閑話5
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──トロデーン城は今日も平和だ。
何も異常のない城内を巡回しながら、緩みかけた気を引き締める。
ミーティア姫の部屋の前を通り過ぎる時、見張りの女性兵士が私に向かって敬礼した。
「異常ありません!」の報告に頷き、敬礼を返す。
その時、ガシャガシャとこちらへ走ってくる足音が聞こえてきた。
女性兵士と一緒になってそちらを振り向くと、なんと隊長様が走ってきている。
「おと……じゃなかった、隊長?」
「どうしたのエイト、えらく急いでるけど」
「お……王子殿下を見なかった!?」
王子殿下とはもちろん、姫様のお子様にしてこの国の次期国王であるお方。
まだまだやんちゃ盛りなのか、授業を抜け出す事があるらしい。
最近は真面目に取り組まれていたから、近衛隊長様も油断なさっていたようだ。
「や、私は見てないけど……。エレアは?」
「私も見てない……あ、見てません」
「やっぱりこっちには来てないか……」
「ライトは見てないって?」
「ひょっとして、ライトが逃がしちゃったとか……」
エレアと顔を見合わせたその時。
静かな廊下に、溌剌とした声が響いた。
「近衛隊長、ようやく見つけたぞ!」
「その声は!!」
エイトが勢いよく振り返る。
その先には腰に手を当てて仁王立ちする王子殿下がいた。
エイトを探していたらしい、もうそれだけで用件が察せられる。
私とエレアは黙って目配せをして、それからエレアが静かに首を振った。
「ライトが探していましたよ! また授業を抜け出されたんですか? お父上のお耳に入ったら……」
「今日こそは貴殿に剣術を指南してもらうぞ! 国一番の英雄殿!」
「今は座学のお時間ですよ!」
「多忙な貴殿にこちらが合わせなければ、いつまで経っても剣術の稽古ができないではないか」
「あーあ、お父さん……」
「こりゃあ今日はエイト、残業だな……」
エレアと私の声が重なる。
エレアとライトは私とエイトの子で、二人とも十七歳。
なんと双子である。
見た目だけならエレアは私に似て、ライトはエイトに似たけど、性格はものの見事に逆。
エイトに似てマイペースでちょっと心配性なエレアと、大雑把で能天気ながら決める時は決めるライト。
誰がそこまで似ろと言ったのか、とライトに関しては数人が頭を抱えた。
礼儀作法の躾も兼ねて、小間使いとして小さい頃から城にお世話になっていたのだけれど、昨年から二人も近衛兵として取り立てられたのだ。
今日はエレアが姫様の部屋の見張りで、ライトは王子殿下の部屋の見張り……だったのだけれど、事件が起きたというわけらしい。
「殿下、いたーッ!! やっと見つけましたよ! 城三周くらい走り回ったんですが!!」
「おっとライトに見つかってしまったか。近衛隊長、中庭で落ち合おう!」
「部屋に戻ってもらえますか!? 殿下聞いてます!? どこ行くんですか!!」
ライトは可哀想なくらい振り回されている。
残された我々家族は、再び殿下を追いかけて走り去ったライトを無言で見送った。
どうすんの、という私とエレアの視線がエイトに向けられる。
「中庭……で、待つしかないかな……」
「王配殿下に知らせたほうが早くない?」
「でも王子殿下だって、お父さんの手が空いた時を待ってたんでしょ?」
「う、ううん……」
困ったような顔をして、エイトはため息をついた。
しょうがない、ここは二十年右腕をやってきた私が、一肌脱ぐとするか!
「仕方ないなー、エイトの残りの仕事は私が引き受けよう」
「え!?」
「心置きなく王子殿下に稽古をつけてやんな!」
「王配殿下に怒られるの僕じゃないかな!?」
「その時は王子殿下たってのご希望でって言えばいいじゃない」
「な、なるほど……? それでいいのかな……」
眉尻を下げたまま、隊長様はその場から去っていった。
王子殿下に剣術を教えるとなると、エイトが適任なのは間違いない。
なにせ国を救った勇者様だもんね!
私はどっちかっていうと槍術のほうが得意だし……感覚論だから教えるのに向いてなさすぎる。
「そうだエレア、そろそろ魔法の修行もしたいって言ってたよね?」
「覚えてたんだ? 忙しくて忘れちゃってると思った」
「忘れないよ、そんな大事なこと! ってことでゼシカと話つけてあるから、来週からリーザス村で修行しておいで」
「ゼシカお姉ちゃんと!? い、忙しくないのかな……?」
「他ならぬエレアの為ならって二つ返事だったし、大丈夫なんじゃない?」
「お母さん、その適当さでよく今まで揉め事を起こさなかったね……」
「揉め事を起こすほどの適当さではないからね、一応」
エレアに手を振って巡回に戻る。
ロアナス家に受け継がれてきた霊導者の力は、エレアに発現した。
剣術や槍術に関しては私とエイトに叩き込まれているから、残るは魔法の修行というわけだ。
そして魔法といえばゼシカである。
……みんな元気にしてるかなぁ。
旅を終えて二十年は経つけど、なんやかんや手紙でやり取りはしている。
住んでいる場所がバラバラだから、なかなか顔を合わせるタイミングはないけど。
三人とも老けただろうな、なにせ私が老けたからな。
エイトくらいだよ、大して変わってないの。
さすが半分竜神族、年齢不詳に拍車がかかってしまっている。
巡回のルートを歩きながら外へ出ると、中庭でエイトが王子殿下に稽古をつけていた。
結局こうなったか、と苦笑いを浮かべて見ていると、ふと上のほうから視線が。
図書館の屋上に……姫様と王配殿下が並んでいる……。
……エイト、怒られないといいね!
だからライトの姿がないわけだ!
とばっちりは嫌だもんね! 私も嫌だ!
そそくさと兵舎に逃げ込んで、ドアを閉める。
テーブルに突っ伏してお疲れモードのライトに水を渡して、私も休憩に入ることにした。
「母さん……俺じゃ止められなかったよ……」
「大丈夫大丈夫、そのうち終わるから、あれ」
「終わるかぁ……?」
それからしばらくした頃、中庭に王配殿下の大声と、王子殿下の「ごめんなさい!!」という悲鳴が響いたのだった。
ライトは同情するような眼差しでドアを見やり、やがて頃合かと重い腰を上げて兵舎を出ていった。
トロデーン城は、今日もこれから先もずっと、平和であることだろう。
やりかけだったエイトの名前の刺繍を取り出して続きを刺しながら、手元に差し込む柔らかな午後の日差しに私は頬を緩めた──。
何も異常のない城内を巡回しながら、緩みかけた気を引き締める。
ミーティア姫の部屋の前を通り過ぎる時、見張りの女性兵士が私に向かって敬礼した。
「異常ありません!」の報告に頷き、敬礼を返す。
その時、ガシャガシャとこちらへ走ってくる足音が聞こえてきた。
女性兵士と一緒になってそちらを振り向くと、なんと隊長様が走ってきている。
「おと……じゃなかった、隊長?」
「どうしたのエイト、えらく急いでるけど」
「お……王子殿下を見なかった!?」
王子殿下とはもちろん、姫様のお子様にしてこの国の次期国王であるお方。
まだまだやんちゃ盛りなのか、授業を抜け出す事があるらしい。
最近は真面目に取り組まれていたから、近衛隊長様も油断なさっていたようだ。
「や、私は見てないけど……。エレアは?」
「私も見てない……あ、見てません」
「やっぱりこっちには来てないか……」
「ライトは見てないって?」
「ひょっとして、ライトが逃がしちゃったとか……」
エレアと顔を見合わせたその時。
静かな廊下に、溌剌とした声が響いた。
「近衛隊長、ようやく見つけたぞ!」
「その声は!!」
エイトが勢いよく振り返る。
その先には腰に手を当てて仁王立ちする王子殿下がいた。
エイトを探していたらしい、もうそれだけで用件が察せられる。
私とエレアは黙って目配せをして、それからエレアが静かに首を振った。
「ライトが探していましたよ! また授業を抜け出されたんですか? お父上のお耳に入ったら……」
「今日こそは貴殿に剣術を指南してもらうぞ! 国一番の英雄殿!」
「今は座学のお時間ですよ!」
「多忙な貴殿にこちらが合わせなければ、いつまで経っても剣術の稽古ができないではないか」
「あーあ、お父さん……」
「こりゃあ今日はエイト、残業だな……」
エレアと私の声が重なる。
エレアとライトは私とエイトの子で、二人とも十七歳。
なんと双子である。
見た目だけならエレアは私に似て、ライトはエイトに似たけど、性格はものの見事に逆。
エイトに似てマイペースでちょっと心配性なエレアと、大雑把で能天気ながら決める時は決めるライト。
誰がそこまで似ろと言ったのか、とライトに関しては数人が頭を抱えた。
礼儀作法の躾も兼ねて、小間使いとして小さい頃から城にお世話になっていたのだけれど、昨年から二人も近衛兵として取り立てられたのだ。
今日はエレアが姫様の部屋の見張りで、ライトは王子殿下の部屋の見張り……だったのだけれど、事件が起きたというわけらしい。
「殿下、いたーッ!! やっと見つけましたよ! 城三周くらい走り回ったんですが!!」
「おっとライトに見つかってしまったか。近衛隊長、中庭で落ち合おう!」
「部屋に戻ってもらえますか!? 殿下聞いてます!? どこ行くんですか!!」
ライトは可哀想なくらい振り回されている。
残された我々家族は、再び殿下を追いかけて走り去ったライトを無言で見送った。
どうすんの、という私とエレアの視線がエイトに向けられる。
「中庭……で、待つしかないかな……」
「王配殿下に知らせたほうが早くない?」
「でも王子殿下だって、お父さんの手が空いた時を待ってたんでしょ?」
「う、ううん……」
困ったような顔をして、エイトはため息をついた。
しょうがない、ここは二十年右腕をやってきた私が、一肌脱ぐとするか!
「仕方ないなー、エイトの残りの仕事は私が引き受けよう」
「え!?」
「心置きなく王子殿下に稽古をつけてやんな!」
「王配殿下に怒られるの僕じゃないかな!?」
「その時は王子殿下たってのご希望でって言えばいいじゃない」
「な、なるほど……? それでいいのかな……」
眉尻を下げたまま、隊長様はその場から去っていった。
王子殿下に剣術を教えるとなると、エイトが適任なのは間違いない。
なにせ国を救った勇者様だもんね!
私はどっちかっていうと槍術のほうが得意だし……感覚論だから教えるのに向いてなさすぎる。
「そうだエレア、そろそろ魔法の修行もしたいって言ってたよね?」
「覚えてたんだ? 忙しくて忘れちゃってると思った」
「忘れないよ、そんな大事なこと! ってことでゼシカと話つけてあるから、来週からリーザス村で修行しておいで」
「ゼシカお姉ちゃんと!? い、忙しくないのかな……?」
「他ならぬエレアの為ならって二つ返事だったし、大丈夫なんじゃない?」
「お母さん、その適当さでよく今まで揉め事を起こさなかったね……」
「揉め事を起こすほどの適当さではないからね、一応」
エレアに手を振って巡回に戻る。
ロアナス家に受け継がれてきた霊導者の力は、エレアに発現した。
剣術や槍術に関しては私とエイトに叩き込まれているから、残るは魔法の修行というわけだ。
そして魔法といえばゼシカである。
……みんな元気にしてるかなぁ。
旅を終えて二十年は経つけど、なんやかんや手紙でやり取りはしている。
住んでいる場所がバラバラだから、なかなか顔を合わせるタイミングはないけど。
三人とも老けただろうな、なにせ私が老けたからな。
エイトくらいだよ、大して変わってないの。
さすが半分竜神族、年齢不詳に拍車がかかってしまっている。
巡回のルートを歩きながら外へ出ると、中庭でエイトが王子殿下に稽古をつけていた。
結局こうなったか、と苦笑いを浮かべて見ていると、ふと上のほうから視線が。
図書館の屋上に……姫様と王配殿下が並んでいる……。
……エイト、怒られないといいね!
だからライトの姿がないわけだ!
とばっちりは嫌だもんね! 私も嫌だ!
そそくさと兵舎に逃げ込んで、ドアを閉める。
テーブルに突っ伏してお疲れモードのライトに水を渡して、私も休憩に入ることにした。
「母さん……俺じゃ止められなかったよ……」
「大丈夫大丈夫、そのうち終わるから、あれ」
「終わるかぁ……?」
それからしばらくした頃、中庭に王配殿下の大声と、王子殿下の「ごめんなさい!!」という悲鳴が響いたのだった。
ライトは同情するような眼差しでドアを見やり、やがて頃合かと重い腰を上げて兵舎を出ていった。
トロデーン城は、今日もこれから先もずっと、平和であることだろう。
やりかけだったエイトの名前の刺繍を取り出して続きを刺しながら、手元に差し込む柔らかな午後の日差しに私は頬を緩めた──。
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