18章
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食事も一段落したところで、エイトかパヴァン王にドルマゲスのことを尋ねた。
あんな奇抜な見た目をした道化師、アスカンタみたいな小国に現れたら、速攻で噂が広まりそうだけど……。
「……なるほど。皆さんは、ドルマゲスという道化師を追って、旅しているのですか。しかし残念ながら、そのような者がこの国を訪れたという話は、聞いていませんね。先程、困ったことがあったら力になると言ったばかりなのに……。申し訳ありません」
マイエラ修道院には立ち寄って、アスカンタには立ち寄らない。
ドルマゲスの目的が尚更分からなくなってきたな。
どういう意図があって、マスター・ライラスやサーベルトさん、そしてオディロ院長様を手にかけたんだろう。
難しい顔をしていたみたいで、斜め向かいに座るゼシカが、私を心配そうに見つめていた。
慌てて眉間のシワを伸ばしてにっこり笑うと、ゼシカはやれやれというように微笑んだ。
「どしたの、ゼシカ」
「ううん、大したことじゃないんだけど……。サーベルト兄さんのこと、なんだか思い出しちゃったわ。そうね、胸の中にきっと……」
「あ……」
月の世界でのイシュマウリの言葉が、不意に思い出された。
『記憶は、人だけのものとお思いか?』と、イシュマウリは私達に教えてくれた。
全てのものに記憶がある。
私達の服も、大地も、覚えているのだと。
もしそうなら、私やエイトの両親のことも、分かるのかな。
私達が失ったままの記憶を、教えてもらえたのかな。
……なんて、もうそれは叶わぬ願いなんだろうけど。
「……そうだね。きっと今もどこかで、ゼシカのこと見守ってくれてるよ」
「ええ、そうね……」
「とりあえず、アスカンタが元通りになってよかった! ね、ククール」
「やれやれ。ようやく、あの腑抜けの王も正気に戻ったみたいだな。……おっと、つい口が滑っちまった。ちょっと飲みすぎたかな?」
「息をするように不敬罪犯すじゃん」
「だからあんたはバカリスマなのよ」
気に入っちゃったんだ、バカリスマの響き。
ほんとう、なんでこんなろくでもない男がモテモテで、エイトみたいな優しい人がモテないんだろう。
絶対に逆だと思うのに。
「それにしても、あのへちま売りだかなんとかって詩人は、どこに行っちまったんでがすかね? まるで夢でも見えたみたいでげす」
「たしかに! いつの間にかいなくなってたよね」
「ま、元々がこっちの世界の住人じゃないんだ。その辺は自分の意思でどうにでもなることなんだろうさ」
……意外。
ククールって、そういう不思議なおとぎ話って信じないタイプだと思ってた。
まあでも実際にこの目で見てしまったわけだから、信じるしかないのかもしれない。
* * *
あれだけあった料理を(主にヤンガスが)食べ切って、パヴァン王は食事会をお開きにした。
一階の噴水前までキラさんと二人でお見送り頂いて、私達はアスカンタ城を出て外へ。
「……これが本当のアスカンタなんだなぁ」
子供達が走り回り、井戸の前にはおば様たちが井戸端会議を繰り広げる。
あちらこちらから声が聞こえて、賑やかな城下町だ。
「人助けをすると気分も良いもんでがすな」
「寄り道にはなったけれど、いい経験だったわね」
「……さて、エイト。これからどこに向かう?」
「そうだね……」
エイトは腕を組んで少し考えながら、城下町の外へ向かって歩いていく。
この国ともいよいよお別れか。
数日間の滞在だったけど、いい思い出ができたと思う。
あの夜の不思議な出来事を胸にしまって、私達はドルマゲスを追う旅へと戻ろう。
「ひとまず、トロデ王と一緒に、次の目的地を話し合おう。ドルマゲスの情報がないまま、僕らで勝手に決めるわけにはいかないから」
「……ま、それが妥当だね」
リーダーの判断なら仕方ない。
城下町を出て、外で待つ陛下の元へ歩きながら、ヤンガスが満足そうに腹を撫でた。
まあ、一番遠慮なしに食べてたもんね。
「トロデ王、お待たせしました」
「ふー、食ったでがす」
こちらへ背を向けていた陛下は、私達をちらりと振り返ると、恨めしそうな顔をして呟いた。
「ええのう、お前達は。パヴァン王から盛大にもてなされて、楽しそうじゃのう……。きっとご馳走や酒もいっぱい振る舞われたんじゃろうな。うらやましいのう……」
「え、あ、えっと、陛下……」
「その間、わしと姫は町の外で待ちぼうけじゃ。ああ、寂しい寂しい……」
遠回しに私達へ文句を言って、陛下が足元の小石を蹴る。
どうしてそう、良心の痛むようなことを言うかな……。
そうは言ったって、陛下の見た目だと、どこに行っても町の人を怖がらせてしまうだけだ。
「……おっさんの気持ち、アッシにゃあ分かるでがすよ。そりゃあおっさんだって、まともな姿だったら、町に入って酒のひとつも飲みたいでがしょうよ。アッシも昔っから、見かけの悪さで苦労したもんでさぁ。だから分かりやす」
「……もちろん、トロデ王やミーティア姫に、並々ならぬ負担を強いてしてしまっていることは承知していますが。しかし恐れながら、そのお姿では……」
……エイトの声が少し遠い。
さっきのお酒、強かったのかな。
なんだか頭がくらくらする。
「……なあ、兄貴。この大陸の南の方にある、アッシが以前住んでた町に寄ってきやせんか? パルミドって小汚ねぇ町ですが、これがどんな余所者でも受け入れる、フトコロの深いとこでしてね。そこなら、おっさんも安心して中に入れると思うんでがすよ。それに、これからドルマゲスを探そうってのに、何の手がかりもないでげしょ? あの町にゃ、アッシ馴染みの優秀な情報屋がいるんで、野郎の行方もきっと掴めるはず! こりゃ一石二鳥でがす。さあ、南へ向かって突き進み、パルミドへ行くでがすよ!」
うーん、とエイトが腕を組んで考えて、視線を陛下へ移す。
陛下はこちらを何度もちらちらと見て、目でものすごく訴えかけてきた。
行く気満々だ、これで断ろうものなら、私達は一生の恨みを買ってしまう気がする。
「そうだね。陛下のためにもなるし……。みんな、次の目的地はパルミドでいいかな?」
「やれやれ……。あそこには出来れば近付きたくなかったんだが、仕方ねぇ」
「優秀な情報屋からドルマゲスの手がかりさえもらえれば、また奴を追って進めるのよね。だったら異論はないわ! レイラはどう?」
「……え? あ、うん。そうだね、いいと思う」
ゼシカに話を振られて、咄嗟に適当な相槌を打つ。
「どうしたのよ」とゼシカが尋ねるより先に、訝しげに眉を寄せたエイトが、私の顔を覗き込んできた。
「レイラ、どうかした?」
「どうって……どうもしないよ」
「おいおい、それのどこが『どうもしない』だよ? 顔色がスライムみたいに真っ青だぜ」
「体調が悪い? 馬車で休んでおく?」
「ううん、大丈夫……。ほら、早くパルミドに行こうよ。陛下も待ちくたびれて──」
御者台に座る陛下へと歩み寄ろうと、足を踏み出した瞬間。
二、三歩ほどよろめいて、唐突に全身の力がふっと抜けてしまった。
「レイラ!!」
「姉貴!?」
エイトとヤンガスの声が遠くなっていく。
起き上がろうとしても、身体に力が入らなくて、指一本すら動かせそうにない。
全身が燃えるように熱くて、喘ぐみたいに忙しなく呼吸をすることしか出来なかった。
誰かの腕が私を抱き起こす。
「エイト……?」
「ひどい熱じゃないか……! こんなの、大丈夫でも何でもないだろ!」
「……ごめん……」
グイ、と身体が持ち上げられる。
いわゆる、お姫様抱っこだ。
普段なら猛抗議だけど……今は、その優しさが嬉しかった。
「悪いけど、パルミドまで急ぐよ! ヤンガスはひたすら攻撃、ククールは回復に徹してほしい。それからゼシカも魔法ガンガン使って!」
「承知でがすよ!」
「仕方ねぇ、やってやるか!」
「急ぎましょう! 早くレイラを休ませないと!」
エイトが三人に指示を飛ばすのを聞きながら、私の意識は深い闇の中に落ちていった。
私の身体、どうなってるんだろう……。
どうして急に、こんな熱が──。
あんな奇抜な見た目をした道化師、アスカンタみたいな小国に現れたら、速攻で噂が広まりそうだけど……。
「……なるほど。皆さんは、ドルマゲスという道化師を追って、旅しているのですか。しかし残念ながら、そのような者がこの国を訪れたという話は、聞いていませんね。先程、困ったことがあったら力になると言ったばかりなのに……。申し訳ありません」
マイエラ修道院には立ち寄って、アスカンタには立ち寄らない。
ドルマゲスの目的が尚更分からなくなってきたな。
どういう意図があって、マスター・ライラスやサーベルトさん、そしてオディロ院長様を手にかけたんだろう。
難しい顔をしていたみたいで、斜め向かいに座るゼシカが、私を心配そうに見つめていた。
慌てて眉間のシワを伸ばしてにっこり笑うと、ゼシカはやれやれというように微笑んだ。
「どしたの、ゼシカ」
「ううん、大したことじゃないんだけど……。サーベルト兄さんのこと、なんだか思い出しちゃったわ。そうね、胸の中にきっと……」
「あ……」
月の世界でのイシュマウリの言葉が、不意に思い出された。
『記憶は、人だけのものとお思いか?』と、イシュマウリは私達に教えてくれた。
全てのものに記憶がある。
私達の服も、大地も、覚えているのだと。
もしそうなら、私やエイトの両親のことも、分かるのかな。
私達が失ったままの記憶を、教えてもらえたのかな。
……なんて、もうそれは叶わぬ願いなんだろうけど。
「……そうだね。きっと今もどこかで、ゼシカのこと見守ってくれてるよ」
「ええ、そうね……」
「とりあえず、アスカンタが元通りになってよかった! ね、ククール」
「やれやれ。ようやく、あの腑抜けの王も正気に戻ったみたいだな。……おっと、つい口が滑っちまった。ちょっと飲みすぎたかな?」
「息をするように不敬罪犯すじゃん」
「だからあんたはバカリスマなのよ」
気に入っちゃったんだ、バカリスマの響き。
ほんとう、なんでこんなろくでもない男がモテモテで、エイトみたいな優しい人がモテないんだろう。
絶対に逆だと思うのに。
「それにしても、あのへちま売りだかなんとかって詩人は、どこに行っちまったんでがすかね? まるで夢でも見えたみたいでげす」
「たしかに! いつの間にかいなくなってたよね」
「ま、元々がこっちの世界の住人じゃないんだ。その辺は自分の意思でどうにでもなることなんだろうさ」
……意外。
ククールって、そういう不思議なおとぎ話って信じないタイプだと思ってた。
まあでも実際にこの目で見てしまったわけだから、信じるしかないのかもしれない。
* * *
あれだけあった料理を(主にヤンガスが)食べ切って、パヴァン王は食事会をお開きにした。
一階の噴水前までキラさんと二人でお見送り頂いて、私達はアスカンタ城を出て外へ。
「……これが本当のアスカンタなんだなぁ」
子供達が走り回り、井戸の前にはおば様たちが井戸端会議を繰り広げる。
あちらこちらから声が聞こえて、賑やかな城下町だ。
「人助けをすると気分も良いもんでがすな」
「寄り道にはなったけれど、いい経験だったわね」
「……さて、エイト。これからどこに向かう?」
「そうだね……」
エイトは腕を組んで少し考えながら、城下町の外へ向かって歩いていく。
この国ともいよいよお別れか。
数日間の滞在だったけど、いい思い出ができたと思う。
あの夜の不思議な出来事を胸にしまって、私達はドルマゲスを追う旅へと戻ろう。
「ひとまず、トロデ王と一緒に、次の目的地を話し合おう。ドルマゲスの情報がないまま、僕らで勝手に決めるわけにはいかないから」
「……ま、それが妥当だね」
リーダーの判断なら仕方ない。
城下町を出て、外で待つ陛下の元へ歩きながら、ヤンガスが満足そうに腹を撫でた。
まあ、一番遠慮なしに食べてたもんね。
「トロデ王、お待たせしました」
「ふー、食ったでがす」
こちらへ背を向けていた陛下は、私達をちらりと振り返ると、恨めしそうな顔をして呟いた。
「ええのう、お前達は。パヴァン王から盛大にもてなされて、楽しそうじゃのう……。きっとご馳走や酒もいっぱい振る舞われたんじゃろうな。うらやましいのう……」
「え、あ、えっと、陛下……」
「その間、わしと姫は町の外で待ちぼうけじゃ。ああ、寂しい寂しい……」
遠回しに私達へ文句を言って、陛下が足元の小石を蹴る。
どうしてそう、良心の痛むようなことを言うかな……。
そうは言ったって、陛下の見た目だと、どこに行っても町の人を怖がらせてしまうだけだ。
「……おっさんの気持ち、アッシにゃあ分かるでがすよ。そりゃあおっさんだって、まともな姿だったら、町に入って酒のひとつも飲みたいでがしょうよ。アッシも昔っから、見かけの悪さで苦労したもんでさぁ。だから分かりやす」
「……もちろん、トロデ王やミーティア姫に、並々ならぬ負担を強いてしてしまっていることは承知していますが。しかし恐れながら、そのお姿では……」
……エイトの声が少し遠い。
さっきのお酒、強かったのかな。
なんだか頭がくらくらする。
「……なあ、兄貴。この大陸の南の方にある、アッシが以前住んでた町に寄ってきやせんか? パルミドって小汚ねぇ町ですが、これがどんな余所者でも受け入れる、フトコロの深いとこでしてね。そこなら、おっさんも安心して中に入れると思うんでがすよ。それに、これからドルマゲスを探そうってのに、何の手がかりもないでげしょ? あの町にゃ、アッシ馴染みの優秀な情報屋がいるんで、野郎の行方もきっと掴めるはず! こりゃ一石二鳥でがす。さあ、南へ向かって突き進み、パルミドへ行くでがすよ!」
うーん、とエイトが腕を組んで考えて、視線を陛下へ移す。
陛下はこちらを何度もちらちらと見て、目でものすごく訴えかけてきた。
行く気満々だ、これで断ろうものなら、私達は一生の恨みを買ってしまう気がする。
「そうだね。陛下のためにもなるし……。みんな、次の目的地はパルミドでいいかな?」
「やれやれ……。あそこには出来れば近付きたくなかったんだが、仕方ねぇ」
「優秀な情報屋からドルマゲスの手がかりさえもらえれば、また奴を追って進めるのよね。だったら異論はないわ! レイラはどう?」
「……え? あ、うん。そうだね、いいと思う」
ゼシカに話を振られて、咄嗟に適当な相槌を打つ。
「どうしたのよ」とゼシカが尋ねるより先に、訝しげに眉を寄せたエイトが、私の顔を覗き込んできた。
「レイラ、どうかした?」
「どうって……どうもしないよ」
「おいおい、それのどこが『どうもしない』だよ? 顔色がスライムみたいに真っ青だぜ」
「体調が悪い? 馬車で休んでおく?」
「ううん、大丈夫……。ほら、早くパルミドに行こうよ。陛下も待ちくたびれて──」
御者台に座る陛下へと歩み寄ろうと、足を踏み出した瞬間。
二、三歩ほどよろめいて、唐突に全身の力がふっと抜けてしまった。
「レイラ!!」
「姉貴!?」
エイトとヤンガスの声が遠くなっていく。
起き上がろうとしても、身体に力が入らなくて、指一本すら動かせそうにない。
全身が燃えるように熱くて、喘ぐみたいに忙しなく呼吸をすることしか出来なかった。
誰かの腕が私を抱き起こす。
「エイト……?」
「ひどい熱じゃないか……! こんなの、大丈夫でも何でもないだろ!」
「……ごめん……」
グイ、と身体が持ち上げられる。
いわゆる、お姫様抱っこだ。
普段なら猛抗議だけど……今は、その優しさが嬉しかった。
「悪いけど、パルミドまで急ぐよ! ヤンガスはひたすら攻撃、ククールは回復に徹してほしい。それからゼシカも魔法ガンガン使って!」
「承知でがすよ!」
「仕方ねぇ、やってやるか!」
「急ぎましょう! 早くレイラを休ませないと!」
エイトが三人に指示を飛ばすのを聞きながら、私の意識は深い闇の中に落ちていった。
私の身体、どうなってるんだろう……。
どうして急に、こんな熱が──。