休息
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兄様達が帰る予定の、三日目。
外は天気が大荒れとなり、それはものすごい吹雪だった。
この中を帰るなんて余程の命知らずだということになって、兄様たちはこの天気が落ち着くまで、宮森城に足止めされている。
私は嬉しいけど、兄様たちのご予定に影響がありそうで、それだけが気掛かり。
「うー、寒い……」
「火鉢に当たっておりましても、足元から冷えますな」
「こんだけ吹雪けばな。多少の雪なら無理して帰るところだったが、さすがにここまで荒れると死ぬだろうしな……」
「死にますな」
「兄様、ただでさえ無茶な戦い方をするのに、加えて命知らずにまで」
「わかったから皆まで言うな」
うんざりした顔で兄様が払うように手を振る。
それにくすくすと笑って、小十郎から湯呑みを受け取った。
こんな天気でも下働きの者たちはあくせくと働いていて、寒さなんて何のその、といった様子。
私の側仕えに就いているミツとふくは米沢から来ているけれど、まさか彼女達も宮森で冬を越すことになるとは思わなかったでしょう。
ふくのお姉さんへ渡すつもりだった出産祝いも、色々あったせいで選ぶことすらできていないし……。
というか、出産祝いというより、子育てに必要な品をありったけ贈るほうが喜ばれるのでは?
「難しい顔して、どうした?」
「あっ……。えっと、ふくのお姉様にね、昨年、お子さんが産まれたの」
「ふく……月夜姫様付きの女中の?」
「そうよ。それで、内祝いとして何か贈ろうと思っていたんだけど、色々あって贈れずじまいで……。いっそ、子育てに必要な物を贈ろうと思ったんだけど、その……私、子育てに何が必要か分からなくて……!」
「なるほどな……。そういうのは喜多に聞くのがbestだ。米沢に帰ったら二人で話し合えばいい」
「うん。そうするわ」
ずずっとお茶を飲んだとき、湯呑みに茶柱が立っていることに気付いた。
見て小十郎、と相変わらず私の椅子になっている小十郎を振り返ると。
その小十郎は、どこかぼんやりした様子で、私を見つめていた。
「小十郎?」と袖を引っ張ってみると、ぽつりと一言。
「子育てか……」
「……小十郎?」
「どうせお前との間にガキが出来た時のこと想像してやがんだろ。名付け親くらいなら、なってやらんでもないぜ、小十郎」
「あ、いやその……! ……はい、その際は宜しくお願い致します」
「私まだ輿入れもしてないのに」
「男なんてのはそんなもんだ」
「……本当に?」
「結婚してからが大変そうだが、まぁ頑張れ。お前が尻に敷くくらいで丁度いいだろうぜ」
「尻に敷けるの……? 竜の右目を、私が……?」
小十郎を尻に敷けるかはともかく、私も小十郎の妻になるんだから、家の事はできるようにならないといけない。
武家の妻に必要なことを学ばなきゃ。
米沢に戻ったら、喜多と一緒に花嫁修業ね!
内心で鼻息荒く決意しながら、差し出された練り切りを口へ運ぶ。
「この練り切り、食べたことない味がするの。どこで買ってきたの?」
「そいつは俺のお手製だ」
「兄様の? いつ菓子職人に弟子入りしたの?」
「米沢城に出入りする職人からちょっと習っただけだ。弟子入りとまではいかねぇよ」
「ちょっと習っただけで、ここまで綺麗な練り切りが作れるものなの?」
「政宗様は凝り性でおられますからな」
小十郎の一言で察した。
私がいない間の出来事なのは間違いないないけれど、それにしたって手先が器用すぎる。
料理なら小十郎もするから、それに感化されて始めたとしても不思議じゃないけど、菓子にまで手を広げるなんて……なんというか、さすが兄様というか。
「小浜にいる間は、小十郎が兄様の食事を作ってるのよね?」
「政宗様のお口に合うよう、精進を重ねている最中です。美味いと仰って頂けてはおりますが、まだまだといったところかと」
「そうか? 繊細な味付けで、俺は好みなんだが」
「やっぱり葱と牛蒡が多いの?」
「まあ小十郎が作るんだしな」
「それ以外にも様々な旬の食材を使用しております」
「でも葱と牛蒡はmustなんだろ」
「時期でなければお出しすることはできませぬ」
「時期になったら毎日だろ」
「好き嫌いは感心いたしませんな」
「好き嫌いとかの問題じゃねぇから言ってんだが?」
毎日何かしらに葱と牛蒡が入ってくるとなると……。
それはさすがに、どこかで飽きが来るような気がする。
酷い時には三日三晩、来る日も来る日も葱だらけだったこともあるみたいだし。
……二本松で小十郎に嫁入りした後は、私の食事もそうなってしまうのかも……。
別に葱とか牛蒡とかが今更嫌いだって言うわけじゃないけど、なんというか、限度というものがあるというか。
でも小十郎の作る料理は、やっぱり気になる。
米沢では厨で作ってもらったものを食べていて、小十郎の料理は兄様専用だったから。
「私もそのうち、小十郎の料理が食べられるといいけど……」
「月夜姫様がご所望とあらば、今夜の夕餉はこの小十郎が腕を振るわせていただきます」
「本当? お願いしてもいい?」
「せっかくだ。俺も手伝ってやるか」
「やった! 楽しみにしてるの!」
「これは気合いが入りますな、政宗様」
「ああ。振るい甲斐があるってもんだ」
雪が足止めをしてくれたおかげで、小十郎と兄様の手料理が食べられるなんて。
こういう我儘も言ってみるものね。
この雪が、明日も降り続けばいいのに。
そうしたら兄様たちは、もう少し宮森にいてくれる。
奥州の冬は長いもの。
少しくらいのんびりしたって、罰は当たらないはず。
……なんて。
そんな我儘だけは、言えない。
これは兄様たちにとって、つかの間の休息であるだけなのだから。
外は天気が大荒れとなり、それはものすごい吹雪だった。
この中を帰るなんて余程の命知らずだということになって、兄様たちはこの天気が落ち着くまで、宮森城に足止めされている。
私は嬉しいけど、兄様たちのご予定に影響がありそうで、それだけが気掛かり。
「うー、寒い……」
「火鉢に当たっておりましても、足元から冷えますな」
「こんだけ吹雪けばな。多少の雪なら無理して帰るところだったが、さすがにここまで荒れると死ぬだろうしな……」
「死にますな」
「兄様、ただでさえ無茶な戦い方をするのに、加えて命知らずにまで」
「わかったから皆まで言うな」
うんざりした顔で兄様が払うように手を振る。
それにくすくすと笑って、小十郎から湯呑みを受け取った。
こんな天気でも下働きの者たちはあくせくと働いていて、寒さなんて何のその、といった様子。
私の側仕えに就いているミツとふくは米沢から来ているけれど、まさか彼女達も宮森で冬を越すことになるとは思わなかったでしょう。
ふくのお姉さんへ渡すつもりだった出産祝いも、色々あったせいで選ぶことすらできていないし……。
というか、出産祝いというより、子育てに必要な品をありったけ贈るほうが喜ばれるのでは?
「難しい顔して、どうした?」
「あっ……。えっと、ふくのお姉様にね、昨年、お子さんが産まれたの」
「ふく……月夜姫様付きの女中の?」
「そうよ。それで、内祝いとして何か贈ろうと思っていたんだけど、色々あって贈れずじまいで……。いっそ、子育てに必要な物を贈ろうと思ったんだけど、その……私、子育てに何が必要か分からなくて……!」
「なるほどな……。そういうのは喜多に聞くのがbestだ。米沢に帰ったら二人で話し合えばいい」
「うん。そうするわ」
ずずっとお茶を飲んだとき、湯呑みに茶柱が立っていることに気付いた。
見て小十郎、と相変わらず私の椅子になっている小十郎を振り返ると。
その小十郎は、どこかぼんやりした様子で、私を見つめていた。
「小十郎?」と袖を引っ張ってみると、ぽつりと一言。
「子育てか……」
「……小十郎?」
「どうせお前との間にガキが出来た時のこと想像してやがんだろ。名付け親くらいなら、なってやらんでもないぜ、小十郎」
「あ、いやその……! ……はい、その際は宜しくお願い致します」
「私まだ輿入れもしてないのに」
「男なんてのはそんなもんだ」
「……本当に?」
「結婚してからが大変そうだが、まぁ頑張れ。お前が尻に敷くくらいで丁度いいだろうぜ」
「尻に敷けるの……? 竜の右目を、私が……?」
小十郎を尻に敷けるかはともかく、私も小十郎の妻になるんだから、家の事はできるようにならないといけない。
武家の妻に必要なことを学ばなきゃ。
米沢に戻ったら、喜多と一緒に花嫁修業ね!
内心で鼻息荒く決意しながら、差し出された練り切りを口へ運ぶ。
「この練り切り、食べたことない味がするの。どこで買ってきたの?」
「そいつは俺のお手製だ」
「兄様の? いつ菓子職人に弟子入りしたの?」
「米沢城に出入りする職人からちょっと習っただけだ。弟子入りとまではいかねぇよ」
「ちょっと習っただけで、ここまで綺麗な練り切りが作れるものなの?」
「政宗様は凝り性でおられますからな」
小十郎の一言で察した。
私がいない間の出来事なのは間違いないないけれど、それにしたって手先が器用すぎる。
料理なら小十郎もするから、それに感化されて始めたとしても不思議じゃないけど、菓子にまで手を広げるなんて……なんというか、さすが兄様というか。
「小浜にいる間は、小十郎が兄様の食事を作ってるのよね?」
「政宗様のお口に合うよう、精進を重ねている最中です。美味いと仰って頂けてはおりますが、まだまだといったところかと」
「そうか? 繊細な味付けで、俺は好みなんだが」
「やっぱり葱と牛蒡が多いの?」
「まあ小十郎が作るんだしな」
「それ以外にも様々な旬の食材を使用しております」
「でも葱と牛蒡はmustなんだろ」
「時期でなければお出しすることはできませぬ」
「時期になったら毎日だろ」
「好き嫌いは感心いたしませんな」
「好き嫌いとかの問題じゃねぇから言ってんだが?」
毎日何かしらに葱と牛蒡が入ってくるとなると……。
それはさすがに、どこかで飽きが来るような気がする。
酷い時には三日三晩、来る日も来る日も葱だらけだったこともあるみたいだし。
……二本松で小十郎に嫁入りした後は、私の食事もそうなってしまうのかも……。
別に葱とか牛蒡とかが今更嫌いだって言うわけじゃないけど、なんというか、限度というものがあるというか。
でも小十郎の作る料理は、やっぱり気になる。
米沢では厨で作ってもらったものを食べていて、小十郎の料理は兄様専用だったから。
「私もそのうち、小十郎の料理が食べられるといいけど……」
「月夜姫様がご所望とあらば、今夜の夕餉はこの小十郎が腕を振るわせていただきます」
「本当? お願いしてもいい?」
「せっかくだ。俺も手伝ってやるか」
「やった! 楽しみにしてるの!」
「これは気合いが入りますな、政宗様」
「ああ。振るい甲斐があるってもんだ」
雪が足止めをしてくれたおかげで、小十郎と兄様の手料理が食べられるなんて。
こういう我儘も言ってみるものね。
この雪が、明日も降り続けばいいのに。
そうしたら兄様たちは、もう少し宮森にいてくれる。
奥州の冬は長いもの。
少しくらいのんびりしたって、罰は当たらないはず。
……なんて。
そんな我儘だけは、言えない。
これは兄様たちにとって、つかの間の休息であるだけなのだから。
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