約束
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私が離に閉じ込められていたのは、忌み子だからだ。
死んだことにされていたのも、自由を奪われていたのも、感情のない人形だったのもぜんぶ、私が忌み子だから。
その事実はどうやっても変えられない。
だから本当は、八年間のうちに、死んでおくべきで……。
兄様たちが私を離から連れ出さないままだったら、私はそのうち尼寺へ追い出されていたはず。
私を助けようと離に乗り込んでくれた兄様。
私を抱き上げて、私の味方だって安心させてくれた小十郎。
私を系譜へと戻して、忌み子でない本来の私が得られるはずだったものを、すべて私のために用意してくれた父様。
確かに私は忌み子として産まれた。
この産まれは変えられなくても……私がもたらしたものは、不幸だけではなかったとしたら。
『傷つけたくない、傷ついてほしくない。もしそうなりそうな時は、俺が絶対に守る。そして……絶対に幸せになってほしい』
いつかの日、そう言ってくれた兄様は、不幸だった?
『月夜、小十郎と幸せになれよ。お前と半年でも一緒にいられて、父様は幸せだったぜ』
粟の巣で死んでいった父様は?
『この片倉小十郎、月夜姫様のことを、恐れ多くも一人の男として、お慕いしております』
あの日を境に、私へ愛の言葉を伝えてくれるようになった小十郎は?
みんな不幸だったの?
そんな疫病神みたいな存在を、ここまで大事にするもの?
答えは否。
なぜならこの問いに対する答えは既に、兄様と小十郎から貰っている。
『伊達に起きた何もかも、お前のせいじゃねぇ。お前はただ生きていただけだ。そうだろう?』
『ご自身は不幸を振り撒くのみとお思いなさるな。貴女に幸福を貰った者も大勢いる。無論、この小十郎もその一人』
私自身のことは信じられなくても。
兄様と小十郎の言葉は信じられる。
二人が私を「忌み子なんかじゃない」と言うんだから、私はもう、そうなんだと思う。
忌み子として産まれた私は、離で死んだ。
真っ暗な世界から鮮やかな世界へ連れ出された瞬間から、私はただの月夜になったんだ。
誰の代わりでもない、私自身が生きてきた七年間だと胸を張っていい。
私こそが、伊達政宗の妹、伊達家の姫。
不幸を数えることも、生きていることを罪や罰のように嘆くことも、死を贖いと思うことも必要もない。
それに粟の巣で散る間際、父様は願ってくれた。
小十郎と幸せになれって。
だったら、もう、何にも惑わされない。
「約束、する……。私のこと、そんなふうに言わない……」
じわりと涙が浮かんで、瞬きした瞬間、それが目尻から落ちていった。
泣いているところなんて見られたくないのに。
隠そうとしたら、片腕で私を抱き上げている小十郎が、空いている右手で私の両手を押さえてしまった。
「い、意地悪……」
「それは失礼を。男とはそんなもんです」
「答えに、なってないの」
「はは、左様で。遠慮せずにお伝えすれば、貴女の涙さえ俺のものにしてしまいたいからです」
「……小十郎、執着心だけじゃなくて、独占欲も強いのね?」
「何を今更。そうじゃなけりゃ、貴女を屋敷に閉じ込めようなんて思いもしない」
「……私がお嫁に行ったら、本当に閉じ込めるの?」
「本音を申し上げれば、本気で誰の目にも触れないところに閉じ込めちまいてぇんですがね。同時に月夜姫様には、誰よりも自由であってほしいとも願っておりますれば。俺の独占欲なんてもんは、取るに足らない……餓鬼が捏ねる駄々のようなものとお考えください」
これが十五も歳下の小娘に見せる顔なのかしら。
三十路を迎えた男であるくせに、どうして私に見せる顔は、そんなにも子供のようなの。
父親か兄のように私を見守る眼差しばかりだったから、こんな小十郎は知らない。
……知らなくて当然よ。
だって小十郎と心が重なったのは、最近のことだもの。
「小十郎」
「はい」
「私、小十郎のお嫁さんになるわ」
「はい」
「どこまでも幸せになるわよ。いいのね?」
「勿論」
「我儘だってたくさん言うと思うし、小十郎が傍に居ないと、寂しくなって泣いてしまうわ。私を泣かせたら、兄様が鬼の形相で本丸からすっ飛んでくるわよ?」
「望むところです」
それは私を寂しくさせない自信があるからなのか、兄様如き返り討ちにできると思っているからなのか。
それとも私の我儘に振り回される覚悟があるからなのか。
……たぶん、その全部に対する答えなのだと思う。
だって小十郎は、私を一人にしたことなんてないもの。
私が一人になったとしたら、それは私から離れた時だけ。
「約束よ」
「はい。約束です」
小十郎と小指を結んで約束して、微笑み合う。
これだけでもう幸せなのだけれど、小十郎にとってはこの程度、まだ序ノ口なのだという。
ところでそろそろ降ろしてほしい。
このままじゃ兄様とお話ができない。
「小十郎、降ろして」
「……」
「小十郎?」
「はい」
「あの、降ろしてほしいの」
「……」
「小十郎?」
「はい」
「降ろしてくれる?」
「……」
「わざとね!?」
降ろしてと言う度に渋い顔をするくせに、私に名前を呼ばれると嬉しそうにする。
本当に先程までの小十郎と同じ人なのかが怪しい。
兄様にも「降ろしてやれ」と怒られてようやく、小十郎は渋々といった顔で私を降ろした。
そのまま部屋の入口付近に散らばった茶菓子との割ってしまったお皿を片付け始めたから、私と兄様もなんだか拍子抜けしてしまって。
お盆に拾い集めたものを載せ、箒と塵取りを持ってくると言い残して、小十郎はあっさりと去っていった。
「……私、小十郎のことを分かっていたつもりだったけれど、何も知らなかったみたい」
「あそこまで駄々捏ねる餓鬼みてえな小十郎は、さすがの俺も初めてだ」
「小十郎、三十になったのよね?」
「お前と十五離れてるから、そうなるな」
「あれが三十になった大人のすることなの?」
「ベタ惚れしてる女を前にした男なんざ、そんなもんだ」
冬の庭に、雀の可愛い声。
……小十郎が駄々を捏ねているうちは、平和ということよね。
私の我儘を聞いてくれるんだもの、私だって小十郎の独占欲くらい受け止めてみせるわ。
それに、好きな人に執着されるのって、嬉しいことだもの。
離れて無頓着にされるより、追いかけてくれるほうが寂しくない。
私、兄様と一緒で、寂しがり屋だから。
死んだことにされていたのも、自由を奪われていたのも、感情のない人形だったのもぜんぶ、私が忌み子だから。
その事実はどうやっても変えられない。
だから本当は、八年間のうちに、死んでおくべきで……。
兄様たちが私を離から連れ出さないままだったら、私はそのうち尼寺へ追い出されていたはず。
私を助けようと離に乗り込んでくれた兄様。
私を抱き上げて、私の味方だって安心させてくれた小十郎。
私を系譜へと戻して、忌み子でない本来の私が得られるはずだったものを、すべて私のために用意してくれた父様。
確かに私は忌み子として産まれた。
この産まれは変えられなくても……私がもたらしたものは、不幸だけではなかったとしたら。
『傷つけたくない、傷ついてほしくない。もしそうなりそうな時は、俺が絶対に守る。そして……絶対に幸せになってほしい』
いつかの日、そう言ってくれた兄様は、不幸だった?
『月夜、小十郎と幸せになれよ。お前と半年でも一緒にいられて、父様は幸せだったぜ』
粟の巣で死んでいった父様は?
『この片倉小十郎、月夜姫様のことを、恐れ多くも一人の男として、お慕いしております』
あの日を境に、私へ愛の言葉を伝えてくれるようになった小十郎は?
みんな不幸だったの?
そんな疫病神みたいな存在を、ここまで大事にするもの?
答えは否。
なぜならこの問いに対する答えは既に、兄様と小十郎から貰っている。
『伊達に起きた何もかも、お前のせいじゃねぇ。お前はただ生きていただけだ。そうだろう?』
『ご自身は不幸を振り撒くのみとお思いなさるな。貴女に幸福を貰った者も大勢いる。無論、この小十郎もその一人』
私自身のことは信じられなくても。
兄様と小十郎の言葉は信じられる。
二人が私を「忌み子なんかじゃない」と言うんだから、私はもう、そうなんだと思う。
忌み子として産まれた私は、離で死んだ。
真っ暗な世界から鮮やかな世界へ連れ出された瞬間から、私はただの月夜になったんだ。
誰の代わりでもない、私自身が生きてきた七年間だと胸を張っていい。
私こそが、伊達政宗の妹、伊達家の姫。
不幸を数えることも、生きていることを罪や罰のように嘆くことも、死を贖いと思うことも必要もない。
それに粟の巣で散る間際、父様は願ってくれた。
小十郎と幸せになれって。
だったら、もう、何にも惑わされない。
「約束、する……。私のこと、そんなふうに言わない……」
じわりと涙が浮かんで、瞬きした瞬間、それが目尻から落ちていった。
泣いているところなんて見られたくないのに。
隠そうとしたら、片腕で私を抱き上げている小十郎が、空いている右手で私の両手を押さえてしまった。
「い、意地悪……」
「それは失礼を。男とはそんなもんです」
「答えに、なってないの」
「はは、左様で。遠慮せずにお伝えすれば、貴女の涙さえ俺のものにしてしまいたいからです」
「……小十郎、執着心だけじゃなくて、独占欲も強いのね?」
「何を今更。そうじゃなけりゃ、貴女を屋敷に閉じ込めようなんて思いもしない」
「……私がお嫁に行ったら、本当に閉じ込めるの?」
「本音を申し上げれば、本気で誰の目にも触れないところに閉じ込めちまいてぇんですがね。同時に月夜姫様には、誰よりも自由であってほしいとも願っておりますれば。俺の独占欲なんてもんは、取るに足らない……餓鬼が捏ねる駄々のようなものとお考えください」
これが十五も歳下の小娘に見せる顔なのかしら。
三十路を迎えた男であるくせに、どうして私に見せる顔は、そんなにも子供のようなの。
父親か兄のように私を見守る眼差しばかりだったから、こんな小十郎は知らない。
……知らなくて当然よ。
だって小十郎と心が重なったのは、最近のことだもの。
「小十郎」
「はい」
「私、小十郎のお嫁さんになるわ」
「はい」
「どこまでも幸せになるわよ。いいのね?」
「勿論」
「我儘だってたくさん言うと思うし、小十郎が傍に居ないと、寂しくなって泣いてしまうわ。私を泣かせたら、兄様が鬼の形相で本丸からすっ飛んでくるわよ?」
「望むところです」
それは私を寂しくさせない自信があるからなのか、兄様如き返り討ちにできると思っているからなのか。
それとも私の我儘に振り回される覚悟があるからなのか。
……たぶん、その全部に対する答えなのだと思う。
だって小十郎は、私を一人にしたことなんてないもの。
私が一人になったとしたら、それは私から離れた時だけ。
「約束よ」
「はい。約束です」
小十郎と小指を結んで約束して、微笑み合う。
これだけでもう幸せなのだけれど、小十郎にとってはこの程度、まだ序ノ口なのだという。
ところでそろそろ降ろしてほしい。
このままじゃ兄様とお話ができない。
「小十郎、降ろして」
「……」
「小十郎?」
「はい」
「あの、降ろしてほしいの」
「……」
「小十郎?」
「はい」
「降ろしてくれる?」
「……」
「わざとね!?」
降ろしてと言う度に渋い顔をするくせに、私に名前を呼ばれると嬉しそうにする。
本当に先程までの小十郎と同じ人なのかが怪しい。
兄様にも「降ろしてやれ」と怒られてようやく、小十郎は渋々といった顔で私を降ろした。
そのまま部屋の入口付近に散らばった茶菓子との割ってしまったお皿を片付け始めたから、私と兄様もなんだか拍子抜けしてしまって。
お盆に拾い集めたものを載せ、箒と塵取りを持ってくると言い残して、小十郎はあっさりと去っていった。
「……私、小十郎のことを分かっていたつもりだったけれど、何も知らなかったみたい」
「あそこまで駄々捏ねる餓鬼みてえな小十郎は、さすがの俺も初めてだ」
「小十郎、三十になったのよね?」
「お前と十五離れてるから、そうなるな」
「あれが三十になった大人のすることなの?」
「ベタ惚れしてる女を前にした男なんざ、そんなもんだ」
冬の庭に、雀の可愛い声。
……小十郎が駄々を捏ねているうちは、平和ということよね。
私の我儘を聞いてくれるんだもの、私だって小十郎の独占欲くらい受け止めてみせるわ。
それに、好きな人に執着されるのって、嬉しいことだもの。
離れて無頓着にされるより、追いかけてくれるほうが寂しくない。
私、兄様と一緒で、寂しがり屋だから。