15章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぱっと目が覚めた。
部屋は暗くて、礼拝堂の明かりだけが煌々と夜を照らしていた。
小さく息を吐いて目を閉じる。
(この夢、久々に見たな……)
旅に出た直後はしょっちゅう見た夢だけど、最近は見ることがなかったから油断していた。
気を取り直して寝ようとしても、頭も目も冴えてしまって、どうにも寝付けない。
諦めて外の空気でも吸いに行こうと、ゼシカを起こさないようにそっとベッドを出た。
「う、意外と寒かったや……」
カーディガンを羽織れば良かったかと後悔したけど、取りに戻るのは面倒だ。
そのまま教会の横におられる姫様の隣へと向かった。
姫様も今はもちろんご就寝中で、目を覚まされる気配はない。
私とエイトは同じ近衛兵だけど、トロデーンでの私の生き方と、エイトの生き方は違う。
共に幼少期の記憶がなくて、身よりもなくて、孤児同然で行き倒れた所を助けてもらった、という共通項こそあるけれど、兵となってからは私とエイトの歩む道が分かれてしまった。
エイトの職務は、いわゆる花形。
みんなが思い描いた通りの近衛兵で、王族の身辺警護を担っているから、本来ならエイトみたいな出自の人間が選ばれるはずはない。
そこは姫様を発端にした身内人事ではあるけれど、私もエイトもトロデーン城でしか生きる場所がないし、何より拾ってもらった恩があるから、裏切りは心配されなかった。
かくしてエイトが近衛兵として任命され、その一年後、追いかけるように私も近衛兵に任命された。
エイトと違いがあるとすれば。
彼が花形の――表に出て王族をお守りする近衛兵だとすれば、私はその逆だったということ。
私も近衛兵だから、普段であればエイトと同じ職務にあたる。
……ただ、エイトが光だとするなら、私は影。
私は――俗に言う、汚れ役だった。
それは『夜勤』と称されて、近衛兵以外には伝わらない仕事だった。
王族に仇なす者、王国へ楯突く者を、秘密裏に始末し、王国の平和と秩序を守る。
聞こえはいいけれど、やっていることはただの人殺しでしかなかった。
(……みんなには、知られたくないなぁ)
エイトは同僚だったから知っているけど、他の人達には知られたくない。
みんなの私を見る目が変わってしまいそうで……。
ぼんやりとそう思っていたら、教会の扉が開く音がした。
振り返ると、赤い騎士団の服が教会から出てきて、すぐ近くにある木の幹に背を預けた。
姫様のお傍から離れて、そちらへと歩み寄る。
「……ククール」
「姿がないと思ったら、あんたも起きてたのか」
「ちょっと眠れなくなっちゃって。ククールは?」
「俺も似たようなもんさ」
「そっか」
ククールと一緒に夜空を見上げる。
そりゃあ、ククールは眠れないよなぁ。
育ての親でもあったオディロ院長様を殺されて、腹違いの兄であるマルチェロさんからは、修道院を追放されて。
厳密に言えば追放ではないけれど、あんなものほぼ同義だ。
「星が綺麗に見えるね」
「……そうだな」
「ゼシカのことは速攻で口説くのに、私はスルーかい」
「レイラに手を出したら、ナイトが黙ってないだろ?」
「何の話?」
「あー……。まあ、あんたはそれでいいよ」
何かを諦めたような顔でククールがそう言った。
よく分からないが、何となくムカつく。
そもそもナイトって何だ、こっちが既にナイトなのだが。
ふんだ、と拗ねて戻ろうとした時、教会の扉が開いた。
出てきたのは陛下だ。
「……陛下?」
「なんじゃお前達、起きておったのか」
「陛下こそ……」
陛下も眠れなかったのかな。
エイトとヤンガスとゼシカはさすがと言ったところか。
陛下は私からククールへ視線を移して、問うた。
「……ククールよ。お前、何やら事情がありそうじゃな」
「……」
ククールは答えない。
陛下はすぐ横の切り株に座って、ククールを見上げた。
「話せば気が楽になる事もあるやもしれんぞ? まあ、無理にとは言わんが……」
そう言いつつ、陛下の視線がこれみよがしにククールへと向けられる。
肩を竦めたククールと私の目が合った。
「あ……じゃあ、私は教会の中に戻るよ。ククール、陛下のことよろしく。おやすみなさいませ、陛下」
「む? おお、寝坊せんようにの」
「エイトじゃないので、寝坊はしません!」
陛下に一礼して、教会のほうへと歩いていく。
誰にでも聞かれたくないことっていうのはあるから、ククールの気持ちはよく分かる。
私達ではなく、陛下が相手だからこそ、話せることもあるだろうし。
二人の声はもう聞こえない。
いつか聞かせてくれるかなと思っているけど、話してくれないままかもしれない。
それならそれで構わないけど、と独り言ちたとき、目の前の扉が再び開いた。
部屋は暗くて、礼拝堂の明かりだけが煌々と夜を照らしていた。
小さく息を吐いて目を閉じる。
(この夢、久々に見たな……)
旅に出た直後はしょっちゅう見た夢だけど、最近は見ることがなかったから油断していた。
気を取り直して寝ようとしても、頭も目も冴えてしまって、どうにも寝付けない。
諦めて外の空気でも吸いに行こうと、ゼシカを起こさないようにそっとベッドを出た。
「う、意外と寒かったや……」
カーディガンを羽織れば良かったかと後悔したけど、取りに戻るのは面倒だ。
そのまま教会の横におられる姫様の隣へと向かった。
姫様も今はもちろんご就寝中で、目を覚まされる気配はない。
私とエイトは同じ近衛兵だけど、トロデーンでの私の生き方と、エイトの生き方は違う。
共に幼少期の記憶がなくて、身よりもなくて、孤児同然で行き倒れた所を助けてもらった、という共通項こそあるけれど、兵となってからは私とエイトの歩む道が分かれてしまった。
エイトの職務は、いわゆる花形。
みんなが思い描いた通りの近衛兵で、王族の身辺警護を担っているから、本来ならエイトみたいな出自の人間が選ばれるはずはない。
そこは姫様を発端にした身内人事ではあるけれど、私もエイトもトロデーン城でしか生きる場所がないし、何より拾ってもらった恩があるから、裏切りは心配されなかった。
かくしてエイトが近衛兵として任命され、その一年後、追いかけるように私も近衛兵に任命された。
エイトと違いがあるとすれば。
彼が花形の――表に出て王族をお守りする近衛兵だとすれば、私はその逆だったということ。
私も近衛兵だから、普段であればエイトと同じ職務にあたる。
……ただ、エイトが光だとするなら、私は影。
私は――俗に言う、汚れ役だった。
それは『夜勤』と称されて、近衛兵以外には伝わらない仕事だった。
王族に仇なす者、王国へ楯突く者を、秘密裏に始末し、王国の平和と秩序を守る。
聞こえはいいけれど、やっていることはただの人殺しでしかなかった。
(……みんなには、知られたくないなぁ)
エイトは同僚だったから知っているけど、他の人達には知られたくない。
みんなの私を見る目が変わってしまいそうで……。
ぼんやりとそう思っていたら、教会の扉が開く音がした。
振り返ると、赤い騎士団の服が教会から出てきて、すぐ近くにある木の幹に背を預けた。
姫様のお傍から離れて、そちらへと歩み寄る。
「……ククール」
「姿がないと思ったら、あんたも起きてたのか」
「ちょっと眠れなくなっちゃって。ククールは?」
「俺も似たようなもんさ」
「そっか」
ククールと一緒に夜空を見上げる。
そりゃあ、ククールは眠れないよなぁ。
育ての親でもあったオディロ院長様を殺されて、腹違いの兄であるマルチェロさんからは、修道院を追放されて。
厳密に言えば追放ではないけれど、あんなものほぼ同義だ。
「星が綺麗に見えるね」
「……そうだな」
「ゼシカのことは速攻で口説くのに、私はスルーかい」
「レイラに手を出したら、ナイトが黙ってないだろ?」
「何の話?」
「あー……。まあ、あんたはそれでいいよ」
何かを諦めたような顔でククールがそう言った。
よく分からないが、何となくムカつく。
そもそもナイトって何だ、こっちが既にナイトなのだが。
ふんだ、と拗ねて戻ろうとした時、教会の扉が開いた。
出てきたのは陛下だ。
「……陛下?」
「なんじゃお前達、起きておったのか」
「陛下こそ……」
陛下も眠れなかったのかな。
エイトとヤンガスとゼシカはさすがと言ったところか。
陛下は私からククールへ視線を移して、問うた。
「……ククールよ。お前、何やら事情がありそうじゃな」
「……」
ククールは答えない。
陛下はすぐ横の切り株に座って、ククールを見上げた。
「話せば気が楽になる事もあるやもしれんぞ? まあ、無理にとは言わんが……」
そう言いつつ、陛下の視線がこれみよがしにククールへと向けられる。
肩を竦めたククールと私の目が合った。
「あ……じゃあ、私は教会の中に戻るよ。ククール、陛下のことよろしく。おやすみなさいませ、陛下」
「む? おお、寝坊せんようにの」
「エイトじゃないので、寝坊はしません!」
陛下に一礼して、教会のほうへと歩いていく。
誰にでも聞かれたくないことっていうのはあるから、ククールの気持ちはよく分かる。
私達ではなく、陛下が相手だからこそ、話せることもあるだろうし。
二人の声はもう聞こえない。
いつか聞かせてくれるかなと思っているけど、話してくれないままかもしれない。
それならそれで構わないけど、と独り言ちたとき、目の前の扉が再び開いた。