19章
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道行く人たちに馬車のことを聞くと、物乞い通りに入っていったとの情報をゲット。
その物乞い通りに寝転がっているホームレスに話を聞くと。
「ああ、馬車なら見たぜ。でもな、物乞い通りに生きる者として、タダで教えるわけにゃいかねぇな。教えてほしかったら二十ゴールドだ。ビタ一文、負けやしねぇぜ。さあ、払ってもらおうか?」
「な、なんだとぉー!? この人でなし! ボケナス! それがお前のやり方かぁー!?」
「ほらよ、二十ゴールドだ。これでいいんだろ」
「ヤンガス!?」
憤る私の隣で、ヤンガスが二十ゴールドを支払った。
これがパルミドに住んでいた人間の適応力か……。
……見習いたくはないけど。
「へへっ、ありがとよ。この通りに入ってきた馬車に乗ってたのは、酔いどれキントっていう、ケチな盗賊さ。大の飲兵衛で、いつも酔っ払ってるような男だが、酒代のためなら馬泥棒くらいはする奴さ」
「酔いどれキントだぁ!?」
「ヤンガス、知ってるの?」
やはりこの町出身なだけある。
ゼシカにそう問われて、ヤンガスは「もちろんでげすよ」と頷いた。
ヤンガス、ここに来て大活躍だ。
熱を出して寝込んでいただけの私より役に立っている……。
「野郎のアジトはここで間違いねぇはずでがす」
辿り着いたのは、町の見張り台の足元にある民家。
ドアを開けると、中は倉庫のようで、荷物の入った箱が山ほど並んでいて。
……その奥から、ゴールドを数える声が聞こえてきた。
「……九九八枚、九九九枚、千枚っと! オヤジの奴、目が利きやがるぜ。あの馬の品の良さを一発で見抜くたぁ、さすがは闇商人ってとこか」
キントの背後に仁王立ちするエイトの顔が、かつてないほどの鬼の形相だ。
恐ろしい……あの「温厚が服を着て歩いている」と言われたエイトに、こんな顔をさせるなんて……。
「……まぁ、このキント様にとっちゃ、馬泥棒くらい朝メシ前ってもんさ。フヘヘヘ……ヒック!」
「へぇ、それが人の物を勝手に盗んで得た金か……」
地獄の底から出てきたのかと聞き間違えるくらい、ドスの効いた声だった。
エイトってそんな声も出せるんだ、すごいなぁ。
背後から聞こえてきた声にキントが飛び上がって、部屋の隅で腰を抜かしてエイトを見上げる。
こちらは小悪党感があって、大変に情けない。
「うわぁ! だ、誰だお前!? あっ! まさかあの馬の持ち主!?」
「私の顔を忘れたとは言わせないからな」
「あー! お前は、宿屋の前で訳の分かんねぇことを言ってた女!!」
「ちょっとォ!! 言い方ってもんがあんだろがァ!!」
「貴様か! わしの可愛い姫を拐かしたのは、貴様なんじゃな!」
私とエイトの横から陛下も乱入してきた。
キントが更に竦み上がって、ゴールドの入った麻袋を握り締めて震える。
ちょっと可哀想になってきた。
「ひゃあー!? なんでこんなとこに魔物がいるんだ!? あ……あの馬は魔物の姫だったのか?」
「ええい、誰が魔物じゃ! ……とにかく姫を返せ! 今すぐ返せ! 返さぬと酷い目に遭わせるぞ!!」
「あわわわ……許してくれぇ! あの馬が魔物の姫だったなんて、知らなかったんだぁ。こ……この通り、馬を売った金は返すから、どうか命ばかりは……」
……聞き慣れた命乞いだ。
私が今までの『夜勤』で手に掛けてきた悪党共も、最後には「命だけは助けてくれ」と縋ってきたものだった。
「貴様っ、姫を売ったと申すか!? ええい、エイト、レイラ、構わぬ! こんな奴は斬り捨ててしまえい!!」
──瞬間。
私の中で、カチッとスイッチが切り替わった。
頭が急速に冴えていって、私の手が迷うことなく剣の柄を握って、引き抜こうと力を入れる。
その私の右手を、誰かの手が強く押し留めた。
「……駄目だよ」
静かな声が私を諌める。
駄目じゃない、これは私の仕事だ。
『これ』は、私に課せられた役目だ。
「陛下のご意思に背くの」
「これは『夜勤』じゃない」
……夜勤、じゃ、ない。
でも陛下は今たしかに、私に向かってこの男を斬り捨てよとおっしゃったのに。
「まあ落ち着けよ、おっさん。こんなチンピラ斬ったって、兄貴と姉貴の名が汚れるだけってもんだぜ」
ヤンガスがそう言って陛下を抱え上げ、後ろへと下ろす。
そうしてキントへと詰め寄った。
「おい、お前! 馬姫様を売ったってのは、ひょっとして物乞い通りにある闇商人の店か?」
「へ……へえ、そのとおりです。よくご存知で……」
「よし。なら売った金を寄越しな。言っとくが、誤魔化したりしたらタダじゃおかねぇかんな!」
「ひぃぃ! ど……どうぞ、千ゴールドです。本当にこの金額で売ったんです」
差し出された麻袋をヤンガスが奪い取る。
そうしてこちらを振り返った。
「どうやら一安心でがす。今の話に出てきた闇商人ってのは、実はアッシの知り合いでしてね。アッシがこの金を返して頼めば、きっと馬姫様を返してくれるでがすよ」
「それは本当じゃな? そうと分かれば、こうしてはおれん! 早くその闇商人の店に向かうぞ!」
陛下が慌てた様子で部屋を出ていく。
私はエイトに手を掴まれたまま、引っ張られるように外へと出た。
何が起きたのか分からないけど、私まだ、陛下の命令を遂行してない。
「エイト待って、まだあの男を斬ってない」
「いいんだ、そんなことしなくて」
「でも陛下のご命令だった。私がやらなきゃ」
「やらなくていい。トロデ王はとっくにその命令を取り下げてる」
え、と思わず聞き返す。
いつの間に陛下は、命令を取り下げたんだろう。
ああ、そうか、夜じゃないからってこと?
「レイラ、正気に戻って。僕の言ってることが分かる? レイラは『夜勤』を命じられたりしてない。あれはトロデ王がその場の怒りに任せて口走ってしまっただけだ」
「……私は、『夜勤』を命じられてない……」
冴えきった頭に、空気が回ってくる。
ようやく、握り締めたままだった剣から、右手が離れた。
私の手を押さえつけていたエイトの手も離れていく。
そうして、安心させるように私の背をぽんぽんと撫でた。
「落ち着いた? なら、トロデ王を追いかけよう。ヤンガスと一緒に、先に行っちゃったからね」
「……うん。エイト、ありがと……」
「どういたしまして。さ、行こう!」
エイトが私の手を引っ張って走り出す。
慌てて追いかけながら、心の中が冷えていくのを感じた。
……私、あの男を本気で殺すつもりだった。
エイトが止めてくれなかったら、今頃、間違いなくあの男を、私が殺していた。
それも、躊躇いもなく……。
(エイトが止めてくれて良かった。そうじゃなかったら、私、ゼシカ達の前で人を殺すところだった……)
エイトの手をそっと握り返す。
……この手があったから、私はまだ人でいられる。
ありがとう、エイト……。
その物乞い通りに寝転がっているホームレスに話を聞くと。
「ああ、馬車なら見たぜ。でもな、物乞い通りに生きる者として、タダで教えるわけにゃいかねぇな。教えてほしかったら二十ゴールドだ。ビタ一文、負けやしねぇぜ。さあ、払ってもらおうか?」
「な、なんだとぉー!? この人でなし! ボケナス! それがお前のやり方かぁー!?」
「ほらよ、二十ゴールドだ。これでいいんだろ」
「ヤンガス!?」
憤る私の隣で、ヤンガスが二十ゴールドを支払った。
これがパルミドに住んでいた人間の適応力か……。
……見習いたくはないけど。
「へへっ、ありがとよ。この通りに入ってきた馬車に乗ってたのは、酔いどれキントっていう、ケチな盗賊さ。大の飲兵衛で、いつも酔っ払ってるような男だが、酒代のためなら馬泥棒くらいはする奴さ」
「酔いどれキントだぁ!?」
「ヤンガス、知ってるの?」
やはりこの町出身なだけある。
ゼシカにそう問われて、ヤンガスは「もちろんでげすよ」と頷いた。
ヤンガス、ここに来て大活躍だ。
熱を出して寝込んでいただけの私より役に立っている……。
「野郎のアジトはここで間違いねぇはずでがす」
辿り着いたのは、町の見張り台の足元にある民家。
ドアを開けると、中は倉庫のようで、荷物の入った箱が山ほど並んでいて。
……その奥から、ゴールドを数える声が聞こえてきた。
「……九九八枚、九九九枚、千枚っと! オヤジの奴、目が利きやがるぜ。あの馬の品の良さを一発で見抜くたぁ、さすがは闇商人ってとこか」
キントの背後に仁王立ちするエイトの顔が、かつてないほどの鬼の形相だ。
恐ろしい……あの「温厚が服を着て歩いている」と言われたエイトに、こんな顔をさせるなんて……。
「……まぁ、このキント様にとっちゃ、馬泥棒くらい朝メシ前ってもんさ。フヘヘヘ……ヒック!」
「へぇ、それが人の物を勝手に盗んで得た金か……」
地獄の底から出てきたのかと聞き間違えるくらい、ドスの効いた声だった。
エイトってそんな声も出せるんだ、すごいなぁ。
背後から聞こえてきた声にキントが飛び上がって、部屋の隅で腰を抜かしてエイトを見上げる。
こちらは小悪党感があって、大変に情けない。
「うわぁ! だ、誰だお前!? あっ! まさかあの馬の持ち主!?」
「私の顔を忘れたとは言わせないからな」
「あー! お前は、宿屋の前で訳の分かんねぇことを言ってた女!!」
「ちょっとォ!! 言い方ってもんがあんだろがァ!!」
「貴様か! わしの可愛い姫を拐かしたのは、貴様なんじゃな!」
私とエイトの横から陛下も乱入してきた。
キントが更に竦み上がって、ゴールドの入った麻袋を握り締めて震える。
ちょっと可哀想になってきた。
「ひゃあー!? なんでこんなとこに魔物がいるんだ!? あ……あの馬は魔物の姫だったのか?」
「ええい、誰が魔物じゃ! ……とにかく姫を返せ! 今すぐ返せ! 返さぬと酷い目に遭わせるぞ!!」
「あわわわ……許してくれぇ! あの馬が魔物の姫だったなんて、知らなかったんだぁ。こ……この通り、馬を売った金は返すから、どうか命ばかりは……」
……聞き慣れた命乞いだ。
私が今までの『夜勤』で手に掛けてきた悪党共も、最後には「命だけは助けてくれ」と縋ってきたものだった。
「貴様っ、姫を売ったと申すか!? ええい、エイト、レイラ、構わぬ! こんな奴は斬り捨ててしまえい!!」
──瞬間。
私の中で、カチッとスイッチが切り替わった。
頭が急速に冴えていって、私の手が迷うことなく剣の柄を握って、引き抜こうと力を入れる。
その私の右手を、誰かの手が強く押し留めた。
「……駄目だよ」
静かな声が私を諌める。
駄目じゃない、これは私の仕事だ。
『これ』は、私に課せられた役目だ。
「陛下のご意思に背くの」
「これは『夜勤』じゃない」
……夜勤、じゃ、ない。
でも陛下は今たしかに、私に向かってこの男を斬り捨てよとおっしゃったのに。
「まあ落ち着けよ、おっさん。こんなチンピラ斬ったって、兄貴と姉貴の名が汚れるだけってもんだぜ」
ヤンガスがそう言って陛下を抱え上げ、後ろへと下ろす。
そうしてキントへと詰め寄った。
「おい、お前! 馬姫様を売ったってのは、ひょっとして物乞い通りにある闇商人の店か?」
「へ……へえ、そのとおりです。よくご存知で……」
「よし。なら売った金を寄越しな。言っとくが、誤魔化したりしたらタダじゃおかねぇかんな!」
「ひぃぃ! ど……どうぞ、千ゴールドです。本当にこの金額で売ったんです」
差し出された麻袋をヤンガスが奪い取る。
そうしてこちらを振り返った。
「どうやら一安心でがす。今の話に出てきた闇商人ってのは、実はアッシの知り合いでしてね。アッシがこの金を返して頼めば、きっと馬姫様を返してくれるでがすよ」
「それは本当じゃな? そうと分かれば、こうしてはおれん! 早くその闇商人の店に向かうぞ!」
陛下が慌てた様子で部屋を出ていく。
私はエイトに手を掴まれたまま、引っ張られるように外へと出た。
何が起きたのか分からないけど、私まだ、陛下の命令を遂行してない。
「エイト待って、まだあの男を斬ってない」
「いいんだ、そんなことしなくて」
「でも陛下のご命令だった。私がやらなきゃ」
「やらなくていい。トロデ王はとっくにその命令を取り下げてる」
え、と思わず聞き返す。
いつの間に陛下は、命令を取り下げたんだろう。
ああ、そうか、夜じゃないからってこと?
「レイラ、正気に戻って。僕の言ってることが分かる? レイラは『夜勤』を命じられたりしてない。あれはトロデ王がその場の怒りに任せて口走ってしまっただけだ」
「……私は、『夜勤』を命じられてない……」
冴えきった頭に、空気が回ってくる。
ようやく、握り締めたままだった剣から、右手が離れた。
私の手を押さえつけていたエイトの手も離れていく。
そうして、安心させるように私の背をぽんぽんと撫でた。
「落ち着いた? なら、トロデ王を追いかけよう。ヤンガスと一緒に、先に行っちゃったからね」
「……うん。エイト、ありがと……」
「どういたしまして。さ、行こう!」
エイトが私の手を引っ張って走り出す。
慌てて追いかけながら、心の中が冷えていくのを感じた。
……私、あの男を本気で殺すつもりだった。
エイトが止めてくれなかったら、今頃、間違いなくあの男を、私が殺していた。
それも、躊躇いもなく……。
(エイトが止めてくれて良かった。そうじゃなかったら、私、ゼシカ達の前で人を殺すところだった……)
エイトの手をそっと握り返す。
……この手があったから、私はまだ人でいられる。
ありがとう、エイト……。