手が、必死に和真さんにしがみ付く
ぎゅっと私を抱き寄せる手に力が籠って、それからふわりと抱き上げられた
「ご自宅へ参りましょう、すぐに」
「は……はい……」
震えが止まらない
少しでも心を強く持てなければ、呑まれてしまう──
私を後部座席に乗せた車が、藤野邸を後にする
いつもは見送ってくれる森口さんは、現れなかった
「片倉様、新倉です」
『新倉か?
電話とは珍しいな』
「急を要するものですから
政宗様はご在宅ですか?」
『ああ、政宗様なら、先程ご自宅まで綱元がお送りしたはずだ』
「……かしこまりました、ありがとうございます」
新倉さんが車内スピーカーでの電話を切る
気を強く持て、呑まれるな
あの頃に呑まれることだけは──
──生きている価値もないくせに
耳の奥で弾ける声に、ひゅ、と喉が鳴る
聞くな、聞いちゃ駄目だ、私を否定する言葉に耳を貸すな
「政宗さん、助けて……
助けて……お願い……」
大きくなっていく幻聴に耳を塞ぐ
いやだ、やめて、否定しないで
否定を否定したいのに……心が悲鳴を上げていくのが分かって
……不意に、脳内にそれは響いた
──ごめんなさい、ゆるして
「あ──」
……きっと、それが、私の心の、絶叫だった
* * *
急を要する、という新倉からの電話が小十郎に入って、念のために家に居てほしい、とまで言われてしまえば、近くのコンビニに行くのさえ躊躇われた
そもそも、新倉がそれほどに急迫した電話を掛けたこと自体、初めてのことだ
嫌な予感だけがひしめいて、居ても立っても居られなくなって、玄関の外で新倉の車を待っていた
やがてこちらへやってくる車のライトが見えて、その黒いベンツが家の前で停車した
「政宗様!」
「新倉、一体何が──」
「お嬢様を!
お嬢様を、早く!」
懇願するように叫ぶ新倉は、普段の冷静さを欠いているようにも見えた
けれど、夕歌の名前を出されたところで、弾かれたように俺は後部座席のドアを開けて
「夕歌!」
後部座席で藻掻くように苦しむ夕歌を抱き上げて、車から降ろした
「夕歌、おい!」
「政宗様、夕歌様を中に!」
新倉が玄関のドアを開けて、急いで中に戻る
二階の寝室に入ってベッドに寝かせた瞬間、夕歌がおもむろに自分の首に手を当てた
「お前、何して──!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるして」
虚ろな瞳が壊れたように涙を流して、ぐっと手に力が入ったように見えた
咄嗟に夕歌の両手を掴んで、強引に首から引き離す
それでも抗ってくる夕歌は、普段では考えられないほどの力で、俺の手を振り解こうとする
「……Shit!
おい夕歌、目を覚ませ!」
おかしい
ここまでの錯乱は、今までなかった
何度か悪夢に魘された時でさえ、すぐに俺に気付いてくれた
──完全に呑まれている
「新倉、春日山に連絡は取れるか」
「可能です」
「すぐに呼べ、春日山なら三分あればこっちに着く」
背後で新倉が春日山に連絡を取っていく
抗う両手をベッドに押さえつけた瞬間──夕歌の瞳が大きく見開かれて
「いやぁぁぁ──!!」
悲痛な叫び声が、寝室を支配した
仕方がないとはいえ、今の俺は夕歌に覆い被さった格好だ
それでも、この手を離すわけにはいかなかった
「お嬢様……!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!
痛い、怖い、痛いよ……!
許して……もう許して!」
──虐待を受けていたこともあったようです
脳裏に、虎哉和尚の声が蘇る
理解できているつもりだった──けれど、その実、何も理解できていなかった
俺が想像するよりも遥かに、夕歌につけられた傷は……深すぎた
そして、おそらくは、それが──考えうる限りの最悪の形で、掘り返されてしまったらしい
「はぁ、はぁ……!
夕歌っ!!」
「春日山様!」
「どけ、独眼竜!」
俺を強引に押し飛ばした春日山が、夕歌に何かを飲ませる
夕歌の声がか細く慟哭して
……そして、途切れた
玄関に座り込む直前、和真さんの腕が私を抱き留める
普段ならお礼の一つでも述べるところなのに
「……和真、さん」
「お嬢様!?
如何なされたのです、お身体が震えて──」
「助けて……助けて
和真さん、助けて……」
震える手が、必死に和真さんにしがみ付く
ぎゅっと私を抱き寄せる手に力が籠って、それからふわりと抱き上げられた
「ご自宅へ参りましょう、すぐに」
「は……はい……」
震えが止まらない
少しでも心を強く持てなければ、呑まれてしまう──
私を後部座席に乗せた車が、藤野邸を後にする
いつもは見送ってくれる森口さんは、現れなかった
「片倉様、新倉です」
『新倉か?
電話とは珍しいな』
「急を要するものですから
政宗様はご在宅ですか?」
『ああ、政宗様なら、先程ご自宅まで綱元がお送りしたはずだ』
「……かしこまりました、ありがとうございます」
新倉さんが車内スピーカーでの電話を切る
気を強く持て、呑まれるな
あの頃に呑まれることだけは──
──生きている価値もないくせに
耳の奥で弾ける声に、ひゅ、と喉が鳴る
聞くな、聞いちゃ駄目だ、私を否定する言葉に耳を貸すな
「政宗さん、助けて……
助けて……お願い……」
大きくなっていく幻聴に耳を塞ぐ
いやだ、やめて、否定しないで
否定を否定したいのに……心が悲鳴を上げていくのが分かって
……不意に、脳内にそれは響いた
──ごめんなさい、ゆるして
「あ──」
……きっと、それが、私の心の、絶叫だった
* * *
急を要する、という新倉からの電話が小十郎に入って、念のために家に居てほしい、とまで言われてしまえば、近くのコンビニに行くのさえ躊躇われた
そもそも、新倉がそれほどに急迫した電話を掛けたこと自体、初めてのことだ
嫌な予感だけがひしめいて、居ても立っても居られなくなって、玄関の外で新倉の車を待っていた
やがてこちらへやってくる車のライトが見えて、その黒いベンツが家の前で停車した
「政宗様!」
「新倉、一体何が──」
「お嬢様を!
お嬢様を、早く!」
懇願するように叫ぶ新倉は、普段の冷静さを欠いているようにも見えた
けれど、夕歌の名前を出されたところで、弾かれたように俺は後部座席のドアを開けて
「夕歌!」
後部座席で藻掻くように苦しむ夕歌を抱き上げて、車から降ろした
「夕歌、おい!」
「政宗様、夕歌様を中に!」
新倉が玄関のドアを開けて、急いで中に戻る
二階の寝室に入ってベッドに寝かせた瞬間、夕歌がおもむろに自分の首に手を当てた
「お前、何して──!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるして」
虚ろな瞳が壊れたように涙を流して、ぐっと手に力が入ったように見えた
咄嗟に夕歌の両手を掴んで、強引に首から引き離す
それでも抗ってくる夕歌は、普段では考えられないほどの力で、俺の手を振り解こうとする
「……Shit!
おい夕歌、目を覚ませ!」
おかしい
ここまでの錯乱は、今までなかった
何度か悪夢に魘された時でさえ、すぐに俺に気付いてくれた
──完全に呑まれている
「新倉、春日山に連絡は取れるか」
「可能です」
「すぐに呼べ、春日山なら三分あればこっちに着く」
背後で新倉が春日山に連絡を取っていく
抗う両手をベッドに押さえつけた瞬間──夕歌の瞳が大きく見開かれて
「いやぁぁぁ──!!」
悲痛な叫び声が、寝室を支配した
仕方がないとはいえ、今の俺は夕歌に覆い被さった格好だ
それでも、この手を離すわけにはいかなかった
「お嬢様……!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!
痛い、怖い、痛いよ……!
許して……もう許して!」
──虐待を受けていたこともあったようです
脳裏に、虎哉和尚の声が蘇る
理解できているつもりだった──けれど、その実、何も理解できていなかった
俺が想像するよりも遥かに、夕歌につけられた傷は……深すぎた
そして、おそらくは、それが──考えうる限りの最悪の形で、掘り返されてしまったらしい
「はぁ、はぁ……!
夕歌っ!!」
「春日山様!」
「どけ、独眼竜!」
俺を強引に押し飛ばした春日山が、夕歌に何かを飲ませる
夕歌の声がか細く慟哭して
……そして、途切れた