19章
夢小説設定
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ふと気付いたとき、辺りは真っ白だった。
足元には自分の影すらもなく、人の気配もしない。
「ここはどこ……?」
私の問いに答える声も、当然ながらありはない。
ただどこまでも真っ白な世界と、反響する自分の声が聞こえるだけ。
一歩を踏み出すと、足の裏には何かを踏んでいる感覚があった。
……地面はあるらしい。
ふと、人の気配がした。
「誰?」
周囲を見渡して、気配を辿っていく。
『我が子孫よ。そのまま前へ進め……』
空間に声が反響した。
(この声は……)
聞き覚えのある声に導かれるまま、ただ真っ直ぐ歩く。
真っ白なだけの世界だけど、向こうにうっすらと人の影が見えた。
「あなた、は……」
その人の元へ、ゆっくりと歩み寄る。
こちらへ背を向けていたその人が、ようやくこちらを振り返った。
『我が名はヨシュア・ロアナス。七賢人に隠れた、八人目の賢者と呼ばれた者』
目の前に佇むその人──ヨシュアは、そう名乗って微笑んだ。
ものすごい美人だ……。
流れるような長く美しい焦茶色の髪は、彼女が動くたびにふわりとなびく。
透けるような碧眼は、理知的な静けさの中に、確たる意思も宿していた。
『このような形でしか、お前の前に姿を現すことが出来ぬのだ。許せ、我が子孫よ』
「い、いえいえ……。あの、それで、私に何か……」
『単刀直入に問おう。お前は人の魂が見えるな?』
「人の魂……。幽霊のことですか?」
『ああ、その通りだ。では、私の力も心得ているな?』
「人の魂を昇天させる力を持っていた、とは」
私の答えにヨシュアは深く頷いた。
ヨシュアは私のことを、我が子孫と呼んでいる。
ここから導き出される答えは、ひとつしかないように思えた。
『結論から言う。お前はこのヨシュア・ロアナスの子孫だ』
「私が、ヨシュア・ロアナスの子孫……。……え、えぇぇえ!? 嘘ぉ!?」
『嘘ではない。おそらく、あの月の世界の男も、それに気付いただろう。お前は紛うことなきロアナス家の生き残り──レイラ・ロアナスだ』
私が、霊導者の子孫……。
いきなりそんなことを言われても、にわかには信じられない。
そりゃあ死んだ人の魂が見えたりするけど、見えてしまった日には気を失うレベルで恐怖を覚えてるってのに!
『信じられぬのも無理はない。だが、お前の力は発現してしまった。まだ完全ではないにしろ、霊導の力は体には負担が大きい。決して、その力を使うな』
私は神妙な顔になって頷いた。
使うなも何も、まず使い方から分からないので、どうしようもないんだけど……。
……これ、幽霊が見えなくなることはないってことだよなぁ。
一生見えてしまうのか……。
ホラー体験は本気で勘弁願いたかったのに……。
『それから、あのエイトとか言う男だが』
「はぁ……え? エイト、ですか?」
『人の匂いもするが、人に非ざる者の血も混ざっているようだな。変貌することはないだろうが、あの男は厳密な意味では人間ではない』
「そんな……」
ヨシュアのそれは、私にとって相当なショックだった。
エイトが人間じゃないなんて、どうしてそんなこと……。
私達はずっと一緒に育ってきて……これからもずっと一緒に、トロデーンを守っていくんだと思っていたのに。
『気に病むことはない。人間以外の血と言っても、それは決して魔物の血ではない。それに何より、あの男は己が人間だと信じている。あやつはあやつだ。それでいいのではないか?』
「……そう、ですね。そうですよね! エイトはエイトですよね。私の大事な幼馴染みです!」
ヨシュアの言葉に、私はしっかりと頷いた。
エイトが人間かどうかなんて、大した問題じゃない。
今までずっと一緒だったエイトが、明日から急に変わってしまうわけじゃない。
エイトはこれからもエイトのままだ。
強くて優しい、私の幼馴染みのままだ。
『もう行かなくては……。困ったことがあれば、いつでも念じろ。出来る限り、お前の力になろう』
「はい、ありがとうございます」
『それと、このネックレスを渡しておこう。霊導の力を抑える効果がある。お前の役に立つだろう』
「あ、ありがとうございます……」
十字架を模した純銀のネックレスは、不思議な輝きを放っている。
いつか、力が安定したら、私も霊導者になるのかな。
私はずっと近衛兵として生きていくんだと決めていたけど……。
「もうひとつきいてもいいですか?」
『勿論だ』
「私、どうして城が呪われた時、難を逃れたんですか?」
『お前の中に眠っていた霊導の力のおかげだ。霊導の力は、神より授かりしもの。あらゆる悪しき力は、全て霊導者の前には無力と化す。故にお前は呪いの効果を弾くことが出来るのだ』
「そうだったんだ……」
だから城が呪われた時も、ドボンと戦った時も、私は無事だったんだ。
……じゃあ、修道院でドルマゲスと対峙した時、ものすごい頭痛が私を襲ったのは、何だったんだろう。
『聖なる力と悪しき力は、互いに反発し合う。霊導の力を持つ者が悪しき力に近付きすぎると、霊導の力が反発して、お前の身を苛むだろう。力がその身に馴染むまでの辛抱だ』
「わ、分かりました……」
ヨシュアの身体が不意に透け始めた。
時間か、と呟いたヨシュアは、慌てることもなく、私を見つめて綺麗に微笑んだ。
『私はいつでもお前を見守っている。お前の未来に、神の祝福があらんことを──』
祈りの言葉を残して、ヨシュアは姿を消した。
強烈な眠気がやってきて、私の目が勝手に閉じていく。
夢みたいな世界なのに、眠くなるなんて不思議だな。
なんだか不思議な体験だったけど、まさか私がヨシュアの子孫だったとは……。
こんな話、みんなに信じてもらえるかなぁ。
ふわふわと沈んでいく意識の端で、そんなことを考えた。
意識が閉じていく、視界が暗くなる。
次に目が覚めた時は、ちゃんと現実の世界にいますように……。
足元には自分の影すらもなく、人の気配もしない。
「ここはどこ……?」
私の問いに答える声も、当然ながらありはない。
ただどこまでも真っ白な世界と、反響する自分の声が聞こえるだけ。
一歩を踏み出すと、足の裏には何かを踏んでいる感覚があった。
……地面はあるらしい。
ふと、人の気配がした。
「誰?」
周囲を見渡して、気配を辿っていく。
『我が子孫よ。そのまま前へ進め……』
空間に声が反響した。
(この声は……)
聞き覚えのある声に導かれるまま、ただ真っ直ぐ歩く。
真っ白なだけの世界だけど、向こうにうっすらと人の影が見えた。
「あなた、は……」
その人の元へ、ゆっくりと歩み寄る。
こちらへ背を向けていたその人が、ようやくこちらを振り返った。
『我が名はヨシュア・ロアナス。七賢人に隠れた、八人目の賢者と呼ばれた者』
目の前に佇むその人──ヨシュアは、そう名乗って微笑んだ。
ものすごい美人だ……。
流れるような長く美しい焦茶色の髪は、彼女が動くたびにふわりとなびく。
透けるような碧眼は、理知的な静けさの中に、確たる意思も宿していた。
『このような形でしか、お前の前に姿を現すことが出来ぬのだ。許せ、我が子孫よ』
「い、いえいえ……。あの、それで、私に何か……」
『単刀直入に問おう。お前は人の魂が見えるな?』
「人の魂……。幽霊のことですか?」
『ああ、その通りだ。では、私の力も心得ているな?』
「人の魂を昇天させる力を持っていた、とは」
私の答えにヨシュアは深く頷いた。
ヨシュアは私のことを、我が子孫と呼んでいる。
ここから導き出される答えは、ひとつしかないように思えた。
『結論から言う。お前はこのヨシュア・ロアナスの子孫だ』
「私が、ヨシュア・ロアナスの子孫……。……え、えぇぇえ!? 嘘ぉ!?」
『嘘ではない。おそらく、あの月の世界の男も、それに気付いただろう。お前は紛うことなきロアナス家の生き残り──レイラ・ロアナスだ』
私が、霊導者の子孫……。
いきなりそんなことを言われても、にわかには信じられない。
そりゃあ死んだ人の魂が見えたりするけど、見えてしまった日には気を失うレベルで恐怖を覚えてるってのに!
『信じられぬのも無理はない。だが、お前の力は発現してしまった。まだ完全ではないにしろ、霊導の力は体には負担が大きい。決して、その力を使うな』
私は神妙な顔になって頷いた。
使うなも何も、まず使い方から分からないので、どうしようもないんだけど……。
……これ、幽霊が見えなくなることはないってことだよなぁ。
一生見えてしまうのか……。
ホラー体験は本気で勘弁願いたかったのに……。
『それから、あのエイトとか言う男だが』
「はぁ……え? エイト、ですか?」
『人の匂いもするが、人に非ざる者の血も混ざっているようだな。変貌することはないだろうが、あの男は厳密な意味では人間ではない』
「そんな……」
ヨシュアのそれは、私にとって相当なショックだった。
エイトが人間じゃないなんて、どうしてそんなこと……。
私達はずっと一緒に育ってきて……これからもずっと一緒に、トロデーンを守っていくんだと思っていたのに。
『気に病むことはない。人間以外の血と言っても、それは決して魔物の血ではない。それに何より、あの男は己が人間だと信じている。あやつはあやつだ。それでいいのではないか?』
「……そう、ですね。そうですよね! エイトはエイトですよね。私の大事な幼馴染みです!」
ヨシュアの言葉に、私はしっかりと頷いた。
エイトが人間かどうかなんて、大した問題じゃない。
今までずっと一緒だったエイトが、明日から急に変わってしまうわけじゃない。
エイトはこれからもエイトのままだ。
強くて優しい、私の幼馴染みのままだ。
『もう行かなくては……。困ったことがあれば、いつでも念じろ。出来る限り、お前の力になろう』
「はい、ありがとうございます」
『それと、このネックレスを渡しておこう。霊導の力を抑える効果がある。お前の役に立つだろう』
「あ、ありがとうございます……」
十字架を模した純銀のネックレスは、不思議な輝きを放っている。
いつか、力が安定したら、私も霊導者になるのかな。
私はずっと近衛兵として生きていくんだと決めていたけど……。
「もうひとつきいてもいいですか?」
『勿論だ』
「私、どうして城が呪われた時、難を逃れたんですか?」
『お前の中に眠っていた霊導の力のおかげだ。霊導の力は、神より授かりしもの。あらゆる悪しき力は、全て霊導者の前には無力と化す。故にお前は呪いの効果を弾くことが出来るのだ』
「そうだったんだ……」
だから城が呪われた時も、ドボンと戦った時も、私は無事だったんだ。
……じゃあ、修道院でドルマゲスと対峙した時、ものすごい頭痛が私を襲ったのは、何だったんだろう。
『聖なる力と悪しき力は、互いに反発し合う。霊導の力を持つ者が悪しき力に近付きすぎると、霊導の力が反発して、お前の身を苛むだろう。力がその身に馴染むまでの辛抱だ』
「わ、分かりました……」
ヨシュアの身体が不意に透け始めた。
時間か、と呟いたヨシュアは、慌てることもなく、私を見つめて綺麗に微笑んだ。
『私はいつでもお前を見守っている。お前の未来に、神の祝福があらんことを──』
祈りの言葉を残して、ヨシュアは姿を消した。
強烈な眠気がやってきて、私の目が勝手に閉じていく。
夢みたいな世界なのに、眠くなるなんて不思議だな。
なんだか不思議な体験だったけど、まさか私がヨシュアの子孫だったとは……。
こんな話、みんなに信じてもらえるかなぁ。
ふわふわと沈んでいく意識の端で、そんなことを考えた。
意識が閉じていく、視界が暗くなる。
次に目が覚めた時は、ちゃんと現実の世界にいますように……。
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