15章
夢小説設定
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教会らしく質素な、けれどお腹がちゃんと満たされる量のお夕飯を頂いて、私達は身体を清めた後、それぞれのベッドに入った。
礼拝堂の明かりも、ベッドのところまではやってこない。
「おやすみ、みんな。今日はゆっくり休んで。明日は朝早いからね」
「エイトも寝坊しないようにー」
「レイラには言われたくないなぁ」
ぶーぶーと文句を言いながら、ゼシカの隣に失礼する。
もちろんゼシカが壁側だ。
ベッドから落ちるなら私というわけである。
疲れていたのか、私もみんなも、ベッドに入ってすぐ、すこんと寝てしまった。
……だけど、院長様の死を目の当たりにしてしまったからだろうか。
――『あの日』のことを、夢に見た。
『今日の持ち場は以上。各自、慢心せず任務にあたるように』
『はっ!!』
今は懐かしいトロデーン城の、兵士の詰所。
近衛兵達の持ち場を発表した近衛隊長は、全員の顔を見渡してひとつ頷き、解散と告げた。
『レイラ』
『はい』
ただ一人、私だけを除いて。
隊長に呼び止められた私は、持ち場へ向かおうとするエイトに手を振って、先を急がせた。
詰所に、私と隊長だけが残る。
『今晩、夜勤 を頼みたい。できるか』
『……はい。隊長のご命令の通りに』
返した声音は固く平坦で、抑揚もない。
詰所を出る前に深呼吸をひとつして。
それからドアノブを捻った。
持ち場について、その日一日の業務を終えて。
そうしてエイトと一緒に食事をとって、エイトと一緒に宿舎へ戻って。
――そうして、真夜中。
私は宿舎を抜け出して、城の外へ出た。
目の前を、千鳥足で歩く男。
気が大きくなっているようで、歌なんか歌っている。
その後を追いかけ、木の影から飛び出して――。
男は物言わぬ骸と成り果て、私の足元で息絶えた。
剣に付いた血を払って鞘へ納める。
『任務完了です』
『ご苦労。死体の処理は任せておけ』
『……はい』
闇夜に隠れるように、黒の外套を被り直す。
城の裏口から城内へと戻ると、宿舎にそっと身を滑り込ませた。
自分の部屋に入って――どっと息を吐く。
手のひらに、人を刺し殺した感触が残っている。
いつまでこんなことを――そう考えて首を振った。
答えはいつまでも、だ。
私がトロデーン兵士であり続ける限り、いつまでも『夜勤』は終わらない。
私は近衛兵。
けれど花形のそれとは違う。
……私は、汚れ役だ。
『見張り番、そろそろ交代か……』
夜に溶け込む黒の服から、近衛兵の隊服に着替え、鎧を装着する。
腰の剣はクローゼットの中に立て掛けて、部屋を出た。
詰所で槍を一本、掴んでから外へ出る。
ちょうど巡回中の一般兵とすれ違って、お互いに敬礼し合った。
近衛兵である私達は、王族の方々のお部屋近くへ繋がる、三階のバルコニーが持ち場だ。
既に相棒であるエイトは交代を終えていて、私と交代する近衛兵の先輩と軽い雑談を交わしていた。
『遅くなりました』
『おう、レイラ。お疲れさん。……夜勤明けなのに、見張りまで悪いな』
『大丈夫ですよ、見張り番の当番の方が、夜勤より先に決まってたんですし。代わります』
『ん、じゃあ後は頼んだぞ』
互いに敬礼をして、私も定位置についた。
夜風が柔らかく頬を撫でて、気分もようやく落ち着いて。
月が真上から傾いていくのを、ぼんやりと眺めていた。
『夜勤、だったんだ』
『……うん』
『どうして僕には声をかけないんだろう』
どこか悲しそうな声でエイトが呟くから、私は思わず笑ってしまった。
隣でエイトがムッとした表情になる。
『エイトには無理じゃないかなぁ』
『どうして?』
『だって、エイトは優しすぎるから』
『レイラは優しくないってこと?』
『うーん……。私は優しくなくなっちゃったからなぁ』
優しかったら、『夜勤』なんて続けられない。
私は物心ついたときからここで暮らしてきて、この生き方以外知らないから、どんなに嫌でもやるしかなかった。
『いつか……夜勤なんて、なくなればいいのに』
『でも、国をいたずらに乱そうとする輩は、処分しないとさ』
『だけど、それじゃあいつまで経ってもレイラが――』
『明るい話しよ! ね、昼間の道化師の手品、エイトも見たでしょ? あれどういう仕掛けなんだろうね、魔法じゃないんだもんね?』
『まったく……。あの手品、僕も仕掛けが分からなかったよ。どういうトリックだったんだろうね――』
瞬間、城の最上階にある封印の間から、眩い光が溢れた。
次いで城全体が大きく揺れ、四方八方から茨が這い出てくる。
『な、なに!?』
『レイラ、危ない!!』
槍を投げ捨てたエイトが私を抱き締めて、バルコニーに倒れ込んだ。
私達の上に瓦礫がいくつも降ってきて、視界には茨が獲物を探すように這いずり回っている。
一際大きな瓦礫がエイトの頭上に降ってきて、エイトが小さく呻くと、身体からがくりと力が抜けた。
遠くで甲高い笑い声が響く。
それを聞いた後、私はふっと意識を失った――。
礼拝堂の明かりも、ベッドのところまではやってこない。
「おやすみ、みんな。今日はゆっくり休んで。明日は朝早いからね」
「エイトも寝坊しないようにー」
「レイラには言われたくないなぁ」
ぶーぶーと文句を言いながら、ゼシカの隣に失礼する。
もちろんゼシカが壁側だ。
ベッドから落ちるなら私というわけである。
疲れていたのか、私もみんなも、ベッドに入ってすぐ、すこんと寝てしまった。
……だけど、院長様の死を目の当たりにしてしまったからだろうか。
――『あの日』のことを、夢に見た。
『今日の持ち場は以上。各自、慢心せず任務にあたるように』
『はっ!!』
今は懐かしいトロデーン城の、兵士の詰所。
近衛兵達の持ち場を発表した近衛隊長は、全員の顔を見渡してひとつ頷き、解散と告げた。
『レイラ』
『はい』
ただ一人、私だけを除いて。
隊長に呼び止められた私は、持ち場へ向かおうとするエイトに手を振って、先を急がせた。
詰所に、私と隊長だけが残る。
『今晩、
『……はい。隊長のご命令の通りに』
返した声音は固く平坦で、抑揚もない。
詰所を出る前に深呼吸をひとつして。
それからドアノブを捻った。
持ち場について、その日一日の業務を終えて。
そうしてエイトと一緒に食事をとって、エイトと一緒に宿舎へ戻って。
――そうして、真夜中。
私は宿舎を抜け出して、城の外へ出た。
目の前を、千鳥足で歩く男。
気が大きくなっているようで、歌なんか歌っている。
その後を追いかけ、木の影から飛び出して――。
男は物言わぬ骸と成り果て、私の足元で息絶えた。
剣に付いた血を払って鞘へ納める。
『任務完了です』
『ご苦労。死体の処理は任せておけ』
『……はい』
闇夜に隠れるように、黒の外套を被り直す。
城の裏口から城内へと戻ると、宿舎にそっと身を滑り込ませた。
自分の部屋に入って――どっと息を吐く。
手のひらに、人を刺し殺した感触が残っている。
いつまでこんなことを――そう考えて首を振った。
答えはいつまでも、だ。
私がトロデーン兵士であり続ける限り、いつまでも『夜勤』は終わらない。
私は近衛兵。
けれど花形のそれとは違う。
……私は、汚れ役だ。
『見張り番、そろそろ交代か……』
夜に溶け込む黒の服から、近衛兵の隊服に着替え、鎧を装着する。
腰の剣はクローゼットの中に立て掛けて、部屋を出た。
詰所で槍を一本、掴んでから外へ出る。
ちょうど巡回中の一般兵とすれ違って、お互いに敬礼し合った。
近衛兵である私達は、王族の方々のお部屋近くへ繋がる、三階のバルコニーが持ち場だ。
既に相棒であるエイトは交代を終えていて、私と交代する近衛兵の先輩と軽い雑談を交わしていた。
『遅くなりました』
『おう、レイラ。お疲れさん。……夜勤明けなのに、見張りまで悪いな』
『大丈夫ですよ、見張り番の当番の方が、夜勤より先に決まってたんですし。代わります』
『ん、じゃあ後は頼んだぞ』
互いに敬礼をして、私も定位置についた。
夜風が柔らかく頬を撫でて、気分もようやく落ち着いて。
月が真上から傾いていくのを、ぼんやりと眺めていた。
『夜勤、だったんだ』
『……うん』
『どうして僕には声をかけないんだろう』
どこか悲しそうな声でエイトが呟くから、私は思わず笑ってしまった。
隣でエイトがムッとした表情になる。
『エイトには無理じゃないかなぁ』
『どうして?』
『だって、エイトは優しすぎるから』
『レイラは優しくないってこと?』
『うーん……。私は優しくなくなっちゃったからなぁ』
優しかったら、『夜勤』なんて続けられない。
私は物心ついたときからここで暮らしてきて、この生き方以外知らないから、どんなに嫌でもやるしかなかった。
『いつか……夜勤なんて、なくなればいいのに』
『でも、国をいたずらに乱そうとする輩は、処分しないとさ』
『だけど、それじゃあいつまで経ってもレイラが――』
『明るい話しよ! ね、昼間の道化師の手品、エイトも見たでしょ? あれどういう仕掛けなんだろうね、魔法じゃないんだもんね?』
『まったく……。あの手品、僕も仕掛けが分からなかったよ。どういうトリックだったんだろうね――』
瞬間、城の最上階にある封印の間から、眩い光が溢れた。
次いで城全体が大きく揺れ、四方八方から茨が這い出てくる。
『な、なに!?』
『レイラ、危ない!!』
槍を投げ捨てたエイトが私を抱き締めて、バルコニーに倒れ込んだ。
私達の上に瓦礫がいくつも降ってきて、視界には茨が獲物を探すように這いずり回っている。
一際大きな瓦礫がエイトの頭上に降ってきて、エイトが小さく呻くと、身体からがくりと力が抜けた。
遠くで甲高い笑い声が響く。
それを聞いた後、私はふっと意識を失った――。
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