後日譚2
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そうして翌日、私達は陛下の元を訪ねた。
「なんじゃ二人とも。今日は休みじゃろう?」
「仕事をしに来たわけではなくて……。ええと、その……」
言い淀んで俯く。
私の背にエイトの手が添えられた。
大丈夫──そう言ってくれているみたいだ。
「……私の父は、陛下の兄君であったそうなので、その……父のことをまだ覚えておられるなら、何でもいいので何か教えていただけないかと……」
「兄のことか? ふぅむ、そうだのう……」
難しそうな顔をして陛下が考え込む。
やっぱり亡くなったのも十年前だし、父がロアナス家に婿入りしたのなんて二十年くらい前だろうから、覚えていないのかもしれない。
予想通りの反応で、大して落胆はしなかった。
ただ、私の両親をよく知る人はどこにもいないんだな、と胸の奥が冷えていくだけ。
「まあ色々あるが、月並みな表現で言えば、優しいお方であったぞ」
「……あ」
「ロアナス家は代々、女性が当主となる家系での。まさか王位継承権を捨ててまで、一目惚れした者の家に婿入りするとは思わなんだが……。幸せそうであったと、わしも思うておる特にお主が産まれてからはな」
「私が産まれてから……」
色々な偶然が積み重なって、今日まで私の両親の話を聞くことは出来なかった。
私が生まれてきたことを、両親は喜んでくれたんだ。
顔も名前も知らない人なのに、なんだかそれだけで嬉しい。
「ただ、霊導者としての力は、お主の母には備わっておらなんだようでの。それ故に油断しておったのやもしれん。家族で南の大陸へ出掛けた帰り道に、ロアナス家は魔物の群れに襲われたそうじゃ。リーザス村からトラペッタに至る途中でのことじゃったと聞いておる。じゃが、いくら探せども、一人娘だけが見つからんかったのじゃ。二週間ほど探した後、我らはお主の捜索を切り上げてのう……。よもや、あの事故から一ヶ月が経った頃、何もかもを忘れ去ってしもうたお主が、城へ迷い込んで来るとは思わなんだわい」
「一ヶ月も外で過ごしてたんですか、私!? どうやって!?」
一応は川もあるし、木の実とか何とか食べれば、生きていけないことはないかもしれないけど……。
それをわずか九歳の子供がやれるのか、という話で。
リーザス村とトラペッタの間で襲われて、そこから一人でトロデーン城までか……。
大人の足なら頑張れば行けるけど、子供の私がよく出来たな、そんなこと。
「現れたお主は着ているものもボロボロで、手足など、檜の棒のように細くてのう。懐かしい話じゃ。お主を看病したのはエイトだったのだぞ。孤児院にでも預けようかと思ったが、それに反対したのはミーティアでの。ともあれ、お主を孤児院に送らんかったわしの判断を褒めたいところじゃ。十年後に我が城を救うことになるとは、当時は思いもせんかったがの」
ひとりウンウンと頷いて、陛下がミーティア姫を見やる。
姫様とは従姉妹同士ではあるけれど、私はやっぱり姫様の近衛兵だ。
出自が出自なだけに、大っぴらにできることでもない。
……ただ、私の両親は、確かにこの世界にいたんだって、今は素直に信じられる。
母の話は聞けなくても、父の選んだ人なら、きっと優しい人だったんだろう。
「ありがとうございます、陛下」
「む? もう良いのか? これから兄の伝説を語ろうかと思っておったんじゃが」
「伝説なんてあるんですか、父に!?」
「忘れもせん、あれはわしがまだ十の時じゃった……」
「壮大な話が始まりそう」
「腹が減ったと言い出した兄が、調理場に忍び込んだのじゃ」
「壮大にくだらなさそうだね」
エイトの辛辣な一言に頷く。
なんとなく、ろくでもない話な気がしてきた。
「兄は調理場に忍び込むことにかけては熟練での。食事の盗み食いなどお手の物だったのじゃ」
「へえ……そうなんですか……」
どんな顔をしてこれを聞けと?
調理場って、誰かが忍び込めるような感じはしないんだけど……。
調理場経験のある元小間使い同士で顔を見合わせる。
「調理中に忍び込んだってこと?」
「あそこに……?」
忙しなく人が行き交う中に忍び込んで、つまみ食いができる程の人物……。
凄いんだか凄くないんだか、分からない……。
「それがある日、とうとう発見されての」
「あっ、見つかっちゃったんだ」
「父王と側近にこっぴどく叱られておったのを、わしは遠巻きに眺めておったのじゃ」
「まあそれは叱られても仕方ないですね……」
幸い、姫様はそんなことをする人じゃなかったから、私達が小間使いとして調理場にいた頃、つまみ食いをする人はいなかったんだけど。
やけに入口が厳重だったのは、私の父のせいだったのかもしれない……。
「それでも懲りずに挑むのが兄での」
「……」
「エイト? なんで私を見るの?」
「既視感あるなぁと……」
「えー!? 私はやるなって言われたらやらないよ!」
「そうだね、やるなって言われる前にやってるもんね、レイラは」
「お主のそういうところは兄によく似ておるとわしも思うぞ」
「甚だ遺憾です!!」
そういうのを風評被害って言うんじゃないかと私は思う。
そもそも記憶がないのに、どうやって父に似た性格になって成長するんだ。
そんなのもう、元から性格が似ていたとしか……。
「お主がロアナスの娘じゃと早く気付いておればと思ったわい。じゃがまあ、これで良かったのやもしれん。お主の身元が不明なままであったからこそ、ロアナスの名を悪用せんとする不届きな輩に付け狙われることもなかったのであろうからな」
「……そうですね。ロアナス家は、ラプソーンが闇の世界から現れる以前から、トロデーン王家に仕えていた貴族の家だと、歴史書に書いてありました。ロアナス家が断絶して十年が経った今でも、トロデーンの人達はロアナス家の影響を覚えています。もし、レイラがトロデーン城で保護されて間もなく、その子がロアナス家の生き残りで、次期当主だと知られたら……。大人達に利用されて、傀儡の当主となってしまっていただろう可能性は、否めません」
冷静な口調でエイトがそう言う。
格式と伝統あるロアナス家の名を、よりにもよって私が汚してしまうかもしれなかった。
その可能性を考えると、私の出自は不明なままで良かったと素直に思える。
それに、旅に出るまでそれが分からなかったからこそ、エイトと一緒にいられたんだと思うから。
もしロアナス家の人間だと判明したら、間違いなく出自不明の孤児であるエイトとは一緒にいられなかった。
……とは思うけど、どうだろう。
私もエイトも、普通に姫様と遊んでたしな……。
トロデーンに限っては、身分よりも姫様の要望のほうが優先されていたのかもしれない。
「なんじゃ二人とも。今日は休みじゃろう?」
「仕事をしに来たわけではなくて……。ええと、その……」
言い淀んで俯く。
私の背にエイトの手が添えられた。
大丈夫──そう言ってくれているみたいだ。
「……私の父は、陛下の兄君であったそうなので、その……父のことをまだ覚えておられるなら、何でもいいので何か教えていただけないかと……」
「兄のことか? ふぅむ、そうだのう……」
難しそうな顔をして陛下が考え込む。
やっぱり亡くなったのも十年前だし、父がロアナス家に婿入りしたのなんて二十年くらい前だろうから、覚えていないのかもしれない。
予想通りの反応で、大して落胆はしなかった。
ただ、私の両親をよく知る人はどこにもいないんだな、と胸の奥が冷えていくだけ。
「まあ色々あるが、月並みな表現で言えば、優しいお方であったぞ」
「……あ」
「ロアナス家は代々、女性が当主となる家系での。まさか王位継承権を捨ててまで、一目惚れした者の家に婿入りするとは思わなんだが……。幸せそうであったと、わしも思うておる特にお主が産まれてからはな」
「私が産まれてから……」
色々な偶然が積み重なって、今日まで私の両親の話を聞くことは出来なかった。
私が生まれてきたことを、両親は喜んでくれたんだ。
顔も名前も知らない人なのに、なんだかそれだけで嬉しい。
「ただ、霊導者としての力は、お主の母には備わっておらなんだようでの。それ故に油断しておったのやもしれん。家族で南の大陸へ出掛けた帰り道に、ロアナス家は魔物の群れに襲われたそうじゃ。リーザス村からトラペッタに至る途中でのことじゃったと聞いておる。じゃが、いくら探せども、一人娘だけが見つからんかったのじゃ。二週間ほど探した後、我らはお主の捜索を切り上げてのう……。よもや、あの事故から一ヶ月が経った頃、何もかもを忘れ去ってしもうたお主が、城へ迷い込んで来るとは思わなんだわい」
「一ヶ月も外で過ごしてたんですか、私!? どうやって!?」
一応は川もあるし、木の実とか何とか食べれば、生きていけないことはないかもしれないけど……。
それをわずか九歳の子供がやれるのか、という話で。
リーザス村とトラペッタの間で襲われて、そこから一人でトロデーン城までか……。
大人の足なら頑張れば行けるけど、子供の私がよく出来たな、そんなこと。
「現れたお主は着ているものもボロボロで、手足など、檜の棒のように細くてのう。懐かしい話じゃ。お主を看病したのはエイトだったのだぞ。孤児院にでも預けようかと思ったが、それに反対したのはミーティアでの。ともあれ、お主を孤児院に送らんかったわしの判断を褒めたいところじゃ。十年後に我が城を救うことになるとは、当時は思いもせんかったがの」
ひとりウンウンと頷いて、陛下がミーティア姫を見やる。
姫様とは従姉妹同士ではあるけれど、私はやっぱり姫様の近衛兵だ。
出自が出自なだけに、大っぴらにできることでもない。
……ただ、私の両親は、確かにこの世界にいたんだって、今は素直に信じられる。
母の話は聞けなくても、父の選んだ人なら、きっと優しい人だったんだろう。
「ありがとうございます、陛下」
「む? もう良いのか? これから兄の伝説を語ろうかと思っておったんじゃが」
「伝説なんてあるんですか、父に!?」
「忘れもせん、あれはわしがまだ十の時じゃった……」
「壮大な話が始まりそう」
「腹が減ったと言い出した兄が、調理場に忍び込んだのじゃ」
「壮大にくだらなさそうだね」
エイトの辛辣な一言に頷く。
なんとなく、ろくでもない話な気がしてきた。
「兄は調理場に忍び込むことにかけては熟練での。食事の盗み食いなどお手の物だったのじゃ」
「へえ……そうなんですか……」
どんな顔をしてこれを聞けと?
調理場って、誰かが忍び込めるような感じはしないんだけど……。
調理場経験のある元小間使い同士で顔を見合わせる。
「調理中に忍び込んだってこと?」
「あそこに……?」
忙しなく人が行き交う中に忍び込んで、つまみ食いができる程の人物……。
凄いんだか凄くないんだか、分からない……。
「それがある日、とうとう発見されての」
「あっ、見つかっちゃったんだ」
「父王と側近にこっぴどく叱られておったのを、わしは遠巻きに眺めておったのじゃ」
「まあそれは叱られても仕方ないですね……」
幸い、姫様はそんなことをする人じゃなかったから、私達が小間使いとして調理場にいた頃、つまみ食いをする人はいなかったんだけど。
やけに入口が厳重だったのは、私の父のせいだったのかもしれない……。
「それでも懲りずに挑むのが兄での」
「……」
「エイト? なんで私を見るの?」
「既視感あるなぁと……」
「えー!? 私はやるなって言われたらやらないよ!」
「そうだね、やるなって言われる前にやってるもんね、レイラは」
「お主のそういうところは兄によく似ておるとわしも思うぞ」
「甚だ遺憾です!!」
そういうのを風評被害って言うんじゃないかと私は思う。
そもそも記憶がないのに、どうやって父に似た性格になって成長するんだ。
そんなのもう、元から性格が似ていたとしか……。
「お主がロアナスの娘じゃと早く気付いておればと思ったわい。じゃがまあ、これで良かったのやもしれん。お主の身元が不明なままであったからこそ、ロアナスの名を悪用せんとする不届きな輩に付け狙われることもなかったのであろうからな」
「……そうですね。ロアナス家は、ラプソーンが闇の世界から現れる以前から、トロデーン王家に仕えていた貴族の家だと、歴史書に書いてありました。ロアナス家が断絶して十年が経った今でも、トロデーンの人達はロアナス家の影響を覚えています。もし、レイラがトロデーン城で保護されて間もなく、その子がロアナス家の生き残りで、次期当主だと知られたら……。大人達に利用されて、傀儡の当主となってしまっていただろう可能性は、否めません」
冷静な口調でエイトがそう言う。
格式と伝統あるロアナス家の名を、よりにもよって私が汚してしまうかもしれなかった。
その可能性を考えると、私の出自は不明なままで良かったと素直に思える。
それに、旅に出るまでそれが分からなかったからこそ、エイトと一緒にいられたんだと思うから。
もしロアナス家の人間だと判明したら、間違いなく出自不明の孤児であるエイトとは一緒にいられなかった。
……とは思うけど、どうだろう。
私もエイトも、普通に姫様と遊んでたしな……。
トロデーンに限っては、身分よりも姫様の要望のほうが優先されていたのかもしれない。
