執着
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月夜姫様へ手紙を送るだけの日々が、ふた月続いた、如月の頃。
直筆の文が俺の元へ届いたのは、雪掻きに追われる朝方のことだった。
俺に宛てられた物とは別に、政宗様へも文を差し出されたらしく、受け取った政宗様は嬉しそうに隻眼を緩めていた。
「月夜姫様から手紙を頂くのは、初めてでは?」
「Yes.同じ城にいる時は、月夜のほうからこっちに来るしな」
政宗様もすっかり歩き回れる程まで快復なさり、先程も若い衆に混じって雪掻きをされていた。
やれどもやれども終わらぬ雪に痺れを切らした義兄上が、ご自身の炎で雪を溶かしてしまった際には、若い衆と共に手を叩いて笑っておられたくらいだ。
そんなご様子に安心する傍らで、空元気にも見えるような漠然とした不安が付き纏う。
こういう時、月夜姫様であれば、うまく政宗様の弱音を引き出せるのだろうが……。
「……じゅろ、おい、小十郎!」
「っ! は、如何なさいましたか、政宗様」
「月夜からの手紙も読まずにぼーっとするなんざ、らしくねぇな。当面の危機は去ったし、何よりこの大雪だ。どいつもこいつも家に閉じこもるしかできやしねぇ。心配はいらねぇよ」
「……左様ですな。申し訳ございません。して、御用は」
「月夜が俺たちに会いたがっているらしい。ちょうど今なら雪も止んでるし、月夜はまだ宮森にいるんだろう? 今から会いに行くぞ。お前も来い、小十郎」
「御意。馬の用意をしておきます」
政宗様の御前を失礼し、その足で厩へと急ぐ。
厩からは若い衆たちの雑談が聞こえており、どうやら寒さにかまけて仕事を放り出していやがるらしい。
こんな雪だ、誰が外出なんてするのか。
そう言わんばかりの体たらくぶりを入口から認め、俺はスッと息を吸うと。
「テメェらッ! 何を怠けてやがるッ!!」
「う、ウワァ!! こ、小十郎様ァ!?」
「すいやせん、小十郎様ァ〜ッ!!」
飛び上がって持ち場につく奴らを見送り、後藤黒と俺の馬を連れ出す。
鞍と鐙をつけ、手綱を噛ませると、厩番が桶に水を汲んで戻ってきた。
厩の入口から見える空は、真冬とは思えないくらい快晴だ。
これなら日中のうちには雪も多少なり溶けるだろう。
「お出掛けっすか? こんな寒いのに……」
「宮森城におられる月夜姫様が、政宗様をお呼びだ。明日には戻る」
「ちょちょ、何言ってんすか! 明日と言わず、三日くらい羽根伸ばしてきてくだせぇ! せっかく姫様ンとこに行くんすから!」
「……それもそうだな。政宗様に休息を取っていただくためにも、三日は必要か。天気次第だが、三日後に戻ることにする」
「了解っす! それで小十郎様、そんなに楽しそうなんスね」
「……そう見えるか?」
「なぁに言ってんすか、顔が緩んでますぜ。小十郎様だけ、もう春みたいっすね!」
調子に乗ったそいつの頭を軽く叩き、「まぁな」と口角を上げておく。
ヒュウ、と持て囃すソイツに、俺たちの留守中だろうと怠けるなと釘を刺して、門前へと二頭を連れ出した。
門の前には既に外出の用意を整えた政宗様が、屋代殿と共に待っておられた。
「それでは政宗様、片倉殿。道中お気をつけて。月夜姫様に宜しくお伝え下さい」
「OK.留守は任せたぜ」
「政宗様のことはお任せを」
小浜城を勢いよく飛び出す政宗様に続いて、馬の腹を蹴る。
天気はどこまでも気持ちの良い青空だ。
昨日までの大雪が嘘のように晴れ渡っている。
ところで、と、上機嫌に馬を走らせる政宗様へ、問うた。
「宮森城へ先触れはなさっておいでか、政宗様?」
「……」
「政宗様?」
「……小十郎。先に行って伝えてろ」
「貴方という方は……」
「小言なら聞き飽きたぜ、小十郎。どうせ月夜だって、あの手紙を出してすぐ俺が来ることくらい、お見通しだろう」
「そういうことではございますまい。出迎えもなしにどうやって門を開けていただくおつもりか」
「Ah? 自分の家なんだ、knockは必要ねぇだろ」
「……」
うっかりため息をつきたくなったところで、前方に三名ほどが馬に乗ってこちらを待っていた。
よく見ればそれは、宮森城に残してきた兵たちだ。
政宗様に気付くや否や、大声で「筆頭ー!」と呼び、大きく手を振ってきた。
「Hry guys.こんな所で何してやがる」
「姫様が言ってたんすよ。筆頭たち、絶対に今日来るって。だからここで待ってりゃ、筆頭と小十郎様に合流できるんじゃねぇかなって!」
「出迎えもなしに、どうやって城に入るつもりっすか、筆頭!」
だから言わんこっちゃねぇ。
無言で政宗様を見つめていると、政宗様は気まずそうに視線を逸らし、「Thanks.」と三人に労いをかけた。
四人で政宗様を囲み、宮森城へと上っていく。
宮森城は俺たちと違って平和そのもので、月夜姫様もお体はだいぶ快復なされたらしい。
だが無理をして元気に振る舞っているようにも見える──とも言っていた。
本当にこのご兄妹は、似た者同士に育ったものだ。
似てほしくないところまで似ないでいてくださると助かるが、時折見せるお転婆な姿には、既にその片鱗があるような気もする。
その時は……まあ、惚れた弱みとして、甘んじて振り回されてやろう。
直筆の文が俺の元へ届いたのは、雪掻きに追われる朝方のことだった。
俺に宛てられた物とは別に、政宗様へも文を差し出されたらしく、受け取った政宗様は嬉しそうに隻眼を緩めていた。
「月夜姫様から手紙を頂くのは、初めてでは?」
「Yes.同じ城にいる時は、月夜のほうからこっちに来るしな」
政宗様もすっかり歩き回れる程まで快復なさり、先程も若い衆に混じって雪掻きをされていた。
やれどもやれども終わらぬ雪に痺れを切らした義兄上が、ご自身の炎で雪を溶かしてしまった際には、若い衆と共に手を叩いて笑っておられたくらいだ。
そんなご様子に安心する傍らで、空元気にも見えるような漠然とした不安が付き纏う。
こういう時、月夜姫様であれば、うまく政宗様の弱音を引き出せるのだろうが……。
「……じゅろ、おい、小十郎!」
「っ! は、如何なさいましたか、政宗様」
「月夜からの手紙も読まずにぼーっとするなんざ、らしくねぇな。当面の危機は去ったし、何よりこの大雪だ。どいつもこいつも家に閉じこもるしかできやしねぇ。心配はいらねぇよ」
「……左様ですな。申し訳ございません。して、御用は」
「月夜が俺たちに会いたがっているらしい。ちょうど今なら雪も止んでるし、月夜はまだ宮森にいるんだろう? 今から会いに行くぞ。お前も来い、小十郎」
「御意。馬の用意をしておきます」
政宗様の御前を失礼し、その足で厩へと急ぐ。
厩からは若い衆たちの雑談が聞こえており、どうやら寒さにかまけて仕事を放り出していやがるらしい。
こんな雪だ、誰が外出なんてするのか。
そう言わんばかりの体たらくぶりを入口から認め、俺はスッと息を吸うと。
「テメェらッ! 何を怠けてやがるッ!!」
「う、ウワァ!! こ、小十郎様ァ!?」
「すいやせん、小十郎様ァ〜ッ!!」
飛び上がって持ち場につく奴らを見送り、後藤黒と俺の馬を連れ出す。
鞍と鐙をつけ、手綱を噛ませると、厩番が桶に水を汲んで戻ってきた。
厩の入口から見える空は、真冬とは思えないくらい快晴だ。
これなら日中のうちには雪も多少なり溶けるだろう。
「お出掛けっすか? こんな寒いのに……」
「宮森城におられる月夜姫様が、政宗様をお呼びだ。明日には戻る」
「ちょちょ、何言ってんすか! 明日と言わず、三日くらい羽根伸ばしてきてくだせぇ! せっかく姫様ンとこに行くんすから!」
「……それもそうだな。政宗様に休息を取っていただくためにも、三日は必要か。天気次第だが、三日後に戻ることにする」
「了解っす! それで小十郎様、そんなに楽しそうなんスね」
「……そう見えるか?」
「なぁに言ってんすか、顔が緩んでますぜ。小十郎様だけ、もう春みたいっすね!」
調子に乗ったそいつの頭を軽く叩き、「まぁな」と口角を上げておく。
ヒュウ、と持て囃すソイツに、俺たちの留守中だろうと怠けるなと釘を刺して、門前へと二頭を連れ出した。
門の前には既に外出の用意を整えた政宗様が、屋代殿と共に待っておられた。
「それでは政宗様、片倉殿。道中お気をつけて。月夜姫様に宜しくお伝え下さい」
「OK.留守は任せたぜ」
「政宗様のことはお任せを」
小浜城を勢いよく飛び出す政宗様に続いて、馬の腹を蹴る。
天気はどこまでも気持ちの良い青空だ。
昨日までの大雪が嘘のように晴れ渡っている。
ところで、と、上機嫌に馬を走らせる政宗様へ、問うた。
「宮森城へ先触れはなさっておいでか、政宗様?」
「……」
「政宗様?」
「……小十郎。先に行って伝えてろ」
「貴方という方は……」
「小言なら聞き飽きたぜ、小十郎。どうせ月夜だって、あの手紙を出してすぐ俺が来ることくらい、お見通しだろう」
「そういうことではございますまい。出迎えもなしにどうやって門を開けていただくおつもりか」
「Ah? 自分の家なんだ、knockは必要ねぇだろ」
「……」
うっかりため息をつきたくなったところで、前方に三名ほどが馬に乗ってこちらを待っていた。
よく見ればそれは、宮森城に残してきた兵たちだ。
政宗様に気付くや否や、大声で「筆頭ー!」と呼び、大きく手を振ってきた。
「Hry guys.こんな所で何してやがる」
「姫様が言ってたんすよ。筆頭たち、絶対に今日来るって。だからここで待ってりゃ、筆頭と小十郎様に合流できるんじゃねぇかなって!」
「出迎えもなしに、どうやって城に入るつもりっすか、筆頭!」
だから言わんこっちゃねぇ。
無言で政宗様を見つめていると、政宗様は気まずそうに視線を逸らし、「Thanks.」と三人に労いをかけた。
四人で政宗様を囲み、宮森城へと上っていく。
宮森城は俺たちと違って平和そのもので、月夜姫様もお体はだいぶ快復なされたらしい。
だが無理をして元気に振る舞っているようにも見える──とも言っていた。
本当にこのご兄妹は、似た者同士に育ったものだ。
似てほしくないところまで似ないでいてくださると助かるが、時折見せるお転婆な姿には、既にその片鱗があるような気もする。
その時は……まあ、惚れた弱みとして、甘んじて振り回されてやろう。
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