05 新しい日常
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「さて、もうすぐ昼も終わるが……
お前らは?」
お弁当を食べ終え、蓋をしてお弁当用の保冷バッグに入れた政宗さんが私たちを見る
「商学部組は三限は空きです」
「親泰は?」
「僕は必修が」
「そういう梵は?」
「俺も次は講義」
鞄を肩にかけて立ち上がった政宗さんを追うように、綱元先輩も立ち上がった
とはいえ、教室自体は違うようで
「あれ?
それじゃあ、政宗さんが講義中の護衛は誰が……」
「もちろん!
俺っスよ!!」
「うひゃあ!?」
唐突に降って沸いた声に肩が跳ねる
当の本人は呵々と笑って「大成功ッスね!」と言っていた
「る、留守さん!」
「ウッス!
留守です、お久しぶりです姐さん!
もー、坊ちゃんがなかなか来られないんで、迎えに来ちゃいました」
「今から行こうとしてたんだよ」
「ッスよね!
あ、お席はいつもの場所にお取りしてますよ!
そんじゃ……あ、すんません坊ちゃん、お先に教室に向かっててもらえます?」
留守さんの視線の先には成実がいて、僅かに首を傾げた政宗さんは得心したように歩き出した
その後を追うのは、綱元先輩
その二人の後姿が小さくなって、留守さんは成実に向かって口を開いた
「……すいませんでした」
「えっなに、急にどうしたんだよ」
何を言うのかと思えば、留守さんは成実に向かって90度に頭を下げたのだった
動揺したのは成実だ、確かに、留守さんから謝られる覚えはないだろう
「……こういう立場になって分かったんスよ
坊ちゃんのためなら何だってやるって立場になって、ようやく」
「分かったって、何が?」
「俺達が、成実様の立場にどんだけ甘えてたか──」
「………」
「成実様が坊ちゃんのお傍にずっとはいられない今、坊ちゃんの講義中の護衛は俺がやってます
そりゃ、その程度しかやってないんで、成実様がやってきたことに比べたら……アレですけど
でも、キツイッス
四六時中、気を張ってなきゃいけない……坊ちゃんの身に何かがあったら、死んででも守る……
これだけでもしんどいのに、成実様、それに加えて外敵の排除まで……」
「……まぁ、な」
顔を反らした成実が首の後ろに手を当てて呟く
確かに……成実は、一人でやるには多すぎるぐらいに色んな役目を担っていた気がする
「なんで、全部やっちゃったんスか?」
「なんでって……」
「大人を頼っても良かったのに……ううん、頼るべきだったんスよ
だって成実様、まだ子供なんスもん」
「それを許されなかっただけだ
実際、一番自由に動けたのは俺だっただろ」
「それでも……成実様は、抱え過ぎたんスよ
背負わなくていいモンまで背負っちまって……」
「っ、うるせぇな
そうさせたのはお前ら大人だろうが!」
は、と留守さんが息を呑む
成実もそれで気が付いて、気まずそうに口を閉ざした
「ワリ、忘れてくれ
ともかく……俺は望んでやったんだ、お前が謝ることじゃねぇよ
それが梵のためになるって信じてたから……」
「なんでそこまで、自分が壊れるまで……」
「……仕方ねぇだろ?
そうなってでも守りたいって思わせるのが、あいつなんだ
お前だってそうじゃねぇのか?」
「成実様……」
「ほら、梵のこと頼んだぞ
あいつもう教室なんじゃねぇか?」
「あ……ウス
そんじゃあ皆さん、姐さん、失礼します」
留守さんが校舎へと走っていくのを見送る
その姿を見つめていた成実が、どさりとベンチに座り込んだ
「……馬鹿じゃねぇの、あいつ」
「成実」
「大人を頼れって……馬鹿だ、そんなの
大人に言われたからやってきたのに……そんな大人を頼れなんて、矛盾も良いところだ」
「成実殿……」
「……ほんと、馬鹿だよ……
もっと早く言ってくれりゃ、俺だって……」
俯いた成実の顔を髪が隠す
成実の心が折れてしまった日のことは、私もまだ覚えている
想像の何倍も苦しかったんだろうことも察せられる
誰に頼ることも出来ずに、一人で
それが政宗さんのためだと信じて……
「遅ぇっつんだよ、馬鹿景」
彼の言う通りだ
……成実にとっては救いとなるべきだったその一言は、発せられるにはあまりにも遅すぎた
誰もが……気付くのが遅すぎた
成実の負担、そこから生じる苦痛と苦悩に
「今からでも、遅くはないと思うよ」
「………」
「みんな、成実のためなら何だってしてくれるよ
だって成実だもん」
「なんだそりゃ」
「成実にだって、守りたいって思わせるだけの人望があるってこと」
「……どうだか」
「素直じゃないなぁ?」
「生憎、守られるのは性に合わないんでな」
誰かを守ってる方が楽でいい、と呟いて、成実は背もたれに背中を預けて、空を見上げた
そうやって……『昔』からずっと、政宗さんを守ってきたんだろう
『政宗様』やその時代にいた皆が最後どうなったかは、私は知らないけど
「ここに梵がいりゃあ、前世から学ばねぇなって笑ってんだろうけど
……残念ながら、伊達成実ってのは今生でも前世でも、そういう生き方しかできねぇのさ」
必要以上に責任を感じて、余計なものまで背負おうとする
そうやって背負いすぎて……最後には抱えきれなくなって折れちまう
そういう奴なんだ、と
誰に言うでもなく、成実は呟いていた
お前らは?」
お弁当を食べ終え、蓋をしてお弁当用の保冷バッグに入れた政宗さんが私たちを見る
「商学部組は三限は空きです」
「親泰は?」
「僕は必修が」
「そういう梵は?」
「俺も次は講義」
鞄を肩にかけて立ち上がった政宗さんを追うように、綱元先輩も立ち上がった
とはいえ、教室自体は違うようで
「あれ?
それじゃあ、政宗さんが講義中の護衛は誰が……」
「もちろん!
俺っスよ!!」
「うひゃあ!?」
唐突に降って沸いた声に肩が跳ねる
当の本人は呵々と笑って「大成功ッスね!」と言っていた
「る、留守さん!」
「ウッス!
留守です、お久しぶりです姐さん!
もー、坊ちゃんがなかなか来られないんで、迎えに来ちゃいました」
「今から行こうとしてたんだよ」
「ッスよね!
あ、お席はいつもの場所にお取りしてますよ!
そんじゃ……あ、すんません坊ちゃん、お先に教室に向かっててもらえます?」
留守さんの視線の先には成実がいて、僅かに首を傾げた政宗さんは得心したように歩き出した
その後を追うのは、綱元先輩
その二人の後姿が小さくなって、留守さんは成実に向かって口を開いた
「……すいませんでした」
「えっなに、急にどうしたんだよ」
何を言うのかと思えば、留守さんは成実に向かって90度に頭を下げたのだった
動揺したのは成実だ、確かに、留守さんから謝られる覚えはないだろう
「……こういう立場になって分かったんスよ
坊ちゃんのためなら何だってやるって立場になって、ようやく」
「分かったって、何が?」
「俺達が、成実様の立場にどんだけ甘えてたか──」
「………」
「成実様が坊ちゃんのお傍にずっとはいられない今、坊ちゃんの講義中の護衛は俺がやってます
そりゃ、その程度しかやってないんで、成実様がやってきたことに比べたら……アレですけど
でも、キツイッス
四六時中、気を張ってなきゃいけない……坊ちゃんの身に何かがあったら、死んででも守る……
これだけでもしんどいのに、成実様、それに加えて外敵の排除まで……」
「……まぁ、な」
顔を反らした成実が首の後ろに手を当てて呟く
確かに……成実は、一人でやるには多すぎるぐらいに色んな役目を担っていた気がする
「なんで、全部やっちゃったんスか?」
「なんでって……」
「大人を頼っても良かったのに……ううん、頼るべきだったんスよ
だって成実様、まだ子供なんスもん」
「それを許されなかっただけだ
実際、一番自由に動けたのは俺だっただろ」
「それでも……成実様は、抱え過ぎたんスよ
背負わなくていいモンまで背負っちまって……」
「っ、うるせぇな
そうさせたのはお前ら大人だろうが!」
は、と留守さんが息を呑む
成実もそれで気が付いて、気まずそうに口を閉ざした
「ワリ、忘れてくれ
ともかく……俺は望んでやったんだ、お前が謝ることじゃねぇよ
それが梵のためになるって信じてたから……」
「なんでそこまで、自分が壊れるまで……」
「……仕方ねぇだろ?
そうなってでも守りたいって思わせるのが、あいつなんだ
お前だってそうじゃねぇのか?」
「成実様……」
「ほら、梵のこと頼んだぞ
あいつもう教室なんじゃねぇか?」
「あ……ウス
そんじゃあ皆さん、姐さん、失礼します」
留守さんが校舎へと走っていくのを見送る
その姿を見つめていた成実が、どさりとベンチに座り込んだ
「……馬鹿じゃねぇの、あいつ」
「成実」
「大人を頼れって……馬鹿だ、そんなの
大人に言われたからやってきたのに……そんな大人を頼れなんて、矛盾も良いところだ」
「成実殿……」
「……ほんと、馬鹿だよ……
もっと早く言ってくれりゃ、俺だって……」
俯いた成実の顔を髪が隠す
成実の心が折れてしまった日のことは、私もまだ覚えている
想像の何倍も苦しかったんだろうことも察せられる
誰に頼ることも出来ずに、一人で
それが政宗さんのためだと信じて……
「遅ぇっつんだよ、馬鹿景」
彼の言う通りだ
……成実にとっては救いとなるべきだったその一言は、発せられるにはあまりにも遅すぎた
誰もが……気付くのが遅すぎた
成実の負担、そこから生じる苦痛と苦悩に
「今からでも、遅くはないと思うよ」
「………」
「みんな、成実のためなら何だってしてくれるよ
だって成実だもん」
「なんだそりゃ」
「成実にだって、守りたいって思わせるだけの人望があるってこと」
「……どうだか」
「素直じゃないなぁ?」
「生憎、守られるのは性に合わないんでな」
誰かを守ってる方が楽でいい、と呟いて、成実は背もたれに背中を預けて、空を見上げた
そうやって……『昔』からずっと、政宗さんを守ってきたんだろう
『政宗様』やその時代にいた皆が最後どうなったかは、私は知らないけど
「ここに梵がいりゃあ、前世から学ばねぇなって笑ってんだろうけど
……残念ながら、伊達成実ってのは今生でも前世でも、そういう生き方しかできねぇのさ」
必要以上に責任を感じて、余計なものまで背負おうとする
そうやって背負いすぎて……最後には抱えきれなくなって折れちまう
そういう奴なんだ、と
誰に言うでもなく、成実は呟いていた