人取橋
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初七日の法要を終えてすぐ、政宗様はご出陣の下知を命じられた。
畠山方は強固な籠城戦を展開し、対するこちらは攻め手に欠け、二本松攻略は想定よりも長引いた。
更に南方からは佐竹が攻めてくるとの由。
迎え撃つべく、政宗様は二本松を離れ、本宮城へ兵を率いて入城し、安達太良川南方の観音堂山へ本陣を展開。
東側の瀬戸川館付近に、成実殿が陣を敷いた。
斥候の情報を信じるなら、少なくとも佐竹、蘆名、二階堂、岩城……そして蘆名方と懇意にしている石川も、敵方に回るはず。
この連合軍を、伊達一軍で迎え撃つのは……正直なところを言えば、不可能に近い。
「筆頭! 連合軍は昨夜のうちに、前田沢に陣を敷いてやがるそうです!」
「All right.テメェら、佐竹に人取橋を渡らせるな! 多少の無茶ならやってやるさ。この独眼竜の行く手を阻むってんなら、相応の代償ってモンを払ってもらわなけりゃな」
「陣触れだ! 筆頭、正面から来ます!!」
「OK! Are you ready guys!? 最初っからFull throttleだ!! Let's party!」
「「Yeah──ッ!!」」
瀬戸川にかかる、人取橋。
まさにそのど真ん中で、両軍は激突した。
一切の手加減は無用。
この戦を勝たせてこそ──竜の右目だ!
(多少の戦力差なら、政宗様や俺、成実殿、義兄上でどうにでもなる。だが、こちらの四倍ともなると──)
息をつく暇もないほど、前後左右から敵が襲いかかってくる。
だがここで踏み留まれなければ、伊達が終わる。
ここを突破され、二本松へ向かわれてしまうことだけは、何としても避けなければ。
「片倉!!」
「成実殿──」
「首尾は整った !! 日が落ちるまでが勝負だ!!」
「──承知!!」
冬の時期は日没も早い。
まずはそこまで、戦線を保たせる。
それが俺の仕事だ!
「唸れ鳴神ッ!!」
「WAR・DANCEッ!!」
どれだけ斬っても。
どれだけまとめて吹き飛ばしても。
有象無象のように、奴らは迫ってくる。
……これが、四倍差の兵力。
真冬だというのに、滝のように汗が止まらない。
それでもここで、討死することだけは。
(必ず帰ると誓おう──月夜姫様、貴女の元に!)
「月皇!!」
遠い冬の空に掲げた伊達の旗は、ひとつ、またひとつと斃れてゆく。
それでも。
俺たちは、立ち止まるわけにはいかねぇ!
この怒りが、悔しさが、竜の咆哮だ。
* * *
夜半の本宮城は、すっかり人が少なくなった。
矢をひとつ、種ヶ島を五発。
掠めたものや、甲冑に跡だけを残したものを含めると、それだけの数が政宗様に当たっていた。
「ひとまず大きな傷の手当は完了致しました」
「Thanks…….若い衆はどうしてる……?」
「どいつもこいつも、生き残ったことに多少は安堵しているようですが……。初めての負け戦に、戦意喪失している者も少なくはないようで」
「負け戦、か。……小十郎。お前は今回の戦、負けだと思うか」
静かに問われたその言葉には、一軍を預かる将としての重みが感じられた。
対外的に見れば、今回の戦は完全なる伊達の敗北だ。
四倍差をひっくり返すことは到底不可能で、更には殿となった鬼庭良直殿が討死。
五百の兵を持っていた成実殿も、半数以上を失った。
だが、それでも。
「此度の戦は、むしろ辛勝と申せましょう」
「……」
「四倍ある兵力差を前に、この程度の損害で撤退できたことは、奇跡に近い。何より貴方様は御身に種ヶ島を受けられはしたものの無事でおられる。二本松落城とはなりませんでしたが、再度仕切り直せば良い」
「そうか。……そうだな。小十郎」
「は」
「綱元に労いを持たせてやれ。……良直が居なけりゃ、俺の首は今頃、人取橋に転がっていただろう」
「承知」
「お前も休め。そんな大怪我、月夜が見たら、卒倒しちまうぞ……」
それだけを言い残し、政宗様は瞳を閉じられた。
肩まで布団をかけ、政宗様のお部屋を辞すると、部屋の外には成実殿がおられた。
俺と目が合い、小声で「寝た?」と尋ねられ、無言で頷いて見せる。
ほっと表情を緩ませ、成実殿は踵を返して、ご自身の部屋へと戻られていった。
「よく生き延びたもんだな」
右腰にある黒龍の柄を撫で、呟く。
激戦を戦い抜いた黒龍は、かつてない程に刃こぼれしており、とてもではないが振るうことなどできそうもない。
はぁ、と吐く息は白く、月の青白い光がそれを照らした。
(月夜姫様……暖かくしておられるだろうか。お風邪など召されていなければいいが──)
宮森城から離れて、早いものでひと月。
今でこそお心はひとつに重なっていると信じているものの、お傍に居られないというのは、なんとももどかしい。
難は逃れたが、油断はできねぇ。
連合軍は未だに人取橋に陣を敷いている。
田村のよしみで相馬方をこちらに味方としてつけられたのはよかったが、あまりにも失いすぎた……ここまでの劣勢は、初めてだ。
しかし成実殿が「首尾は整った」と仰っていた。
政宗様は成実殿に、援軍の用意を任せておられた。
とすると……何かしらの工作が成功したと考えていいだろう。
(ひとまず、今日はもう休んでしまおう。また明日、どうするかを考えなけりゃならねぇが……)
奥州は政宗様を失えねぇ。
だが今はもう、頭も身体も疲労困憊だ。
……月夜姫様の身に付ける結紐をひとつ、頂いておけばよかった。
そうすりゃあほんの少しは、募った会いたさを、どうにかできたかもしれないのに。
畠山方は強固な籠城戦を展開し、対するこちらは攻め手に欠け、二本松攻略は想定よりも長引いた。
更に南方からは佐竹が攻めてくるとの由。
迎え撃つべく、政宗様は二本松を離れ、本宮城へ兵を率いて入城し、安達太良川南方の観音堂山へ本陣を展開。
東側の瀬戸川館付近に、成実殿が陣を敷いた。
斥候の情報を信じるなら、少なくとも佐竹、蘆名、二階堂、岩城……そして蘆名方と懇意にしている石川も、敵方に回るはず。
この連合軍を、伊達一軍で迎え撃つのは……正直なところを言えば、不可能に近い。
「筆頭! 連合軍は昨夜のうちに、前田沢に陣を敷いてやがるそうです!」
「All right.テメェら、佐竹に人取橋を渡らせるな! 多少の無茶ならやってやるさ。この独眼竜の行く手を阻むってんなら、相応の代償ってモンを払ってもらわなけりゃな」
「陣触れだ! 筆頭、正面から来ます!!」
「OK! Are you ready guys!? 最初っからFull throttleだ!! Let's party!」
「「Yeah──ッ!!」」
瀬戸川にかかる、人取橋。
まさにそのど真ん中で、両軍は激突した。
一切の手加減は無用。
この戦を勝たせてこそ──竜の右目だ!
(多少の戦力差なら、政宗様や俺、成実殿、義兄上でどうにでもなる。だが、こちらの四倍ともなると──)
息をつく暇もないほど、前後左右から敵が襲いかかってくる。
だがここで踏み留まれなければ、伊達が終わる。
ここを突破され、二本松へ向かわれてしまうことだけは、何としても避けなければ。
「片倉!!」
「成実殿──」
「
「──承知!!」
冬の時期は日没も早い。
まずはそこまで、戦線を保たせる。
それが俺の仕事だ!
「唸れ鳴神ッ!!」
「WAR・DANCEッ!!」
どれだけ斬っても。
どれだけまとめて吹き飛ばしても。
有象無象のように、奴らは迫ってくる。
……これが、四倍差の兵力。
真冬だというのに、滝のように汗が止まらない。
それでもここで、討死することだけは。
(必ず帰ると誓おう──月夜姫様、貴女の元に!)
「月皇!!」
遠い冬の空に掲げた伊達の旗は、ひとつ、またひとつと斃れてゆく。
それでも。
俺たちは、立ち止まるわけにはいかねぇ!
この怒りが、悔しさが、竜の咆哮だ。
* * *
夜半の本宮城は、すっかり人が少なくなった。
矢をひとつ、種ヶ島を五発。
掠めたものや、甲冑に跡だけを残したものを含めると、それだけの数が政宗様に当たっていた。
「ひとまず大きな傷の手当は完了致しました」
「Thanks…….若い衆はどうしてる……?」
「どいつもこいつも、生き残ったことに多少は安堵しているようですが……。初めての負け戦に、戦意喪失している者も少なくはないようで」
「負け戦、か。……小十郎。お前は今回の戦、負けだと思うか」
静かに問われたその言葉には、一軍を預かる将としての重みが感じられた。
対外的に見れば、今回の戦は完全なる伊達の敗北だ。
四倍差をひっくり返すことは到底不可能で、更には殿となった鬼庭良直殿が討死。
五百の兵を持っていた成実殿も、半数以上を失った。
だが、それでも。
「此度の戦は、むしろ辛勝と申せましょう」
「……」
「四倍ある兵力差を前に、この程度の損害で撤退できたことは、奇跡に近い。何より貴方様は御身に種ヶ島を受けられはしたものの無事でおられる。二本松落城とはなりませんでしたが、再度仕切り直せば良い」
「そうか。……そうだな。小十郎」
「は」
「綱元に労いを持たせてやれ。……良直が居なけりゃ、俺の首は今頃、人取橋に転がっていただろう」
「承知」
「お前も休め。そんな大怪我、月夜が見たら、卒倒しちまうぞ……」
それだけを言い残し、政宗様は瞳を閉じられた。
肩まで布団をかけ、政宗様のお部屋を辞すると、部屋の外には成実殿がおられた。
俺と目が合い、小声で「寝た?」と尋ねられ、無言で頷いて見せる。
ほっと表情を緩ませ、成実殿は踵を返して、ご自身の部屋へと戻られていった。
「よく生き延びたもんだな」
右腰にある黒龍の柄を撫で、呟く。
激戦を戦い抜いた黒龍は、かつてない程に刃こぼれしており、とてもではないが振るうことなどできそうもない。
はぁ、と吐く息は白く、月の青白い光がそれを照らした。
(月夜姫様……暖かくしておられるだろうか。お風邪など召されていなければいいが──)
宮森城から離れて、早いものでひと月。
今でこそお心はひとつに重なっていると信じているものの、お傍に居られないというのは、なんとももどかしい。
難は逃れたが、油断はできねぇ。
連合軍は未だに人取橋に陣を敷いている。
田村のよしみで相馬方をこちらに味方としてつけられたのはよかったが、あまりにも失いすぎた……ここまでの劣勢は、初めてだ。
しかし成実殿が「首尾は整った」と仰っていた。
政宗様は成実殿に、援軍の用意を任せておられた。
とすると……何かしらの工作が成功したと考えていいだろう。
(ひとまず、今日はもう休んでしまおう。また明日、どうするかを考えなけりゃならねぇが……)
奥州は政宗様を失えねぇ。
だが今はもう、頭も身体も疲労困憊だ。
……月夜姫様の身に付ける結紐をひとつ、頂いておけばよかった。
そうすりゃあほんの少しは、募った会いたさを、どうにかできたかもしれないのに。