11章
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「……弱ったな」
橋から引き返したあたりで、エイトはそう言って表情を曇らせた。
すんなり通してくれるとは思わなかったけど、まさかここまで融通が効かないとは。
「院長様にお会いするには、マルチェロさんの許可がいるみたいだ」
「……マルチェロ? ああ、二階からイヤミね。なんであいつの許可がいるのよ!」
「ゼシカもそう思う? 思ったよね!」
「思ったわよ! なんでいちいち、あの男に許可なんか!」
「あっそっち!?」
「姉貴はどっちだと思ったんでげすか?」
「二階からイヤミだなって」
エイトが無言で顔を覆って項垂れた。
なんとなく傷つくから、その反応はやめてほしい。
「駄目だこの子、何とかしないと……」
「駄目って何が?」
「危機感があるんだか無いんだか分からないわね……。はあ、仕方ないわ。たしか、地下室にいたわよね。院長に会う許可をもらいましょ」
何が駄目なのか教えてもらえないまま、三人が宿舎のほうへと歩いていく。
私の何が駄目だったんだろう。
やっぱり、人のことを「二階からイヤミ」なんて悪い言い方しちゃ駄目だったかな。
そりゃそうか、あんなでも一応、聖堂騎士団の団長さんなんだもんね。
院長様の館から宿舎へ戻ると、ククールさんの姿があった。
何かを探しているようにも見えて、私とエイトが顔を見合わせてしまうと、ククールさんが私達のほうを振り向いて、目を丸くした。
「あんたたち……。酒場で会った、あの時の連中だよな? どうしてこんなところに……」
「なにが『どうしてこんなところに』よ! あんたが来いって言ったんでしょ! こんな指輪なんていらないわよ!」
ゼシカがそう言って指輪を突き出す。
「指輪……?」とククールさんは興味なさそうに呟いて。
「……そうか! まだその手があった!」
何かを閃いたように声を上げた。
「なあ、あんたたち。あんたらに頼みたいことがあるんだ。俺の話を聞いてくれ」
「頼み!? 冗談でしょ? どうして私達がここであんたの頼みまで聞いてやらなくちゃならないのよ!」
「いいから聞いてくれ! のんびり話してる時間はない! ……感じないか? とんでもなく禍々しい気の持ち主が、この修道院の中に紛れ込んでいるのを。聞いた話じゃ、院長の部屋に道化師が入っていったらしい。この最悪な気の持ち主は、恐らくそいつだ」
「……道化師……!」
「……ええ、話には聞いています」
私とエイトの雰囲気が一変する。
これは悠長に構えていていい話じゃない。
間違いなく、有事だ。
「あんたら、途端に兵士らしい顔つきになるんだな。……いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。そいつの狙いまでは分からないが、とにかくこのままじゃオディロ院長の身が危ない! 頼む。修道院長の部屋に行って、中で何が起こっているか見てきてくれ!」
「分かりました。院長様の御身に危険が生じているなら、微力ながらお力添えを致します」
左胸に手を当てて礼をする。
それは騎士の誓いとはまた別の、兵士がとる最敬礼だ。
「……ありがとう。恩に着るよ。じゃあ、今から俺が言うことをしっかり聞いてくれ。あんたらも見たかもしれないが、院長の部屋へ続く橋は、石頭の馬鹿共が塞いでる。あそこを通るのは無理だ」
「そうですね。あの者たちを気絶させて強引に通ることも出来ますが、騒ぎになるのは避けたいところです」
「それじゃあ院長の部屋に行く手立てがないじゃない!」
「表向きはな。だが、かなり回り道になるが、あの院長の部屋がある島へ行く方法が、もうひとつだけ残ってる。一度、この修道院をドニ側に出て、すぐ川沿いの土手を左手に……。つまり、この修道院を見ながら川沿いを進むんだ。そういう風にずっと進んでいくと、大昔に使われていて、今は廃墟になった修道院の入口がある。その廃墟から、院長の部屋があるあの島に、道が通じてるらしい」
「……廃墟ですか……」
思ったよりも声が震えてしまって、慌てて軽く咳払いをする。
エイトもゼシカも気付いてなかったようなので、人知れずほっとした。
「すまないが、院長の部屋へ行くための道はそれしかないんだ。廃墟の入口は、あんたらに預けた騎士団員の指輪で開くらしい。だからそいつは、もうしばらく持っててくれ。とにかく、グズグズしてて手遅れになったら、何にもならねえ。修道院長のこと、頼んだぞ」
「分かりました。必ずや」
力強くエイトが頷いて、私達は足早に宿舎から出て行った。
修道院の中を通り抜け、外の橋をドニ側に渡っていく。
「修道院を見ながら、土手を進んで行くって言ってたよね」
「うん。道は合ってると思う」
道なき道を進んで、川沿いを進んでいく。
背後からは、姫様の足音と馬車の車輪の音が迫ってきていた。
……陛下と姫様のこと、呼ぶの忘れてたな……。
「こ、こりゃー! またわしとミーティアを忘れてどこぞへ行きおって!」
「すみません! ですが火急の事態なんです!」
「修道院長のところに、ドルマゲスが……!」
「な……なんじゃと!?」
「修道院の中からは、院長様のお部屋に入れないので、危険ですが抜け道を……!」
そう言って、私ははっと気付いた。
廃墟となった旧修道院の外に陛下が来てしまったら、私達だけが修道院に向かうことになる。
それはまずい、陛下には修道院のそばにいてもらったほうがいい。
「陛下! 陛下は修道院の近くでお待ちください! 向かう先は廃墟となった旧修道院です、何があるか分かりません!」
「ぬ、ぬう……! しかしじゃな」
「王様、僕らは大丈夫ですから!」
「アッシらを信じて待ってるといいでげすよ、おっさん」
「そうよ! ドルマゲスを倒すまで、そこらのやつなんかに私達は負けたりしないわ!」
「……ええい、仕方のない奴らじゃ! エイト、レイラ、ヤンガスにゼシカ! 必ず戻ってくるんじゃぞー!!」
そう言い残して、姫様と陛下は私達を置いて修道院へと戻って行った。
これでいい、修道院の近くなら、魔物もおいそれと近づいては来ないはずだ。
「……よし。急ごう、みんな!」
「おうでげす!」
「うう……。幽霊とか出ませんように!」
「苦手なの? よくそれで夜の見張りなんかやれてたわね」
「だって、トロデーン城には幽霊が出るなんて話はなかったから……」
「ゼシカの姉ちゃんは、そういうのは怖くないんでげすか?」
「全然怖くないわよ」
「う、羨ましい……」
ククールさんの話を聞いていた時は、院長様が危ないってことに気を取られていたけど。
廃墟ってことは……いるかもしれないよね、幽霊的な何かが……。
向こうにうっすらと道が見えて来て、私達はその道に従って走った。
切り立った崖に隠されるように、ぽっかりとその場所が顔を出す。
建物の壁の一部が残ったその場所には、石碑がひとつ、ぽつんとある以外は何もない。
「ここは……」
「川沿いの土手の奥……の、古い建物……石碑……。どうやらここみたいね」
「この石碑の穴、紋章みたいなのが刻んである。……ねえ、さっきの指輪、もしかしてここに……」
エイトが指輪を取り出して、石碑の窪みにはめ込む。
カチ、と音がした瞬間、草むらに覆われた外壁近くの地面が青白い炎に包まれた。
そうして……現れたのは、地下への階段だ。
「はぁ〜、こういう作りになってたんだ……」
「ともかく、早く降りよう」
「そうね。幽霊なんて怖くないわよ、レイラ」
「そうですね、怖くないですよね……。はぁ……」
それでも何かを掴んでいないと怖くて、私はエイトの上着の裾を掴んで、階段を降りていった。
歩きにくいのは承知の上だけど、私の恐怖心を和らげるためだと思って、我慢してくれ、エイト……。
「……何してるんだよ、レイラ?」
「ほんとに無理なの、幽霊とかそういうの!」
「レイラったら、涙目よ」
「……まあ、昔から怖いものが苦手だからね、レイラは」
ぎゅっと裾を掴んでいた手が、エイトの手に握られる。
恐る恐ると裾から手を離して、エイトの手を握ると、エイトは安心させるように微笑んで頷いてくれた。
それからきゅっと表情を引き締める。
「さあ、先に進もう!」
「う、うん……!」
エイトの手が温かくて、安心する。
そうだよ、エイトにヤンガス、ゼシカがいるんだもん。
幽霊が出たって、こてんぱんにしてくれるはずだ。
――ピリ、とこめかみをほんの僅かな痛みが走った。
それは気のせいで片付けられるほどの、微弱なものだ。
「……?」
「どうしたの、レイラ?」
「ううん、なんでもない」
特に気にすることもなく、地下へと階段を降りていく。
……何だったんだろう、今のは。
エイトの手を握り締めたまま、私はエイトの隣を歩きながら、荒れ果てた旧修道院を歩いていった。
橋から引き返したあたりで、エイトはそう言って表情を曇らせた。
すんなり通してくれるとは思わなかったけど、まさかここまで融通が効かないとは。
「院長様にお会いするには、マルチェロさんの許可がいるみたいだ」
「……マルチェロ? ああ、二階からイヤミね。なんであいつの許可がいるのよ!」
「ゼシカもそう思う? 思ったよね!」
「思ったわよ! なんでいちいち、あの男に許可なんか!」
「あっそっち!?」
「姉貴はどっちだと思ったんでげすか?」
「二階からイヤミだなって」
エイトが無言で顔を覆って項垂れた。
なんとなく傷つくから、その反応はやめてほしい。
「駄目だこの子、何とかしないと……」
「駄目って何が?」
「危機感があるんだか無いんだか分からないわね……。はあ、仕方ないわ。たしか、地下室にいたわよね。院長に会う許可をもらいましょ」
何が駄目なのか教えてもらえないまま、三人が宿舎のほうへと歩いていく。
私の何が駄目だったんだろう。
やっぱり、人のことを「二階からイヤミ」なんて悪い言い方しちゃ駄目だったかな。
そりゃそうか、あんなでも一応、聖堂騎士団の団長さんなんだもんね。
院長様の館から宿舎へ戻ると、ククールさんの姿があった。
何かを探しているようにも見えて、私とエイトが顔を見合わせてしまうと、ククールさんが私達のほうを振り向いて、目を丸くした。
「あんたたち……。酒場で会った、あの時の連中だよな? どうしてこんなところに……」
「なにが『どうしてこんなところに』よ! あんたが来いって言ったんでしょ! こんな指輪なんていらないわよ!」
ゼシカがそう言って指輪を突き出す。
「指輪……?」とククールさんは興味なさそうに呟いて。
「……そうか! まだその手があった!」
何かを閃いたように声を上げた。
「なあ、あんたたち。あんたらに頼みたいことがあるんだ。俺の話を聞いてくれ」
「頼み!? 冗談でしょ? どうして私達がここであんたの頼みまで聞いてやらなくちゃならないのよ!」
「いいから聞いてくれ! のんびり話してる時間はない! ……感じないか? とんでもなく禍々しい気の持ち主が、この修道院の中に紛れ込んでいるのを。聞いた話じゃ、院長の部屋に道化師が入っていったらしい。この最悪な気の持ち主は、恐らくそいつだ」
「……道化師……!」
「……ええ、話には聞いています」
私とエイトの雰囲気が一変する。
これは悠長に構えていていい話じゃない。
間違いなく、有事だ。
「あんたら、途端に兵士らしい顔つきになるんだな。……いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。そいつの狙いまでは分からないが、とにかくこのままじゃオディロ院長の身が危ない! 頼む。修道院長の部屋に行って、中で何が起こっているか見てきてくれ!」
「分かりました。院長様の御身に危険が生じているなら、微力ながらお力添えを致します」
左胸に手を当てて礼をする。
それは騎士の誓いとはまた別の、兵士がとる最敬礼だ。
「……ありがとう。恩に着るよ。じゃあ、今から俺が言うことをしっかり聞いてくれ。あんたらも見たかもしれないが、院長の部屋へ続く橋は、石頭の馬鹿共が塞いでる。あそこを通るのは無理だ」
「そうですね。あの者たちを気絶させて強引に通ることも出来ますが、騒ぎになるのは避けたいところです」
「それじゃあ院長の部屋に行く手立てがないじゃない!」
「表向きはな。だが、かなり回り道になるが、あの院長の部屋がある島へ行く方法が、もうひとつだけ残ってる。一度、この修道院をドニ側に出て、すぐ川沿いの土手を左手に……。つまり、この修道院を見ながら川沿いを進むんだ。そういう風にずっと進んでいくと、大昔に使われていて、今は廃墟になった修道院の入口がある。その廃墟から、院長の部屋があるあの島に、道が通じてるらしい」
「……廃墟ですか……」
思ったよりも声が震えてしまって、慌てて軽く咳払いをする。
エイトもゼシカも気付いてなかったようなので、人知れずほっとした。
「すまないが、院長の部屋へ行くための道はそれしかないんだ。廃墟の入口は、あんたらに預けた騎士団員の指輪で開くらしい。だからそいつは、もうしばらく持っててくれ。とにかく、グズグズしてて手遅れになったら、何にもならねえ。修道院長のこと、頼んだぞ」
「分かりました。必ずや」
力強くエイトが頷いて、私達は足早に宿舎から出て行った。
修道院の中を通り抜け、外の橋をドニ側に渡っていく。
「修道院を見ながら、土手を進んで行くって言ってたよね」
「うん。道は合ってると思う」
道なき道を進んで、川沿いを進んでいく。
背後からは、姫様の足音と馬車の車輪の音が迫ってきていた。
……陛下と姫様のこと、呼ぶの忘れてたな……。
「こ、こりゃー! またわしとミーティアを忘れてどこぞへ行きおって!」
「すみません! ですが火急の事態なんです!」
「修道院長のところに、ドルマゲスが……!」
「な……なんじゃと!?」
「修道院の中からは、院長様のお部屋に入れないので、危険ですが抜け道を……!」
そう言って、私ははっと気付いた。
廃墟となった旧修道院の外に陛下が来てしまったら、私達だけが修道院に向かうことになる。
それはまずい、陛下には修道院のそばにいてもらったほうがいい。
「陛下! 陛下は修道院の近くでお待ちください! 向かう先は廃墟となった旧修道院です、何があるか分かりません!」
「ぬ、ぬう……! しかしじゃな」
「王様、僕らは大丈夫ですから!」
「アッシらを信じて待ってるといいでげすよ、おっさん」
「そうよ! ドルマゲスを倒すまで、そこらのやつなんかに私達は負けたりしないわ!」
「……ええい、仕方のない奴らじゃ! エイト、レイラ、ヤンガスにゼシカ! 必ず戻ってくるんじゃぞー!!」
そう言い残して、姫様と陛下は私達を置いて修道院へと戻って行った。
これでいい、修道院の近くなら、魔物もおいそれと近づいては来ないはずだ。
「……よし。急ごう、みんな!」
「おうでげす!」
「うう……。幽霊とか出ませんように!」
「苦手なの? よくそれで夜の見張りなんかやれてたわね」
「だって、トロデーン城には幽霊が出るなんて話はなかったから……」
「ゼシカの姉ちゃんは、そういうのは怖くないんでげすか?」
「全然怖くないわよ」
「う、羨ましい……」
ククールさんの話を聞いていた時は、院長様が危ないってことに気を取られていたけど。
廃墟ってことは……いるかもしれないよね、幽霊的な何かが……。
向こうにうっすらと道が見えて来て、私達はその道に従って走った。
切り立った崖に隠されるように、ぽっかりとその場所が顔を出す。
建物の壁の一部が残ったその場所には、石碑がひとつ、ぽつんとある以外は何もない。
「ここは……」
「川沿いの土手の奥……の、古い建物……石碑……。どうやらここみたいね」
「この石碑の穴、紋章みたいなのが刻んである。……ねえ、さっきの指輪、もしかしてここに……」
エイトが指輪を取り出して、石碑の窪みにはめ込む。
カチ、と音がした瞬間、草むらに覆われた外壁近くの地面が青白い炎に包まれた。
そうして……現れたのは、地下への階段だ。
「はぁ〜、こういう作りになってたんだ……」
「ともかく、早く降りよう」
「そうね。幽霊なんて怖くないわよ、レイラ」
「そうですね、怖くないですよね……。はぁ……」
それでも何かを掴んでいないと怖くて、私はエイトの上着の裾を掴んで、階段を降りていった。
歩きにくいのは承知の上だけど、私の恐怖心を和らげるためだと思って、我慢してくれ、エイト……。
「……何してるんだよ、レイラ?」
「ほんとに無理なの、幽霊とかそういうの!」
「レイラったら、涙目よ」
「……まあ、昔から怖いものが苦手だからね、レイラは」
ぎゅっと裾を掴んでいた手が、エイトの手に握られる。
恐る恐ると裾から手を離して、エイトの手を握ると、エイトは安心させるように微笑んで頷いてくれた。
それからきゅっと表情を引き締める。
「さあ、先に進もう!」
「う、うん……!」
エイトの手が温かくて、安心する。
そうだよ、エイトにヤンガス、ゼシカがいるんだもん。
幽霊が出たって、こてんぱんにしてくれるはずだ。
――ピリ、とこめかみをほんの僅かな痛みが走った。
それは気のせいで片付けられるほどの、微弱なものだ。
「……?」
「どうしたの、レイラ?」
「ううん、なんでもない」
特に気にすることもなく、地下へと階段を降りていく。
……何だったんだろう、今のは。
エイトの手を握り締めたまま、私はエイトの隣を歩きながら、荒れ果てた旧修道院を歩いていった。