後日譚2
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宴もたけなわ。
とっぷりと日の暮れたトロデーン城は、お客さんも帰ってしまって、しんと静まり返っている。
ヤンガス達は城の客間に泊まっていくそうで、クラビウス王とパヴァン王はそれぞれ国賓用の部屋でお休みになっているようだった。
「……帰ろっか」
「うん」
エイトと手を繋いで、城を出る。
それからルーラでトラペッタまで戻ってきた。
陛下からは、明日までお休みを頂いている。
「……元気ない?」
「えっ」
家のドアを開けようとして、エイトが私にそう問うた。
顔に出すぎちゃってたかな。
「結婚式で疲れちゃったかな。今日はもう寝ようか」
エイトが私の代わりにドアノブをひねる。
ガチャリと開いたドアの向こうで、エイトが部屋の灯りをつけた。
胸の中にある感情を上手く言葉にできなくて、モヤモヤしたまま家へと入る。
「レイラ、どうしたの? どこか具合でも悪い? お酒飲みすぎたとか、食べすぎたとか……」
「あ、ううん、そんなんじゃ……なくて。その……なんて言っていいか分かんないんだけど……」
……こんなこと聞いたら、エイトが傷つかないかな。
口に出しそうになった言葉を飲み込んで、私は手のひらを握り締めた。
出生の秘密を知って、故郷とも呼べる場所を見つけたエイトだけど、幼少期の頃のことは思い出せていない。
そんなエイトに、言っていい事じゃない。
「……レイラ。僕なら大丈夫、平気だよ。遠慮せずに言ってほしいんだ、レイラの思ったこと」
「エイト……」
優しい微笑みが私に向けられている。
握り締めた手のひらを、エイトの両手が包んだ。
覚悟を決めて、それでも慎重に言葉を選びながら、口を開く。
「……酷いことをね、言うかもしれないんだけど。ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、エイトのことが羨ましくて」
「僕が?」
「お母さんのことは、グルーノおじいさんがよく知ってるでしょ。お父さんのことはクラビウス王がよくご存知だよね。エイトの記憶にはいなくても……エイトの周りには、ご両親のことを知っている人がいて、どんな人だったっていうのを教えてくれる。……でも私には、そんな人いない。お母さんがどんな人で、お父さんはどんな人だったのか……。きょうだいがいたのかどうかさえ、私は知らなくて……。急にその辺から生えてきたんだって言われても信じるくらい、両親の存在が感じられないというか……」
そりゃあ人間が生まれるには男女が揃わなきゃいけないから、私にも両親はいたと思う。
でも、トロデーンの貴族であったはずなのに、誰も両親のことを知らない。
『十年前に魔物に襲われ滅んだ貴族』──私の手の中にある情報は、たったそれだけだ。
「……ねえエイト。世界はこんなに広いのにさ……。……どうして誰も、私のお父さんとお母さんのことを知らないのかな……」
堪えきれなかった涙が落ちていく。
馬鹿だなあ、こんなこと言われたって、エイトが困るだけなのに。
ずびっと鼻をすすって小さく首を振る。
「……ごめんね、急に。忘れていいから……」
呟いて、エイトの手を振り解く。
その瞬間、私はエイトに強く抱き締められていた。
「忘れない……絶対に忘れない。それは忘れちゃいけないものだって僕は知ってる」
大きくなった背中に手を回す。
そうしてエイトは、私を抱き上げた。
向かった先はベッドだ。
ベッドに座ったエイトの膝の上に乗せられた。
「レイラ、トロデ王に聞きに行こう」
「えっ」
「レイラのお父さんは、トロデ王のお兄さんだった。お父さんのことなら、トロデ王がご存知のはずだ」
「そ、うかな」
「そうでなくても、ロアナス家に婿入りするまでは、城で暮らしてたんだ。きっと誰かが知ってると思う」
目の端に残った涙をエイトの親指が拭って微笑む。
それからふと眉尻を下げ、悲しそうに目を伏せた。
「お母さんのことは……誰に聞いたらいいんだろうね」
「……」
「トロデーンの貴族だったみたいだけど、あんまり表に出てくる家じゃなかったみたいだ。貴族名簿に名前はあったけど、歴史書にもそこまで名前は出てこないし……。どうにかならないかな」
エイトが小さくため息をつく。
私以上に悩んでくれて、調べてくれていたんだ。
……なら、私が勝手に諦めるわけにはいかない。
「私、明日にでも陛下に聞いてみる」
「……」
「お父さんのこと……知ってる限りでいいから、聞いてみたい。エイトも来てくれる……?」
疲れちゃったから、明日は動きたくないかな。
そう思って恐る恐る尋ねると、エイトは微笑んで頷いてくれた。
「もちろん、一緒に行くに決まってるだろ?」
「……っ、うん!」
エイトに抱き着いて頬を擦り寄せる。
それからエイトの膝から降りた。
「お風呂の用意してくるね」
「僕がやろうか」
「ううん、大丈夫!」
そっか、とエイトが頷く。
浴室に入って、バスタブを掃除していると、背後にエイトの気配を感じた。
「どしたの? まだお風呂の用意できてないよ」
「……うん、知ってる。ただ離れたくないだけ」
触れるだけのキスをして、エイトが甘く微笑む。
それから、私の手からタワシを取り上げた。
「サッと終わらせよう。じゃないと、いつまで経ってもレイラと触れ合えない」
「あはは、欲望がダダ漏れだー」
「そりゃあ今日はね」
意味ありげに笑ったエイトの言わんとしていることが分かって、「いや」とか「えっと」とか意味の無い言葉を連ねる。
それからそそくさと浴室を出て、無意味にベッドのシーツを綺麗に整えた。
どうせぐちゃぐちゃになるのに──なんて余計なことを考えて、へなへなと床に座り込む。
エイトの顔は、当分まともに見られそうにない。
とっぷりと日の暮れたトロデーン城は、お客さんも帰ってしまって、しんと静まり返っている。
ヤンガス達は城の客間に泊まっていくそうで、クラビウス王とパヴァン王はそれぞれ国賓用の部屋でお休みになっているようだった。
「……帰ろっか」
「うん」
エイトと手を繋いで、城を出る。
それからルーラでトラペッタまで戻ってきた。
陛下からは、明日までお休みを頂いている。
「……元気ない?」
「えっ」
家のドアを開けようとして、エイトが私にそう問うた。
顔に出すぎちゃってたかな。
「結婚式で疲れちゃったかな。今日はもう寝ようか」
エイトが私の代わりにドアノブをひねる。
ガチャリと開いたドアの向こうで、エイトが部屋の灯りをつけた。
胸の中にある感情を上手く言葉にできなくて、モヤモヤしたまま家へと入る。
「レイラ、どうしたの? どこか具合でも悪い? お酒飲みすぎたとか、食べすぎたとか……」
「あ、ううん、そんなんじゃ……なくて。その……なんて言っていいか分かんないんだけど……」
……こんなこと聞いたら、エイトが傷つかないかな。
口に出しそうになった言葉を飲み込んで、私は手のひらを握り締めた。
出生の秘密を知って、故郷とも呼べる場所を見つけたエイトだけど、幼少期の頃のことは思い出せていない。
そんなエイトに、言っていい事じゃない。
「……レイラ。僕なら大丈夫、平気だよ。遠慮せずに言ってほしいんだ、レイラの思ったこと」
「エイト……」
優しい微笑みが私に向けられている。
握り締めた手のひらを、エイトの両手が包んだ。
覚悟を決めて、それでも慎重に言葉を選びながら、口を開く。
「……酷いことをね、言うかもしれないんだけど。ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、エイトのことが羨ましくて」
「僕が?」
「お母さんのことは、グルーノおじいさんがよく知ってるでしょ。お父さんのことはクラビウス王がよくご存知だよね。エイトの記憶にはいなくても……エイトの周りには、ご両親のことを知っている人がいて、どんな人だったっていうのを教えてくれる。……でも私には、そんな人いない。お母さんがどんな人で、お父さんはどんな人だったのか……。きょうだいがいたのかどうかさえ、私は知らなくて……。急にその辺から生えてきたんだって言われても信じるくらい、両親の存在が感じられないというか……」
そりゃあ人間が生まれるには男女が揃わなきゃいけないから、私にも両親はいたと思う。
でも、トロデーンの貴族であったはずなのに、誰も両親のことを知らない。
『十年前に魔物に襲われ滅んだ貴族』──私の手の中にある情報は、たったそれだけだ。
「……ねえエイト。世界はこんなに広いのにさ……。……どうして誰も、私のお父さんとお母さんのことを知らないのかな……」
堪えきれなかった涙が落ちていく。
馬鹿だなあ、こんなこと言われたって、エイトが困るだけなのに。
ずびっと鼻をすすって小さく首を振る。
「……ごめんね、急に。忘れていいから……」
呟いて、エイトの手を振り解く。
その瞬間、私はエイトに強く抱き締められていた。
「忘れない……絶対に忘れない。それは忘れちゃいけないものだって僕は知ってる」
大きくなった背中に手を回す。
そうしてエイトは、私を抱き上げた。
向かった先はベッドだ。
ベッドに座ったエイトの膝の上に乗せられた。
「レイラ、トロデ王に聞きに行こう」
「えっ」
「レイラのお父さんは、トロデ王のお兄さんだった。お父さんのことなら、トロデ王がご存知のはずだ」
「そ、うかな」
「そうでなくても、ロアナス家に婿入りするまでは、城で暮らしてたんだ。きっと誰かが知ってると思う」
目の端に残った涙をエイトの親指が拭って微笑む。
それからふと眉尻を下げ、悲しそうに目を伏せた。
「お母さんのことは……誰に聞いたらいいんだろうね」
「……」
「トロデーンの貴族だったみたいだけど、あんまり表に出てくる家じゃなかったみたいだ。貴族名簿に名前はあったけど、歴史書にもそこまで名前は出てこないし……。どうにかならないかな」
エイトが小さくため息をつく。
私以上に悩んでくれて、調べてくれていたんだ。
……なら、私が勝手に諦めるわけにはいかない。
「私、明日にでも陛下に聞いてみる」
「……」
「お父さんのこと……知ってる限りでいいから、聞いてみたい。エイトも来てくれる……?」
疲れちゃったから、明日は動きたくないかな。
そう思って恐る恐る尋ねると、エイトは微笑んで頷いてくれた。
「もちろん、一緒に行くに決まってるだろ?」
「……っ、うん!」
エイトに抱き着いて頬を擦り寄せる。
それからエイトの膝から降りた。
「お風呂の用意してくるね」
「僕がやろうか」
「ううん、大丈夫!」
そっか、とエイトが頷く。
浴室に入って、バスタブを掃除していると、背後にエイトの気配を感じた。
「どしたの? まだお風呂の用意できてないよ」
「……うん、知ってる。ただ離れたくないだけ」
触れるだけのキスをして、エイトが甘く微笑む。
それから、私の手からタワシを取り上げた。
「サッと終わらせよう。じゃないと、いつまで経ってもレイラと触れ合えない」
「あはは、欲望がダダ漏れだー」
「そりゃあ今日はね」
意味ありげに笑ったエイトの言わんとしていることが分かって、「いや」とか「えっと」とか意味の無い言葉を連ねる。
それからそそくさと浴室を出て、無意味にベッドのシーツを綺麗に整えた。
どうせぐちゃぐちゃになるのに──なんて余計なことを考えて、へなへなと床に座り込む。
エイトの顔は、当分まともに見られそうにない。
