35 意志を継ぐ者
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ところで、ここに呼んだ張本人であるおばあちゃんの姿が見えない
信幸先輩と武田社長たちと離れてから、再びお義父さんお義母さんについて回って、あらかたの挨拶は終えたはずだ
……どうしたんだろう、体調悪くて急きょ欠席とかじゃないといいけど
「夕歌お嬢様」
おばあちゃんの心配をしていた私へ、静かな声がかかった
目の前には森口さんが立っている
「森口さん!
ご無沙汰してます」
「お久しぶりです、お嬢様
政宗様も、お元気そうで何よりです」
「Long time no see.
藤野の婆さんはピンピンしてやがるみてぇだな」
「ふふ……会長は再び藤野商事の舵を取るようになってから、ますますお元気になられましたので
それはそうとお嬢様、芳江会長がお嬢様をお呼びでございます
恐れ入りますが、私にご同行いただいても宜しいでしょうか」
「それは……おばあちゃんが私をここに招待したことに、関係があるんですね?」
森口さんは微笑んだままだ
是とも否とも言わなかった
自分で考えろ、と、そういうことだろう
「……政宗さん、少し席を外します」
「All right.
親父達には伝えておいてやる」
「ありがとうございます」
政宗さんとその場で分かれて、森口さんと一緒に会場を抜け出す
そうして向かった先は、ひとつの控え室だった
森口さんがドアをノックする
「芳江会長、夕歌お嬢様をお連れしました」
「通してちょうだい」
森口さんがドアを開いて私を通す
部屋の中にいたおばあちゃんは、藤色の着物を着てソファへ座っていた
「久しぶり、おばあちゃん」
「久しぶりね
綺麗に着飾った夕歌を見るのは初めてだわ」
うふふ、と嬉しそうに微笑んで、おばあちゃんが向かいのソファへ座るよう手で示した
ふかふかのソファに腰掛け、森口さんが差し出してくれたコーヒーを受け取る
一口飲んでから、おばあちゃんを見つめた
「それで……そろそろ理由を教えてくれる?
どうしてこのパーティーに私を呼んだのか」
「そうね、あなたも気になっていたことでしょうから
……ねえ夕歌、これはあくまで、あなたの意思を問うだけなのだけれど」
おばあちゃんが変わらない微笑みを浮かべ、私を見つめる
その視線が、私を試すような色に変わったのを、私は見逃さなかった
「あなた、藤野を継ぐ気はある?」
「……」
元々、私が継ぐのは斎藤グループが手がけていた事業だった
藤野グループはあくまで、社長であった佳宏氏の家系で繋げていく予定だったから
……けれど藤野佳宏は暴行罪で逮捕され、余罪を含めて再逮捕までされてしまっている
経営に携わるのは不可能だろう
「……私が嫌って言ったら?」
「藤野一族が経営から退くだけね
それもいいかと思っているわ
家族経営が必ずしも良い結果を残すとは言えない
……三代目が会社を潰すとは、よく言ったものだわ」
藤野商事は藤野佳宏が三代目社長だった
私や母の出自に執着しなければ、まだまともな社長だったろうに
「……そっか」
「結論は急いで出そうとしなくていいわ
あなたの人生に関わることだもの、しっかりと考えてちょうだい
ただ、あなたならあるいはと、私は思っているの」
「買い被りすぎかもしれないよ
私はやっと政宗さんの妻として、こういう場所にも顔を出すようにはなったけど、まだまだ力不足だなって実感してるし」
「あら、そう?
森口はあなたを褒めていたわよ
パーティーに出るようになったばかりとは思えないって」
思わず背後の森口さんを振り向く
森口さんは微かに微笑んだまま、歩く目礼をした
「……もう少し、自分に自信を持ってもいいと思うわ
それでも、あなたが持っている感覚は、忘れずにね
あの破天荒親子に振り回されているだろうけれど、どうして美奈子が一般家庭と同じ質の生活を送っていたのか、考えてみて」
……それは私の中で答えが出ている
お母さんは、世間とのズレを生じさせたくなかったんだ
婆娑羅学院の生徒はみんな大なり小なり資産を持っていて、一般家庭とはとても言えない金持ち軍団だったけど
ほとんどの人は一般人だし、お母さんの会社が相手にする先だってそういう会社がほとんどだったはず
「心配してくれてた?」
「可愛い孫娘ですもの、心配するのは当然のことよ」
「ふふ、ありがとう」
コーヒーを飲み終えて、席を立つ
おばあちゃんも私を見送るべく、ソファから立ち上がった
「いい返事を期待しているわ……と言うと、プレッシャーをかけているようでよくないわね
私はどちらでも構わないわ
夕歌はいずれ、伊達家当主の妻という立場になる
あの伊達財閥の社長夫人、由緒ある伊達家の奥方というだけでも、大変な負担となるはず
それでも藤野グループの社長という重責を担おうと思えたなら、私は喜んであなたを後継者として指名します」
「……うん」
政宗さんの妻であるということは、きっと私が思う以上に大変なことなんだろう
……それでも、もし、みんなが私を支えてくれるなら
私は、お母さんやおばあちゃんの意志を継ぎたい
私が受け継いでも許されるのなら、そうしたいと、ずっと思ってきた
「また連絡するね」
「ええ」
おばあちゃんに見送られて、控え室から会場へ戻る
さて、政宗さんはなんて言うだろうか
楽しみな反面、ちょっと緊張する
会場へ入ると、探すまでもなく政宗さんがこちらへ歩いてきた
小さく手を振ってそちらへと歩み寄る
お義父さんとお義母さんにも出迎えられた時、ようやくパーティーが始まった
信幸先輩と武田社長たちと離れてから、再びお義父さんお義母さんについて回って、あらかたの挨拶は終えたはずだ
……どうしたんだろう、体調悪くて急きょ欠席とかじゃないといいけど
「夕歌お嬢様」
おばあちゃんの心配をしていた私へ、静かな声がかかった
目の前には森口さんが立っている
「森口さん!
ご無沙汰してます」
「お久しぶりです、お嬢様
政宗様も、お元気そうで何よりです」
「Long time no see.
藤野の婆さんはピンピンしてやがるみてぇだな」
「ふふ……会長は再び藤野商事の舵を取るようになってから、ますますお元気になられましたので
それはそうとお嬢様、芳江会長がお嬢様をお呼びでございます
恐れ入りますが、私にご同行いただいても宜しいでしょうか」
「それは……おばあちゃんが私をここに招待したことに、関係があるんですね?」
森口さんは微笑んだままだ
是とも否とも言わなかった
自分で考えろ、と、そういうことだろう
「……政宗さん、少し席を外します」
「All right.
親父達には伝えておいてやる」
「ありがとうございます」
政宗さんとその場で分かれて、森口さんと一緒に会場を抜け出す
そうして向かった先は、ひとつの控え室だった
森口さんがドアをノックする
「芳江会長、夕歌お嬢様をお連れしました」
「通してちょうだい」
森口さんがドアを開いて私を通す
部屋の中にいたおばあちゃんは、藤色の着物を着てソファへ座っていた
「久しぶり、おばあちゃん」
「久しぶりね
綺麗に着飾った夕歌を見るのは初めてだわ」
うふふ、と嬉しそうに微笑んで、おばあちゃんが向かいのソファへ座るよう手で示した
ふかふかのソファに腰掛け、森口さんが差し出してくれたコーヒーを受け取る
一口飲んでから、おばあちゃんを見つめた
「それで……そろそろ理由を教えてくれる?
どうしてこのパーティーに私を呼んだのか」
「そうね、あなたも気になっていたことでしょうから
……ねえ夕歌、これはあくまで、あなたの意思を問うだけなのだけれど」
おばあちゃんが変わらない微笑みを浮かべ、私を見つめる
その視線が、私を試すような色に変わったのを、私は見逃さなかった
「あなた、藤野を継ぐ気はある?」
「……」
元々、私が継ぐのは斎藤グループが手がけていた事業だった
藤野グループはあくまで、社長であった佳宏氏の家系で繋げていく予定だったから
……けれど藤野佳宏は暴行罪で逮捕され、余罪を含めて再逮捕までされてしまっている
経営に携わるのは不可能だろう
「……私が嫌って言ったら?」
「藤野一族が経営から退くだけね
それもいいかと思っているわ
家族経営が必ずしも良い結果を残すとは言えない
……三代目が会社を潰すとは、よく言ったものだわ」
藤野商事は藤野佳宏が三代目社長だった
私や母の出自に執着しなければ、まだまともな社長だったろうに
「……そっか」
「結論は急いで出そうとしなくていいわ
あなたの人生に関わることだもの、しっかりと考えてちょうだい
ただ、あなたならあるいはと、私は思っているの」
「買い被りすぎかもしれないよ
私はやっと政宗さんの妻として、こういう場所にも顔を出すようにはなったけど、まだまだ力不足だなって実感してるし」
「あら、そう?
森口はあなたを褒めていたわよ
パーティーに出るようになったばかりとは思えないって」
思わず背後の森口さんを振り向く
森口さんは微かに微笑んだまま、歩く目礼をした
「……もう少し、自分に自信を持ってもいいと思うわ
それでも、あなたが持っている感覚は、忘れずにね
あの破天荒親子に振り回されているだろうけれど、どうして美奈子が一般家庭と同じ質の生活を送っていたのか、考えてみて」
……それは私の中で答えが出ている
お母さんは、世間とのズレを生じさせたくなかったんだ
婆娑羅学院の生徒はみんな大なり小なり資産を持っていて、一般家庭とはとても言えない金持ち軍団だったけど
ほとんどの人は一般人だし、お母さんの会社が相手にする先だってそういう会社がほとんどだったはず
「心配してくれてた?」
「可愛い孫娘ですもの、心配するのは当然のことよ」
「ふふ、ありがとう」
コーヒーを飲み終えて、席を立つ
おばあちゃんも私を見送るべく、ソファから立ち上がった
「いい返事を期待しているわ……と言うと、プレッシャーをかけているようでよくないわね
私はどちらでも構わないわ
夕歌はいずれ、伊達家当主の妻という立場になる
あの伊達財閥の社長夫人、由緒ある伊達家の奥方というだけでも、大変な負担となるはず
それでも藤野グループの社長という重責を担おうと思えたなら、私は喜んであなたを後継者として指名します」
「……うん」
政宗さんの妻であるということは、きっと私が思う以上に大変なことなんだろう
……それでも、もし、みんなが私を支えてくれるなら
私は、お母さんやおばあちゃんの意志を継ぎたい
私が受け継いでも許されるのなら、そうしたいと、ずっと思ってきた
「また連絡するね」
「ええ」
おばあちゃんに見送られて、控え室から会場へ戻る
さて、政宗さんはなんて言うだろうか
楽しみな反面、ちょっと緊張する
会場へ入ると、探すまでもなく政宗さんがこちらへ歩いてきた
小さく手を振ってそちらへと歩み寄る
お義父さんとお義母さんにも出迎えられた時、ようやくパーティーが始まった
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