摺上原
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日が昇ったのか、部屋が明るい。
目が覚めてぼんやりと昨夜のことを思い出し。
それから。
(やってしまった……)
腕の中で眠る月夜姫様を見つめ、盛大に後悔が押し寄せた。
年甲斐もないとはこのことだ。
そりゃあ俺も三十路の男、城下に住む女共の間で色男として名が知れ渡ったことも、色街で女を一晩買ったこともある。
だが月夜姫様はそんな女たちとはまるで違う。
生娘だからこそ、何が俺を煽ることになるのかも分かっておられねぇ。
熱に浮かされた声が上擦って名前を呼ぶ度、どうしようもなく腹の奥が熱くなって。
……この方は俺に甘すぎる。
好きにしていいなんて、獣を縛る鎖から手を離したらどうなるか、分からないはずもねぇだろうに。
「ん……こじゅろ……」
「お目覚めですか」
「んん、もう朝なの……」
「お疲れでしょう。もうしばらくお休みになられよ。その間に朝餉を用意して……」
「……や。ここにいて、小十郎」
「御意」
月夜姫様が俺をご所望とあらば、いつまでも。
満足そうに微笑んで擦り寄って、月夜姫様は俺をついと見上げた。
昨日のような色香は鳴りを潜めて、今はただ愛らしい姫君……いや、もう俺の奥方か。
不思議なもんだな、こうなることを俺は初め、望んじゃいなかったってのに。
「お身体は大事ないか」
「ちょっとだけ疲れてるけど、大丈夫よ。小十郎に優しくしてもらったもの」
「年甲斐もなく月夜姫様を抱き潰してしまいました故……。お痛みなどありませんか」
「平気だって言ったわ。小十郎は心配性ね」
「……心配くらい、させて下さい。貴女はすぐに不調を隠して、いつも通りに振る舞われる。それがどうにももどかしい。つらいならつらいと、遠慮なく仰ってください」
「小十郎は私のことを甘やかしすぎだと思うの。もう手を引いてもらわなくても、自分で歩けるのよ?」
「それは承知の事。しかしだからこそ、甘やかしたくもなるのです、月夜姫様」
おひとりで確と立って歩いて行かれる方であるからこそ、共に並んで歩いて行ける。
だがそれでもたまには、何もかもを俺に預けてほしいと願ってしまう。
これはただの傲慢か、それとも切なる願いか。
それは分からなくとも、俺はこれからも月夜姫様を甘やかしていくんだろう。
「それにしても驚いたわ。男の人って、あんなに何回もできるものなの?」
「うっ! そ、それは……まことにこの小十郎の不徳と致すところにて……」
「不徳なんかじゃないの、本当に嬉しかったのよ。小十郎があんなにも夢中になるくらい、私に魅力があったってことだもの」
「魅力ならば初めてお会いした時から小十郎の心は月夜姫様に魅了されたままですが」
「たまに一息で捲し立てるのはどうしてなの?」
それには答えず、月夜姫様をただ黙って抱き締めた。
月夜姫様の魅力は俺が知っていればそれでいい。
他の奴らに理解されてたまるか。
「そんなことを言うのは小十郎だけよ」と月夜姫様は可笑しそうに肩を揺らした──うっかり声に出ちまったらしい。
何を言ったって咎めもなさらねぇ。
月夜姫様のほうが余程、俺を甘やかしている。
「月夜姫様こそ、あまりこの小十郎を甘やかされませぬよう」
「あら、それは嫌よ。だって小十郎は自分に厳しすぎるもの。私が小十郎を甘やかしたって、罰は当たらないの」
「罰が当たるかどうかではなく、畏れ多くも月夜姫様の夫となりました身で、その上更にあれこれと笑って許されてしまえば、歯止めが効かなくなります」
「効かなくなっていいと思うの。だって私はどこへも行かないんだもの。小十郎の妻になったんだから、ずっと小十郎といるわ。生きるも死ぬも、小十郎と共にするって決めてるの」
「……まったく。この小十郎にはよほど勿体ない嫁御殿です」
「ふふ、精々大事にしてね?」
「この命ある限り」
今は顔を隠した月にさえ誓った。
生きるも死ぬも共にすると。
乱世を生きて、泰平成った世で月夜姫様と穏やかに暮らすこと。
その願いは、政宗様の宿願を果たされた後に。
そのためにも、まずは。
「夏になりましたら、いよいよ蘆名との戦となります。佐竹も絡んでの大戦となりましょうが、必ず戻るとお約束する」
「知っているわ。だけど武運を祈るわね」
「……では、月夜姫様。また結紐をお借りしても宜しいか」
「戦場に持っていくの? 構わないけど、新品は持っていなくて……」
「いえ、それで結構。普段使いの物をお借りしたく存じまする。必ず返さねばなりませぬゆえ」
「二本松攻めで味を占めたわね。じゃあちゃんと返しに戻ってきて。戦場に置いてきちゃ駄目よ?」
「御意」
徐に腕から抜け出した月夜姫様が、枕元に置いたままの結紐へ手を伸ばす。
その際に見えたご立派な果実からは、何とか目を逸らすことに成功した。
どうして俺の前だってのにこうも無防備でおられるんだ、このお方は……!!
なにが「俺の好みの大きさになるのは難しい」だ!
十五の娘がぶら下げていい大きさじゃなかった──何を言っているんだ俺は……。
「はい、小十郎。……小十郎? どうしたの? 天井を向いて手で顔を覆ってるけど」
「後生ですので、襦袢と浴衣をお召しになっていただきたく……」
「……照れてるの!? 昨日あんなに触ったのに!」
「言い方が! 言い方が悪いものと!」
「私ちゃんと覚えてるのよ、触った小十郎が『でけぇな……』って呟いたの!」
「お忘れください!! 今すぐ!!」
「無理よ!!」
昨日の余韻も何もなく、いつも通りに騒ぎながらの、初夜の翌朝。
着替えられた月夜姫様から結紐を預かった俺は、居た堪れずにはそのまま深々と頭を下げた。
月夜姫様のご尊顔に合わせる顔なんざ、どこにあるってんだ。
浮かれるな、片倉小十郎。
月夜姫様を嫁にもらってからが本番だろうが!
地に足つけていかねぇか!
顔を上げた先で、月夜姫様がにこりと微笑んでいる。
ああ、もう俺は駄目かもしれねぇな……。
目が覚めてぼんやりと昨夜のことを思い出し。
それから。
(やってしまった……)
腕の中で眠る月夜姫様を見つめ、盛大に後悔が押し寄せた。
年甲斐もないとはこのことだ。
そりゃあ俺も三十路の男、城下に住む女共の間で色男として名が知れ渡ったことも、色街で女を一晩買ったこともある。
だが月夜姫様はそんな女たちとはまるで違う。
生娘だからこそ、何が俺を煽ることになるのかも分かっておられねぇ。
熱に浮かされた声が上擦って名前を呼ぶ度、どうしようもなく腹の奥が熱くなって。
……この方は俺に甘すぎる。
好きにしていいなんて、獣を縛る鎖から手を離したらどうなるか、分からないはずもねぇだろうに。
「ん……こじゅろ……」
「お目覚めですか」
「んん、もう朝なの……」
「お疲れでしょう。もうしばらくお休みになられよ。その間に朝餉を用意して……」
「……や。ここにいて、小十郎」
「御意」
月夜姫様が俺をご所望とあらば、いつまでも。
満足そうに微笑んで擦り寄って、月夜姫様は俺をついと見上げた。
昨日のような色香は鳴りを潜めて、今はただ愛らしい姫君……いや、もう俺の奥方か。
不思議なもんだな、こうなることを俺は初め、望んじゃいなかったってのに。
「お身体は大事ないか」
「ちょっとだけ疲れてるけど、大丈夫よ。小十郎に優しくしてもらったもの」
「年甲斐もなく月夜姫様を抱き潰してしまいました故……。お痛みなどありませんか」
「平気だって言ったわ。小十郎は心配性ね」
「……心配くらい、させて下さい。貴女はすぐに不調を隠して、いつも通りに振る舞われる。それがどうにももどかしい。つらいならつらいと、遠慮なく仰ってください」
「小十郎は私のことを甘やかしすぎだと思うの。もう手を引いてもらわなくても、自分で歩けるのよ?」
「それは承知の事。しかしだからこそ、甘やかしたくもなるのです、月夜姫様」
おひとりで確と立って歩いて行かれる方であるからこそ、共に並んで歩いて行ける。
だがそれでもたまには、何もかもを俺に預けてほしいと願ってしまう。
これはただの傲慢か、それとも切なる願いか。
それは分からなくとも、俺はこれからも月夜姫様を甘やかしていくんだろう。
「それにしても驚いたわ。男の人って、あんなに何回もできるものなの?」
「うっ! そ、それは……まことにこの小十郎の不徳と致すところにて……」
「不徳なんかじゃないの、本当に嬉しかったのよ。小十郎があんなにも夢中になるくらい、私に魅力があったってことだもの」
「魅力ならば初めてお会いした時から小十郎の心は月夜姫様に魅了されたままですが」
「たまに一息で捲し立てるのはどうしてなの?」
それには答えず、月夜姫様をただ黙って抱き締めた。
月夜姫様の魅力は俺が知っていればそれでいい。
他の奴らに理解されてたまるか。
「そんなことを言うのは小十郎だけよ」と月夜姫様は可笑しそうに肩を揺らした──うっかり声に出ちまったらしい。
何を言ったって咎めもなさらねぇ。
月夜姫様のほうが余程、俺を甘やかしている。
「月夜姫様こそ、あまりこの小十郎を甘やかされませぬよう」
「あら、それは嫌よ。だって小十郎は自分に厳しすぎるもの。私が小十郎を甘やかしたって、罰は当たらないの」
「罰が当たるかどうかではなく、畏れ多くも月夜姫様の夫となりました身で、その上更にあれこれと笑って許されてしまえば、歯止めが効かなくなります」
「効かなくなっていいと思うの。だって私はどこへも行かないんだもの。小十郎の妻になったんだから、ずっと小十郎といるわ。生きるも死ぬも、小十郎と共にするって決めてるの」
「……まったく。この小十郎にはよほど勿体ない嫁御殿です」
「ふふ、精々大事にしてね?」
「この命ある限り」
今は顔を隠した月にさえ誓った。
生きるも死ぬも共にすると。
乱世を生きて、泰平成った世で月夜姫様と穏やかに暮らすこと。
その願いは、政宗様の宿願を果たされた後に。
そのためにも、まずは。
「夏になりましたら、いよいよ蘆名との戦となります。佐竹も絡んでの大戦となりましょうが、必ず戻るとお約束する」
「知っているわ。だけど武運を祈るわね」
「……では、月夜姫様。また結紐をお借りしても宜しいか」
「戦場に持っていくの? 構わないけど、新品は持っていなくて……」
「いえ、それで結構。普段使いの物をお借りしたく存じまする。必ず返さねばなりませぬゆえ」
「二本松攻めで味を占めたわね。じゃあちゃんと返しに戻ってきて。戦場に置いてきちゃ駄目よ?」
「御意」
徐に腕から抜け出した月夜姫様が、枕元に置いたままの結紐へ手を伸ばす。
その際に見えたご立派な果実からは、何とか目を逸らすことに成功した。
どうして俺の前だってのにこうも無防備でおられるんだ、このお方は……!!
なにが「俺の好みの大きさになるのは難しい」だ!
十五の娘がぶら下げていい大きさじゃなかった──何を言っているんだ俺は……。
「はい、小十郎。……小十郎? どうしたの? 天井を向いて手で顔を覆ってるけど」
「後生ですので、襦袢と浴衣をお召しになっていただきたく……」
「……照れてるの!? 昨日あんなに触ったのに!」
「言い方が! 言い方が悪いものと!」
「私ちゃんと覚えてるのよ、触った小十郎が『でけぇな……』って呟いたの!」
「お忘れください!! 今すぐ!!」
「無理よ!!」
昨日の余韻も何もなく、いつも通りに騒ぎながらの、初夜の翌朝。
着替えられた月夜姫様から結紐を預かった俺は、居た堪れずにはそのまま深々と頭を下げた。
月夜姫様のご尊顔に合わせる顔なんざ、どこにあるってんだ。
浮かれるな、片倉小十郎。
月夜姫様を嫁にもらってからが本番だろうが!
地に足つけていかねぇか!
顔を上げた先で、月夜姫様がにこりと微笑んでいる。
ああ、もう俺は駄目かもしれねぇな……。
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