05 新しい日常
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
午後の講義も全部終わって、後は帰るだけ
政宗さんは剣道部の練習があって一緒には帰れないので、私は帰り道は商学部組と一緒に帰ることになった
「……あ、そうだ」
おもむろにスマホを取り出して、お目当ての人物に電話をかける
予想通り、数コールで出てくれた
『はい、片倉』
「お久しぶりです、片倉先生!」
『夕歌か?
どうした、政宗様が何か──』
「政宗さんは関係ないです
実はかくかくしかじか……」
要件を手短に話すと、片倉先生は『なるほどな』と呟いた
『大学はもう終わったのか』
「はい、私は終わりました」
『よし、それじゃあそのまま家で待ってろ
俺が別邸に戻ったら迎えに行ってやる』
「ありがとうございます!」
ぷつ、と電話が切れる
予想通りだ……さすが片倉先生……
「何のお話をされていたのでござるか?」
「んっとね、先生が暇なら剣道の稽古をつけてほしいなって」
「なるほど?
そんで見事にこじゅ兄の暇を引き当てたってわけだ?」
「まさか二つ返事とは思わなかったけどね」
多少は渋られると思っていたけど、案外あっさりと引き受けてくれた
片倉先生も、政宗さんと一緒に過ごす時間が少なくなって暇を持て余しているらしい
確かに、政宗さんがいたら暇なんて言葉は出てこないもんな……
「なぁ夕歌、それ俺もついてっていいか?」
「いいけど?」
「よっしゃ!
サンキューな!」
どうやら、このお従弟様も、暇を持て余した部類の人間であったようだ
* * *
家に帰って、剣道に必要な防具やらを用意していると、夜の七時を回った頃に家のインターホンが鳴って、片倉先生と成実がセットでやって来た
「よお、久しぶりだな」
「お久しぶりです、って言ってもこの間会いましたけど」
「はは……前は毎日のように顔合わせてたからな
数日会わねぇとどうにも」
苦笑のように眉尻を下げて、片倉先生が玄関に置いていた防具を車に乗せてくれた
「ああ、オメェは後部座席だぞ」
「えっ」
「悪いな、助手席は俺の場所だ」
そう言って成実が助手席に乗り込む
仕方ないので、おとなしく後部座席のドアを開けた
「あ、和真さん」
「はい」
「申し訳ないんですが、そのまま家にいてくれませんか?
政宗さん、疲れて帰ってくると思うので、夕食の用意をお願いします」
「畏まりました
行ってらっしゃいませ、お嬢様」
恭しいお辞儀で見送られて、私は片倉先生の運転する黒塗りのベンツで自宅前を後にした
「どこに向かうんですか?」
「うちがよく使わせてもらってる剣道場」
「そんなのあるんだ……」
「そりゃもちろん」
成実にとっては慣れた道らしく、ぼーっと外を眺めていた
車は大通りの交差点を何度か曲がって、徐々に住宅街のような場所へ入っていく
「……ん?」
「どうした?」
「いや、なんか……見覚えがあるというか……」
というか……ここって、青葉中の近くなんじゃ……?
外は暗くなったので景色は分かりづらい
でも、薄らぼんやりと見える景色は、数年前によく見ていた景色のようだった
「……着いたぞ」
そう言って先生が車を止めたのは
「片倉剣術道場」と書かれた木製の看板がかかった剣道場
「……え?」
「何だよ、その素っ頓狂な声は」
「いや、だってここ……」
「ああ、ここは俺の実家だ」
「実家ぁ!?」
どうして高校三年間で気付かなかったんだろう
その可能性があったのに!
「こんばんはー」
「ただいま」
成実と片倉先生が道場へと上がっていく
私も恐る恐る、道場へと足を踏み入れた
「失礼します」
「ん?
お客さんかな?」
道場の中で成実、片倉先生と話していた人が私を見る
そして──その瞳をこれでもかと見開いた
「ご無沙汰してます
……師範」
「斎藤君……?
斎藤君なのかね?」
「はい、斎藤です
斎藤夕歌です」
「え、なに?
夕歌、知り合いなのか?」
「知り合いというか、中二の冬までここで剣道やってたっていうか」
「え、は?
はぁ!?」
片倉先生を見上げると、表情は変わらなかった
これは知っていた顔だな
教えてくれても良かっただろうに……
そっかそっか……ここ、片倉先生の実家だったんだ
「え?
じゃあ片倉先生って師範の……」
「息子だぞ?」
その日、今日一番の大声が、私の口から飛び出した
政宗さんは剣道部の練習があって一緒には帰れないので、私は帰り道は商学部組と一緒に帰ることになった
「……あ、そうだ」
おもむろにスマホを取り出して、お目当ての人物に電話をかける
予想通り、数コールで出てくれた
『はい、片倉』
「お久しぶりです、片倉先生!」
『夕歌か?
どうした、政宗様が何か──』
「政宗さんは関係ないです
実はかくかくしかじか……」
要件を手短に話すと、片倉先生は『なるほどな』と呟いた
『大学はもう終わったのか』
「はい、私は終わりました」
『よし、それじゃあそのまま家で待ってろ
俺が別邸に戻ったら迎えに行ってやる』
「ありがとうございます!」
ぷつ、と電話が切れる
予想通りだ……さすが片倉先生……
「何のお話をされていたのでござるか?」
「んっとね、先生が暇なら剣道の稽古をつけてほしいなって」
「なるほど?
そんで見事にこじゅ兄の暇を引き当てたってわけだ?」
「まさか二つ返事とは思わなかったけどね」
多少は渋られると思っていたけど、案外あっさりと引き受けてくれた
片倉先生も、政宗さんと一緒に過ごす時間が少なくなって暇を持て余しているらしい
確かに、政宗さんがいたら暇なんて言葉は出てこないもんな……
「なぁ夕歌、それ俺もついてっていいか?」
「いいけど?」
「よっしゃ!
サンキューな!」
どうやら、このお従弟様も、暇を持て余した部類の人間であったようだ
* * *
家に帰って、剣道に必要な防具やらを用意していると、夜の七時を回った頃に家のインターホンが鳴って、片倉先生と成実がセットでやって来た
「よお、久しぶりだな」
「お久しぶりです、って言ってもこの間会いましたけど」
「はは……前は毎日のように顔合わせてたからな
数日会わねぇとどうにも」
苦笑のように眉尻を下げて、片倉先生が玄関に置いていた防具を車に乗せてくれた
「ああ、オメェは後部座席だぞ」
「えっ」
「悪いな、助手席は俺の場所だ」
そう言って成実が助手席に乗り込む
仕方ないので、おとなしく後部座席のドアを開けた
「あ、和真さん」
「はい」
「申し訳ないんですが、そのまま家にいてくれませんか?
政宗さん、疲れて帰ってくると思うので、夕食の用意をお願いします」
「畏まりました
行ってらっしゃいませ、お嬢様」
恭しいお辞儀で見送られて、私は片倉先生の運転する黒塗りのベンツで自宅前を後にした
「どこに向かうんですか?」
「うちがよく使わせてもらってる剣道場」
「そんなのあるんだ……」
「そりゃもちろん」
成実にとっては慣れた道らしく、ぼーっと外を眺めていた
車は大通りの交差点を何度か曲がって、徐々に住宅街のような場所へ入っていく
「……ん?」
「どうした?」
「いや、なんか……見覚えがあるというか……」
というか……ここって、青葉中の近くなんじゃ……?
外は暗くなったので景色は分かりづらい
でも、薄らぼんやりと見える景色は、数年前によく見ていた景色のようだった
「……着いたぞ」
そう言って先生が車を止めたのは
「片倉剣術道場」と書かれた木製の看板がかかった剣道場
「……え?」
「何だよ、その素っ頓狂な声は」
「いや、だってここ……」
「ああ、ここは俺の実家だ」
「実家ぁ!?」
どうして高校三年間で気付かなかったんだろう
その可能性があったのに!
「こんばんはー」
「ただいま」
成実と片倉先生が道場へと上がっていく
私も恐る恐る、道場へと足を踏み入れた
「失礼します」
「ん?
お客さんかな?」
道場の中で成実、片倉先生と話していた人が私を見る
そして──その瞳をこれでもかと見開いた
「ご無沙汰してます
……師範」
「斎藤君……?
斎藤君なのかね?」
「はい、斎藤です
斎藤夕歌です」
「え、なに?
夕歌、知り合いなのか?」
「知り合いというか、中二の冬までここで剣道やってたっていうか」
「え、は?
はぁ!?」
片倉先生を見上げると、表情は変わらなかった
これは知っていた顔だな
教えてくれても良かっただろうに……
そっかそっか……ここ、片倉先生の実家だったんだ
「え?
じゃあ片倉先生って師範の……」
「息子だぞ?」
その日、今日一番の大声が、私の口から飛び出した