21章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私の無事を確認できたため、ヤンガスが宝箱へと手を突っ込んだ。
そして取り出したのは、水滴の形をした美しい宝石──ビーナスの涙だ。
「こいつがビーナスの涙か……。とうとう手に入れてやったぜ!」
まるで吸い込まれるような青。
空の青に近いような気もするそれは、確かにビーナスが流した涙と称されるのも頷けるくらい、綺麗な宝石だった。
「……兄貴、姉貴、実はね。アッシが昔この洞窟に挑んだのは、あのゲルダのためだったんでがすよ」
「そんなふうなこと言ってたね」
「今でこそあいつとは単なる商売敵でしかないんでげすが、あの頃はアッシも青くてね。ゲルダの奴も今みたいにおっかない感じじゃなくて、正直ちょっと憧れてたんでさあ」
それは……本当に憧れの気持ちだけだったのか?
女の勘が全力で叫んでいた。
それを人は恋と呼ぶんだぜー!!
「ヤンガスってば、やるじゃん! それで?」
「それであいつが欲しがってたビーナスの涙を取りに来たんですが、結局、怪我して逃げ帰るだけでがした。まさか今になって、こんな形で手に入れることになるたぁ、思いもよらなかったでげすよ。……もしあの時、首尾よくこの石っコロを手に入れてたら、どうなってたんでがしょうねぇ……」
どうって……。
……どうなってたんだろう。
少なくとも、ゲルダさんとは仲のいい同業者として、上手く付き合えたんじゃないかな。
盗賊稼業に嫌気がさすことも、ひょっとしたらなかったかも。
そうなると私達の仲間になることもなかったわけで……。
「……おっと。今の話は他言無用でがすよ。アッシの苦い青春のメモリーでげす」
「ふふ……分かった。僕らだけの秘密だ」
なにか羨ましいものを見るかのように、エイトはそう言って目を細めた。
エイトだって青春してたと思うのにな。
そりゃあどうしたって身分の差はあるけど、小さい頃は姫様と一緒にずっと遊んでたもんね。
今にして思えば、小間使いという名の遊び相手だったんだろう。
「……ところでいつまで抱っこされてりゃいいの、私?」
「病み上がりは大人しく子供扱いされておきな」
「腹立つ顔だな、バカリスマ」
「バカリスマ定着させんな」
「あらいいじゃない、私は気に入ったわよ」
ニヤニヤと意地の悪い顔をするバカリスマに嫌味を投げ返すと、横からも投げつけられていた。
とはいえククールのカリスマ性は、我々と共に旅をするようになってから一度も発揮されてはいないので、ネタにされるのもやむなしではあるけど。
「エイト、ご覧の通り私はもう大丈夫ですので」
「レイラの大丈夫は信用ならないから駄目」
「ちょっとぉ!? 十年来の幼馴染みなのに信用ないって嘘でしょー!?」
「自業自得って言葉、知ってる?」
「でも行ってこいって陛下が言ったじゃん!」
「トロデ王は『無理しない程度に』って言ってただろ」
「む、無理はしてないもん……!」
「無理してないなら、どうして戦闘中にふらついたりしたんだよ」
それは、と言葉に詰まる。
たしかにちょっとだけ不調を感じていたのは否めないけど、それでも私だけが休んでいるのは、気が引けたというか。
姫様が攫われてしまったのは私の失態でもあるし……。
「責任感が強いのは元近衛兵だからかしら。だけど、だからって無理をしていい理由にはならないのよ」
「うっ」
「エイトとあなたは、トロデーン城にいた頃からの幼馴染みで、支え合ってきたんでしょ? だったらエイトに余計な心配をかけさせちゃ駄目じゃない」
心配……してくれてたのか。
そりゃそうだよね、戦力ではあるわけだし。
一応こんなんでもエイトの幼馴染みだもんね。
心配くらいはしてくれるか。
「……ごめん、なさい」
「もっと自分を大切にして。体調が万全じゃないのに無理をしろなんて、言わないから。そういう時はしっかり休んでほしいよ。それで怒る人はいないだろ?」
「……うん」
エイトの声が優しいから、なんだか罪悪感が膨れ上がってきた。
みんなにも謝って、それでもエイトは降ろす気配がなかったから、好きにさせることにした。
実際、歩けるかと言われたら微妙だ。
「それにしたって、妙な動きじゃなかったか? なんだってあいつ、いきなりレイラを集中攻撃したんだ?」
「レイラがベホイミを私にかけてから、明らかに行動がおかしくなったわよね」
「……そうだっけ」
「戦いに夢中だと、イレギュラーにも気付かねぇもんでがす。姉貴に心当たりがなくても仕方ねぇでげすよ」
そんなもんか、と思いつつ頷くと、頭上のエイトは腑に落ちないような顔をしていた。
まだ気になることがあるんだろうか、過保護だなぁなどと考えていると、エイトは私を見下ろして。
「……レイラ、いつの間にイオラを使えるようになったの?」
「へっ? イオラ? ごめん、何の話?」
「トラップボックスがレイラに襲いかかった時、レイラが唱えただろ?」
「え? あれってゼシカじゃないの?」
「私はまだイオラを使える程の域には達してないわよ」
「……えっ、え?」
てっきりあれはゼシカが唱えたんだと思っていたのに。
そりゃあ、私が唱えたようにも思えたけど、私はイオすら使えないのに有り得ないし……。
「疑問は残るが、ひとまずここを出ようぜ。例の女盗賊さんが、首を長くして待ってるだろうからな」
「はっ、そうだった! 姫様を取り戻さないと!」
「そうだね。ゼシカ、リレミトお願いできる?」
「分かったわ。──リレミト!」
ゼシカの呪文で、私達は黄色い光に包まれ、次の瞬間には洞窟の外に出ていた。
エイトが私をお姫様抱っこしたまま歩き出すから、「ちょいちょいちょい!!」と慌ててストップ。
どうしたの、と不思議そうな顔をするエイトは、本気で私が止めた理由を分かっていなかった。
「いつまでこれ!?」
「立てるようになるまでだろ」
「せめておんぶとか!!」
「背後から襲われたら守れないから駄目」
「真正面から襲われても応戦できなくない?」
「真正面なら大丈夫だよ。ブーメランがある」
「こ、このぉ……! じゃあゲルダさんの家の前までね! それ以上は暴れてでも離れてやるからね!」
「お転婆がすぎるぞ」
「こちとら落ち着きのなさが売りなんでぃ!」
「自分で言わない」
「アッハイ」
エイトの冷たい一言にはすぐさま頷いた。
怒らせてはいけない、怒ったエイトは幽霊より怖い。
なぜ知っているかって?
そんなのもちろん、私が一番の経験者だからだ。
そして取り出したのは、水滴の形をした美しい宝石──ビーナスの涙だ。
「こいつがビーナスの涙か……。とうとう手に入れてやったぜ!」
まるで吸い込まれるような青。
空の青に近いような気もするそれは、確かにビーナスが流した涙と称されるのも頷けるくらい、綺麗な宝石だった。
「……兄貴、姉貴、実はね。アッシが昔この洞窟に挑んだのは、あのゲルダのためだったんでがすよ」
「そんなふうなこと言ってたね」
「今でこそあいつとは単なる商売敵でしかないんでげすが、あの頃はアッシも青くてね。ゲルダの奴も今みたいにおっかない感じじゃなくて、正直ちょっと憧れてたんでさあ」
それは……本当に憧れの気持ちだけだったのか?
女の勘が全力で叫んでいた。
それを人は恋と呼ぶんだぜー!!
「ヤンガスってば、やるじゃん! それで?」
「それであいつが欲しがってたビーナスの涙を取りに来たんですが、結局、怪我して逃げ帰るだけでがした。まさか今になって、こんな形で手に入れることになるたぁ、思いもよらなかったでげすよ。……もしあの時、首尾よくこの石っコロを手に入れてたら、どうなってたんでがしょうねぇ……」
どうって……。
……どうなってたんだろう。
少なくとも、ゲルダさんとは仲のいい同業者として、上手く付き合えたんじゃないかな。
盗賊稼業に嫌気がさすことも、ひょっとしたらなかったかも。
そうなると私達の仲間になることもなかったわけで……。
「……おっと。今の話は他言無用でがすよ。アッシの苦い青春のメモリーでげす」
「ふふ……分かった。僕らだけの秘密だ」
なにか羨ましいものを見るかのように、エイトはそう言って目を細めた。
エイトだって青春してたと思うのにな。
そりゃあどうしたって身分の差はあるけど、小さい頃は姫様と一緒にずっと遊んでたもんね。
今にして思えば、小間使いという名の遊び相手だったんだろう。
「……ところでいつまで抱っこされてりゃいいの、私?」
「病み上がりは大人しく子供扱いされておきな」
「腹立つ顔だな、バカリスマ」
「バカリスマ定着させんな」
「あらいいじゃない、私は気に入ったわよ」
ニヤニヤと意地の悪い顔をするバカリスマに嫌味を投げ返すと、横からも投げつけられていた。
とはいえククールのカリスマ性は、我々と共に旅をするようになってから一度も発揮されてはいないので、ネタにされるのもやむなしではあるけど。
「エイト、ご覧の通り私はもう大丈夫ですので」
「レイラの大丈夫は信用ならないから駄目」
「ちょっとぉ!? 十年来の幼馴染みなのに信用ないって嘘でしょー!?」
「自業自得って言葉、知ってる?」
「でも行ってこいって陛下が言ったじゃん!」
「トロデ王は『無理しない程度に』って言ってただろ」
「む、無理はしてないもん……!」
「無理してないなら、どうして戦闘中にふらついたりしたんだよ」
それは、と言葉に詰まる。
たしかにちょっとだけ不調を感じていたのは否めないけど、それでも私だけが休んでいるのは、気が引けたというか。
姫様が攫われてしまったのは私の失態でもあるし……。
「責任感が強いのは元近衛兵だからかしら。だけど、だからって無理をしていい理由にはならないのよ」
「うっ」
「エイトとあなたは、トロデーン城にいた頃からの幼馴染みで、支え合ってきたんでしょ? だったらエイトに余計な心配をかけさせちゃ駄目じゃない」
心配……してくれてたのか。
そりゃそうだよね、戦力ではあるわけだし。
一応こんなんでもエイトの幼馴染みだもんね。
心配くらいはしてくれるか。
「……ごめん、なさい」
「もっと自分を大切にして。体調が万全じゃないのに無理をしろなんて、言わないから。そういう時はしっかり休んでほしいよ。それで怒る人はいないだろ?」
「……うん」
エイトの声が優しいから、なんだか罪悪感が膨れ上がってきた。
みんなにも謝って、それでもエイトは降ろす気配がなかったから、好きにさせることにした。
実際、歩けるかと言われたら微妙だ。
「それにしたって、妙な動きじゃなかったか? なんだってあいつ、いきなりレイラを集中攻撃したんだ?」
「レイラがベホイミを私にかけてから、明らかに行動がおかしくなったわよね」
「……そうだっけ」
「戦いに夢中だと、イレギュラーにも気付かねぇもんでがす。姉貴に心当たりがなくても仕方ねぇでげすよ」
そんなもんか、と思いつつ頷くと、頭上のエイトは腑に落ちないような顔をしていた。
まだ気になることがあるんだろうか、過保護だなぁなどと考えていると、エイトは私を見下ろして。
「……レイラ、いつの間にイオラを使えるようになったの?」
「へっ? イオラ? ごめん、何の話?」
「トラップボックスがレイラに襲いかかった時、レイラが唱えただろ?」
「え? あれってゼシカじゃないの?」
「私はまだイオラを使える程の域には達してないわよ」
「……えっ、え?」
てっきりあれはゼシカが唱えたんだと思っていたのに。
そりゃあ、私が唱えたようにも思えたけど、私はイオすら使えないのに有り得ないし……。
「疑問は残るが、ひとまずここを出ようぜ。例の女盗賊さんが、首を長くして待ってるだろうからな」
「はっ、そうだった! 姫様を取り戻さないと!」
「そうだね。ゼシカ、リレミトお願いできる?」
「分かったわ。──リレミト!」
ゼシカの呪文で、私達は黄色い光に包まれ、次の瞬間には洞窟の外に出ていた。
エイトが私をお姫様抱っこしたまま歩き出すから、「ちょいちょいちょい!!」と慌ててストップ。
どうしたの、と不思議そうな顔をするエイトは、本気で私が止めた理由を分かっていなかった。
「いつまでこれ!?」
「立てるようになるまでだろ」
「せめておんぶとか!!」
「背後から襲われたら守れないから駄目」
「真正面から襲われても応戦できなくない?」
「真正面なら大丈夫だよ。ブーメランがある」
「こ、このぉ……! じゃあゲルダさんの家の前までね! それ以上は暴れてでも離れてやるからね!」
「お転婆がすぎるぞ」
「こちとら落ち着きのなさが売りなんでぃ!」
「自分で言わない」
「アッハイ」
エイトの冷たい一言にはすぐさま頷いた。
怒らせてはいけない、怒ったエイトは幽霊より怖い。
なぜ知っているかって?
そんなのもちろん、私が一番の経験者だからだ。