休息
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無駄にドキドキした時間を過ごして、兄様は宛てがわれたお部屋へと戻っていった。
私は雪の残る庭へ降りて、お花の手入れをすることにした。
庭師もいるにはいるけれど、私の部屋の庭だから、自分で手入れをしたいと申し出て、ここのお庭は私の領域になっている。
「綺麗な庭ですな」
「毎日手入れをしているの」
伸びた枝葉を剪定しながら、花の蕾が昨日より膨らんでいるのを見つけた。
兄様たちがいる間に咲いてくれたらいいな。
朝方は雪が沢山残っていたけれど、今日は珍しく天気が良かったから、雪も少しは溶けたみたい。
ということは……。
「雪兎も溶けちゃったわね」
「今日は暖かくなりましたからな。つかの間の晴れやもしれませんが」
「雪も嫌いじゃないけれど、降りすぎると雪掻きが大変なの。ここは男手も少なくて、沢山降ったときは、総出で雪掻きをするのよ」
「月夜姫様も?」
「勿論。それでね、雪掻きでたくさん雪を集めて、みんなで雪遊びするの」
「……なるほど。それでお部屋の障子が張り替えられていたと」
「え、えへへ……。ちょっと、雪合戦ではしゃぎ過ぎちゃって……」
「お転婆も程々になされよ、月夜姫様。雪合戦ができるまでに快復なされたのは、嬉しくもありまするが、御身はまだ万全ではない。安静にせよと侍医からも言われておられましょう」
「う……そ、そうだけど……」
でも楽しいんだから仕方ない。
毎日のように雪合戦をしているわけじゃないし、この間はたまたま、白熱して障子に穴を開けちゃっただけだもの。
普段は雪掻きだけで疲れちゃうことのほうが多いから、遊ぶとしても雪兎を作るくらいだし……。
「嫌なの?」
「え?」
「十五にもなって雪合戦なんて、やっぱり子供みたい? 小十郎の嫁になるなら、大人にならなきゃ駄目よね……」
「そのような事は。毎年誰もが辟易する雪を、こうも楽しまれる月夜姫様は、お可愛らしく思います」
「……ほんとう?」
「本当です。だがそれも程々になされよ。今ならばこうして手を温めて差し上げることもできますが、冷えた手をそのままにされるのは宜しくない」
背後から抱き着くように回された両手が、私の手を包む。
小十郎はうんと背が高くて体格もいいから、私の背格好では小十郎の身体にすっぽりと隠されてしまう。
離れにいた頃の生活もあって、人よりは小柄なままなのもあると思うけれど。
でもここ二、三年で背も伸びてきたし、胸も膨らんできたし……。
殿方は胸の大きな女性が好きだっていうのは、若い衆達の雑談を盗み聞きしたから間違いない。
だから小十郎の好きな大きさになればいいなと思っているけど、ちょっと難しそうかも。
「ねぇ小十郎?」
「はい?」
「やっぱり小十郎も、女性の好みは胸が大きい人なの?」
「はっ!?」
「違うの? でも男の人はみんな大体、胸が大きい人が好きだって」
「誰からそれを」
「えっと……一昨日の雪掻きのときに、若い衆の立ち話を聞いて……」
「なるほど。シメてきます」
「シメないで!?」
離れようとした手を咄嗟に掴む。
右目の雷はよく効くって聞いた事あるから、多分行かせない方がいい。
もっと言うと寒いから離れてほしくない。
寒いなら部屋に入るべきなのかもしれないけど。
「じゃあ小十郎の好みの女性って?」
「月夜姫様です」
「私なんてまだ子供みたいだし、大人な小十郎の好みじゃないと思うけど……」
「お転婆とは思いますが、子供とは思いませぬ。政宗様の妹君が大人しい方であるはずもない。月夜姫様は元々、控えめな性格であられる。今のように、他人を振り回すくらいがちょうど良い」
「でもそしたら、振り回されるのは小十郎よ?」
「喜んで」
「喜ぶの?」
男の人の心って分からない。
私に振り回されるのが嬉しいなんて、変な小十郎。
だって私が小十郎の好みっていうことすら、よく分からないのに。
私、いつの間にそこまで、小十郎に好きになってもらえたんだろう。
「月夜姫様」
「なぁに?」
「お慕いしております」
「知ってるわ。私も大好きよ、小十郎」
「存じております」
心底愛おしそうに囁くものだと思った。
小十郎は兄様以外の為に生きるつもりがない。
兄様が志半ばで斃れたとき、きっと小十郎は躊躇いもせずその場で後を追うでしょう。
だから私が生きていられるのは、兄様が生きている間だけ。
兄様が死んだら小十郎も死ぬ、そして私も二人を追いかける。
「小十郎。私との約束と兄様への忠義は、どちらを優先する?」
「……月夜姫様との約束は、政宗様が天下へ至る道あっての事。どうか不敬と思われますな、月夜姫様。この片倉小十郎、政宗様が天翔ける竜であられるならば、どこまでもお傍に」
「ええ。それでいいわ。兄様の傍には小十郎が居なきゃ。右目が本体を離れてどうするの?」
「月夜姫様──」
「小十郎。貴方は貴方の忠義を貫いて。私はそんな小十郎を好きになったの。もし小十郎が戦から帰ってこなかったら、その時はあの世で少しだけ待っていてね。すぐに追いかけるから」
「尼寺に入られるのでは?」
「だって小十郎が死ぬ時は、兄様が死ぬときでしょう? 独りぼっちは寂しいから、私も一緒に行ってあげる」
「いえ、月夜姫様はどうぞ小十郎に構わず……」
「あら嫌よ。だって小十郎から二度と離れないって約束したもの」
言葉に詰まった小十郎が「はい……」と項垂れる。
私の覚悟を甘く見たわね。
私だって、交わした約束は守るのよ。
小十郎との約束なら尚更。
だからどうか死なないでね。
兄様を守って、小十郎も生きて帰ってこなきゃ駄目なの。
二度と小十郎から離れないって約束したんだもの。
小十郎だって、私から離れたらいけないのよ。
私は雪の残る庭へ降りて、お花の手入れをすることにした。
庭師もいるにはいるけれど、私の部屋の庭だから、自分で手入れをしたいと申し出て、ここのお庭は私の領域になっている。
「綺麗な庭ですな」
「毎日手入れをしているの」
伸びた枝葉を剪定しながら、花の蕾が昨日より膨らんでいるのを見つけた。
兄様たちがいる間に咲いてくれたらいいな。
朝方は雪が沢山残っていたけれど、今日は珍しく天気が良かったから、雪も少しは溶けたみたい。
ということは……。
「雪兎も溶けちゃったわね」
「今日は暖かくなりましたからな。つかの間の晴れやもしれませんが」
「雪も嫌いじゃないけれど、降りすぎると雪掻きが大変なの。ここは男手も少なくて、沢山降ったときは、総出で雪掻きをするのよ」
「月夜姫様も?」
「勿論。それでね、雪掻きでたくさん雪を集めて、みんなで雪遊びするの」
「……なるほど。それでお部屋の障子が張り替えられていたと」
「え、えへへ……。ちょっと、雪合戦ではしゃぎ過ぎちゃって……」
「お転婆も程々になされよ、月夜姫様。雪合戦ができるまでに快復なされたのは、嬉しくもありまするが、御身はまだ万全ではない。安静にせよと侍医からも言われておられましょう」
「う……そ、そうだけど……」
でも楽しいんだから仕方ない。
毎日のように雪合戦をしているわけじゃないし、この間はたまたま、白熱して障子に穴を開けちゃっただけだもの。
普段は雪掻きだけで疲れちゃうことのほうが多いから、遊ぶとしても雪兎を作るくらいだし……。
「嫌なの?」
「え?」
「十五にもなって雪合戦なんて、やっぱり子供みたい? 小十郎の嫁になるなら、大人にならなきゃ駄目よね……」
「そのような事は。毎年誰もが辟易する雪を、こうも楽しまれる月夜姫様は、お可愛らしく思います」
「……ほんとう?」
「本当です。だがそれも程々になされよ。今ならばこうして手を温めて差し上げることもできますが、冷えた手をそのままにされるのは宜しくない」
背後から抱き着くように回された両手が、私の手を包む。
小十郎はうんと背が高くて体格もいいから、私の背格好では小十郎の身体にすっぽりと隠されてしまう。
離れにいた頃の生活もあって、人よりは小柄なままなのもあると思うけれど。
でもここ二、三年で背も伸びてきたし、胸も膨らんできたし……。
殿方は胸の大きな女性が好きだっていうのは、若い衆達の雑談を盗み聞きしたから間違いない。
だから小十郎の好きな大きさになればいいなと思っているけど、ちょっと難しそうかも。
「ねぇ小十郎?」
「はい?」
「やっぱり小十郎も、女性の好みは胸が大きい人なの?」
「はっ!?」
「違うの? でも男の人はみんな大体、胸が大きい人が好きだって」
「誰からそれを」
「えっと……一昨日の雪掻きのときに、若い衆の立ち話を聞いて……」
「なるほど。シメてきます」
「シメないで!?」
離れようとした手を咄嗟に掴む。
右目の雷はよく効くって聞いた事あるから、多分行かせない方がいい。
もっと言うと寒いから離れてほしくない。
寒いなら部屋に入るべきなのかもしれないけど。
「じゃあ小十郎の好みの女性って?」
「月夜姫様です」
「私なんてまだ子供みたいだし、大人な小十郎の好みじゃないと思うけど……」
「お転婆とは思いますが、子供とは思いませぬ。政宗様の妹君が大人しい方であるはずもない。月夜姫様は元々、控えめな性格であられる。今のように、他人を振り回すくらいがちょうど良い」
「でもそしたら、振り回されるのは小十郎よ?」
「喜んで」
「喜ぶの?」
男の人の心って分からない。
私に振り回されるのが嬉しいなんて、変な小十郎。
だって私が小十郎の好みっていうことすら、よく分からないのに。
私、いつの間にそこまで、小十郎に好きになってもらえたんだろう。
「月夜姫様」
「なぁに?」
「お慕いしております」
「知ってるわ。私も大好きよ、小十郎」
「存じております」
心底愛おしそうに囁くものだと思った。
小十郎は兄様以外の為に生きるつもりがない。
兄様が志半ばで斃れたとき、きっと小十郎は躊躇いもせずその場で後を追うでしょう。
だから私が生きていられるのは、兄様が生きている間だけ。
兄様が死んだら小十郎も死ぬ、そして私も二人を追いかける。
「小十郎。私との約束と兄様への忠義は、どちらを優先する?」
「……月夜姫様との約束は、政宗様が天下へ至る道あっての事。どうか不敬と思われますな、月夜姫様。この片倉小十郎、政宗様が天翔ける竜であられるならば、どこまでもお傍に」
「ええ。それでいいわ。兄様の傍には小十郎が居なきゃ。右目が本体を離れてどうするの?」
「月夜姫様──」
「小十郎。貴方は貴方の忠義を貫いて。私はそんな小十郎を好きになったの。もし小十郎が戦から帰ってこなかったら、その時はあの世で少しだけ待っていてね。すぐに追いかけるから」
「尼寺に入られるのでは?」
「だって小十郎が死ぬ時は、兄様が死ぬときでしょう? 独りぼっちは寂しいから、私も一緒に行ってあげる」
「いえ、月夜姫様はどうぞ小十郎に構わず……」
「あら嫌よ。だって小十郎から二度と離れないって約束したもの」
言葉に詰まった小十郎が「はい……」と項垂れる。
私の覚悟を甘く見たわね。
私だって、交わした約束は守るのよ。
小十郎との約束なら尚更。
だからどうか死なないでね。
兄様を守って、小十郎も生きて帰ってこなきゃ駄目なの。
二度と小十郎から離れないって約束したんだもの。
小十郎だって、私から離れたらいけないのよ。