35 意志を継ぐ者
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無事に練習も終わり、全員見事に汗だくのまま更衣室へ向かうことになった
汗ふきシートと制汗スプレーの匂いで、室内は大変なことになっている
最終的に三年生の先輩が「くっさ!!」と言って窓を全開にした
私も汗ふきシートと制汗スプレーを振って着替え、更衣室の中にいる先輩達に挨拶して外へと出た
政宗さんが待っているかと思いきや、剣道場の入口には、政宗さんと共に和真さんが立っている
ここまで来ることは滅多にないから珍しい
「和真さん?」
「お嬢様、お稽古お疲れ様でございました
急で申し訳ないのですが、伊達本家よりお嬢様をお連れするよう仰せつかりまして
お疲れのところ恐れ入りますが、政宗様と共に本家までご案内しても宜しいでしょうか」
「ハァ……Just being selfish.
人の都合ってモンをまるっと無視してくれやがる」
「あはは……」
あの奔放さに一番慣れているはずの政宗さんも、ちょっとお怒り気味だ
しかし行かないというわけには行かないので、成実と綱元先輩に事情を説明して、私と政宗さんは和真さんの車で本家へ向かうことにした
「何のお話でしょうね?」
「……さぁな」
政宗さんでも見当がつかないのか
それは和真さんも同じようだ
人を呼び出しておいて、理由も説明しないとは、実にお義父さんらしいというか……
「夕飯は本家がご用意されているそうです
堅苦しい話をするつもりはないと仰っておられましたし、肩の力を抜かれて宜しいかと」
どうだろう……お義父さんのその発言、半分くらい信用ならないから……
理由にとんと見当もつかないまま、車は本家へ到着した
降りたところには原田さんがお出迎えしてくれている
「お帰りなさいませ、政宗様、夕歌さん」
「I'm home.」
「こんばんは、原田さん」
政宗さんに続いて車を降り、お屋敷の中へ
客間へ通されると、中には既にお義父さんとお義母さんがいた
政宗さんと私を見ると、二人ともがそれぞれの笑顔を浮かべて迎え入れてくれる
「おう、お帰り!
稽古で疲れたろ、お茶飲むか?」
「いいですか?
いただきますっ!」
政宗さんの隣に座って、お義母さんから冷たい麦茶をいただいた
ひと心地ついたところで、運ばれてきたのはお夕飯
小鉢とご飯とお吸い物がやってきて、メインはサワラの南蛮漬け
旬の食材を中心にしたご飯、それはそれは美味しそうだ
私のお腹がすごい音を出した
「さ、いただきましょうか」
「はいっ
いただきます!」
手を合わせてお吸い物を飲み、ご飯を大きく一口
空腹に染み渡る美味しさだ
「大学はどうだ?
夕歌ちゃんは入るゼミも決まったか?」
「あ、はい
有沢教授のゼミにしました」
「有沢……有沢?」
「斎藤教授の教え子だったらしい
恩師の後を継いで、同じ分野を研究してるんだと」
「なるほどなぁ」
政宗さんは経営理論に特化したゼミだから、私よりももっと実践的なことをしているようだ
私も迷ったけど、お父さんの研究分野が知りたかったから、成実たちの後押しもあって、有沢ゼミにしたわけで
「お父様の背を追いかけるのもいいわね
夕歌ちゃんのやりたいことをやるのが一番よ、せっかくの大学生活なんだものね」
「そうですね、後悔だけはしないようにって思ってます」
お義母さんに頷いて、ご飯を食べ終える
お腹が空きすぎて、味わうというよりも食べる方に意識が向いてしまっただけだ
せっかく本家の料理人が腕によりをかけてくれたって言うのに……
「……そろそろいいだろ」
ため息混じりにそう言って、政宗さんは眼差しを尖らせた
やれやれと首を振り、お義父さんが麦茶を飲む
お義母さんも何の話かは知っているようだけれど、お義父さんに任せるようだ
「お義父さん?」
「ん、ああ、悪い話じゃねぇから安心しな
藤野から連絡があってな――今度の政財界の集まり、二人を招待するってよ」
「……えっ」
思わず政宗さんを凝視してしまった
いや、異論があるとかいうわけではなくて、単純に私が行って大丈夫なのか、という問題があるわけで
「余裕でしくじりそうじゃないですか?」
「相変わらず自己評価がドン底だな」
「いやだって流石に……」
お義父さんとお義母さんが何も言わないということは、私をそういう場に出しても問題ないということなんだろうけど
絶対に何かやらかしそうで自分が怖い
政宗さんと違って、私は自分のことを過度に信用しないようにしているので、正直に言うとめっちゃ怖い
「お義父さんとお義母さんもいます?」
「もちろんいるわよ」
「ま、招待状は俺宛てだからなぁ
俺がいなけりゃ政宗と夕歌ちゃんも入れねぇって話だ
成実はいねぇけどな」
やっぱいないか……そりゃそうだよね……
成実と登勢がいてくれると、気持ち的にもっと楽だったんだけどな……
「とはいえあの婆さんのことだ、何かしらの目論見はあるだろうと踏んでる
そうじゃなきゃ、名指しで夕歌ちゃんを連れてこいなんて言わねぇだろうからな」
「それは、そうですよね……」
悪いようにはならないかな、とは思っているけれど、おばあちゃんが何を考えているか、私には分からない
まあ今更、突き放されたり縁を切ると言われる程度では……多少は傷つくけど、呑まれるまではない、はずだ
「ま、何を言ったって仕方ねぇ
受けちまったもんはな
あの婆さんがどう動くにしろ、俺達が夕歌を守るってことにゃ変わりねぇさ」
「そうよね、政宗にしては良いこと言うじゃない」
「そりゃどういう意味だ?
ま……あの馬鹿息子から守るために夕歌を突き放したくらいだ
夕歌への感情はplusだと思っていいだろうぜ
俺の見込み違いじゃなけりゃな」
政宗さんまでそう言うなら、信じてもいいだろう
幾分か心が軽くなって、パーティーにも前向きに挑めそうになったところで、ふと気付いた
踊ったりとか、しないよね……?
「じゃ、そういうわけだ!
今回はただのパーティーだし、踊ったりはしねぇから、夕歌ちゃんも気負わず参加できるだろ」
「はい!!」
「毎回律儀に小十郎にsparta指導されといて、まだ足踏みそうになるからな」
「なんでバラすんですか!!」
「ちったぁ反省しろ」
「しーてーまーすー!!」
これでも申し訳ないとは思ってるんだぞ!
主に練習相手の片倉先生と成実には!
でも最近はちょっとずつ上達してるはずだもん!
「小十郎呼んどくか?」というお義父さんのそれには全力で首を振った
無いなら無いに越したことはない、だって片倉先生めちゃくちゃ厳しいんだもん!
政宗さんからは呆れたような視線を投げかけられたけど、無視することで意思表示をした
何はともあれ、パーティーに向けてマナーの復習はしておかないとまずい
食後の緑茶を飲みながら、喜多先生の顔が浮かんできて、ちょっとだけ気が沈んだ
汗ふきシートと制汗スプレーの匂いで、室内は大変なことになっている
最終的に三年生の先輩が「くっさ!!」と言って窓を全開にした
私も汗ふきシートと制汗スプレーを振って着替え、更衣室の中にいる先輩達に挨拶して外へと出た
政宗さんが待っているかと思いきや、剣道場の入口には、政宗さんと共に和真さんが立っている
ここまで来ることは滅多にないから珍しい
「和真さん?」
「お嬢様、お稽古お疲れ様でございました
急で申し訳ないのですが、伊達本家よりお嬢様をお連れするよう仰せつかりまして
お疲れのところ恐れ入りますが、政宗様と共に本家までご案内しても宜しいでしょうか」
「ハァ……Just being selfish.
人の都合ってモンをまるっと無視してくれやがる」
「あはは……」
あの奔放さに一番慣れているはずの政宗さんも、ちょっとお怒り気味だ
しかし行かないというわけには行かないので、成実と綱元先輩に事情を説明して、私と政宗さんは和真さんの車で本家へ向かうことにした
「何のお話でしょうね?」
「……さぁな」
政宗さんでも見当がつかないのか
それは和真さんも同じようだ
人を呼び出しておいて、理由も説明しないとは、実にお義父さんらしいというか……
「夕飯は本家がご用意されているそうです
堅苦しい話をするつもりはないと仰っておられましたし、肩の力を抜かれて宜しいかと」
どうだろう……お義父さんのその発言、半分くらい信用ならないから……
理由にとんと見当もつかないまま、車は本家へ到着した
降りたところには原田さんがお出迎えしてくれている
「お帰りなさいませ、政宗様、夕歌さん」
「I'm home.」
「こんばんは、原田さん」
政宗さんに続いて車を降り、お屋敷の中へ
客間へ通されると、中には既にお義父さんとお義母さんがいた
政宗さんと私を見ると、二人ともがそれぞれの笑顔を浮かべて迎え入れてくれる
「おう、お帰り!
稽古で疲れたろ、お茶飲むか?」
「いいですか?
いただきますっ!」
政宗さんの隣に座って、お義母さんから冷たい麦茶をいただいた
ひと心地ついたところで、運ばれてきたのはお夕飯
小鉢とご飯とお吸い物がやってきて、メインはサワラの南蛮漬け
旬の食材を中心にしたご飯、それはそれは美味しそうだ
私のお腹がすごい音を出した
「さ、いただきましょうか」
「はいっ
いただきます!」
手を合わせてお吸い物を飲み、ご飯を大きく一口
空腹に染み渡る美味しさだ
「大学はどうだ?
夕歌ちゃんは入るゼミも決まったか?」
「あ、はい
有沢教授のゼミにしました」
「有沢……有沢?」
「斎藤教授の教え子だったらしい
恩師の後を継いで、同じ分野を研究してるんだと」
「なるほどなぁ」
政宗さんは経営理論に特化したゼミだから、私よりももっと実践的なことをしているようだ
私も迷ったけど、お父さんの研究分野が知りたかったから、成実たちの後押しもあって、有沢ゼミにしたわけで
「お父様の背を追いかけるのもいいわね
夕歌ちゃんのやりたいことをやるのが一番よ、せっかくの大学生活なんだものね」
「そうですね、後悔だけはしないようにって思ってます」
お義母さんに頷いて、ご飯を食べ終える
お腹が空きすぎて、味わうというよりも食べる方に意識が向いてしまっただけだ
せっかく本家の料理人が腕によりをかけてくれたって言うのに……
「……そろそろいいだろ」
ため息混じりにそう言って、政宗さんは眼差しを尖らせた
やれやれと首を振り、お義父さんが麦茶を飲む
お義母さんも何の話かは知っているようだけれど、お義父さんに任せるようだ
「お義父さん?」
「ん、ああ、悪い話じゃねぇから安心しな
藤野から連絡があってな――今度の政財界の集まり、二人を招待するってよ」
「……えっ」
思わず政宗さんを凝視してしまった
いや、異論があるとかいうわけではなくて、単純に私が行って大丈夫なのか、という問題があるわけで
「余裕でしくじりそうじゃないですか?」
「相変わらず自己評価がドン底だな」
「いやだって流石に……」
お義父さんとお義母さんが何も言わないということは、私をそういう場に出しても問題ないということなんだろうけど
絶対に何かやらかしそうで自分が怖い
政宗さんと違って、私は自分のことを過度に信用しないようにしているので、正直に言うとめっちゃ怖い
「お義父さんとお義母さんもいます?」
「もちろんいるわよ」
「ま、招待状は俺宛てだからなぁ
俺がいなけりゃ政宗と夕歌ちゃんも入れねぇって話だ
成実はいねぇけどな」
やっぱいないか……そりゃそうだよね……
成実と登勢がいてくれると、気持ち的にもっと楽だったんだけどな……
「とはいえあの婆さんのことだ、何かしらの目論見はあるだろうと踏んでる
そうじゃなきゃ、名指しで夕歌ちゃんを連れてこいなんて言わねぇだろうからな」
「それは、そうですよね……」
悪いようにはならないかな、とは思っているけれど、おばあちゃんが何を考えているか、私には分からない
まあ今更、突き放されたり縁を切ると言われる程度では……多少は傷つくけど、呑まれるまではない、はずだ
「ま、何を言ったって仕方ねぇ
受けちまったもんはな
あの婆さんがどう動くにしろ、俺達が夕歌を守るってことにゃ変わりねぇさ」
「そうよね、政宗にしては良いこと言うじゃない」
「そりゃどういう意味だ?
ま……あの馬鹿息子から守るために夕歌を突き放したくらいだ
夕歌への感情はplusだと思っていいだろうぜ
俺の見込み違いじゃなけりゃな」
政宗さんまでそう言うなら、信じてもいいだろう
幾分か心が軽くなって、パーティーにも前向きに挑めそうになったところで、ふと気付いた
踊ったりとか、しないよね……?
「じゃ、そういうわけだ!
今回はただのパーティーだし、踊ったりはしねぇから、夕歌ちゃんも気負わず参加できるだろ」
「はい!!」
「毎回律儀に小十郎にsparta指導されといて、まだ足踏みそうになるからな」
「なんでバラすんですか!!」
「ちったぁ反省しろ」
「しーてーまーすー!!」
これでも申し訳ないとは思ってるんだぞ!
主に練習相手の片倉先生と成実には!
でも最近はちょっとずつ上達してるはずだもん!
「小十郎呼んどくか?」というお義父さんのそれには全力で首を振った
無いなら無いに越したことはない、だって片倉先生めちゃくちゃ厳しいんだもん!
政宗さんからは呆れたような視線を投げかけられたけど、無視することで意思表示をした
何はともあれ、パーティーに向けてマナーの復習はしておかないとまずい
食後の緑茶を飲みながら、喜多先生の顔が浮かんできて、ちょっとだけ気が沈んだ