50 親も知らぬアレ
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学祭も無事に終わり、通常の講義期間が戻ってきた、明政大学
そのラウンジに集まった我々の中でただ一人、どデカいため息をつく男がいた
「はぁぁ……」
「どした、親泰?
肺の中の空気、全部出したみたいなため息ついて」
「……抜くことになっちゃったんだよ」
「抜くって?」
「アレだよ、アレ……」
親泰君は項垂れたまま、トントンと口の中を示した
そう、その名も──
50 親も知らぬアレ
あー、と経験者らしき成実とかすがは同情の目を向けた
ちなみに私はまだ未経験だったりする
痛いし腫れるって聞くから、密かに怯えている側だ
「どちらだ?
上か、下か?」
「下……」
「……そうか、気張るしかないな」
「慰めの言葉がもう少しあると思ったんだよ、俺は」
かすがの全てを諦めた一言に、親泰君はとうとうテーブルに突っ伏した
かすががそんな反応をするなんて……やっぱり親知らずを抜くのって痛いんだ……
「成実とかすがさんは経験済み?」
「俺は下だけ
上は綺麗に生えてるらしいから、痛くないなら抜かなくてもいいかって思って」
「私は四本すべて抜いたぞ」
「そっか……二人が抜いた時、やっぱり痛かった?」
「途中で麻酔が切れたから、そん時は、まぁ」
「ヒェ……」
親泰君が右の頬を押さえた
めちゃくちゃ怯えている、可哀想に
「私の場合はあまり腫れることもなかったな
ただ途中で縫合した糸が取れかけたのだが、傷も塞がっていたので、そのまま抜糸になった」
「そもそもあれ、麻酔が痛ぇんだよな」
「麻酔さえ効けば、なんということはない
……まあ、あとは気合いだが」
「かすがさんが根性論しか言わない!」
「つってもこっちに出来ることなんて、もう気合いで乗り切る覚悟を決めるくらいしかねーぞ?」
それはそうなんだろうけども
見なよ、親泰君の様子を
恐怖で死にそうになってるじゃん
「幸村と夕歌はまだ抜いたことねーんだっけ」
「うむ、某はまだ生えたままでござる」
「私も……」
そもそも歯医者だって、家族が亡くなってから行ってない
親族の家にいた頃は行かせてもらえるはずもなかったし
今は気軽に行っていいんだろうけど、なんていうか、歯が痛いわけでもないのにな、みたいな気持ちがあって……
「成実は歯医者よく行くの?」
「まあ、三ヶ月に一回は」
「めっちゃ行くね!?」
「なんつーか、ガキの頃から通ってたから、習慣化しちまってよ
お前も行ってみたらいいんじゃねえの?」
「……最後に行ったのいつだったっけなってなるくらいには行ってないからさ、何が起きるかって言うと、歯医者への恐怖心がすごい」
「分かる」
「親知らずの抜歯を控えてる人がものすごい顔して頷いちゃった」
どんだけ怖いんだ、抜歯が
いやごめん怖いよね、怖くないはずがないよね
私も世間の目と社会的地位が許せば、泣いて癇癪を起こすと思う
「俺はそれよりも盲腸になった時のほうが恐ろしかったしな……」
「成実殿、盲腸の経験者でもござったか……
某にも理解できまする、あの痛みはまこと正気を失う程でござった」
「見えるよな、頭の後ろくらいに『死』の一文字が」
「そ、そんなに……?」
というか成実ってそんなあれこれ経験済みなんだ
私はまだ親知らずも盲腸も経験ないもんな
……いや、出来ればこの先も経験したくないけど
「親泰君は流石に盲腸になったことはないんだ」
「うん、こう見えてもストレス耐性には自信あるからね」
「……同情する」
かすががそう呟いて、親泰君の肩をポン……と叩いた
そりゃ親泰君に一番ストレスをかけているのが誰かなんて、言われなくても分かってしまうってもんである
親泰君は遠い目をして乾いた笑いを浮かべた
「閑話休題、とにかく親泰は頑張れ」
「あぁぁぁ」
「ここまで怯えた親泰殿は初めてでござる」
「そもそもなんで親知らず抜くってなったの?」
「最近、親知らずが顔出してきたから、隣の歯が虫歯になる前に抜いたほうがいいって言われて
俺はいつものクリーニングだと思って行ったのに、次回は抜歯だって……」
「あー……まあ、医者の言うことは聞いといたほうがいいぞ」
フォローにもなっていない成実の言葉だったのに、かすがが静かに頷いていた
親泰君ははたして、無事に抜歯を終えられるのか……
それは神のみぞ知ることである
……ただ親知らずを抜くだけなんだけどな
そのラウンジに集まった我々の中でただ一人、どデカいため息をつく男がいた
「はぁぁ……」
「どした、親泰?
肺の中の空気、全部出したみたいなため息ついて」
「……抜くことになっちゃったんだよ」
「抜くって?」
「アレだよ、アレ……」
親泰君は項垂れたまま、トントンと口の中を示した
そう、その名も──
50 親も知らぬアレ
あー、と経験者らしき成実とかすがは同情の目を向けた
ちなみに私はまだ未経験だったりする
痛いし腫れるって聞くから、密かに怯えている側だ
「どちらだ?
上か、下か?」
「下……」
「……そうか、気張るしかないな」
「慰めの言葉がもう少しあると思ったんだよ、俺は」
かすがの全てを諦めた一言に、親泰君はとうとうテーブルに突っ伏した
かすががそんな反応をするなんて……やっぱり親知らずを抜くのって痛いんだ……
「成実とかすがさんは経験済み?」
「俺は下だけ
上は綺麗に生えてるらしいから、痛くないなら抜かなくてもいいかって思って」
「私は四本すべて抜いたぞ」
「そっか……二人が抜いた時、やっぱり痛かった?」
「途中で麻酔が切れたから、そん時は、まぁ」
「ヒェ……」
親泰君が右の頬を押さえた
めちゃくちゃ怯えている、可哀想に
「私の場合はあまり腫れることもなかったな
ただ途中で縫合した糸が取れかけたのだが、傷も塞がっていたので、そのまま抜糸になった」
「そもそもあれ、麻酔が痛ぇんだよな」
「麻酔さえ効けば、なんということはない
……まあ、あとは気合いだが」
「かすがさんが根性論しか言わない!」
「つってもこっちに出来ることなんて、もう気合いで乗り切る覚悟を決めるくらいしかねーぞ?」
それはそうなんだろうけども
見なよ、親泰君の様子を
恐怖で死にそうになってるじゃん
「幸村と夕歌はまだ抜いたことねーんだっけ」
「うむ、某はまだ生えたままでござる」
「私も……」
そもそも歯医者だって、家族が亡くなってから行ってない
親族の家にいた頃は行かせてもらえるはずもなかったし
今は気軽に行っていいんだろうけど、なんていうか、歯が痛いわけでもないのにな、みたいな気持ちがあって……
「成実は歯医者よく行くの?」
「まあ、三ヶ月に一回は」
「めっちゃ行くね!?」
「なんつーか、ガキの頃から通ってたから、習慣化しちまってよ
お前も行ってみたらいいんじゃねえの?」
「……最後に行ったのいつだったっけなってなるくらいには行ってないからさ、何が起きるかって言うと、歯医者への恐怖心がすごい」
「分かる」
「親知らずの抜歯を控えてる人がものすごい顔して頷いちゃった」
どんだけ怖いんだ、抜歯が
いやごめん怖いよね、怖くないはずがないよね
私も世間の目と社会的地位が許せば、泣いて癇癪を起こすと思う
「俺はそれよりも盲腸になった時のほうが恐ろしかったしな……」
「成実殿、盲腸の経験者でもござったか……
某にも理解できまする、あの痛みはまこと正気を失う程でござった」
「見えるよな、頭の後ろくらいに『死』の一文字が」
「そ、そんなに……?」
というか成実ってそんなあれこれ経験済みなんだ
私はまだ親知らずも盲腸も経験ないもんな
……いや、出来ればこの先も経験したくないけど
「親泰君は流石に盲腸になったことはないんだ」
「うん、こう見えてもストレス耐性には自信あるからね」
「……同情する」
かすががそう呟いて、親泰君の肩をポン……と叩いた
そりゃ親泰君に一番ストレスをかけているのが誰かなんて、言われなくても分かってしまうってもんである
親泰君は遠い目をして乾いた笑いを浮かべた
「閑話休題、とにかく親泰は頑張れ」
「あぁぁぁ」
「ここまで怯えた親泰殿は初めてでござる」
「そもそもなんで親知らず抜くってなったの?」
「最近、親知らずが顔出してきたから、隣の歯が虫歯になる前に抜いたほうがいいって言われて
俺はいつものクリーニングだと思って行ったのに、次回は抜歯だって……」
「あー……まあ、医者の言うことは聞いといたほうがいいぞ」
フォローにもなっていない成実の言葉だったのに、かすがが静かに頷いていた
親泰君ははたして、無事に抜歯を終えられるのか……
それは神のみぞ知ることである
……ただ親知らずを抜くだけなんだけどな
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