21章
夢小説設定
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宝石……ビーナスの涙を持って、私達はゲルダさんの家へと急いで戻った。
池の中にある小島に建てられたゲルダさんの邸宅。
そこへ繋がる吊り橋の前で、私はエイトに待ったをかけた。
「もういいと思う!!」
「家の前までだろ?」
「もう目の前だね!? 目と鼻の先だねぇ!!」
「気持ちは分かるけど、レイラの意思も尊重してあげましょ。本人も反省してるんだから、それ以上は可哀想だわ」
「……はぁ、仕方ないな。これに懲りたら、無理はしないこと」
「はぁい……」
渋々といった様子で、エイトが私を腕から降ろす。
裏を返せば、ここに来るまではお姫様抱っこだったわけだ。
誰ともすれ違わなくて良かった。
陛下が何も言わないのが、一周回って怖かったけど。
橋を渡って、その先の邸宅へと入る。
やはりロッキングチェアに揺られているゲルダさんへ、ヤンガスがビーナスの涙を差し出した。
「ほれっ。ビーナスの涙、確かに持ってきたぜ!」
ゲルダさんはその宝石を受け取ると、ロッキングチェアから立ち上がって、宝石を光に翳して眺めた。
こうして見ると、本当に綺麗な宝石だな。
宝石の審美眼なんてない私がそう思うんだから、ゲルダさんはなおのこと、この宝石を綺麗だと思っているだろう。
「この美しさ……。どうやら本物のビーナスの涙みたいだね。さすがはヤンガスってところか」
「さあ、約束通り、あの馬と馬車を返してもらうぜ」
「……あたしがした約束は、たしか、ビーナスの涙を持ってきたら馬を返すのを考えるってことだったね。じゃあ今考えた。やっぱりあの馬は返せないね。この石コロはあんた達に返すよ」
「えっ……えぇぇぇええ!?」
うっかりヤンガスより先に悲鳴を上げてしまった。
だって、そりゃあ「考える」とは言われたけど、他人に危険を冒させておいて「やっぱやめた」は人としてどうかって話でだな!!
「なっ……約束が違うぞ! 女盗賊ゲルダともあろう者が、そんなガキみたいな屁理屈言うなよ!」
そうだそうだ! と私が言う前に、ゼシカとククールの手が私の口を塞いだ。
どうしてそういうところだけ息が合うんだ。
「約束ね……。そういえばあんた、以前あたしにこの宝石をくれるって約束してなかったかい?」
「うっ! 何を今更、そんな大昔の話を……」
「自分だって約束破っといて、よく言うよ。とにかく、あたしはあの馬を手放す気はないからね!」
それまぁ、ヤンガスが悪いけども。
約束を破るのは良くない。
互いの信頼で成り立つ盗賊という職業なら尚更。
でもこのままだと、いずれ呪いが解けた時、ゲルダさんは人身売買に手を染めたことになっちゃうな……。
「もごが」
「レイラ、お願いだから今は喋らないで」
「あとで思う存分、エイトとヤンガス相手に喋り倒していいからな。今はお口チャックだぞ」
「むー!!」
なんだこのバカリスマ、人を子供扱いしてー!!
そんな歳も変わんないくせに!
……ククールが年上なのは間違いないけど!!
それにしたってこの状況は困った。
確かにゲルダさんは考えるって言っただけで、返すとは明言してなかったわけだけど……。
「……お前の言う通り、あの時の約束を破ったのは悪かった。お前が俺に腹を立てるのも無理ねぇ。でも今回のことは、俺ひとりの問題じゃねぇんだ。仲間のためにも引くわけにはいかねぇ」
そう言って──ヤンガスが、床に手をついた。
「ヤンガス!?」
私たち全員が驚いたけど、一番驚いているのはゲルダさんだ。
まさかヤンガスがそこまでするなんて、私達も予想外だったし、ゲルダさんなんてもっと意外だっただろう。
「この通りだ。俺はどうなってもいいから……。頼むから、あの馬を返してくれ!」
「……なっ!」
ヤンガスがゲルダさんへ向けて頭を下げる。
ゲルダさんがぎょっとしたように目を見開いて、それからやれやれと首を振った。
「……分かったから、もうやめな。大の男が、簡単に頭なんか下げるもんじゃないよ!」
「それじゃあ……」
ゲルダさんに促されて、ヤンガスが顔を上げる。
ゲルダさんはヤンガスを見下ろすと、呆れたような口振りで言った。
「あんたを困らせてやろうと思ってたけど、バカバカしくなってきたよ。あの馬のことは好きにすればいいさ。でもその代わり、ビーナスの涙はやっぱりもらっておくよ。それが約束だったんだからね」
「ああ、もちろんだ。ありがとう、ゲルダ。……それと、本当にすまなかった」
「……ったく、鬱陶しいね! これでもう用は済んだろ? どこへなりと行っちまいな!」
ヤンガスを手で追い払って、ゲルダさんがロッキングチェアにどさっと座り直す。
その頬がほんのり赤いことに気付いたのは、きっと私だけだ。
「ふふっ……」
「どうかしたんでがすか、姉貴?」
「んーん、何でもない。さ、姫様のところに行こう!」
ゲルダさんは、本当はヤンガスのことが気に入ってるんだろうな。
だから尚更、ヤンガスに約束を破られたことが気に食わなくて……。
エイトに約束を破られたら、私だって悲しい。
ゲルダさんみたいに気に食わないって態度にはならないけど、どうしてって気持ちにはなる。
「ゲルダさん。……ありがとうございました」
「ふん、ヤンガスの顔を立ててやっただけさ。次は盗まれないように、せいぜい気を付けな」
「ふふ……はい。ゲルダさんもお元気で」
もうこちらを見向きもしないゲルダさんに頭を下げ、おうちを出る。
なにはともあれ、一件落着。
さぁて、姫様をお迎えに上がらなければ。
池の中にある小島に建てられたゲルダさんの邸宅。
そこへ繋がる吊り橋の前で、私はエイトに待ったをかけた。
「もういいと思う!!」
「家の前までだろ?」
「もう目の前だね!? 目と鼻の先だねぇ!!」
「気持ちは分かるけど、レイラの意思も尊重してあげましょ。本人も反省してるんだから、それ以上は可哀想だわ」
「……はぁ、仕方ないな。これに懲りたら、無理はしないこと」
「はぁい……」
渋々といった様子で、エイトが私を腕から降ろす。
裏を返せば、ここに来るまではお姫様抱っこだったわけだ。
誰ともすれ違わなくて良かった。
陛下が何も言わないのが、一周回って怖かったけど。
橋を渡って、その先の邸宅へと入る。
やはりロッキングチェアに揺られているゲルダさんへ、ヤンガスがビーナスの涙を差し出した。
「ほれっ。ビーナスの涙、確かに持ってきたぜ!」
ゲルダさんはその宝石を受け取ると、ロッキングチェアから立ち上がって、宝石を光に翳して眺めた。
こうして見ると、本当に綺麗な宝石だな。
宝石の審美眼なんてない私がそう思うんだから、ゲルダさんはなおのこと、この宝石を綺麗だと思っているだろう。
「この美しさ……。どうやら本物のビーナスの涙みたいだね。さすがはヤンガスってところか」
「さあ、約束通り、あの馬と馬車を返してもらうぜ」
「……あたしがした約束は、たしか、ビーナスの涙を持ってきたら馬を返すのを考えるってことだったね。じゃあ今考えた。やっぱりあの馬は返せないね。この石コロはあんた達に返すよ」
「えっ……えぇぇぇええ!?」
うっかりヤンガスより先に悲鳴を上げてしまった。
だって、そりゃあ「考える」とは言われたけど、他人に危険を冒させておいて「やっぱやめた」は人としてどうかって話でだな!!
「なっ……約束が違うぞ! 女盗賊ゲルダともあろう者が、そんなガキみたいな屁理屈言うなよ!」
そうだそうだ! と私が言う前に、ゼシカとククールの手が私の口を塞いだ。
どうしてそういうところだけ息が合うんだ。
「約束ね……。そういえばあんた、以前あたしにこの宝石をくれるって約束してなかったかい?」
「うっ! 何を今更、そんな大昔の話を……」
「自分だって約束破っといて、よく言うよ。とにかく、あたしはあの馬を手放す気はないからね!」
それまぁ、ヤンガスが悪いけども。
約束を破るのは良くない。
互いの信頼で成り立つ盗賊という職業なら尚更。
でもこのままだと、いずれ呪いが解けた時、ゲルダさんは人身売買に手を染めたことになっちゃうな……。
「もごが」
「レイラ、お願いだから今は喋らないで」
「あとで思う存分、エイトとヤンガス相手に喋り倒していいからな。今はお口チャックだぞ」
「むー!!」
なんだこのバカリスマ、人を子供扱いしてー!!
そんな歳も変わんないくせに!
……ククールが年上なのは間違いないけど!!
それにしたってこの状況は困った。
確かにゲルダさんは考えるって言っただけで、返すとは明言してなかったわけだけど……。
「……お前の言う通り、あの時の約束を破ったのは悪かった。お前が俺に腹を立てるのも無理ねぇ。でも今回のことは、俺ひとりの問題じゃねぇんだ。仲間のためにも引くわけにはいかねぇ」
そう言って──ヤンガスが、床に手をついた。
「ヤンガス!?」
私たち全員が驚いたけど、一番驚いているのはゲルダさんだ。
まさかヤンガスがそこまでするなんて、私達も予想外だったし、ゲルダさんなんてもっと意外だっただろう。
「この通りだ。俺はどうなってもいいから……。頼むから、あの馬を返してくれ!」
「……なっ!」
ヤンガスがゲルダさんへ向けて頭を下げる。
ゲルダさんがぎょっとしたように目を見開いて、それからやれやれと首を振った。
「……分かったから、もうやめな。大の男が、簡単に頭なんか下げるもんじゃないよ!」
「それじゃあ……」
ゲルダさんに促されて、ヤンガスが顔を上げる。
ゲルダさんはヤンガスを見下ろすと、呆れたような口振りで言った。
「あんたを困らせてやろうと思ってたけど、バカバカしくなってきたよ。あの馬のことは好きにすればいいさ。でもその代わり、ビーナスの涙はやっぱりもらっておくよ。それが約束だったんだからね」
「ああ、もちろんだ。ありがとう、ゲルダ。……それと、本当にすまなかった」
「……ったく、鬱陶しいね! これでもう用は済んだろ? どこへなりと行っちまいな!」
ヤンガスを手で追い払って、ゲルダさんがロッキングチェアにどさっと座り直す。
その頬がほんのり赤いことに気付いたのは、きっと私だけだ。
「ふふっ……」
「どうかしたんでがすか、姉貴?」
「んーん、何でもない。さ、姫様のところに行こう!」
ゲルダさんは、本当はヤンガスのことが気に入ってるんだろうな。
だから尚更、ヤンガスに約束を破られたことが気に食わなくて……。
エイトに約束を破られたら、私だって悲しい。
ゲルダさんみたいに気に食わないって態度にはならないけど、どうしてって気持ちにはなる。
「ゲルダさん。……ありがとうございました」
「ふん、ヤンガスの顔を立ててやっただけさ。次は盗まれないように、せいぜい気を付けな」
「ふふ……はい。ゲルダさんもお元気で」
もうこちらを見向きもしないゲルダさんに頭を下げ、おうちを出る。
なにはともあれ、一件落着。
さぁて、姫様をお迎えに上がらなければ。