15章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――死んだオディロ院長は、この辺じゃ名の知れた慈善家でさ。
身寄りのないガキを引き取って、育ててた。
まあ、俺もその一人で……。
あの辺の領主だった両親がいっぺんに死んじまった後……。
金もない、親戚もいない――そういうガキには、あの修道院しか行く場所がなかったんだ。
俺は小さな袋ひとつ抱えて、独りで修道院に向かった。
扉を開けても、中には誰もいない。
不安と心細さと、どうしようもない恐怖心で頭の中はいっぱいで……。
オマケに後ろで扉が勝手に閉まったとくりゃあ――そりゃあ今は風のせいだって分かっちゃいるが――恐怖心は何倍にも膨れ上がった。
無人の礼拝堂、鳴り響く鐘、静かに佇む女神像――修道院ってのはなんて不気味な場所なんだと幼心にも思ったね。
とにかくその空間から早いとこ出たくて、俺は修道院の奥に繋がるドアを開けた。
あんたらも使ったことあるだろ、宿舎のほうに向かうドアだよ。
外に出たは良いものの、すれ違う奴らは俺に目もくれなかった。
これからどうしたらいいんだろう、そんな漠然とした不安が付き纏って……。
……そんな時だったな、マルチェロと出会ったのは。
宿舎の方向から歩いてきたアイツが、奇しくも修道院に来て初めて、俺に話しかけてくれた奴だった。
「……君、初めて見る顔だね。新しい修道士見習いかい? ひとりでここまで来たの?」
そいつが誰なのかも当然知らなかった俺は、マルチェロの問いかけに頷いた。
酒、ギャンブル――やりたい放題やって死んだ親父は、息子の俺には何一つ残しちゃくれなくてさ。
おかげで領主の跡取りだったククール坊ちゃんは、晴れて孤児となり、修道院で修道士見習いになるしか生きる道がなかったのさ。
「そうか……大変だったね。荷物は? それだけ?」
「あの……父さんと母さん、死んじゃったんだ。だから荷物なくて、他に行く所もなくて……」
涙声になってそう言ったガキを前に、マルチェロは膝をついて、目を合わせて笑ってくれた。
……優しかったよ、本当に。
「……僕も似たようなものさ。でもここなら、オディロ院長やみんなが家族になってくれる。大丈夫だよ」
「うん……。うん……でも……」
「……院長のところに案内する。ごめん。ほら、泣かないで。君、名前は?」
俺は服の袖で涙を拭いて、言ったんだ。
自分の名前を。
アイツが心の底から――殺したいほど憎んでいるやつの名前だなんて、知らないで。
「……ククール」
それが終わりの合図だった。
たった数分にも満たない、優しい顔のマルチェロは、それで終わり。
立ち上がったアイツは、俺をひどく憎んだ目で見下ろしていた。
「そうか、君……お前がククールなのか。……出ていけ。出ていけよ。お前は……お前なんか、今すぐここから出ていけ!」
訳が分からなかったよ。
ついさっき、ここにいる奴らみんなが家族になってくれるって言った奴が。
年端もいかないガキに、出ていけって怒鳴るんだ。
「……お前は、この場所まで、僕から奪うつもりなのか?」
頭が混乱して何も言えない俺を残して、マルチェロが宿舎へと去っていく。
俺はもう、谷底に突き落とされたみたいな気分で……だけど行く宛てなんてないから、ここに居るしかなくてさ。
勉強熱心で将来有望な騎士見習いのマルチェロは、俺にだけ態度が違った。
最初はそれがなぜか分からなくて落ち込んだりもしたよ。
「……すまぬな、幼子よ。今の話、すべて聞いてしもうたよ」
俯いて立ち尽くす俺に声を掛けてくれたのは、オディロ院長だった。
マルチェロとのやり取りを全部聞いてたそうだが、そんなことは当時の俺にとってはどうでもよくてさ……。
「まさかマルチェロがあのようか態度を取るとは。いったい何が……。……そうか。お前が……。マルチェロには腹違いの弟がいると聞いていたが……。そうか、お前がククールなのか。全ては時間が……ここでの暮らしが解決するだろう。……さあおいで、ククールよ。ここが今日からはお前の家になるのだよ。みなに紹介しよう」
……その後、しばらくして俺は初めて知ったんだ。
死んだ親父には、メイドに産ませた腹違いの兄がひとりいたのだと。
それがあのマルチェロで……俺さえ生まれなければ、跡継ぎは奴のはずだったのだという事を。
マルチェロとその母親は、俺が生まれた後、無一文で屋敷を追い出され、すぐに母親は死んでしまい……。
身寄りのなくなったあいつは、この修道院で、俺と親父を恨みながら育ってきたんだ。
……ずっと。
身寄りのないガキを引き取って、育ててた。
まあ、俺もその一人で……。
あの辺の領主だった両親がいっぺんに死んじまった後……。
金もない、親戚もいない――そういうガキには、あの修道院しか行く場所がなかったんだ。
俺は小さな袋ひとつ抱えて、独りで修道院に向かった。
扉を開けても、中には誰もいない。
不安と心細さと、どうしようもない恐怖心で頭の中はいっぱいで……。
オマケに後ろで扉が勝手に閉まったとくりゃあ――そりゃあ今は風のせいだって分かっちゃいるが――恐怖心は何倍にも膨れ上がった。
無人の礼拝堂、鳴り響く鐘、静かに佇む女神像――修道院ってのはなんて不気味な場所なんだと幼心にも思ったね。
とにかくその空間から早いとこ出たくて、俺は修道院の奥に繋がるドアを開けた。
あんたらも使ったことあるだろ、宿舎のほうに向かうドアだよ。
外に出たは良いものの、すれ違う奴らは俺に目もくれなかった。
これからどうしたらいいんだろう、そんな漠然とした不安が付き纏って……。
……そんな時だったな、マルチェロと出会ったのは。
宿舎の方向から歩いてきたアイツが、奇しくも修道院に来て初めて、俺に話しかけてくれた奴だった。
「……君、初めて見る顔だね。新しい修道士見習いかい? ひとりでここまで来たの?」
そいつが誰なのかも当然知らなかった俺は、マルチェロの問いかけに頷いた。
酒、ギャンブル――やりたい放題やって死んだ親父は、息子の俺には何一つ残しちゃくれなくてさ。
おかげで領主の跡取りだったククール坊ちゃんは、晴れて孤児となり、修道院で修道士見習いになるしか生きる道がなかったのさ。
「そうか……大変だったね。荷物は? それだけ?」
「あの……父さんと母さん、死んじゃったんだ。だから荷物なくて、他に行く所もなくて……」
涙声になってそう言ったガキを前に、マルチェロは膝をついて、目を合わせて笑ってくれた。
……優しかったよ、本当に。
「……僕も似たようなものさ。でもここなら、オディロ院長やみんなが家族になってくれる。大丈夫だよ」
「うん……。うん……でも……」
「……院長のところに案内する。ごめん。ほら、泣かないで。君、名前は?」
俺は服の袖で涙を拭いて、言ったんだ。
自分の名前を。
アイツが心の底から――殺したいほど憎んでいるやつの名前だなんて、知らないで。
「……ククール」
それが終わりの合図だった。
たった数分にも満たない、優しい顔のマルチェロは、それで終わり。
立ち上がったアイツは、俺をひどく憎んだ目で見下ろしていた。
「そうか、君……お前がククールなのか。……出ていけ。出ていけよ。お前は……お前なんか、今すぐここから出ていけ!」
訳が分からなかったよ。
ついさっき、ここにいる奴らみんなが家族になってくれるって言った奴が。
年端もいかないガキに、出ていけって怒鳴るんだ。
「……お前は、この場所まで、僕から奪うつもりなのか?」
頭が混乱して何も言えない俺を残して、マルチェロが宿舎へと去っていく。
俺はもう、谷底に突き落とされたみたいな気分で……だけど行く宛てなんてないから、ここに居るしかなくてさ。
勉強熱心で将来有望な騎士見習いのマルチェロは、俺にだけ態度が違った。
最初はそれがなぜか分からなくて落ち込んだりもしたよ。
「……すまぬな、幼子よ。今の話、すべて聞いてしもうたよ」
俯いて立ち尽くす俺に声を掛けてくれたのは、オディロ院長だった。
マルチェロとのやり取りを全部聞いてたそうだが、そんなことは当時の俺にとってはどうでもよくてさ……。
「まさかマルチェロがあのようか態度を取るとは。いったい何が……。……そうか。お前が……。マルチェロには腹違いの弟がいると聞いていたが……。そうか、お前がククールなのか。全ては時間が……ここでの暮らしが解決するだろう。……さあおいで、ククールよ。ここが今日からはお前の家になるのだよ。みなに紹介しよう」
……その後、しばらくして俺は初めて知ったんだ。
死んだ親父には、メイドに産ませた腹違いの兄がひとりいたのだと。
それがあのマルチェロで……俺さえ生まれなければ、跡継ぎは奴のはずだったのだという事を。
マルチェロとその母親は、俺が生まれた後、無一文で屋敷を追い出され、すぐに母親は死んでしまい……。
身寄りのなくなったあいつは、この修道院で、俺と親父を恨みながら育ってきたんだ。
……ずっと。