閑話5
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トラペッタは今日もいい天気だ。
家の庭に干していた洗濯物を取り込もうと家の外に出て、陽射しに目を細める。
世界が平和になって三年が過ぎた。
二十二歳になったエイトと私は、今も近衛隊長と副隊長としてバリバリの現役だ。
今日は私だけ非番で、エイトは仕事。
でももうそろそろ上がる時間のはずだ。
「……うん?」
取り込もうとした洗濯物を手に取って、首を傾げる。
それはエイトの肌着なんだけど、見たことない刺繍が入っていた。
エイトのイニシャルではあるけど……私の刺繍じゃない。
いつも刺繍は私に頼むのに……。
「さては私に頼むの忘れて、おばちゃんにやってもらったな?」
小間使い時代にお世話になった、台所のおばちゃんの顔が浮かぶ。
私たちにとっては母親みたいな存在だったから、エイトも頼みやすかったんだろう。
「ふんふーん、ふんふふーん」
適当に鼻歌を歌いながら洗濯物を取り込んで、家の中へ戻る。
それを畳んでいると、ガチャリと家のドアが開いて、エイトが帰ってきた。
「おかえりー」
「ただいま」
うーんこの爽やかさ。
一日近衛兵として仕事をしていたとは思えんな。
なんとエイトは更に身長が伸びて、今ではククールと横並びだ。
「お前まだ伸びるのかよ」と追い付かれるのを危惧していたククールは、とうとう追い付かれたと知ってドン引きした。
分かるよ、私もエイトと話す時に首が痛くなっちゃったもん。
「手伝うよ」
「じゃあありがたく。今日も城は変わりなかった?」
「うん。平和そのもの」
「それはなによりだねぇ」
二人で畳めば洗濯物だってあっという間に片付く。
そういえば、と私は例の肌着をエイトに差し出しながら尋ねた。
「この肌着の刺繍、誰にしてもらったの? 私がしたやつじゃなさそうだったけど」
「……あっ」
まずい、とエイトの顔が言っている。
予想外の反応が返ってきて、ビビったのはこっちだが?
聞いちゃいけないこと聞いた感じになってきたんだけど!?
「エッそんな聞いちゃまずいやつだった?」
「ま、まずくはない! まずくはないけど……」
「おばちゃんにやってもらったのかと思ったけど、違うんだ? まさか姫様にやってもらったとか言わないよね!? もしそうなら羨ましさでキレるけど!?」
「違う違う! ていうか羨ましいんだ!?」
「私だって姫様に名前の刺繍してほしいもん!!」
そうなんだ……とエイトは圧倒されたまま呟いた。
ということは姫様の線もなしだ。
本当に誰にしてもらったんだ?
「……これもしかして、自分でやった?」
「うっ」
「え、ほんとに!? 出来るの? いつから!?」
「だ……だいぶ前から……」
エイトの目が泳いでいる。
別に責めてるわけじゃないのに、こっちが悪いことしてるみたいじゃんか。
自分の成長なんだから、そんなに嫌そうな顔しなくてもよくない?
「針で指を刺しまくってた、あのエイトがねぇ」
「いつの話だよ……」
「旅に出てた頃は私が刺繍してたよね? じゃあ城に戻ってから練習したの?」
「……う、うん、まぁそんなところかな……」
「なんでそんな歯切れ悪いの」
「そ、そんなことないよ、はは……」
「そんなことしかなくない?」
相変わらず隠し事がド下手くそすぎる。
私も人の事は言えないけど、私以上じゃない?
しどろもどろなエイトをじーっと見つめていると、観念したらしいエイトが肩を落とした。
「……レイラが近衛兵になった頃には、できるようになってたよ」
「え!! めっちゃ前じゃん!! えっ私その頃もエイトの名前、刺繍してたよね!?」
「うん、してもらってた。……わざと、なんだけど」
「なんで!?」
「だって……そうでもしないと、レイラと一緒にいられなかったから……」
「なんでそんな可愛いこと言うの」
びっくりした、恋する乙女みたいなこと言い出すじゃん。
どんだけ私と一緒にいたかったの!?
そりゃ私のことずっと好きだったんだもんな!?
だからってそんな嘘ついてまで!?
「知られたらもう刺繍してくれなくなるかもなって思って、隠してたんだ。……ごめんね」
「そりゃまあ、出来るんなら自分でやりなよって思うけど」
「……やっぱり駄目?」
「なんで私の刺繍がいいの?」
「好きな人が自分の名前を刺繍してくれるのって、幸せだなって……」
「幸せの沸点、低くない?」
「あとは……レイラが刺繍してくれてる間は、一緒にいられたから」
「……」
別に、近衛兵として仕事してた時も、一緒にいたと思うけど。
そりゃ丸一日ずっと一緒っていうのは無くなったけど、城で生活してるんだから、顔を合わせる時間はある。
そういうことじゃないってこと?
「でも今はもう結婚して一緒に住んでる。レイラに刺繍してもらう必要はないのも、たしかだ」
寂しそうに微笑んで、エイトはクローゼットに服をしまった。
なんか、なんていうか、そこまで思い入れのあるものだったなんて、想像もしてなかった。
私に名前のイニシャルを刺繍してもらうこと、それ自体がエイトの中で大切な宝物なんだとしたら──。
「……やるよ」
気付いたら私はそう言っていた。
え、とエイトが戸惑う。
そんな彼に微笑んで、私は頷いた。
「刺繍。してあげるよ、これからも。私にしてほしいんでしょ?」
「それはもちろん、そうなんだけど……。でも、いいの?」
「嫌だなんて言ってないじゃん。それにさ、エイトが私に何かしてほしいって頼むことなんて、滅多にないわけだし。いつもしてもらってばっかりだもん、これくらいはね」
きょとんとしたエイトが擽ったそうにはにかむ。
私の服もクローゼットにしまったエイトは、そのままトイレに向かった。
私もそろそろ晩ご飯の用意でもしようかな。
壁にかけたエプロンを着けてキッチンに向かうと、私はじゃがいもの皮を剥くべく、包丁を手にしたのだった。
家の庭に干していた洗濯物を取り込もうと家の外に出て、陽射しに目を細める。
世界が平和になって三年が過ぎた。
二十二歳になったエイトと私は、今も近衛隊長と副隊長としてバリバリの現役だ。
今日は私だけ非番で、エイトは仕事。
でももうそろそろ上がる時間のはずだ。
「……うん?」
取り込もうとした洗濯物を手に取って、首を傾げる。
それはエイトの肌着なんだけど、見たことない刺繍が入っていた。
エイトのイニシャルではあるけど……私の刺繍じゃない。
いつも刺繍は私に頼むのに……。
「さては私に頼むの忘れて、おばちゃんにやってもらったな?」
小間使い時代にお世話になった、台所のおばちゃんの顔が浮かぶ。
私たちにとっては母親みたいな存在だったから、エイトも頼みやすかったんだろう。
「ふんふーん、ふんふふーん」
適当に鼻歌を歌いながら洗濯物を取り込んで、家の中へ戻る。
それを畳んでいると、ガチャリと家のドアが開いて、エイトが帰ってきた。
「おかえりー」
「ただいま」
うーんこの爽やかさ。
一日近衛兵として仕事をしていたとは思えんな。
なんとエイトは更に身長が伸びて、今ではククールと横並びだ。
「お前まだ伸びるのかよ」と追い付かれるのを危惧していたククールは、とうとう追い付かれたと知ってドン引きした。
分かるよ、私もエイトと話す時に首が痛くなっちゃったもん。
「手伝うよ」
「じゃあありがたく。今日も城は変わりなかった?」
「うん。平和そのもの」
「それはなによりだねぇ」
二人で畳めば洗濯物だってあっという間に片付く。
そういえば、と私は例の肌着をエイトに差し出しながら尋ねた。
「この肌着の刺繍、誰にしてもらったの? 私がしたやつじゃなさそうだったけど」
「……あっ」
まずい、とエイトの顔が言っている。
予想外の反応が返ってきて、ビビったのはこっちだが?
聞いちゃいけないこと聞いた感じになってきたんだけど!?
「エッそんな聞いちゃまずいやつだった?」
「ま、まずくはない! まずくはないけど……」
「おばちゃんにやってもらったのかと思ったけど、違うんだ? まさか姫様にやってもらったとか言わないよね!? もしそうなら羨ましさでキレるけど!?」
「違う違う! ていうか羨ましいんだ!?」
「私だって姫様に名前の刺繍してほしいもん!!」
そうなんだ……とエイトは圧倒されたまま呟いた。
ということは姫様の線もなしだ。
本当に誰にしてもらったんだ?
「……これもしかして、自分でやった?」
「うっ」
「え、ほんとに!? 出来るの? いつから!?」
「だ……だいぶ前から……」
エイトの目が泳いでいる。
別に責めてるわけじゃないのに、こっちが悪いことしてるみたいじゃんか。
自分の成長なんだから、そんなに嫌そうな顔しなくてもよくない?
「針で指を刺しまくってた、あのエイトがねぇ」
「いつの話だよ……」
「旅に出てた頃は私が刺繍してたよね? じゃあ城に戻ってから練習したの?」
「……う、うん、まぁそんなところかな……」
「なんでそんな歯切れ悪いの」
「そ、そんなことないよ、はは……」
「そんなことしかなくない?」
相変わらず隠し事がド下手くそすぎる。
私も人の事は言えないけど、私以上じゃない?
しどろもどろなエイトをじーっと見つめていると、観念したらしいエイトが肩を落とした。
「……レイラが近衛兵になった頃には、できるようになってたよ」
「え!! めっちゃ前じゃん!! えっ私その頃もエイトの名前、刺繍してたよね!?」
「うん、してもらってた。……わざと、なんだけど」
「なんで!?」
「だって……そうでもしないと、レイラと一緒にいられなかったから……」
「なんでそんな可愛いこと言うの」
びっくりした、恋する乙女みたいなこと言い出すじゃん。
どんだけ私と一緒にいたかったの!?
そりゃ私のことずっと好きだったんだもんな!?
だからってそんな嘘ついてまで!?
「知られたらもう刺繍してくれなくなるかもなって思って、隠してたんだ。……ごめんね」
「そりゃまあ、出来るんなら自分でやりなよって思うけど」
「……やっぱり駄目?」
「なんで私の刺繍がいいの?」
「好きな人が自分の名前を刺繍してくれるのって、幸せだなって……」
「幸せの沸点、低くない?」
「あとは……レイラが刺繍してくれてる間は、一緒にいられたから」
「……」
別に、近衛兵として仕事してた時も、一緒にいたと思うけど。
そりゃ丸一日ずっと一緒っていうのは無くなったけど、城で生活してるんだから、顔を合わせる時間はある。
そういうことじゃないってこと?
「でも今はもう結婚して一緒に住んでる。レイラに刺繍してもらう必要はないのも、たしかだ」
寂しそうに微笑んで、エイトはクローゼットに服をしまった。
なんか、なんていうか、そこまで思い入れのあるものだったなんて、想像もしてなかった。
私に名前のイニシャルを刺繍してもらうこと、それ自体がエイトの中で大切な宝物なんだとしたら──。
「……やるよ」
気付いたら私はそう言っていた。
え、とエイトが戸惑う。
そんな彼に微笑んで、私は頷いた。
「刺繍。してあげるよ、これからも。私にしてほしいんでしょ?」
「それはもちろん、そうなんだけど……。でも、いいの?」
「嫌だなんて言ってないじゃん。それにさ、エイトが私に何かしてほしいって頼むことなんて、滅多にないわけだし。いつもしてもらってばっかりだもん、これくらいはね」
きょとんとしたエイトが擽ったそうにはにかむ。
私の服もクローゼットにしまったエイトは、そのままトイレに向かった。
私もそろそろ晩ご飯の用意でもしようかな。
壁にかけたエプロンを着けてキッチンに向かうと、私はじゃがいもの皮を剥くべく、包丁を手にしたのだった。
