43 そして夏は終わらない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お盆休みも明けた八月中旬
喧しい蝉の声にもめげず、酷暑の気温にも立ち向かい
私達は外に──
「出ただけでえらくない?
もう帰ろ」
「まだ玄関だぞー」
成実のツッコミも暑さにやられてキレを失ってしまったようだ
本格的に今日はもう稽古なんかやらずに、休みにしたほうがいいと思う
46 そして夏は終わらない
約二週間ぶりの剣道場は既に人で賑わっていた
挨拶をしながら更衣室のドアを開けると、中はなんか甘い匂いと華やかな香りが混じって、すごいことになっている
「何これ、くさッ!!」
「梵の土産だっつうメープルシロップと、俺の土産だったラベンダーの匂いが混じって、最悪なことになっちまった」
「うわぁ……
別々ならいい匂いなのに……」
厳密に言うとメープルシロップそのものではなく、メープルシロップを使ったお菓子がお土産なのだけれど、それにしたって匂いがひどい
とりあえず緊急で窓を開けて、匂いを逃がすことにした
道着に着替えて更衣室を出ると、道場には師範が到着していた
……隣に倅の姿が見えるのは気のせいか?
「幻覚?
片倉先生がいる気する」
「残念、現実」
「なんで?」
「え?
お前聞いてねぇの?
今日と明日は特別講師的なやつでこじゅ兄が来るって」
「いや聞いてない聞いてない!
そんなんいつ言ってた!?」
「盆前に俺は梵から聞いた」
「だからさぁ、なんで私の前で情報が遮断されんの?」
北米旅行の時も思ったけど、本当になぜ私の元までやってきてくれないんだろう、情報が
絶対に意図的にシャットアウトしてるんだよね
隣に立っている政宗さんを見上げる
「部長、言い訳なら聞きますよ」
「知ってたら面白くねぇだろ」
「面白い面白くないとかじゃなくて!」
「つべこべうるせぇぞ斎藤!!」
「理不尽!!」
まだ何も言ってないのに片倉先生から怒られた
つべこべの「つべ」くらいしか文句言ってないのに
「旅行と盆休みで鈍った身体を鍛え直すには丁度良いだろうが
覚悟するんだな」
「マジでシャレにならんことなりそうで怖いんですけど」
「安心しろ、死にはしねぇ」
「死にはしないから死ぬ気で頑張れとか言うんでしょ!
いきなりハードモードすぎるんですよ!
ゼロか百しかないんかァ!!」
片倉先生が鬱陶しそうに耳を指で塞ぐ
キャンキャンうるせぇみたいな顔するな、傷つくぞ
「片倉先生が来たってことは、どうせ私達、伊達組だけ別メニューとか言うんでしょうし」
「ほぉ、よく分かってるじゃねぇか」
「分かりたくなかった〜」
ほらよ、と片倉先生がメニュー表を渡してくる
それを受け取ってざっと眺め、「なるほど」と頷いてから、すぅと息を吸って叫んだ
「鬼!!」
「あぁ?
どこがだ、良心的だろうが」
「それこそどこがだよって話ですが!?」
「夕歌ー、どうせこの後、俺らは死ぬ寸前までシゴかれるんだからよぉ
そんな叫んでっと無駄に体力使ってバテるだけだぜー?」
「……それはそうなんだけど!」
でもやっぱさぁ!
二週間も稽古をしなかった人間に課すメニューにしては殺人的すぎるっていうか!
慈悲が無いにも程があるっていうか!!
「よし、揃ったな
整列!」
政宗さんの号令で整列する
「礼!」
「「よろしくお願いします!!」」
やだー!
よろしくお願いしたくなーい!!
しくしくと心の中で泣きながらストレッチに入る
いつも通り成実とペアを組むと、政宗さんは恨めしそうな顔を成実に向けたあと、片倉先生と組んだ
「成実のお土産さぁ、食べ物じゃないんだ」
「そうそう、女子は年中ハンドクリームを持ち歩くって聞いたから、ラベンダーのハンドクリームにしたんだよ
好評みたいで嬉しいぜ」
「そうやってモテポを稼いでどうすんのー」
「どうもしねぇよ、稼いでるつもりもねぇし
だってこのクソ暑い季節に食品は怖いだろ、色々
だったらハンドクリームのほうがまだ安心じゃね?」
「まぁそれは一理ある
私らはお菓子を持ってきちゃったけど」
「今日中に食ってけって言っとけば?」
「そうするー」
ぐーっと成実の背中を押すと、「ぐぇ」という、カエルが潰れるみたいな音が聞こえた
でもちゃんと上半身が床に着いているので、成実はやっぱり身体が柔らかい
「はい交代〜」
「お手柔らかにお願いします成実先生」
「任せろ、全力で押す」
「何の『任せろ』だった?」
容赦なく背中を押され、身体が悲鳴を上げながら前へ倒れる
懸命に息を吐いて五秒キープして、ゆっくりと上体を起こしていく
それを数セット繰り返して、次のストレッチへ移った
……身体、ちょっと固くなってたな
喧しい蝉の声にもめげず、酷暑の気温にも立ち向かい
私達は外に──
「出ただけでえらくない?
もう帰ろ」
「まだ玄関だぞー」
成実のツッコミも暑さにやられてキレを失ってしまったようだ
本格的に今日はもう稽古なんかやらずに、休みにしたほうがいいと思う
46 そして夏は終わらない
約二週間ぶりの剣道場は既に人で賑わっていた
挨拶をしながら更衣室のドアを開けると、中はなんか甘い匂いと華やかな香りが混じって、すごいことになっている
「何これ、くさッ!!」
「梵の土産だっつうメープルシロップと、俺の土産だったラベンダーの匂いが混じって、最悪なことになっちまった」
「うわぁ……
別々ならいい匂いなのに……」
厳密に言うとメープルシロップそのものではなく、メープルシロップを使ったお菓子がお土産なのだけれど、それにしたって匂いがひどい
とりあえず緊急で窓を開けて、匂いを逃がすことにした
道着に着替えて更衣室を出ると、道場には師範が到着していた
……隣に倅の姿が見えるのは気のせいか?
「幻覚?
片倉先生がいる気する」
「残念、現実」
「なんで?」
「え?
お前聞いてねぇの?
今日と明日は特別講師的なやつでこじゅ兄が来るって」
「いや聞いてない聞いてない!
そんなんいつ言ってた!?」
「盆前に俺は梵から聞いた」
「だからさぁ、なんで私の前で情報が遮断されんの?」
北米旅行の時も思ったけど、本当になぜ私の元までやってきてくれないんだろう、情報が
絶対に意図的にシャットアウトしてるんだよね
隣に立っている政宗さんを見上げる
「部長、言い訳なら聞きますよ」
「知ってたら面白くねぇだろ」
「面白い面白くないとかじゃなくて!」
「つべこべうるせぇぞ斎藤!!」
「理不尽!!」
まだ何も言ってないのに片倉先生から怒られた
つべこべの「つべ」くらいしか文句言ってないのに
「旅行と盆休みで鈍った身体を鍛え直すには丁度良いだろうが
覚悟するんだな」
「マジでシャレにならんことなりそうで怖いんですけど」
「安心しろ、死にはしねぇ」
「死にはしないから死ぬ気で頑張れとか言うんでしょ!
いきなりハードモードすぎるんですよ!
ゼロか百しかないんかァ!!」
片倉先生が鬱陶しそうに耳を指で塞ぐ
キャンキャンうるせぇみたいな顔するな、傷つくぞ
「片倉先生が来たってことは、どうせ私達、伊達組だけ別メニューとか言うんでしょうし」
「ほぉ、よく分かってるじゃねぇか」
「分かりたくなかった〜」
ほらよ、と片倉先生がメニュー表を渡してくる
それを受け取ってざっと眺め、「なるほど」と頷いてから、すぅと息を吸って叫んだ
「鬼!!」
「あぁ?
どこがだ、良心的だろうが」
「それこそどこがだよって話ですが!?」
「夕歌ー、どうせこの後、俺らは死ぬ寸前までシゴかれるんだからよぉ
そんな叫んでっと無駄に体力使ってバテるだけだぜー?」
「……それはそうなんだけど!」
でもやっぱさぁ!
二週間も稽古をしなかった人間に課すメニューにしては殺人的すぎるっていうか!
慈悲が無いにも程があるっていうか!!
「よし、揃ったな
整列!」
政宗さんの号令で整列する
「礼!」
「「よろしくお願いします!!」」
やだー!
よろしくお願いしたくなーい!!
しくしくと心の中で泣きながらストレッチに入る
いつも通り成実とペアを組むと、政宗さんは恨めしそうな顔を成実に向けたあと、片倉先生と組んだ
「成実のお土産さぁ、食べ物じゃないんだ」
「そうそう、女子は年中ハンドクリームを持ち歩くって聞いたから、ラベンダーのハンドクリームにしたんだよ
好評みたいで嬉しいぜ」
「そうやってモテポを稼いでどうすんのー」
「どうもしねぇよ、稼いでるつもりもねぇし
だってこのクソ暑い季節に食品は怖いだろ、色々
だったらハンドクリームのほうがまだ安心じゃね?」
「まぁそれは一理ある
私らはお菓子を持ってきちゃったけど」
「今日中に食ってけって言っとけば?」
「そうするー」
ぐーっと成実の背中を押すと、「ぐぇ」という、カエルが潰れるみたいな音が聞こえた
でもちゃんと上半身が床に着いているので、成実はやっぱり身体が柔らかい
「はい交代〜」
「お手柔らかにお願いします成実先生」
「任せろ、全力で押す」
「何の『任せろ』だった?」
容赦なく背中を押され、身体が悲鳴を上げながら前へ倒れる
懸命に息を吐いて五秒キープして、ゆっくりと上体を起こしていく
それを数セット繰り返して、次のストレッチへ移った
……身体、ちょっと固くなってたな
1/3ページ