35 意志を継ぐ者
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そうして当日の夜
政宗さんのタイの色と合わせたドレスを着て、私は原田さんの運転する車に乗り込んだ
心臓が口から飛び出しそうだ
政財界の集まりと聞いただけで胃が痛い
夜でも眩しい都心を走り抜けて、車は高級ホテルへと入っていく
ホテルマンが車のドアを開けて恭しく頭を下げた
車を降りてから政宗さんの腕をとり、お義父さん達と一緒にホテルへと入る
ホテルで一番広い宴会場に通されると、眩いばかりに輝くシャンデリアが空間を照らしていた
「……眩しい」
「慣れろ」
短くそう返されて、政宗さんへ軽く口を尖らせる
そりゃ政宗さんは慣れてるだろうけど!
「輝宗社長、ご無沙汰しております」
早速誰かから声を掛けられた
あ、この人は知ってる
某メガバンクの頭取だ
「義子夫人も、ご無沙汰しております」
「こちらこそ」
お義父さんとお義母さんがにこやかに会話をして、頭取の目が私達へ向かう
一緒にいるから、政宗さんが誰かは見当がつくとは思うけど……
「お会いするのは初めてですな
三津木銀行頭取の楢島です」
「伊達政宗です
こちらは妻の夕歌です」
「初めまして」
楢島頭取と握手をして、世間話をしていく
といいつつ、頭取は政宗さんとしか話さなかったから、私は隣でにこにこしておくだけで終わった
楢島頭取が離れていって、ほっと息をつく
「三津木銀行の楢島頭取のこと、知ってたのか?
まあ有名だしなぁ、ニュースとかでよく見る顔か」
「あ、はい
見たことあるなって思ってましたし、今日の招待客も大体は頭に入れてるので」
「またかよ!?」
「また無理したんじゃないでしょうね!?」
「し、してません!
怒らせると面倒なんですよ、和真さんと政宗さん!」
「俺もかよ!」
「一番面倒くさい怒り方する自覚くらい持っててくださいよ」
お義母さんの冷たい視線が政宗さんへ向けられた
形勢不利と分かったのか、政宗さんがそっぽを向く
その先で何かを見つけ、その左目が微かに見開かれた
「……珍しい野郎が来たもんだと思ってな」
「珍しい人?」
視線の先にいるのは……いつぞや、幸村君と学院の門前で殴り合いをしていた大柄な人だ
あの剃髪に髭、見覚えある
「あれって武田の……
幸村君のお師匠さんでしたよね?」
「知ってんのか?」
「あ、はい
学院に入学して間もない頃、校門のところで幸村君と殴り合ってたので……」
「Oh……」
その近くにいる人影が、武田社長の影から出る
瞬間、私は「えっ」と声を上げた
「あれって信幸先輩!?」
「そりゃあ武田のオッサンがいるなら、信幸の野郎もいるだろ」
「そうなんですか!?」
「Ah?
真田は武田の傘下だぞ」
「そうだった……!」
そんな話を幸村君から聞いたことがあった
さすがに幸村君はいないみたいだけど、信幸先輩とはお話ししたいなぁ
ちらりと政宗さんを見上げると、舌打ちをした後、政宗さんが連れて行ってくれた
そんな嫌そうにしなくたっていいだろうに
「Hey,武田のオッサン
相変わらず元気そうじゃねぇか」
「伊達の小伜め、憎まれ口は健在じゃの」
「信幸先輩、ご無沙汰してます!」
「これは夕歌さん、お久しぶりです
幸村がいつもお世話になっています」
「いえいえ!
こちらこそ、幸村君にはいつも元気をもらってますし!」
そして信幸先輩からは癒しを頂いております
本当に一家に一人ほしいよ、信幸先輩
「結婚生活は順調ですか?」
「あはは、色々ありましたけど概ね……
今は平和に過ごせてます」
「それは良かった」
ふふ、と穏やかに微笑む信幸先輩の周囲に、ほわっと癒しの空間が広がる
緊張がどこかに飛んで行ったので、このままそばにいさせてもらえないだろうか
「しかし珍しいですね、政宗君はともかく、夕歌さんまでこの場に招待されているとは」
「そうなんですよ
もう何かやらかさないか自分で自分が心配で」
「ふふ、大丈夫でしょう
夕歌さんは立派な若奥様ですし、何か失敗しても、政宗君や社長ご夫妻がカバーしてくれますよ」
「あう……なるべく、迷惑はかけない方向で頑張ります」
「それは違いますよ」
信幸先輩が穏やかな声音で優しく否定した
首を傾げると、やはり先輩は優しく微笑んだまま
「大きな舞台に立つのは初めてなのですから、失敗はあって当然です
胸を借りるつもりでいるくらいが丁度いいんですよ
いいですか、夕歌さん
自立するだけが大人になるということではありません
周囲の人間を頼れるようになってこそ、大人というものです
遠慮なく政宗君を頼るといい
夕歌さんに頼られて嫌がる人ではないでしょう」
学院時代からずっと言われてきたことだ
人を頼れ、と
今でも十分、みんなを頼ってきたつもりだったけど、もう少し頼ってもいいのかな
なんだかんだ本番に強いタイプだから、失敗らしい失敗もしていないけど
つい、と政宗さんを見上げると、思いのほか真剣な眼差しが私に注がれていた
「……そうですね
頑張りすぎないようにします」
「言質は取ったぜ?」
「う……はい」
ものすごく嫌な予感しかしなかったけど、今更遅い
頑張りすぎないようにすればいいんだ
普通に頑張るのはありだと思うし、うん、大丈夫だ!
……本当に大丈夫かな、これ
政宗さんのタイの色と合わせたドレスを着て、私は原田さんの運転する車に乗り込んだ
心臓が口から飛び出しそうだ
政財界の集まりと聞いただけで胃が痛い
夜でも眩しい都心を走り抜けて、車は高級ホテルへと入っていく
ホテルマンが車のドアを開けて恭しく頭を下げた
車を降りてから政宗さんの腕をとり、お義父さん達と一緒にホテルへと入る
ホテルで一番広い宴会場に通されると、眩いばかりに輝くシャンデリアが空間を照らしていた
「……眩しい」
「慣れろ」
短くそう返されて、政宗さんへ軽く口を尖らせる
そりゃ政宗さんは慣れてるだろうけど!
「輝宗社長、ご無沙汰しております」
早速誰かから声を掛けられた
あ、この人は知ってる
某メガバンクの頭取だ
「義子夫人も、ご無沙汰しております」
「こちらこそ」
お義父さんとお義母さんがにこやかに会話をして、頭取の目が私達へ向かう
一緒にいるから、政宗さんが誰かは見当がつくとは思うけど……
「お会いするのは初めてですな
三津木銀行頭取の楢島です」
「伊達政宗です
こちらは妻の夕歌です」
「初めまして」
楢島頭取と握手をして、世間話をしていく
といいつつ、頭取は政宗さんとしか話さなかったから、私は隣でにこにこしておくだけで終わった
楢島頭取が離れていって、ほっと息をつく
「三津木銀行の楢島頭取のこと、知ってたのか?
まあ有名だしなぁ、ニュースとかでよく見る顔か」
「あ、はい
見たことあるなって思ってましたし、今日の招待客も大体は頭に入れてるので」
「またかよ!?」
「また無理したんじゃないでしょうね!?」
「し、してません!
怒らせると面倒なんですよ、和真さんと政宗さん!」
「俺もかよ!」
「一番面倒くさい怒り方する自覚くらい持っててくださいよ」
お義母さんの冷たい視線が政宗さんへ向けられた
形勢不利と分かったのか、政宗さんがそっぽを向く
その先で何かを見つけ、その左目が微かに見開かれた
「……珍しい野郎が来たもんだと思ってな」
「珍しい人?」
視線の先にいるのは……いつぞや、幸村君と学院の門前で殴り合いをしていた大柄な人だ
あの剃髪に髭、見覚えある
「あれって武田の……
幸村君のお師匠さんでしたよね?」
「知ってんのか?」
「あ、はい
学院に入学して間もない頃、校門のところで幸村君と殴り合ってたので……」
「Oh……」
その近くにいる人影が、武田社長の影から出る
瞬間、私は「えっ」と声を上げた
「あれって信幸先輩!?」
「そりゃあ武田のオッサンがいるなら、信幸の野郎もいるだろ」
「そうなんですか!?」
「Ah?
真田は武田の傘下だぞ」
「そうだった……!」
そんな話を幸村君から聞いたことがあった
さすがに幸村君はいないみたいだけど、信幸先輩とはお話ししたいなぁ
ちらりと政宗さんを見上げると、舌打ちをした後、政宗さんが連れて行ってくれた
そんな嫌そうにしなくたっていいだろうに
「Hey,武田のオッサン
相変わらず元気そうじゃねぇか」
「伊達の小伜め、憎まれ口は健在じゃの」
「信幸先輩、ご無沙汰してます!」
「これは夕歌さん、お久しぶりです
幸村がいつもお世話になっています」
「いえいえ!
こちらこそ、幸村君にはいつも元気をもらってますし!」
そして信幸先輩からは癒しを頂いております
本当に一家に一人ほしいよ、信幸先輩
「結婚生活は順調ですか?」
「あはは、色々ありましたけど概ね……
今は平和に過ごせてます」
「それは良かった」
ふふ、と穏やかに微笑む信幸先輩の周囲に、ほわっと癒しの空間が広がる
緊張がどこかに飛んで行ったので、このままそばにいさせてもらえないだろうか
「しかし珍しいですね、政宗君はともかく、夕歌さんまでこの場に招待されているとは」
「そうなんですよ
もう何かやらかさないか自分で自分が心配で」
「ふふ、大丈夫でしょう
夕歌さんは立派な若奥様ですし、何か失敗しても、政宗君や社長ご夫妻がカバーしてくれますよ」
「あう……なるべく、迷惑はかけない方向で頑張ります」
「それは違いますよ」
信幸先輩が穏やかな声音で優しく否定した
首を傾げると、やはり先輩は優しく微笑んだまま
「大きな舞台に立つのは初めてなのですから、失敗はあって当然です
胸を借りるつもりでいるくらいが丁度いいんですよ
いいですか、夕歌さん
自立するだけが大人になるということではありません
周囲の人間を頼れるようになってこそ、大人というものです
遠慮なく政宗君を頼るといい
夕歌さんに頼られて嫌がる人ではないでしょう」
学院時代からずっと言われてきたことだ
人を頼れ、と
今でも十分、みんなを頼ってきたつもりだったけど、もう少し頼ってもいいのかな
なんだかんだ本番に強いタイプだから、失敗らしい失敗もしていないけど
つい、と政宗さんを見上げると、思いのほか真剣な眼差しが私に注がれていた
「……そうですね
頑張りすぎないようにします」
「言質は取ったぜ?」
「う……はい」
ものすごく嫌な予感しかしなかったけど、今更遅い
頑張りすぎないようにすればいいんだ
普通に頑張るのはありだと思うし、うん、大丈夫だ!
……本当に大丈夫かな、これ