05 新しい日常
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「いやぁ、まさか斎藤君がこのバカ息子の教え子だったとはなぁ!」
そう言って膝を叩いて笑うのは、御年60の師範
気まずそうに視線を逸らしたのは、その息子の片倉先生
なんと先生、この道場の師範代でもあったのだ
そりゃ強いよね……
「というか、知ってたなら教えてくれても!」
「驚かせてやろうかと思ってな」
「いらん気遣いを……」
「ま、この間、俺が実家に帰ったときに知ったんだ
親父が珍しく生徒の話をするんで、晩酌兼ねて付き合ってな
どうにも話を聞いてりゃオメェのことなんじゃねぇかと思ったら、大当たりだった」
「どんな話を……」
「何てことはねぇ、筋のいい女子生徒がいたが、4年前の2月に家庭の事情で急に引っ越しちまったってな」
「それだけでよく分かりましたね!?」
「そりゃあ、この近辺に住んでるとなりゃあ青葉中の奴だろう
青葉中の出でうちの親父のお墨付きを得るほどの筋となりゃあ限られてくるし、2月に急に引っ越したって聞けばオメェだってすぐ分かる」
「………」
相変わらず片倉先生は頭がいいというか……
「斎藤君さえよけりゃあ、またうちで剣道をやらんか?」
「えっ!
あ、でも私は大学の剣道部に……」
「大学?
明政大学かね?」
「え、はい
そうですけど……?」
「だったら問題ない、明政大学剣道部の指導者は私だ」
「師範なんですか!?」
「……そうじゃなけりゃ、政宗様が大学の剣道部になんざ入るわけねぇだろう」
「へ?」
「明政の剣道部って、別に強くはねぇぞ?
そこそこって感じだしなー
でもなんの偶然か、一昨年まで指導してた人が退任したらしくてさ
後任として白羽の矢が立ったのが師範だったんだと」
「それ本当に偶然ですよね……?」
「……俺たちは知らされてなかったぞ、政宗様もな」
「なんて偶然……」
「去年の春、別邸に帰ってきた綱元がすっげー顔で『師範に捕まった……』って言い出したから何かと思ったら、そういうことだったんだなって」
ケラケラと笑う成実にため息をつく片倉先生
確かに、師範は本当に厳しかったもんなぁ
お陰でめちゃくちゃ強くなったけど
「おっといかん、長話を」
「急に押し掛けてきて悪ぃな、親父」
「いやいや構わん、どれ、久しぶりに斎藤君を鍛えてやるとするか」
「えっ」
「師範のマンツーマンだとさ、良かったな夕歌」
「成実、それ本心から言ってる?」
「オメェは俺がみっちりしごいてやる
半端やるんじゃねぇぞ、成実」
「うげぇ……こじゅ兄のマンツーマンは嬉しくないぞ……」
「代わる?」
「それはもっと嬉しくない」
冷静に断られてしまったので、おとなしく師範に揉まれることにした
更衣室に向かって、道着に着替える
この更衣室も変わらないなぁ
「お待たせしました!」
「おう、来たか」
成実と片倉先生はすでに着替え終わっていて、私も体を解すことにした
「おら、もっと伸ばせるだろうが」
「いたたたた!!」
くそう、主人が主人なら従者も従者だ!
容赦なく背中を押されて、否が応でも前屈が伸びる
隣の成実からも悲鳴と苦悶の声が上がっていたので、おそらく師範が伸ばしているんだろう
そんなこんなで、準備運動の時点で疲れてしまった私たち
身体を温める意味もあって道場内を十周走って、一旦休憩を挟んでようやく竹刀を持った
通常のメニューである素振りをこなして、師範と師範代から容赦なく檄が飛ぶ
打ち合いになる頃には、私も成実もヘトヘトだった
「き……厳しすぎません……!?」
「鈍った身体を鍛え直すにゃ丁度いいだろうが」
「こ、こじゅ兄の鬼……!」
しかし、思った以上に体力と筋力が落ちてるな……
一応は走り込みとかはしてたけど……
「五分したら再開するぞ、しっかり休んでおけ」
「はい……」
「くっそぉ、俺も鍛練ちょっとサボってたしな……」
道場の床に転がった成実が唸ってタオルを顔に被せた
面白かったので上から押さえつけると、「何すんだ!」と抗議の声が上がって
「そういうことをする奴はこうだ!」
「ぎゃあ!!
ちょっと、汗くっさ!!」
タオルを私の顔面に被せてきたので、割と本気で叩いてしまった
「仲が良いなぁ、恋人か?」
「へ、恋人?
俺とこいつがっすか?
いやぁそれはないっすよ!」
勘弁してくれ、という顔で成実が手を振る
無駄に腹が立ったので、無言で殴っておいた
「いってぇな、一々手を出すな!
梵に嫌われても知らねぇぞ!」
「政宗さんにはこんなことしないもん!
成実がうるさいからでしょ!」
「んだとコラァ!?」
「……政宗様?」
「あ、こいつ梵の嫁です」
「……言い出しにくかったんですけど、実は姓が斎藤から伊達に変わってます」
やっぱり伊達家と付き合いがあるから、政宗さんのことは様付けなんだろうなぁ、と思っていると
師範の視線が私と片倉先生を往復して
片倉先生が反論しないと見るや、「えぇぇえ!!?」と人生で一番の大声を上げたのだった
……師範のあんなに驚いた声を聞くのは、後にも先にもこの一回だけだったんだろうな、と思わせるような驚嘆の声だった
そう言って膝を叩いて笑うのは、御年60の師範
気まずそうに視線を逸らしたのは、その息子の片倉先生
なんと先生、この道場の師範代でもあったのだ
そりゃ強いよね……
「というか、知ってたなら教えてくれても!」
「驚かせてやろうかと思ってな」
「いらん気遣いを……」
「ま、この間、俺が実家に帰ったときに知ったんだ
親父が珍しく生徒の話をするんで、晩酌兼ねて付き合ってな
どうにも話を聞いてりゃオメェのことなんじゃねぇかと思ったら、大当たりだった」
「どんな話を……」
「何てことはねぇ、筋のいい女子生徒がいたが、4年前の2月に家庭の事情で急に引っ越しちまったってな」
「それだけでよく分かりましたね!?」
「そりゃあ、この近辺に住んでるとなりゃあ青葉中の奴だろう
青葉中の出でうちの親父のお墨付きを得るほどの筋となりゃあ限られてくるし、2月に急に引っ越したって聞けばオメェだってすぐ分かる」
「………」
相変わらず片倉先生は頭がいいというか……
「斎藤君さえよけりゃあ、またうちで剣道をやらんか?」
「えっ!
あ、でも私は大学の剣道部に……」
「大学?
明政大学かね?」
「え、はい
そうですけど……?」
「だったら問題ない、明政大学剣道部の指導者は私だ」
「師範なんですか!?」
「……そうじゃなけりゃ、政宗様が大学の剣道部になんざ入るわけねぇだろう」
「へ?」
「明政の剣道部って、別に強くはねぇぞ?
そこそこって感じだしなー
でもなんの偶然か、一昨年まで指導してた人が退任したらしくてさ
後任として白羽の矢が立ったのが師範だったんだと」
「それ本当に偶然ですよね……?」
「……俺たちは知らされてなかったぞ、政宗様もな」
「なんて偶然……」
「去年の春、別邸に帰ってきた綱元がすっげー顔で『師範に捕まった……』って言い出したから何かと思ったら、そういうことだったんだなって」
ケラケラと笑う成実にため息をつく片倉先生
確かに、師範は本当に厳しかったもんなぁ
お陰でめちゃくちゃ強くなったけど
「おっといかん、長話を」
「急に押し掛けてきて悪ぃな、親父」
「いやいや構わん、どれ、久しぶりに斎藤君を鍛えてやるとするか」
「えっ」
「師範のマンツーマンだとさ、良かったな夕歌」
「成実、それ本心から言ってる?」
「オメェは俺がみっちりしごいてやる
半端やるんじゃねぇぞ、成実」
「うげぇ……こじゅ兄のマンツーマンは嬉しくないぞ……」
「代わる?」
「それはもっと嬉しくない」
冷静に断られてしまったので、おとなしく師範に揉まれることにした
更衣室に向かって、道着に着替える
この更衣室も変わらないなぁ
「お待たせしました!」
「おう、来たか」
成実と片倉先生はすでに着替え終わっていて、私も体を解すことにした
「おら、もっと伸ばせるだろうが」
「いたたたた!!」
くそう、主人が主人なら従者も従者だ!
容赦なく背中を押されて、否が応でも前屈が伸びる
隣の成実からも悲鳴と苦悶の声が上がっていたので、おそらく師範が伸ばしているんだろう
そんなこんなで、準備運動の時点で疲れてしまった私たち
身体を温める意味もあって道場内を十周走って、一旦休憩を挟んでようやく竹刀を持った
通常のメニューである素振りをこなして、師範と師範代から容赦なく檄が飛ぶ
打ち合いになる頃には、私も成実もヘトヘトだった
「き……厳しすぎません……!?」
「鈍った身体を鍛え直すにゃ丁度いいだろうが」
「こ、こじゅ兄の鬼……!」
しかし、思った以上に体力と筋力が落ちてるな……
一応は走り込みとかはしてたけど……
「五分したら再開するぞ、しっかり休んでおけ」
「はい……」
「くっそぉ、俺も鍛練ちょっとサボってたしな……」
道場の床に転がった成実が唸ってタオルを顔に被せた
面白かったので上から押さえつけると、「何すんだ!」と抗議の声が上がって
「そういうことをする奴はこうだ!」
「ぎゃあ!!
ちょっと、汗くっさ!!」
タオルを私の顔面に被せてきたので、割と本気で叩いてしまった
「仲が良いなぁ、恋人か?」
「へ、恋人?
俺とこいつがっすか?
いやぁそれはないっすよ!」
勘弁してくれ、という顔で成実が手を振る
無駄に腹が立ったので、無言で殴っておいた
「いってぇな、一々手を出すな!
梵に嫌われても知らねぇぞ!」
「政宗さんにはこんなことしないもん!
成実がうるさいからでしょ!」
「んだとコラァ!?」
「……政宗様?」
「あ、こいつ梵の嫁です」
「……言い出しにくかったんですけど、実は姓が斎藤から伊達に変わってます」
やっぱり伊達家と付き合いがあるから、政宗さんのことは様付けなんだろうなぁ、と思っていると
師範の視線が私と片倉先生を往復して
片倉先生が反論しないと見るや、「えぇぇえ!!?」と人生で一番の大声を上げたのだった
……師範のあんなに驚いた声を聞くのは、後にも先にもこの一回だけだったんだろうな、と思わせるような驚嘆の声だった