摺上原
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空の蒼が政宗様の色と同じくらい濃くなった、真夏の奥州。
鬨の声を上げて、奥州伊達軍と蘆名軍は、摺上原で激突した。
月夜姫様からお借りした結紐は、確と俺の甲冑の内側に入れている。
元々は田村領に攻め入らんとした岩城に対応するものだったが、ここに来て反伊達勢力のひとつであった片平がこちらへ恭順の意を示してきたのだ。
政宗様はこれを蘆名攻めの好機と見られ、蘆名領へと攻め入った。
そこへ相馬が介入するという噂が届き、政宗様へ相馬勢の足止めを進言。
是とした政宗様はすぐさま伊具郡の金山城──相馬の本拠地と隣接する城へと入城。
その勢いのままに相馬の城を次々と落とし、相馬勢は田村領から兵を引き上げた。
その戦後処理は亘理殿にお任せするようお伝えし、政宗様率いる伊達軍は相馬領から早々に撤退を済ませた。
元々が相馬の介入を防ぐための出陣。
目的を果たしたのならば、本来の戦に戻るだけだ。
そうして翌月、のらりくらりだった猪苗代が伊達の軍門に下り、蘆名との全面対決が決まった。
「さて、蘆名の奴は黒川城に戻る気はねぇようだが?」
本宮城へ入った政宗様は、すぐさま軍議を開いた。
広間に集まった我々に向けて、政宗様が軽い口調のまま言ったそれが、軍議の始まりの合図。
斥候の持ち帰った情報と地図を照らし合わせ、政宗様は俺を見やった。
「お前ならどうする、小十郎?」
「ならばこのまま、黒川城を落としにかかるのも一興かと」
「Fum?」
「政宗様は本隊を率いて、正面より迫られよ。それとは別に別働隊を作り、米沢方面より黒川城へ差し向ければ、東と北から黒川城へ迫ることが可能」
「なるほどな。よし、米沢に伝令を出せ。梵、別働隊は誰に引っ張ってもらうよ?」
「原田に任せろ。縁の下の力持ちの出番だろ?」
「ああ、いい判断だ」
従兄弟同士がさながら悪役のようにニヤリと笑って、方針が固まった。
別働隊による出陣の命を受け、原田宗時は兵を集めた後、米沢街道を通って黒川城方面へと南下を開始。
小倉城に兵を集めていた蘆名は、伊達軍が二方向から攻め込むと聞いたため、黒川城へと撤退。
猪苗代に入った伊達軍は、猪苗代湖を挟んで蘆名軍と睨み合うこととなる。
──事が動いたのは、その翌日だった。
攻め込まれたものを押し返し、戦場は摺上原へと移った。
先鋒と二番手を崩され、旗色はあまり芳しくない。
だが人取橋の時ほどではねぇ、勝機はまだこちらに残っている。
「小十郎様! 猪苗代隊からの伝令っす! 日橋は占拠したそうです!」
「よし、まずは先手を取れたか……! テメェら、今一度ここで気合いを入れ直せ!! 政宗様に二度も土を付けるつもりか!?」
「「オオウッ!!」」
蒼穹に棚引く、蒼の旗。
その風向きが──変わった。
西から東へ吹く風向きは、こちらの有利。
大崎葛西から集まった鉄砲隊は無事だ、となれば──。
「弾込め用意! 撃てッ!」
敵陣の横腹を突くように、種子島の音が響く。
弓矢も雨のように敵方へ降り注ぎ、一気に形成は逆転した。
勝機を逃さぬ、飛び道具たち──これはおそらく、白石殿だ。
隊を動かそうとした俺へ、今度は成実殿の声が飛んできた。
「片倉、ここは俺たちが持つ! 梵のところに行け! ちょっと深追いしすぎてる!」
「承知!」
旗色が優勢となった戦場を預け、政宗様の元へ走る。
敵陣のど真ん中で幾度も迸る蒼の稲妻は、主君が健在だと示していた。
ほんの少し息を整えられた、その一瞬の隙を突くように、旗本の槍が迫る。
政宗様も無論それに気付かれたが、反応が僅かに遅れた。
お顔が痛みを覚悟して強張る、その瞬間──。
「オルァ!!」
その槍ごと蹴飛ばした。
その勢いのまま、周囲に蠢く雑魚共を一刀のもとに斬り伏せ、殴り飛ばし、蹴り倒す。
政宗様には指一本触れさせねぇ。
背中はこの俺が守り抜く、そう決めてあるが故に!
「小十郎、やっと追いついたか。遅かったじゃねぇか」
「ご油断召されるな、政宗様! おひとりで先走って往かれるなと何度も申し上げたはず!」
「OK,OK.ちょいとheat upしすぎた。Coolにいかねぇとな」
戦場に似合わぬほど落ち着いた声音で返す政宗に頷き、背中合わせに黒龍を握り構える。
何度でも、どんなに先を往かれようとも、必ずやこの小十郎は、貴方のお背中をお守りする。
それが俺の、右目としての誓いだ。
敵の猛攻を突破した伊達の兵たちが、雪崩込むように俺たちの元へと集まってきた。
率いているのは成実殿だ。
「ひっとぉぉぉう!!」
「お待たせしやしたァ〜!!」
「俺ら、どこまでも筆頭について行きやすぜーッ!!」
「筆頭が天下獲る瞬間をこの目で見なきゃならねぇんだ! こんなところでくたばってられっかよォ!!」
威勢のいい奴らが迫ってくる蘆名軍を押し返していく。
先鋒と二番手を崩されたものの、俯瞰して見れば摺上原は伊達の優勢。
成実殿も義兄上も、猪苗代殿や片平殿も、それぞれ隊を率いて奮戦しておられる。
ならばここで一気に攻め込むことこそ勝機!
「テメェら、よくここまで追い付いた! 奥州統一がかかったとびきりのpartyだ、振り落とされるんじゃねえぜ!」
「「筆頭──!!」」
「OK! Are you ready guys!?」
「「Yeah──!!」」
もはや手の付けようもないほどに士気が高まっている。
怖気付いた蘆名軍など、もはや敵ではなかった。
蘆名の軍師が撤退を告げるも、その声が全体に届くより先に、伊達軍の声に呑まれていく。
「背中は預けたぜ、小十郎!」
「御意!」
日橋川へと敵を追い詰めるべく、隊を動かす。
二万もの軍勢が、俺の指揮で蘆名軍を囲いこんだ。
日橋川にかかる橋に、蘆名軍が退却していく。
「追うな!」と兵を止めた瞬間。
音を立てて、橋が崩落していった。
さすがは猪苗代殿、そのために日橋を押さえておられたのだろう。
先鋒を崩されたとて、ただでは転ばぬお方だ。
「……蘆名はこれで終わりだろうな」
「はい、おそらく」
「蘆名義広の動向だけ探らせておけ。明日には黒川を攻める」
「承知」
日橋川を溺死した蘆名の兵たちが流れていく。
それを見やり、政宗様は六爪を納めた。
撤収の合図を出して、夕空に法螺貝が鳴り響く。
蘆名軍を撤退させた伊達軍は一度、摺上原から猪苗代へと撤収。
蘆名攻めによる伊達の奥州平定は今、ここに佳境を迎えていた。
鬨の声を上げて、奥州伊達軍と蘆名軍は、摺上原で激突した。
月夜姫様からお借りした結紐は、確と俺の甲冑の内側に入れている。
元々は田村領に攻め入らんとした岩城に対応するものだったが、ここに来て反伊達勢力のひとつであった片平がこちらへ恭順の意を示してきたのだ。
政宗様はこれを蘆名攻めの好機と見られ、蘆名領へと攻め入った。
そこへ相馬が介入するという噂が届き、政宗様へ相馬勢の足止めを進言。
是とした政宗様はすぐさま伊具郡の金山城──相馬の本拠地と隣接する城へと入城。
その勢いのままに相馬の城を次々と落とし、相馬勢は田村領から兵を引き上げた。
その戦後処理は亘理殿にお任せするようお伝えし、政宗様率いる伊達軍は相馬領から早々に撤退を済ませた。
元々が相馬の介入を防ぐための出陣。
目的を果たしたのならば、本来の戦に戻るだけだ。
そうして翌月、のらりくらりだった猪苗代が伊達の軍門に下り、蘆名との全面対決が決まった。
「さて、蘆名の奴は黒川城に戻る気はねぇようだが?」
本宮城へ入った政宗様は、すぐさま軍議を開いた。
広間に集まった我々に向けて、政宗様が軽い口調のまま言ったそれが、軍議の始まりの合図。
斥候の持ち帰った情報と地図を照らし合わせ、政宗様は俺を見やった。
「お前ならどうする、小十郎?」
「ならばこのまま、黒川城を落としにかかるのも一興かと」
「Fum?」
「政宗様は本隊を率いて、正面より迫られよ。それとは別に別働隊を作り、米沢方面より黒川城へ差し向ければ、東と北から黒川城へ迫ることが可能」
「なるほどな。よし、米沢に伝令を出せ。梵、別働隊は誰に引っ張ってもらうよ?」
「原田に任せろ。縁の下の力持ちの出番だろ?」
「ああ、いい判断だ」
従兄弟同士がさながら悪役のようにニヤリと笑って、方針が固まった。
別働隊による出陣の命を受け、原田宗時は兵を集めた後、米沢街道を通って黒川城方面へと南下を開始。
小倉城に兵を集めていた蘆名は、伊達軍が二方向から攻め込むと聞いたため、黒川城へと撤退。
猪苗代に入った伊達軍は、猪苗代湖を挟んで蘆名軍と睨み合うこととなる。
──事が動いたのは、その翌日だった。
攻め込まれたものを押し返し、戦場は摺上原へと移った。
先鋒と二番手を崩され、旗色はあまり芳しくない。
だが人取橋の時ほどではねぇ、勝機はまだこちらに残っている。
「小十郎様! 猪苗代隊からの伝令っす! 日橋は占拠したそうです!」
「よし、まずは先手を取れたか……! テメェら、今一度ここで気合いを入れ直せ!! 政宗様に二度も土を付けるつもりか!?」
「「オオウッ!!」」
蒼穹に棚引く、蒼の旗。
その風向きが──変わった。
西から東へ吹く風向きは、こちらの有利。
大崎葛西から集まった鉄砲隊は無事だ、となれば──。
「弾込め用意! 撃てッ!」
敵陣の横腹を突くように、種子島の音が響く。
弓矢も雨のように敵方へ降り注ぎ、一気に形成は逆転した。
勝機を逃さぬ、飛び道具たち──これはおそらく、白石殿だ。
隊を動かそうとした俺へ、今度は成実殿の声が飛んできた。
「片倉、ここは俺たちが持つ! 梵のところに行け! ちょっと深追いしすぎてる!」
「承知!」
旗色が優勢となった戦場を預け、政宗様の元へ走る。
敵陣のど真ん中で幾度も迸る蒼の稲妻は、主君が健在だと示していた。
ほんの少し息を整えられた、その一瞬の隙を突くように、旗本の槍が迫る。
政宗様も無論それに気付かれたが、反応が僅かに遅れた。
お顔が痛みを覚悟して強張る、その瞬間──。
「オルァ!!」
その槍ごと蹴飛ばした。
その勢いのまま、周囲に蠢く雑魚共を一刀のもとに斬り伏せ、殴り飛ばし、蹴り倒す。
政宗様には指一本触れさせねぇ。
背中はこの俺が守り抜く、そう決めてあるが故に!
「小十郎、やっと追いついたか。遅かったじゃねぇか」
「ご油断召されるな、政宗様! おひとりで先走って往かれるなと何度も申し上げたはず!」
「OK,OK.ちょいとheat upしすぎた。Coolにいかねぇとな」
戦場に似合わぬほど落ち着いた声音で返す政宗に頷き、背中合わせに黒龍を握り構える。
何度でも、どんなに先を往かれようとも、必ずやこの小十郎は、貴方のお背中をお守りする。
それが俺の、右目としての誓いだ。
敵の猛攻を突破した伊達の兵たちが、雪崩込むように俺たちの元へと集まってきた。
率いているのは成実殿だ。
「ひっとぉぉぉう!!」
「お待たせしやしたァ〜!!」
「俺ら、どこまでも筆頭について行きやすぜーッ!!」
「筆頭が天下獲る瞬間をこの目で見なきゃならねぇんだ! こんなところでくたばってられっかよォ!!」
威勢のいい奴らが迫ってくる蘆名軍を押し返していく。
先鋒と二番手を崩されたものの、俯瞰して見れば摺上原は伊達の優勢。
成実殿も義兄上も、猪苗代殿や片平殿も、それぞれ隊を率いて奮戦しておられる。
ならばここで一気に攻め込むことこそ勝機!
「テメェら、よくここまで追い付いた! 奥州統一がかかったとびきりのpartyだ、振り落とされるんじゃねえぜ!」
「「筆頭──!!」」
「OK! Are you ready guys!?」
「「Yeah──!!」」
もはや手の付けようもないほどに士気が高まっている。
怖気付いた蘆名軍など、もはや敵ではなかった。
蘆名の軍師が撤退を告げるも、その声が全体に届くより先に、伊達軍の声に呑まれていく。
「背中は預けたぜ、小十郎!」
「御意!」
日橋川へと敵を追い詰めるべく、隊を動かす。
二万もの軍勢が、俺の指揮で蘆名軍を囲いこんだ。
日橋川にかかる橋に、蘆名軍が退却していく。
「追うな!」と兵を止めた瞬間。
音を立てて、橋が崩落していった。
さすがは猪苗代殿、そのために日橋を押さえておられたのだろう。
先鋒を崩されたとて、ただでは転ばぬお方だ。
「……蘆名はこれで終わりだろうな」
「はい、おそらく」
「蘆名義広の動向だけ探らせておけ。明日には黒川を攻める」
「承知」
日橋川を溺死した蘆名の兵たちが流れていく。
それを見やり、政宗様は六爪を納めた。
撤収の合図を出して、夕空に法螺貝が鳴り響く。
蘆名軍を撤退させた伊達軍は一度、摺上原から猪苗代へと撤収。
蘆名攻めによる伊達の奥州平定は今、ここに佳境を迎えていた。