輿入れ
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「……あの、小十郎?」
躊躇いがちに呼べば、小十郎はビクッと肩を跳ねさせた。
私、そんなに怖い!?
あの小十郎が過剰に反応してしまうくらい、恐ろしい雰囲気をしているの!?
でもやることはやらないと、明日の朝に小十郎がなんて言われるか分かったものじゃないし……。
「ねぇ小十郎。緊張するのも分かるけれど、そろそろ覚悟を決めない?」
「は……」
「大丈夫よ、小十郎。私もう大人だもの。子作りの仕方くらい知ってるわ」
「子ッ……! いえその、はい……。月夜姫様のおっしゃる通りなのですが……」
「もしかして、私とそういうことをするのは……嫌? そうよね、大きくなったのは外側だけで、中身は子供のままかもしれないもの……」
「嫌なわけではなく!!」
「そうなの? だったらどうしてそんなに臆病になっているの?」
「それは、その……」
言葉に詰まった小十郎が、「あー……」と情けない唸り声を上げて、頭を搔いた。
それから大きなため息をついて。
居住まいを正したあと、小十郎は手をついて頭を下げた。
「ど、どうしたの」
「恐れながら。この小十郎、今宵は月夜姫様と交合うことを、遠慮させて頂きたく」
「え……ど、どうして? やっぱり私のこと」
「月夜姫様のことが嫌いであるとか興味が持てなくなっただとかどうしたって十五も歳下の童女としか見られないだとかその他月夜姫様がお考えになりそうなことは何となく理解できまするが、断じてそのような理由ではないということはご承知おき頂きたい!」
「……わ、わかったわ」
ものすごい圧を感じる反論が一息でやってきて、思わず仰け反りながら頷いてしまった。
とにかく私が心配するような理由ではないということなのだろうけれど、それなら尚更わからない。
私、小十郎になら、何をされたって構わないのに。
「月夜姫様。我々の婚姻についての約束を覚えておいでか」
「覚えてるわ。兄様が天下を獲ったらって約束でしょう? 色々あって、今に早まってしまったけれど……」
「あの時の約束を結ばせていただいたのには、もうひとつ理由がございます。……万が一、政宗様の天下を見ずして、戦場に斃れたとき。月夜姫様を嫁にもらっていたが為に、貴女をこの世にひとり残すことになる。後の世を共に生きるとお誓い申し上げたにも関わらず、月夜姫様を未亡人にしてしまうくらいならば、泰平成った後に、月夜姫様を嫁に頂こうと思っておりました」
「……そうだったの」
「しかし政宗様の勧めもあり、こうして月夜姫様を嫁に頂いた次第。それでも乱世は収束の見通しもなく、奥州も磐石とは言い難い。天下へと打って出る前に、まずは南方の蘆名を打ち破らねばなりますまい。奥州を統一したとて、そこから先は日の本にて勇を奮わせる勢力との熾烈な戦いが続きます。もし、その途上にてこの小十郎が力尽きた時──子がいなければ、月夜姫様は米沢へ帰り、他家へ嫁に入ることもできましょう」
「それはつまり、そうなった時、小十郎とのことを無かったことにしろと言っているの?」
「はい」
「この私に、小十郎のことを忘れろと?」
「……はい」
そう、と呟く。
そうしてすうっと息を吸って、ぐっとお腹に力を入れた。
小十郎の胸倉を掴んで、右手を振り上げる。
バチン! と鋭い音がして小十郎が後ろに転び、私はその上に乗っかって、今度は頭突きをした。
「月夜姫様──」
「馬鹿にしないで!!」
は、と小十郎が息を飲む。
その小十郎の胸倉を両手で掴んだまま、なおも私は怒鳴った。
「私がどんな思いで小十郎の嫁になったか知らないから、そんなことが言えるのよ!! 私は小十郎以外の嫁になんかなりたくもないし、そもそも小十郎のところ以外に行けないの!! 馬鹿にしないでよ!! 小十郎が死んだら私も死ぬわよ!! 二度と離れないって約束したじゃない!!」
「しかし──」
「ねぇ小十郎、私ずっと小十郎のことが好きだったの。やっと好きな人のお嫁さんになれたのに、忘れろなんて言わないで。私には小十郎だけだって、どうして分かってくれないの?」
小十郎はいつもそう。
私を熱烈に口説いておきながら、私に対して必ず逃げ道を用意している。
そんなもの私には必要ないと言っても。
小十郎はまだ本気で、自分よりも私に相応しい人が、この日の本のどこかにいるって思ってる。
そんな人がいたって、私の知ったことじゃない。
「私が欲しいのは! 片倉小十郎景綱ただひとりよ!!」
だから他の誰かじゃ意味がないの。
最初にそう言ってくれたのは小十郎、あなただったでしょう?
私じゃなければ意味がないと言ったあなたなら、私の思いがどれ程のものか、理解できるはず。
意味がないの。
私の旦那様は、小十郎でなければ。
小十郎と共に生きていけないなら、意味がないのよ。
躊躇いがちに呼べば、小十郎はビクッと肩を跳ねさせた。
私、そんなに怖い!?
あの小十郎が過剰に反応してしまうくらい、恐ろしい雰囲気をしているの!?
でもやることはやらないと、明日の朝に小十郎がなんて言われるか分かったものじゃないし……。
「ねぇ小十郎。緊張するのも分かるけれど、そろそろ覚悟を決めない?」
「は……」
「大丈夫よ、小十郎。私もう大人だもの。子作りの仕方くらい知ってるわ」
「子ッ……! いえその、はい……。月夜姫様のおっしゃる通りなのですが……」
「もしかして、私とそういうことをするのは……嫌? そうよね、大きくなったのは外側だけで、中身は子供のままかもしれないもの……」
「嫌なわけではなく!!」
「そうなの? だったらどうしてそんなに臆病になっているの?」
「それは、その……」
言葉に詰まった小十郎が、「あー……」と情けない唸り声を上げて、頭を搔いた。
それから大きなため息をついて。
居住まいを正したあと、小十郎は手をついて頭を下げた。
「ど、どうしたの」
「恐れながら。この小十郎、今宵は月夜姫様と交合うことを、遠慮させて頂きたく」
「え……ど、どうして? やっぱり私のこと」
「月夜姫様のことが嫌いであるとか興味が持てなくなっただとかどうしたって十五も歳下の童女としか見られないだとかその他月夜姫様がお考えになりそうなことは何となく理解できまするが、断じてそのような理由ではないということはご承知おき頂きたい!」
「……わ、わかったわ」
ものすごい圧を感じる反論が一息でやってきて、思わず仰け反りながら頷いてしまった。
とにかく私が心配するような理由ではないということなのだろうけれど、それなら尚更わからない。
私、小十郎になら、何をされたって構わないのに。
「月夜姫様。我々の婚姻についての約束を覚えておいでか」
「覚えてるわ。兄様が天下を獲ったらって約束でしょう? 色々あって、今に早まってしまったけれど……」
「あの時の約束を結ばせていただいたのには、もうひとつ理由がございます。……万が一、政宗様の天下を見ずして、戦場に斃れたとき。月夜姫様を嫁にもらっていたが為に、貴女をこの世にひとり残すことになる。後の世を共に生きるとお誓い申し上げたにも関わらず、月夜姫様を未亡人にしてしまうくらいならば、泰平成った後に、月夜姫様を嫁に頂こうと思っておりました」
「……そうだったの」
「しかし政宗様の勧めもあり、こうして月夜姫様を嫁に頂いた次第。それでも乱世は収束の見通しもなく、奥州も磐石とは言い難い。天下へと打って出る前に、まずは南方の蘆名を打ち破らねばなりますまい。奥州を統一したとて、そこから先は日の本にて勇を奮わせる勢力との熾烈な戦いが続きます。もし、その途上にてこの小十郎が力尽きた時──子がいなければ、月夜姫様は米沢へ帰り、他家へ嫁に入ることもできましょう」
「それはつまり、そうなった時、小十郎とのことを無かったことにしろと言っているの?」
「はい」
「この私に、小十郎のことを忘れろと?」
「……はい」
そう、と呟く。
そうしてすうっと息を吸って、ぐっとお腹に力を入れた。
小十郎の胸倉を掴んで、右手を振り上げる。
バチン! と鋭い音がして小十郎が後ろに転び、私はその上に乗っかって、今度は頭突きをした。
「月夜姫様──」
「馬鹿にしないで!!」
は、と小十郎が息を飲む。
その小十郎の胸倉を両手で掴んだまま、なおも私は怒鳴った。
「私がどんな思いで小十郎の嫁になったか知らないから、そんなことが言えるのよ!! 私は小十郎以外の嫁になんかなりたくもないし、そもそも小十郎のところ以外に行けないの!! 馬鹿にしないでよ!! 小十郎が死んだら私も死ぬわよ!! 二度と離れないって約束したじゃない!!」
「しかし──」
「ねぇ小十郎、私ずっと小十郎のことが好きだったの。やっと好きな人のお嫁さんになれたのに、忘れろなんて言わないで。私には小十郎だけだって、どうして分かってくれないの?」
小十郎はいつもそう。
私を熱烈に口説いておきながら、私に対して必ず逃げ道を用意している。
そんなもの私には必要ないと言っても。
小十郎はまだ本気で、自分よりも私に相応しい人が、この日の本のどこかにいるって思ってる。
そんな人がいたって、私の知ったことじゃない。
「私が欲しいのは! 片倉小十郎景綱ただひとりよ!!」
だから他の誰かじゃ意味がないの。
最初にそう言ってくれたのは小十郎、あなただったでしょう?
私じゃなければ意味がないと言ったあなたなら、私の思いがどれ程のものか、理解できるはず。
意味がないの。
私の旦那様は、小十郎でなければ。
小十郎と共に生きていけないなら、意味がないのよ。